第1 本件統合の概要
本件は,株式会社博報堂(以下「博報堂」という。),株式会社大広(以下「大広」という。)及び株式会社読売広告社(以下「読売広告社」という。)が,共同で持株会社である株式会社博報堂DYホールディングス(以下「ホールディングス」という。)を設立し,その後,共同新設分割により広告枠の購入会社である株式会社博報堂DYメディアパートナーズ(以下「メディアパートナーズ」という。)を設立することにより,3社が経営統合を行うものである。なお,広告の企画,営業は従前どおり各社別に行う。
本件の関係法条は,独占禁止法第10条である。
第2 広告会社の業務について
広告会社は,広告主からの依頼により,企画の立案,マーケティング調査,広告物の作成,広告媒体との交渉・契約,広告出稿など幅広い業務を行っている。これらは,一つの取引の中で相互に関連しあっており,個別の業務として区別することは困難である。
また,広告会社の売上高は,広告主が,広告会社に対して支払う広告代行に関する費用であり,これには,マスメディアなどの媒体社に対する広告枠の購入費用と広告会社のCM制作費が含まれる。
第3 広告媒体の種類
広告媒体には,テレビ,ラジオ,新聞,雑誌の主要4媒体のほかに,インターネット広告,ビラ広告など多くの媒体が存在する。
また,こうした広告媒体には,それぞれに特性があり,広告主は自社の販売戦略や広告会社の意見などを参考にして,特定のメディアや複数のメディアを組み合わせて広告を行っている。
第4 広告会社の選定
広告主は,広告を行う場合,通常,複数の広告会社に対して企画の提出及び見積りの依頼をする。広告会社は,広告主から広告対象となる商品概要などの説明を受け,消費者にアピールする内容を検討した上で,広告主に企画を提案する。広告主は,それらの提案の中から,自社製品の広告に最も適切な企画を提出した広告会社に発注することになる。
広告主が広告会社を選択するに際して最も重視するのは,自社製品を効果的に宣伝するための企画力である。
第5 独占禁止法上の考え方
1 一定の取引分野
広告会社の広告主に対する業務は,マーケティング調査から媒体の提案,広告の作成まで相互に関連しあっており,個々の業務ごとに取引されているものではない。よって,広告の取扱業務全体に一定の取引分野が画定することになる。さらに,媒体によって価格帯が異なること,広告内容によっては媒体間の代替性が乏しいことを考慮して,媒体別の取扱業務にも重層的に一定の取引分野が画定できるものと考えられる。
2 競争への影響
(1) 本件統合によって,広告業務全体における当事会社合算の売上高シェア・順位は,約15%・第2位,上位3社の累積シェアは約45%となる。媒体別にみると最も合算シェアが高まるのは,テレビ広告の取扱業務で,売上高シェア・順位は約20%・第2位,上位3社累積シェアは約65%となる。
<広告業務全体の売上高シェア> | <テレビ広告枠売上高シェア> | ||||
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順位 | 会社名 | シェア | 順位 | 会社名 | シェア |
1 | A社 | 約25% | 1 | A社 | 約35% |
2 | 博報堂 | 約10% | 2 | 博報堂 | 約15% |
3 | B社 | 約5% | 3 | B社 | 約10% |
4 | C社 | 約5% | 4 | 大広 | 約5% |
5 | 大広 | 0~5% | 5 | C社 | 約5% |
6 | 読売広告社 | 0~5% | 6 | D社 | 0~5% |
7 | D社 | 0~5% | 7 | 読売広告社 | 0~5% |
その他 | 40~55% | その他 | 20~30% | ||
(2) | 当事会社合算 | 約15% | (2) | 当事会社合算 | 約20% |
全体合計 | 100 | 全体合計 | 100 |
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
(2) しかしながら,以下の状況が認められる。
ア 有力な競争事業者の存在
広告業務全体では,競争事業者が多数存在し,テレビの分野ではシェア30%を超える有力な競争事業者が存在する。
イ 協調的行為を阻害する要因
広告主は,広告業務の発注先を選択するに当たって,価格のほか,効果的に自社製品をアピールできるかどうかの企画力も重視し,企画面で他社との差別化を求めている。また,広告主は,希望する広告を取り扱うことが可能な広告会社を選択するに当たって何ら制約が課されていないため,取引する広告会社を容易に変更することができる。
このような市場においては,他社と協調するメリットが少なく,協調的行為が行われるおそれは少ないと考えられる。
3 結論
以上の状況から,当事会社の説明を前提とすれば,前記第5,1で画定した取引分野のうち,広告業務全体及び媒体別にみて,結合後のシェアが最も高くなるテレビの分野においても,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。また,前記第5,2,(2)の状況は,テレビ以外の他の媒体別の取引分野にも共通の事情と認められることから,前記第5,1で画定したテレビ以外の取引分野においても,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。