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第92回ワークショップの概要

第92回ワークショップの概要

 第92回ワークショップが5月14日(金曜)に開催されました。報告等の概要は以下のとおりです。

(1) 「カルテル-経済分析の活用等-」の研究計画

 (CPRC所長・成城大学社会イノベーション学部教授 小田切宏之氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 荒井弘毅氏)
 (CPRC研究員・管理企画課 中川寛子氏(都合により欠席))
 (CPRC研究員・経済調査室 工藤恭嗣氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,カルテルに関して,過去の多くの事例を計量的又は事例的に研究することにより,現実には,どのような条件の下でカルテルが起きるのかを分析し,当該分析結果をカルテルの予測に用いることができるか検討することを目的とするものです。
 今回のワークショップでは,報告者から,研究計画について報告が行われました。
 報告を受け,参加者から,どのような産業でカルテルが起こりやすいかということを分析するのかという質問がなされ,報告者から,(1)既にOFTでの分析結果があるように,日本においても,どのような市場環境の下でカルテルが行われているか,競合協調の関係がカルテルの頻度にどのように影響するのか計量的に分析し,(2)一定の条件でカルテルが起きやすいのならば,それらの条件を精査することにより,カルテルの予防的な示唆も研究結果として出せるようにしたいという説明がなされました。また,報告者から,既存研究のサーベイ作業を進めつつ,研究を進めていきたいとの説明がなされました。

(2) 「搾取的行為の考え方」の研究計画

 (CPRC客員研究員・神戸大学大学院法学研究科教授 泉水文雄氏)
 (CPRC客員研究員・大阪大学社会経済研究所准教授 松島法明氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 荒井弘毅氏)
 (経済調査室 佐藤範行氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,先行研究の整理や調査などにより,搾取的行為の考え方について考察することを目的とするものです。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,最初に,共同研究の問題意識について説明がされました。次に,研究方針についての報告がされました。最後に,期待される成果等についての報告がされました。
 報告を受け,参加者から,事例分析の事件の偏りが気になる。「独占的地位(dominant position)の濫用」が焦点となっている事件が多いので,セブンイレブン事件,三井住友事件や,大規模小売業を対象とした事件(ヤマダ電機,島忠,ドン・キホーテ等)も加えてはどうかとの指摘があり,報告者から,それらの事件も検討対象とし,それらの事件に対する従来の優越的地位濫用規制の考え方の特徴をまとめ,搾取規制説との比較をし,従来の優越的地位濫用規制の考え方では説明が難しいところに搾取規制説の考え方が応用できないか検討してみたいとの返答がなされました。他にも,搾取的濫用規制を考える場合には,アジアの競争法の存在は無視できない状況であり,韓国や台湾でもこの種の事件は多いので参考にして欲しいとの指摘がなされました。加えて,高価格設定は資源配分上の非効率性の問題だが,独禁法は伝統的にそれを問題としてはこなかった。ただし,高価格設定に至るまでのプロセス次第では問題となるかもしれないとの指摘がなされました。最後に,「取引必要性」は,Porterの『競争戦略論』でも述べられているとおり,経営戦略の肝であり,企業の戦略としては,取引相手の自社に対する「取引必要性」をいかに高めていくかが重要となる。この種の問題を考える際には,イノベーションのインセンティブに与える影響を見落としてはならない。違法か否かの線引きの問題が難しく,曖昧な基準で臨むと企業が委縮してしまう。よく考え方を整理して欲しい等の指摘がなされました。

(3) 「企業結合の判断基準,コーポレート・ガバナンス等への効果」の研究計画

 (CPRC所長・成城大学社会イノベーション学部教授 小田切宏之氏)
 (京都産業大学経済学部准教授 齋藤卓爾氏)
 (CPRC主任研究官・関西学院大学教授 土井教之氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 荒井弘毅氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 工藤恭嗣氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,企業結合審査において,効率性向上効果を如何に評価するかについて検討するための素材として,(1)差別化寡占のモデルを用いて,市場画定を含めた競争制限効果の判断基準として,企業結合後に価格の上昇が起きないためには限界費用逓減がどのくらい必要かを示すWerden Index(Werden,1996;Goppelsroeder et al.,2008)や,限界費用逓減を考慮した上で,どれだけ価格上昇が見込まれるかというUPP(Upward pricing pressure;Farrel and Shapiro,2010)という指標等の既存研究をサーベイし,これら指標のメリットと問題点や適用可能性について研究することによって,当該指標の現実的可能性について調査し,(2)Propensity scoreを推定しtreatment effectを用いた分析がコーポレート・ガバナンスの文献や多角化の効果の研究等で行われているが,当該分析手法が企業結合分析に適用可能かについて調査し,(3)効率性向上のためとしてプレスリリースやIR情報として公表された具体的な改善が実現したかについて事例調査を行うことを目的とするものです。
 今回のワークショップでは,報告者から,研究計画について報告が行われました。
 報告を受け,参加者から,本研究は特定の産業にフォーカスするのかという質問がなされ,報告者から,研究するに当たって相当数のサンプル数が必要だが,現時点では特定の産業にフォーカスするつもりはないという説明がなされました。また,報告者から,効率性という問題をどれだけ企業結合審査に取り入れることができるかという疑問が本研究の出発点であり,既存研究のサーベイ作業を進めつつ,研究を進めていきたいとの説明がなされました。

