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(平成18年度:事例2)日清食品株式会社による明星食品株式会社の株式取得について

(平成18年度:事例2)日清食品株式会社による明星食品株式会社の株式取得について

第1 本件の概要

 本件は,日清食品株式会社(以下「日清」という。)が,明星食品株式会社(以下「明星」という。)の株式を取得したものである。
 関係法条は,独占禁止法第10条である。

第2 一定の取引分野

1 製品概要

(1) 即席めん

 即席めんとは,小麦粉又はそば粉を主原料とし,これに水,食塩又はかんすいその他めんの弾力性,粘性等を高めるものを加えて製めんし,調味料を添 付したもの又は調味料で味付けしたものに,かやくを添付した,簡便な調理操作により食用できる製品である。

ア 袋めん
 即席めんを袋詰めしたものを袋めんという。賞味期限は,通常,製造から6か月とされている。

イ カップめん
 即席めんのうち,食器として使用できる容器にめんが入れられたものをカップめんという。賞味期限は,通常,製造から5か月とされている。

(2) めん入りカップスープ

 めん入りカップスープとは,スープを主体とし,その中に,はるさめ(原料:緑豆)やビーフン(原料:米)等のめん類を混ぜたものが,食器として使用可能な容器に入れられ,かやくが添付された製品である。平成11年ごろに製品化された新しい製品であるが,現在では,即席めん以外のメーカーが多数参入している。

(3) チルドめん

 チルドめんとは,小麦粉又はそば粉を主原料とし,これに水,食塩等のめんの弾力性,粘性等を高めるものを加えて製めんしたものを袋詰めした製品であり,冷蔵保存(0~10℃)を必要とする。賞味期限は,通常,製造から7~14日である。

(4) 冷凍めん

 冷凍めんとは,チルドめん等と同様に製めんしたものを,冷凍した製品である。鍋,コンロ等を使用した調理を必要とする製品と,電子レンジによる加熱のみによって食することができる製品がある。

2 一定の取引分野の画定

(1) 商品の範囲

 本件において,当事会社間で競合する商品は,(1)袋めん,(2)カップめん,(3)めん入りカップスープ,(4)チルドめん及び(5)冷凍めんである。これらの商品は,いずれも簡便な方法により食することが可能なめん食品である。また,簡便な方法により食することが可能なめん食品というカテゴリーには,調理めん(既に調理されており,そのまま食することができるめん),乾めん(うどんやそうめんなどの乾燥めん)及びパスタも含まれると考えられる。
 一定の取引分野を画定するに当たっては,袋めん,カップめん,チルドめん等の商品の形状による区分のほか,中華めん,和めん,焼きそば等のめんの種類による区分の二つの方法が考えられ,それぞれについて,需要面における一定の代替性があると考えられる。このため,取引分野の画定に当たっては,まず,商品の形状及びめんの種類ごとに細かく区分して(例えば,カップめんの中華めんなど),そのそれぞれについて需要の交差弾力性(注)を計測したが,データ面での制約等もあって,必ずしも有意な結果は得られなかった。他方,供給面についてみると,袋めんやカップめん等,商品の形状が同じ場合には,中華めん,焼そば等いずれのめんであっても製造設備は基本的に共通していることから,各商品の間には供給の代替性があると考えられる。
 このため,ここでは,商品の形状ごとに一定の取引分野を画定することとし,各商品間の競合関係については,隣接市場からの競争圧力として勘案することとした。
 したがって,ここでは,(1)袋めん,(2)カップめん,(3)めん入りカップスープ,(4)チルドめん及び(5)冷凍めんの5品目について,それぞれ商品の範囲を画定した。

(注) 需要の交差弾力性とは,A商品の価格が1%上昇した場合に,A商品と競合関係にあるB商品の需要が何%増加するかを示す指標であり,需要の交差弾力性が正の大きな値になるほど,A商品とB商品の代替性は高いと評価される。

(2) 地理的範囲

 需要者は基本的には全国の事業者から購入し,各メーカーは全国を事業地域としている状況であり,製品の特性等からみて特段の事情も認められないことから,地理的範囲は全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 めん入りカップスープ,チルドめん及び冷凍めん

 「めん入りカップスープ」,「チルドめん」,「冷凍めん」については,当事会社の合算シェアが10%程度又はそれ以下であり,シェアの増分もわずかであることから,本件統合により,当該製品市場における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

2  袋めん及びカップめん

(1) 市場規模

 袋めんの市場規模は,平成17年度において約900億円となっている。また,カップめんの市場規模は,約3600億円となっている。袋めんの市場規模は減少傾向,カップめんの市場規模はおおむね横ばいとなっている。

