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(平成17年度:事例9)Johnson & Johnson によるGuidant Corporation の株式取得について

(平成17年度:事例9)Johnson & Johnson によるGuidant Corporation の株式取得について

第1 本件の概要

 本件は,医療機器製造販売業者であるJohnson &Johnson(本社米国。以下「米国ジョンソン」という。)が,同じく医療機器製造販売業者であるGuidant Corporation(本社米国。以下「米国ガイダント」という。)の全株式を取得することを計画したものである。
 本件の関係法条は,独占禁止法第10条である。

第2 一定の取引分野

1 製品の概要

 当事会社は世界各地において医療機器の販売を行っており,我が国においても,当事会社の日本法人及び医療機器輸入販売業者を通じて,当事会社の製品が販売されている。

 両当事会社が共通して取り扱っている医療機器には,

(1) 心臓冠動脈疾患の治療方法で,心臓冠動脈の狭窄部にカテーテルを通して血管を拡張する手術である「経皮的冠動脈形成術」(以下「PTCA」という。)

(2) 心臓冠動脈疾患の治療方法で,狭窄が生じている心臓冠動脈に代えて別の血管を当該患部に移植する手術である「心臓冠動脈バイパス手術」(以下「CABG」という。)

(3) 心臓冠動脈以外の末梢血管の狭窄に係る治療方法で,末梢血管の狭窄部にカテーテルを通して血管を拡張する手術である「経皮的血管形成術」(以下「PTA」という。)において使用される医療機器がある。

2 一定の取引分野の画定

 上記1に記載した治療方法において使用される医療機器について,ユーザーである医師にとって機能・効用が同種であるか否かなどの観点から検討した結果,我が国の市場における次の12種類の各医療機器の製品分野を,それぞれ,本件における一定の取引分野と画定した。

(1) PTCA用ガイディングカテーテル
(2) PTCA用ガイドワイヤー
(3) PTCA用バルーンカテーテル
(4) PTCA用薬剤溶出ステント(以下「DES」という。)
(5) PTCA用ステント(以下「BMS」という。)
(6) CABG用内視鏡下血管採取システム(以下「EVH機器」という。
(7) CABG用スタビライザー
(8) PTA用ガイディングカテーテル
(9) PTA用ガイドワイヤー
(10) PTA用バルーンカテーテル
(11) PTA用ステント
(12) 下大静脈フィルター

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討及び独占禁止法上の評価

1 市場規模

 平成16年における国内の医療機器全体の市場規模は約2兆600億円である。
 そのうち,本件検討対象製品の市場規模は,PTCA用医療機器が約1000億円,CABG用医療機器が約5億円,PTA用医療機器が約185億円である。

2 直ちに競争が実質的に制限されることはならないと考えられる分野

 上記第2-2で画定した12の取引分野のうち,DES及びEVH機器を除く10の取引分野については,以下のとおり,本件株式取得が行われたとしても,直ちに当該市場における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

(1) PTCA用ガイディングカテーテル,PTCA用ガイドワイヤー,PTCA用バルーンカテーテル及びBMS

 これら4製品については,両当事会社が現に競合関係にあるが,いずれの取引分野についても,結合後における合算シェアの増加分が僅少であること,10%以上のシェアを有する有力な競争事業者が存在すること及び事業者数が多いことにかんがみれば,本件株式取得により直ちに我が国の当該市場における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

(2) CABG用スタビライザー

 CABG用スタビライザーについては,両当事会社が現に競合関係にあるが,結合後における合算シェアの増加分がわずかであること,当事会社とほぼ同程度のシェアを有する極めて有力な競争事業者が存在することにかんがみれば,本件株式取得により直ちに我が国の当該市場における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

(3) PTA用ガイディングカテーテル,PTA用ガイドワイヤー,PTA用バルーンカテーテル,PTA用ステント及び下大静脈フィルター

 これら5製品については,米国ジョンソンを含め複数の事業者が我が国の当該市場に参入しているが,米国ガイダントの製品は欧米では販売されているものの国内では販売されていない。このため,本件結合により当事会社の合算シェアは何ら増えることはなく,したがって,現時点では,本件株式取得により競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。
 また,本件結合により米国ガイダントという潜在的競争事業者が失われることになるが,いずれの機器についても10%以上のシェアを有する有力な事業者が1社ないし複数存在しており,米国ガイダントの製品がこれらの有力な事業者と比肩し得るだけのシェアを直ちに獲得するようになるとは考えにくいことから,この観点からみても,本件結合により競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

3 検討を要する分野

 上記12の取引分野のうち,DES及びEVH機器の2つの取引分野については,本件株式取得後,当事会社により我が国の市場が独占されることとなるため,重点的に審査を行った。

(1) DES

 我が国では,現在,米国ジョンソンが製造するDESのみが厚生労働省の承認を得て販売されており,このため,米国ジョンソンが,現在のところ,我が国における唯一のDESの供給者となっている。

 しかし,当該市場については,現在,米国ガイダントを含め,日本のDES市場への参入を計画している事業者が複数存在し,数年後には当該市場は競争的な市場に変わっていくものと見込まれている。

 このうち,米国ガイダントは,米国ジョンソンの潜在的競争事業者の立場にあるが,いまだ治験の準備段階にあり,具体的な参入時期は不明であるのに対し,米国ジョンソンと競合する医療機器製造販売業者の中には,海外において現にDESの販売を行っており,かつ,米国ジョンソンの製品を上回るシェアを獲得している者がいる。当該競争事業者は,我が国においてもDESの販売に係る承認を得るために治験を実施中であり,同社の製品は,米国ガイダントの製品よりも早い時期に我が国のDES市場に参入してくることが見込まれていることから,同社は,米国ガイダントを上回る極めて有力な競争事業者になり得るものと考えられる。

