ホーム >独占禁止法 >企業結合 >主要な企業結合事例 >平成12年度における主要な企業結合事例 >

(平成12年度:事例5)(株)東京三菱銀行,三菱信託銀行(株)及び日本信託銀行(株)の持株会社の設立による事業統合

(平成12年度:事例5)(株)東京三菱銀行,三菱信託銀行(株)及び日本信託銀行(株)の持株会社の設立による事業統合

第1 本件の概要

 本件は,(株)東京三菱銀行(以下「東京三菱銀行」という。),三菱信託銀行(株)(以下「三菱信託」という。)及び日本信託銀行(株)(以下「日本信託」という。)の3行が,顧客の多様な金融ニーズに対して,業態を超えた多角的な金融サービスを提供すること等を目的として,共同で持株会社(持株会社の名称は,「(株)三菱東京フィナンシャル・グループ」)を設立し,全面的に統合するものである。
 また,平成13年10月を目途に,持株会社の下で三菱信託,日本信託及び東京信託銀行(株)(以下「東京信託」という。)が合併することとしている。

第2 独占禁止法上の検討

1 金融分野における競争について(関係法条10条)

(1) 一定の取引分野について

 本件については,金融分野における競争への影響の検討に当たり,次のとおり一定の取引分野が成立すると判断した。

ア 預金業務
 主として全国市場について,全国に店舗を置いて営業展開する都市銀行(9行),長期信用銀行(3行)及び信託専業銀行(6行)ベースで検討し,地域市場(都道府県)については,その地域に店舗を置いて営業展開する地方銀行等を含めて検討することとした。

イ 貸出業務
 主として全国市場について,全国に店舗を置いて営業展開する都市銀行,長期信用銀行及び信託専業銀行ベースで検討し,地域市場(都道府県)については,その地域に店舗を置いて営業展開する地方銀行等を含めて検討することとした。

ウ 外国為替業務
 外国為替取引は,「対顧客取引」と「インターバンク取引」とに分けられるところ,いずれも,東京外国為替市場で活動する全金融機関ベースで検討することとした。

エ 証券業務
 株式及び債券に係る引受業務及び売買業務のそれぞれにおいて,一定の取引分野が成立すると判断した。

オ 信託業務
 信託銀行が営む業務について,全信託銀行ベースで検討することとした。

(2) 競争への影響の検討

 上記(1)で画定した取引分野のうち,競争への影響が大きい預金,貸出及び信託業務についての検討の結果は次のとおりであり,いずれの取引分野においても競争を実質的に制限することとはならないと判断される。

ア 預金業務について
 本件統合による都市銀行,長期信用銀行及び信託専業銀行ベースでの合算シェアは20%弱で,その順位は第4位となる。また,他の都市銀行等が統合を予定していることから,上位行の集中度が高まることとなる。
 しかしながら,次のような状況が認められる。

(ア) 個人預金が株式,投資信託等の代替的な金融商品に流入し,隣接市場を形成する証券会社,投資信託委託会社,保険会社等が提供する金融商品が競争圧力となっていること。

(イ) 隣接市場を形成する商品である郵便貯金(平成12年3月末における貯金残高は約260兆円)が競争圧力となっていること。

(ウ) 低コストを反映した高い利回りを実現するインターネット専業銀行やコンビニエンスストアを利用した24時間サービスを行う銀行としての他業種からの参入が予定されていること。

(エ) 各銀行は金利優遇商品や懸賞付き商品など独自性のある多様な預金商品を提供し,預金獲得競争を展開していること。

(オ) 都市銀行等の有力な競争業者が存在すること。

 また,地域市場についてみた場合,当事行の合算シェアが第1位となる都道府県はない。

イ 貸出業務について
 本件統合による都市銀行,長期信用銀行及び信託専業銀行ベースでの合算シェアは15%弱で,その順位は第4位となる。また,他の都市銀行等が統合を予定していることから,上位行の集中度が高まることとなる。
 しかしながら,次のような状況が認められる。

