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第131回ワークショップの概要

第131回ワークショップの概要

 第131回ワークショップが11月29日(金曜)に開催されました。報告等の概要は以下のとおりです。

(1) 「諸外国における優越的地位の濫用規制等の分析」の中間報告

 報告者
 (泉水文雄 CPRC客員研究員・神戸大学大学院法学研究科教授)
 (柴田潤子 CPRC客員研究員・香川大学大学院香川大学・愛媛大学連合法務研究科教授)
 (多田英明 CPRC客員研究員・東洋大学法学部准教授)
 (真渕 博 CPRC研究員・企業取引課長)
 (宮川 幸 CPRC研究員・経済調査室)ほか

 平成25年度の共同研究の一つである本研究は,優越的地位の濫用規制等について,諸外国においても,近時,小売業者のバイイングパワーを背景として,取引の公正化という観点から問題視されているため,我が国の優越的地位の濫用規制・下請法に類似した諸外国の法制度やその運用状況について調査・分析を行うことを目的としています。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,これまでの研究成果として,EU,イギリス,フランス,ドイツ,韓国,中国,オーストラリア及びアメリカにおける優越的地位の濫用に係る問題意識,規制の枠組みとその規制実態等について説明がなされました。この中で,EUにおいては優越的地位の濫用を規制するための規定はないが,主に食料品分野における大規模小売業者による不公正な取引慣行についての調査等を実施していること,イギリスにおいては法的規制はないが,食料品分野における大規模小売業者による不公正な取引慣行を防止するために自主規約が制定されており,遵守体制の強化が図られていること,フランスにおいては商法典(フランスの競争法)において「経済的従属状態の濫用」(l’abus de dependence economique)として規制するための規定があるが,フランスの競争当局によって当該規定が適用された事例は少なく,民事訴訟で解決されている事例が多いこと,ドイツにおいては競争制限防止法において,相対的市場力に基づく一般的な妨害・差別行為等を規制するための規定があるが,当該規定が適用された事例はほとんどないこと等が説明されました。
 報告を受け,参加者から,諸外国において優越的地位の濫用を規制している場合,当該規制の競争政策上の位置付けについてどのように考えているか調査してほしい,優越的地位の濫用行為に対する諸外国における具体的な救済の状況について調査し,我が国の政策的対応への示唆となるようにまとめてほしい等のコメントがありました。これに対し,報告者からは,御指摘の点も踏まえて研究を進めていきたいとの回答がなされました。

(2) 「EUのリニエンシー制度の研究」の中間報告

 報告者
 (武田 邦宣 大阪大学大学院法学研究科教授・CPRC主任研究官)
 (和久井 理子 立教大学法学部特任教授・大阪市立大学大学院法学研究科特別研究員・CPRC客員研究員)
 (斉藤 高広 金沢大学人間社会研究域法学系教授・CPRC客員研究員)
 (河野 琢次郎 課徴金減免管理官・CPRC研究員)
 (能勢 弘章 課徴金減免管理官付主査・CPRC研究員)
 (後藤 景子 経済調査室・CPRC研究員)ほか

 平成25年度の共同研究の一つである本研究は,EUのリニエンシー制度の歴史的展開をフォローし,裁量型課徴金制度や和解制度との関係も踏まえた上でリニエンシーの制度改革の意図と効果について,また,欧州委員会がリニエンシー制度において有している裁量の意義・効果等について検証することを目的としています。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,これまでの研究成果として,[1]EUのリニエンシー制度の特徴,[2]EUのリニエンシー制度と和解制度及び損害賠償制度との関係,[3]EUと米国のリニエンシー制度の比較について説明がなされました。この中で,[1]について,欧州委員会はマーカー制度(注)における申請者へのマーカーの付与及びマーカー期間の設定並びに制裁金免除の付与及び制裁金減額の付与に対して裁量を有していること,リニエンシー申請者には申請完了時から欧州委員会に対する完全協力義務が発生し事件処理終了まで調査に協力する必要があること,[2]について,リニエンシー制度と和解制度との関係については,リニエンシー制度は証拠収集等の調査を主目的としているのに対し,和解制度は欧州委員会の人的・物的資源の有効活用を図るため審査手続の簡略・迅速化を主目的としていることからリニエンシー制度とは目的が異なり,両制度は両立し得ること,損害賠償請制度との関係では,カルテル事件に係る損害賠償訴訟においてリニエンシー提出情報の開示が求められるとリニエンシー申請・協力へのインセンティブを阻害されるので,そうした事態にならないような制度設計のための指令案が欧州委員会から公表されたこと,[3]について,米国ではマーカー申請における申請期間の調整が柔軟であるなどEUと比較して制度運用が柔軟であることや,EUではカルテルについて個人に対する刑事罰がないため米国と比較して従業員の調査協力が得やすいこと等が報告されました。
 報告を受けて,参加者から,欧州委員会に対する完全協力義務がどのようにして確保されているか詳細に調査してもらうと我が国の法運用においても参考となる,今後リニエンシー制度の運用面でも各国間の一層の協調が求められることになると思うが,これがどの程度企業の負担の軽減につながるかとのコメントがありました。これに対して報告者から,御指摘の点も踏まえて,研究を進めていきたいとの回答がなされました。
(注)マーカー制度とは,2006年改正により導入された制度であり,事業者は欧州委員会に対して制裁金の全額免除を申請する際に,申請者名称,カルテルへの参加者等カルテル行為の情報を提出し,一次的な申請(マーカー申請)を行うことが可能である。欧州委員会はマーカー申請を補完させる期限(マーカー期間)を設定し,申請者は当該期限までに免除を受けるのに必要な情報を提出しなければならない。

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