(4) 「保険事業に対する競争法の適用除外制度に関する比較法的研究」の研究計画

 (CPRC客員研究員・東洋大学法学部准教授 多田英明氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 山田卓氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 服部純氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,保険事業に対する競争法の適用除外制度について,先行研究の整理や調査などを通じ,比較法的観点から研究考察することを目的とするものです。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,本共同研究の問題意識,研究方針のほか,日本・EU・米国の適用除外制度(規定)の概要について説明があり,最後に本共同研究により期待される成果について報告がありました。
 報告を受け,参加者から,競争法の適用除外制度については,元より競争法を適用しないという確認的なものと,産業政策の観点に立つ創設的なものがあるところ,日本の独占禁止法における適用除外制度との対比で,EUにおける競争法の適用免除の位置づけについて質問がありました。また,保険事業が競争法の適用除外とされる根拠に,消費者保護という観点も含むのかという質問に関して,報告者から,本研究を取り纏めるにあたり最近の議論の状況も取り込みたいとの説明がなされました。最後に,参加者から,保険事業は商品の特性上,グローバルな形で行われている保険(再保険等)について,適用除外制度との関係や経済学による根拠についても調査して欲しいとのコメントが寄せられました。

(5) 「知的財産権のネットワーク分析を通じた法と経済分析」の研究計画

 (CPRC主任研究官・名古屋大学大学院法学研究科准教授 林秀弥氏)
 (神戸市外国語大学外国語学部教授 田中悟氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 西村元宏氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,合併を通じた知的財産権の集積が競争に及ぼす効果を検証するため,関連企業がそれぞれ有する技術の間の相互依存関係に焦点を当てた分析手法の利用を試みるものです。
 具体的には,ネットワーク分析という新たな手法を用い,関連企業が持つ技術間の相互依存関係を踏まえ,例えば,当該技術が事業活動に必要不可欠なものかどうかを判断します。このような分析方法が確立できれば,特許発明等の移転を伴う企業結合について,競争にどのような影響を及ぼすこととなるか,個々の知的財産権の重要性に関する定量的な指標を踏まえて分析することも可能になると考えています。
 今回のワークショップでは,報告者から,研究計画について報告が行われました。
 その後,同報告の内容を踏まえ,参加者から,
(1) 産業ごとに技術の特性が異なり,本件分析が有効な場合とそうでない場合があるのであれば,差異を生じさせる要因を抽出する必要がある。その際,関連技術が専有可能性に帰着するとも思われるので,この点も踏まえて検討すること,
(2) 水平的企業結合を問題としているが,垂直型企業結合の場合でも同じような問題が生じ得ることも考慮する必要がある,
等コメントがなされました。
 報告者からは,これらのコメントを踏まえ,諸外国の類似例の文献調査等も踏まえつつ研究を進めていきたいとの回答がありました。

(6) 「知的財産権法と独占禁止法の交錯状況に関する研究」の研究計画

 (経済取引局企画室 萩原浩太氏)
 (CPRC主任研究官・名古屋大学大学院法学研究科准教授 林秀弥氏)
 (CPRC客員研究員・政策研究大学院大学准教授 畠中薫里氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 西村元宏氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,先行研究の整理や調査などにより,知的財産権法と独占禁止法の交錯状況に関する研究について考察することを目的とするものです。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,最初に,共同研究の問題意識について説明がされました。次に,研究方針についての報告がされました。最後に,期待される成果等についての報告がされました。
 報告を受け,参加者から,報告書の具体的なまとめ方についての質問があり,報告者から,抽象的な議論ではなく,知的財産権法と独占禁止法上の論点が交錯する具体的な事案について勉強会形式で検討しそれぞれの事案について独禁法違反該当性等を検討した結果から論点を考えていくことを報告書作成の出発点としたいとの返答がなされました。他にも,参加者から,競争政策研究センターの共同研究なので競争政策との関連性を考えて報告書をまとめて欲しいとの指摘がなされました。最後に,例えば,キヤノンのインクカートリッジ事件については当該具体的クレームの内容の理解がしっかりできるか否かでかなり成果物の質が変わっていくが,そのような当該技術や特許そのものの内容について詳しい人の協力は得られるのかという質問に関して,報告者から,現状でも複数の弁理士等にも協力していただいているが,その点については特に注意していきたい等の説明がなされました。

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