(ア) 資金調達手段が多様化され,大企業は社債,コマーシャルペーパー,売掛債権流動化等の間接金融にはよらない資金調達を進めており,隣接市場からの競争圧力が働くこと。

(イ) (ア)の状況の下で,一般に,信用リスクが低く,貸出額の大きい大企業向け貸出しは,縮小傾向にあるところ,資金調達の一部に間接金融を利用する大企業に対する貸出しについては,他の都市銀行等の有力な競争業者が存在すること。

(ウ) 都市銀行等が中小企業向け貸出しの強化・拡大を図っており,活発な競争が行われるものと見込まれること。

(エ) 個人向け貸出しは,多様なローン商品の開発,金利優遇,手続利便性の向上等をめぐり,他の都市銀行等の有力な競争業者との間で活発な競争が行われるものと見込まれること。

 また,地域市場についてみた場合,当事行の合算シェアが第1位となる都道府県はない。

ウ 信託業務について
 信託業務については,三菱信託,日本信託及び東京信託の合算シェアをみると,信託全体では20%弱・第1位となるほか,年金・財形信託において第1位となる。
 しかしながら,信託全体としては,高度なノウハウを有しフルラインで信託商品を提供する信託専業銀行等有力な競争業者が複数存在している。また,低金利の長期化や規制緩和による信託商品の銀行窓口販売の解禁などから,資産運用手段として信託分野は拡大しており,競争が活発に行われている。
 また,個別の信託分野をみると,年金・財形信託については,今後拡大が見込まれる年金市場において信託銀行同士の競争に加え,生命保険会社の提供する年金保険商品からの競争圧力が激しくなることが予想される。

2 事業支配力の過度の集中について(9条関係)

(1) 持株会社については,独占禁止法第9条において,事業支配力が過度に集中することとなるものの設立又は転化が禁止されているが,当委員会は,「事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の考え方」(平成9年12月 公正取引委員会。以下「9条ガイドライン」という。)に従って,事業支配力が過度に集中することとなる持株会社かどうかを判断することとしている。
 具体的には,持株会社グループが9条ガイドラインに掲げる3つの禁止類型のうち,いずれかに該当する場合に事業支配力が過度に集中することとなるとされている。

(2) 当事行の持株会社グループ(東京三菱銀行及び三菱信託並びにこれら2行の国内の子会社及び実質子会社)が9条ガイドラインの3つの禁止類型に該当するか検討を行ったところ,いずれの禁止類型にも該当しないことから,本件統合により事業支配力が過度に集中することとはならないと判断した。

第3 産業界に与える影響について

 本件統合により,当事行は,上場会社約2,300社(金融会社を除く。)のうち,1,900社弱(約80%)に対して融資を行うこととなる。また,このうち当事行からの融資額の合算が第1位となる上場会社は約290社(約12%)となる。
 このため,本件統合が産業界に与える影響について,当事行から融資を受ける事業者(上場会社及び中堅・中小会社)等に対し,アンケート調査及びヒアリング調査を実施した。
 調査結果の主なポイントは,次のとおりである。

1 本件統合の評価

 事業会社へのアンケートの結果,本件統合に対する評価として,40%超の事業者が「サービスの向上」や「安定的な資金供給」を挙げた。一方,本件統合に対する懸念として,20%弱が「競争の減退」を挙げたほか,「経営関与が強まる」を選択したものは約25%に上った。

2 個別事業者の経営に与える影響

(1) 本件統合により,設備資金及び運転資金の調達の手段を変えるとする事業者は,それぞれ,約40%及び35%強であった。他方,設備資金及び運転資金の調達で代替的な資金調達手段がなく,資金調達の構成を変えられないとする事業者は,それぞれ,全体の20%強及び30%弱に上った。

(2) 本件統合後,融資姿勢の変化に伴うリスクを回避するため,借入比率の調整を行うとしているものは,30%弱に上った。

(3) 借入条件については,60%強の事業者は,本件統合による影響は特にないとしているものの,15%強の事業者は,不利になると回答した。

(4) 本件統合により,預金等借入以外の取引の要請,社債管理受託会社を自行にする要請等が現にある又は今後強まると見込んでいる事業者は約35%から約45%と高い比率となっている。