(2) 市場シェア・HHI

袋めん及びカップめんの市場における各メーカーのシェアは,下表のとおりである。
 本件企業結合により,袋めんについて,当事会社の合算シェア・順位は約35%・第1位となる。本件企業結合後のHHIは約2,400,HHIの増加分は約500である。
 また,カップめんについて,当事会社の合算シェア・順位は約60%・第1位となる。本件企業結合後のHHIは約3,500,HHIの増加分は約800である。

[1] 袋めん

順位 会社名 シェア
1 A社 約25%
2 日清 約25%
3 B社 約10%
4 明星 約10%
5 C社 約5%
6 D社 0~5%
  その他 約25%
(1) 当事会社合算 約35%
  合計 100%

[2]カップめん

順位 会社名 シェア
1 日清 約50%
2 E社 約20%
3 F社 約10%
4 明星 約10%
5 G社 0~5%
  その他 約10%
(1) 当事会社合算 約60%
  合計 100%

(注) いずれも平成17年度実績。
(出所:いずれも当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

(3) 価格の動向

 当事会社の製品及び競争事業者の製品の小売価格は,袋めん,カップめんともに総じて低下している。

(4) 需要者からの競争圧力

 需要者であるスーパー,コンビニエンスストア等の小売店は,大きな購買力を背景として,メーカーに対し優位な立場にあるといわれており,特に, スーパー等の大規模小売店では,小売店同士の競争が激しく,特売期を中心としてメーカーとの間で厳しい値下げ交渉が行われている。
 さらに,コンビニエンスストアでは,消費者のニーズが,品質の良い製品,他の店では買えない製品に向けられていることから,メーカーに対し,品質,売上高に対する厳しい要求がある。
 メーカーにとっては,スーパーにおける特売や,コンビニエンスストアにおける棚割りが競争上重要な位置を占めているが,以下のとおり,その決定権は小売店側が握っている。

ア 棚割り
 カップめんについては,売上高の2割前後を占めるコンビニエンスストアは,メーカーにとって重 要な取引先となっている。コンビニエンスストアは,狭小なスペースで効率的な売上げを確保しなければならないため,売場棚には,なるべく売行きのよい製品 を重点的に配置する必要があり,この売場棚への配置は,通常,棚割りと呼ばれている。メーカーにとってはいかに有利な棚割りを確保するかが重要な課題となるが,棚割りをめぐるメーカー間の競争は非常に厳しく,例えば,1週間ごとに売上げが集計され,ある一定以上の売上げがなかった製品については1週間で売場棚から排除される場合もある。

イ 特売
 スーパーは,年間を通じた販売計画をあらかじめ定めておき,それに基づいて,各メーカーの特定の製品を対象に安売りセールを行う。これが特売であり,メーカーにとって,特売による売上高は極めて大きなウエイトを占めている。当事会社等に対するヒア リングによれば,特売の時期,対象製品,販売価格等については,スーパーのバイヤーとメーカーの営業担当との間の交渉によって決定されるが,スーパーのバ イヤーは,(1)競合店よりも安い販売価格を設定しなければならないこと,(2)安い販売価格であってもスーパーの利益は確保する必要があることから,各 メーカーと厳しい納入価格の交渉が行われており,メーカーとしては,スーパーが提示する納入価格を受け入れられない場合は,特売の機会を失うことになるため,どのメーカーも,スーパー側の提示する価格を受け入れざるを得ない状況となっている。

(5) 新製品の発売状況

ア 新製品発売の頻度
年間に販売される新製品数は,袋めんで年間約60~100アイテム(注),カップめんで年間約600~700アイテムとなっている。
 カップめんについてみれば,毎週約11~13アイテムの新製品が発売されていることになり,多くの製品が棚割りをめぐって活発に競争していることから, メーカー間の競争は激しいものとなっている。
 このように新製品の発売頻度が多い理由については,(1)消費者の嗜好が多様化し,絶えず新しいものを求めていること,(2)コンビニエンスストア等における売上高管理が厳しいことが挙げられる。
 例えば,コンビニエンスストアでは,売上高の低い製品については直ちに売場棚から排除されてしまうこともあることから,各メーカーは,自社向けの棚割りを確保するため,次々と目新しい製品を開発し続ける必要性に迫られている。

(注) アイテムとは,風味,大きさの違いによる分類のこと。例えば,同一のブランドでしょうゆ味,しお味の2商品があれば,2アイテムとなる。

イ 製品のライフサイクル
 毎年,多数の新製品が販売されているものの,袋めん,カップめんについて,一部のロングセラーとなるものを除き,一般的に製品のライフサイクルは短いとされている。

ウ 新製品の発売によるシェアの変動
 前述のとおり,めんのタイプや内容量の大きさ等を変えた新しい製品が次々に発売され,一般的に製品のライフサイクルは短いものの,従来の製品とは異なるタイプの製品が発売されたときは,シェアが大きく変動することもある。

