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(平成15年度:事例8)HOYA(株)による日本板硝子(株)からの磁気ディスク用ガラス基板事業の譲受けについて

(平成15年度:事例8)HOYA(株)による日本板硝子(株)からの磁気ディスク用ガラス基板事業の譲受けについて

1 本件の概要

 HOYAは,日本板硝子がガラス基板の製造販売事業から撤退するに当たり,平成16年3月1日を目途に,同事業を譲り受けることを計画しているものである。

2 ガラス基板について

 ガラス基板は,原板であるガラス製の素板を研削・研磨し,円盤状に加工した板であり,磁性材料をコーティングした後,磁気ディスクとして,ハードディスクドライブ(以下「HDD」という。)に組み込まれて使用されている。
 ガラス基板の種類には,化学強化系ガラス基板と結晶化系ガラス基板があり,両当事会社は,化学強化系ガラス基板のみを製造販売している。
 ガラス基板は,それが組み込まれるHDDの用途の違いが主たる要因となって,モバイル製品用(注1)と据付け型製品用(注2)に区分される。
 モバイル製品には,ガラス基板のみが使用されているが,据付け型製品には,ガラス基板のほか,アルミニウム製の基板(以下「アルミ基板」という。)が使用されている。

(注1)HDDの作動時に本体の移動が予期されているノートパソコン等の製品用

(注2)HDDの作動時に本体の移動が予期されていないデスクトップパソコン,サーバー等の製品用

3 独占禁止法上の考え方

(1) 一定の取引分野

 当事会社は,いずれも化学強化系ガラス基板のみを製造販売しているところ,前記のとおり,ガラス基板のみしか使用されていないモバイル製品用には,当事会社の化学強化系ガラス基板のほか,結晶化系ガラス基板があり,これらはユーザーにおいて同様に使用されていること等から,化学強化系ガラス基板に結晶化系ガラス基板を含めたモバイル製品用ガラス基板の製造販売分野全体に,一定の取引分野が成立すると判断した。
 また,据付け型製品用には,ガラス基板のほか,アルミ基板があり,これらはユーザーにおいて同様に使用されていること等から,ガラス基板にアルミ基板を含めた据付け型製品用基板の製造販売分野全体に,一定の取引分野が成立すると判断した。
 なお,地理的市場は,いずれも全国市場として画定した。

(2) 重点調査の対象

 前記3(1)で画定した取引分野のうち,本件譲受け後の販売数量シェア・順位等に基づき,特に,競争に及ぼす影響が大きいと考えられたモバイル製品用ガラス基板について,重点的に調査を行った。

(3) 市場の状況

 平成14年度におけるモバイル製品用ガラス基板の国内市場規模は,約100億円である。
 本件譲受けにより,当事会社のモバイル製品用ガラス基板の合算販売数量シェア・順位は,約50%・第1位となる。

順位 メーカー シェア
1 日本板硝子 約40%
2 A社 約35%
3 B社 約15%
4 HOYA 約10%
  100%
(1) 当事会社合算 約50%

 (出所:調査結果を基に当委員会にて作成)

(4) 考慮事項

ア 有力な競争事業者の存在

 本件行為後においても,販売数量シェア約35%を有する競争事業者が存在するほか,10%を超えるシェアを有する競争事業者も存在しており,これら競争事業者には十分な供給余力が認められる。

イ ユーザーの価格交渉力

 ガラス基板メーカーとユーザーであるHDDメーカーとの取引は,一般的に長期契約に基づくものではなく,HDDのモデルチェンジごとに取引先変更の機会が生じるものであるところ,ユーザーは,取引先の変更が容易であり,かつ,安定調達の確保及び低価格調達の実現のために分散発注を基本的な調達方針としており,調達に当たっては,主として取引価格によって調達量を増減させているなど,その価格交渉力は強い状況にある。

ウ 川下市場からの競争圧力

 最終製品であるパソコン市場では極めて激しい競争が行われており,パソコンの販売価格の下落は顕著である。
 このような最終製品市場における競争状況の影響を受け,ガラス基板メーカーは,HDDメーカーがパソコンメーカーから受けるのと同様の厳しい値下げ要求を受けており,実際にも,ガラス基板の販売価格は一貫して下落している状況にあることから,川下市場からの強い競争圧力が働いていると認められる。

エ 市場からの撤退

 日本板硝子は,ガラス基板事業からの撤退を決定しているところ,日本板硝子からのガラス基板事業の譲受けが早期に実現可能と考えられるガラス基板メーカーのうち,HOYAよりも競争に与える影響(シェアの増加)が小さいものの存在が認め難い。

オ 競争者間の協調的行動に影響を及ぼす事情

 ユーザーの価格交渉力が強く,川下市場からの強い競争圧力が働いていることから,基板メーカー間において協調的な価格行動を採ることが困難であると認められる。
 また,ガラス基板は,技術革新が頻繁であり,製品サイクルが短い製品であることから,価格を引き下げることによって売上の拡大を図ることができる可能性が大きく,ガラス基板メーカーにとって協調的な行動を採る誘因は小さいものと考えられる。

4 当事会社が届け出てきた措置及び効果

(1) 当委員会の調査過程において,HOYAは,本件譲受けに関する計画として採ることとする措置として,以下の内容を明記した計画届出書を届け出てきた。

 ガラス基板の原板である素板の製造販売について,当初,日本板硝子と取り交わした営業譲渡契約書において,直接又は間接を問わず,日本板硝子がHOYA以外の者に対し,素板の製造販売を行わない旨の条項を定めていたが,当該条項を削除する措置を,遅くとも行為日までに採ること

 本件譲受けの対象事業に関連して自己が保有する特許権の実施許諾については,他の事業者からその実施許諾の求めがあったときは,これを拒否することなく,適正な条件の下でその求めに応ずることを方針とし,また,交渉中の実施許諾については,平成16年9月30日までに最終締結すること

(2) これらの措置が実行された場合,前記4(1)アの措置によって,日本板硝子は,HOYA以外の者に対する素板の製造販売が可能となり,将来におけるガラス基板製造販売分野への新規参入が容易になると考えられ,また,前記4(1)イの措置によって,実施許諾を受けた事業者は新たに化学強化系ガラス基板を製造販売することが可能となり,ユーザーにとっては,より幅広い取引先の選択が可能になるものと考えられる。

5 結論

 前記3(4)に記載の考慮事項と併せて,当事会社が届け出てきた措置の内容を踏まえれば,本件譲受けにより,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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