3 業界再編への影響

 アンケートの結果,約75%の事業者が「特段の変化はない」としている。

4 企業集団内取引への影響

(1) 三菱金曜会(三菱系)は,東京三菱銀行,三菱信託等計28社の会長・社長をメンバーとして,定期的に会合を開催している。

(2) 本件統合が,こうした企業集団にどのような影響を与えるかについてアンケート調査したところ,企業集団内外の取引の変化については,企業集団内外の事業者とも90%以上が特に変わらないとしており,企業集団が解消するとみている事業者は少なかった。また,企業集団の今後の動向については,企業集団に所属する事業者の約90%が,企業集団内の事業者同士の結び付きが維持・継続されるとの見方を有している。

第4 独占禁止法及び競争政策上の取組

1 独占禁止法及び競争政策上の問題点の指摘

 当委員会は,上記第3の調査結果を踏まえ,当事行に対して,次のとおり,独占禁止法及び競争政策上の問題点の指摘を行った。

(1) 事業経営への関与について

 本件調査の過程において,事業規模が拡大する当事行からの融資比率及び出資比率が高まる事業者は,銀行が次のような行為を行うこと等,自己の事業経営への関与を懸念している。

  • 預金等借入以外の取引を行う(あるいは増やす)よう要請すること。
  • 社債引受幹事を特定の証券会社とするよう要請すること。
  • 社債の管理を当事行に行わせるよう要請すること。

 融資比率や出資比率の高まりを背景として,上記のような行為を行い,当該「要請」に応じない場合不利益な取扱いをする旨を示唆する等,当事行の事業活動いかんによっては,不公正な取引方法(19条)につながるおそれがあることから,今後の事業活動に際しては,自社の影響力を背景として,取引先事業者に不利益を被らせるような行為がないように所要の対応が図られる必要がある。

(2) 企業集団について

 当委員会の実施した累次の企業集団調査においては,集団内取引の割合は年々減少している等の実態がみられるところ,今般の調査によれば,上記第3のとおり,企業集団内の取引に変化がなく企業集団内の事業者同士の結び付きが維持・継続されるとの見方が集団内外の事業者において多く,企業集団に属していることをもって取引先等の選別が行われ,排他的・閉鎖的な取引関係となるとの懸念がある。

2 当事行からの申出

 上記の指摘に対して,当事行からは次の申出があった。

(1) 事業経営への関与について

 これまでコンプライアンスの徹底を経営の最重要課題の一つと考え,体制の整備と行内への浸透に鋭意取り組んできている。統合後も不公正な取引方法などの独占禁止法に違反する行為を行うことがないように,引き続きコンプライアンスの徹底に努めていく。また,新設する持株会社においてもコンプライアンス担当部署を設置,グループ全体のコンプライアンス機能を統括し,傘下銀行等のコンプライアンスの状況をモニタリングすることにより,独占禁止法遵守の更なる徹底を図る。

(2) 企業集団について

 三菱金曜会については,統合後も銀行中心の運営を行うつもりはない。三菱金曜会に属する企業内の統合等については,第一義的には,関係する企業内で主体的に検討される事項と認識しており,銀行から能動的に三菱金曜会メンバー間の統合を支援・推進していくことは考えていない。

第5 当委員会の今後の対応

1 本件統合について,相談のあった持株会社の設立及びその傘下に東京三菱銀行,三菱信託及び日本信託を置くことについては,独占禁止法上の規定に違反するおそれはないと認められた。
 また,平成13年10月を目途とする当事行の更なる再編については,必要に応じて,改めて検討することとする。

2 本件統合が産業界に与える影響に関して,当委員会からの指摘に対する当事行からの申出については,その実施状況を十分把握していくとともに,独占禁止法に違反すると認められる行為がある場合には,これに対して厳正に対処していくこととする。

ページトップへ