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(平成17年度:事例5)オーウェンス コーニング ジャパン株式会社による旭ファイバーグラス株式会社の買収について

(平成17年度:事例5)オーウェンス コーニング ジャパン株式会社による旭ファイバーグラス株式会社の買収について

第1 本件の概要

 本件は,ガラス繊維複合材の世界的なサプライヤーである米国オーウェンスコーニング(Owens Cornig)(以下「OC」という。)社の日本法人であるオーウェンス コーニング ジャパン株式会社(以下「OCJ」という。)が,ガラス繊維事業等を営む旭ファイバーグラス株式会社(以下「AFG」という。)を買収することを計画したものである。
 本件の関係法条は,独占禁止法第10条である。

 (注) 当事会社の1社であるAFGは,平成17年2月に溶解炉の削減及び一部製品の生産中止について公表を行い,チョップドストランドを除くガラス長繊維3製品(ロービング,チョップドストランドマット及びコンティニュアスストランドマット)については,その後,生産を中止している。

第2 一定の取引分野

1 製品の概要

 ガラス長繊維は,高温で溶かして液状になったガラスを高速で巻き取ることによりミクロン単位の繊維にしたものであり,主に各種の樹脂に混合させ,樹脂の強化材料として用いられている。
 ガラス長繊維には,用途の違いに対応して様々な形状のものが存在しており,当事会社間で競合する製品はチョップドストランドである。
 チョップドストランドとは,収束したフィラメントを約3mm~25mmの長さに切断したものであり,エンジニアリングプラスチックメーカー等で用いられ,溶かしたプラスチックに入れ込み,電子機器用コネクターやプリント基板,電機機器,自動車用部品に加工されている。

 (注) チョップドストランドには,汎用品のほかに,特定のユーザーの仕様に合わせた製品も存在する。

2 一定の取引分野の画定

 ガラス長繊維には,用途の違いに対応して様々な形状のものがあるが,ユーザーは用途によって使い分けを行っており,当事会社間で競合しているチョップドストランドには,他に同じように使用できる製品がないことから,チョップドストランドで一定の取引分野を画定した。
 また,当事会社を含むガラス長繊維の製造販売業者は全国を事業地域としており,商品の特性や輸送費用等からみて特段の事情も認められないことから,地理的範囲は全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 市場の状況

(1) 市場シェア・集中度の状況

 平成16年のチョップドストランドの市場規模は約150億円,国内販売数量は約13万トンである。
 本件行為後,当事会社の合算販売数量シェア・順位は約30%・第2位(統合後のHHI約2,700,HHIの増加分約300)となる。

順位 会社名 シェア
1 A社 約30%
2 AFG 約25%
3 B社 約15%
4 C社 約15%
5 OCJ 約 5%
6 D社 0~5%
7 E社 0~5%
(2) 当事会社合算 約30%
  合計 100%

 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
 (注) チョップドストランドのみの輸入数量は不明であるため,上記のシェア算定からは輸入を除外している。なお,ガラス長繊維全体の輸入量は,約2万トンでガラス長繊維全体の国内販売量の5%弱である。

(2) 市場シェアの推移

 過去5年間の市場シェアの推移をみると,シェア第1位のA社及びAFGとの間で,またシェア第3位のB社及びシェア第4位のC社との間で順位の変動があるなど,各メーカーのシェアの変動は大きいといえる。

2 販売数量及び生産数量の推移

 市場規模は,自動車製品向けやIT関連向けの出荷の増加により年々拡大している。平成16年における販売数量は約13万トンであり,過去3年間で約1.3倍に増加している。
 一方,平成16年における生産数量は約18万トンで,過去3年間で約1.4倍に増加しており,生産数量が市場規模の拡大を上回って増加していることが認められる。また,競争事業者各社は,今後増産の計画を有している。

3 輸入の状況

 輸入は主に中国から行われているが,中国から日本への輸入量はガラス長繊維全体ベース(チョップドストランド以外のガラス長繊維も含む。)でみて平成15年から平成17年にかけて2倍以上に増加している。また,中国メーカーでは,今後5年ほどの間に生産能力を増強する動きがみられる。これらのことから判断すると,品質等の問題から現時点における輸入品のシェアは低いものの,将来的には汎用品を中心に輸入量が伸びていくと考えられる。

4 取引先変更の容易性

 ユーザーは,供給の安定性を確保するために,通常,複数のメーカーからチョップドストランドを調達している。
 また,(1)チョップドストランドの生産数量が市場規模の拡大を上回って増加していること,(2)中国からの輸入品が増加していること,(3)競争事業者が増産計画を持っていること,(4)需要増加に応じて原料ガラスの供給を他のガラス長繊維製品向けからチョップドストランドの生産ラインへ集中することができること,(5)海外向けチョップドストランドの単価は国内出荷向けの製品よりも安い状況にあり,メーカーはいずれもできるだけ国内での販売量を増やそうとすると考えられること等から,新規の引合いに対応できないような供給不足の状況は生じないと認められる。
 このように,ユーザーは複数メーカーから調達しており,供給不足の問題も生じないと考えられることから,チョップドストランド市場における取引先の変更は容易であると認められる。

5 ユーザーの価格交渉力

 メーカーとユーザーとの価格交渉は,年1回の定期的な交渉のほか,経済環境の変化に応じてその都度行われている。
 価格交渉において,ユーザーは(1)複数購買によって取引条件を競争させており,さらに,(2)重油等の生産コストに影響を与える要因の市況状況,(3)日本国外での取引量や長繊維以外の取引製品も考慮したボリュームディスカウント要請,(4)輸入品への切替え,(5)ユーザーの用意したトラックによる製品引取による価格低減等を交渉材料とするなどして価格引下げを要請している。その結果,各メーカーの国内平均出荷価格は下落基調で推移しており,ユーザー主導の価格交渉の状況が確認できる。

第4 独占禁止法上の評価

1 単独行動による競争の実質的制限について

 有力な事業者が存在すること,取引先の変更が可能であること,ユーザーの価格交渉力は強いこと等から,当事会社の単独行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 協調的行動による競争の実施的制限について

 メーカー間で順位の変動がみられ,各メーカーのシェアの変動は大きいこと,ユーザーの価格交渉力が強いこと等から,当事会社と競争事業者の協調的行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,チョップドストランドの取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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