 さらに,当該競争事業者以外にもDESの開発を行っている医療機器製造販売業者が複数存在しており,参入時期は多少遅れるとしても,いずれは我が国のDES市場に参入してくると見込まれており,かつ,これら医療機器製造販売業者の製品についても,米国ガイダントが開発中のものと同等又はそれ以上の性能を有している可能性がある。

 こうした新規参入者の存在にかんがみれば,本件株式取得が行われたとしても,各事業者の参入後の我が国のDESの分野における競争が実質的に制限されることとはならないものと判断した。

(2) EVH機器

 我が国では,米国ジョンソン及び米国ガイダントの製造するEVH機器のみが販売されていたところ,平成17年10月,医療機器製造販売業者1社が新たにEVH機器市場に参入した。しかし,現時点においてはそのシェアはわずかでしかない。

 したがって,本件株式取得によって,我が国におけるEVH機器の市場は,当事会社の製品により事実上独占されることとなり,その結果,当該市場における競争が実質的に制限されることとなるおそれがあると認められる。

 しかしながら,本件株式取得については,米国連邦取引委員会(Federal Trade Commission。以下「FTC」という。)及び欧州委員会(European Commission。以下「EC」という。)における審査の過程で,当事会社に対し,上記イと同様の問題について指摘がなされたため,当事会社は,米国ジョンソンの子会社が所有するEVH機器事業の全世界向けの製造部門及び販売部門を,第三者に売却することを申し出ており,既に米国ジョンソンは,第三者である米国の医療機器製造販売業者との間で,売却について合意している。
 そして,第三者への売却対象事業には,我が国向け販売に係る事業も含まれているところ,当該売却が実施されれば,本件についての独占禁止法上の問題は解消されるものと考えられる。

 したがって,上記ウのEVH機器事業の売却が実施されることを前提とすれば,本件株式取得によって,我が国のEVH機器の分野における競争が実質的に制限されることとはならないものと判断した。

第4 結論

 以上の状況から,EVH機器に関する前述の措置が確実に履行されるのであれば,本件行為により,我が国の医療機器の製品分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 海外競争当局との情報交換

 本件については,当委員会だけではなく,FTC及びECにおいても同様の調査を行っており,当委員会では,両競争当局との間で情報交換を行いつつ調査を進めてきた。
 なお,ECは平成17年8月25日に,FTCは同年11月2日に,問題解消措置の履行を前提にすれば,本件株式取得が競争法上問題となることはない旨の調査結果をそれぞれ公表している。

別紙 1 PTCAについて

 PTCAは,心臓冠動脈の狭窄部にカテーテルを通すことにより血管を拡張する手術である。PTCAの基本的な手術方法は,(1)患者の手首又は太股の動脈から筒状になっているガイディングカテーテルを心臓冠動脈の入口部まで挿入し,(2)ガイディングカテーテルの中にガイドワイヤーを挿入し,(3)バルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿って挿入し,(4)バルーンを拡張することにより患部の血流を確保し,(5)必要に応じステントを患部に留置することにより血流を確保し,(6)バルーンカテーテル,ガイドワイヤー及びガイディングカテーテルを引き抜くことにより終了する。
 従来,(5)の過程で薬剤を塗布していないステント(BMS)が使用されていたが,ステントが心臓冠動脈の血管壁を傷つけた場合,傷を修復するために内膜細胞が増殖して血管が再び狭くなる再狭窄が起こり,再治療が必要となることがあった。近年,ステントに薬剤を塗布することによって,再狭窄の原因となる細胞の増殖を抑制するDESが開発されており,これを使用した場合には,再狭窄の発生を極めて低く抑えることができることから,現在では,DESを用いた治療が主流となっている。

2 CABGについて

 CABGは,胸部の内胸動脈又は大腿部の大伏在静脈等の血管を,狭窄が生じている心臓冠動脈に代えて移植することにより,心臓冠動脈の血流を確保する心臓バイパス手術である。
 CABGでは,大腿部の大伏在静脈を採取する際には,従来は大腿部を大きく切開して血管を採取するという術式が一般的であったのに対し,最近では,大腿部に小さな穴を開け,そこに内視鏡を挿入して血管を剥離,摘出する「内視鏡下血管摘出術」が採用されるようになってきている。この術式に用いられる医療機器がEVH機器であり,手術部を見るための内視鏡,血管を切除するためのハサミ等から構成されている。
 また,従来,CABGでは,人工心肺装置を用いて血液循環を確保した上で,一旦心臓を停止させて手術を行う方法が一般的であったが,この方法では,心臓を停止させることにより手技が容易になる一方で,術前術中に虚血発作が生じたり,心停止時間が長くなった場合には術後の心臓機能が低下したりする危険性があった。このため,心臓を停止させずに,スタビライザーという器具で心臓冠動脈の吻合部分を吸着固定して手技を行う方法が採られるようになってきている。

3 PTAについて

 心臓冠動脈以外の血管に係る疾患について,PTCAとほぼ同様に,血管内の狭窄部にカテーテルを通すことにより血管を拡張する手術(PTA)が行われている。PTAでは,PTCAと同様,ガイディングカテーテル,ガイドワイヤー,バルーンカテーテル,ステント等が用いられるが,PTA用機器とPTCA用機器の間に互換性はない。
 また,下肢・骨盤等の静脈に血栓が生じ,当該血栓が血管内に遊離し,肺動脈に達することにより肺動脈において狭窄が生じて,呼吸困難等を引き起こす肺塞栓症を防ぐために,下大静脈フィルターと呼ばれる当該血栓が肺動脈に達しないようにするための医療機器が用いられる。

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