(6) 競争事業者の供給余力

 袋めん,カップめんは,夏期よりも冬期に売上げが増加する製品であり,冬期の需要期に対応できる供給体制を整えている。また,ラインのスピードを上げることや遊休設備を活用すること等により,増産は可能である。このことから,各メーカーとも,十分な供給余力を有していると考えられる。

(7) 参入

袋めん及びカップめんについては,現在では,新規参入や事業拡大に当たって障壁となるような特許等が存在するわけではない。
 また,新たに製造設備を構えて参入する場合でも,製造工程は定型化されており,製品の製造を行うための設備自体は汎用品の組合せによって可能であり,設備の設置は1年程度(建物がある場合)で可能であることから,技術面における障壁は高くはないとみられる。
 このため,即席めんの分野における参入メーカーは多く,中小地場のメーカーも合わせると袋めんでは60社以上,カップめんでは50社以上のメーカーが存在しているが,ブランドを定着させ,当事会社に匹敵するような一定のシェアを獲得し続けることは容易ではないと考えられる。

(8) 輸入

 袋めん及びカップめんの輸入量は,平成16年において,国内売上高比では1%未満と小さい。
 平成18年7月に,即席めんに関する世界規格(FAO/WHOコーデックス委員会における規格)が成立し,商社や小売業による即席めんの輸入の環境は整備されつつあるが,(1)日本人は味に対する評価が厳しく,輸入品が日本の消費者に受け入れられるかどうかは現時点では不明であること,(2)物流に制約があること(小売店への納入期限は,通常,製造日から50日程度以内となっており,船便輸送,輸入検疫などを考慮すると日数的に厳しい。)等から,実際には,直ちに大幅に増加することは考えにくい。

(9) 隣接市場からの競争圧力

 めん食品カテゴリー(注)における製品間の代替性を,ユーザーヒアリング,価格・数量データを用いた分析等により検討したところ,袋めんについては,カップめん,めん入りカップスープ,チルドめんとの間で代替関係が強く,当該製品が袋めんに対する競争圧力となっていると考えられる結果が得られた。
 他方,カップめんについては,袋めん,めん入りカップスープ,冷凍めんとの間で代替関係が強く,当該製品がカップめんに対する競争圧力となっていると考 えられる結果が得られた。
 なお,袋めん,カップめんに対する隣接市場からの競争圧力を考える際には,最終消費者が袋めん,カップめんを購入する場合に応じて,製品に対する選好が異なるとも考えられることに留意する必要がある。
 例えば,スーパーにおいてカップめんを購入する場合は,カップめんが保存可能な食品であることに着目した買い置き需要が多く,また低価格への期待も大きいことから,価格によって製品の選択に影響を与える部分が大きいと考えられる。
 他方,コンビニエンスストアにおいてカップめんを購入する消費者は,昼食用など直ちに食するために購入している場合が多く,したがって,調理が必要な袋めんや冷凍めん等との競合は小さい一方,調理めん等との競合も一定程度はあると考えられる。

(注) ここでいうめん食品カテゴリーには,袋めん,カップめん,めん入りカップスープ,チルドめん,冷凍めん,乾めん,パスタを含む。

第4 独占禁止法上の評価

1 袋めん

(1) 単独行動による競争の実質的制限についての検討

 10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在しており,競争事業者は供給余力を有していること,価格が顕著に下落しており,需要者であるスーパー等の小売店が強い価格交渉力を有していること,隣接市場からの一定の競争圧力が働いていること等にかんがみれば,当事会社の単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(2) 協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 中小メーカーを含めると60社以上の事業者が参入していること,需要者である小売店が強い価格 交渉力を有していること,製品のライフサイクルが短いことから値下げをして利益を拡大する誘因が大きいこと,各社とも供給余力を有していること,隣接市場からの一定の競争圧力が働いていること等にかんがみれば,当事会社と競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 カップめん

(1) 単独行動による競争の実質的制限についての検討

 近年,カップめんの価格は顕著に下落しているほか,各メーカーにおいて多数の新製品が販売されていることなどから,各メーカー間において,価格競争・製品開発競争が活発に行われていると認められる。
 そのような競争状況の中で,10%以上のシェアを有する競争事業者が存在しており,競争事業者は供給余力を有していることから,当事会社が単独で供給量を削減し価格を引き上げようとした場合,競争事業者は容易に供給量を増加させることが可能であると考えられる。
 また,スーパー等においては,特売製品の選定を通じて強い価格交渉力を有しており,買い置き需要という面で競合する袋めん,めん入りカップスープ,冷凍めんなどからの一定の競争圧力が働いている。
 さらに,コンビニエンスストアにおいては,棚割りを通じて強い価格交渉力を有しており,昼食用など直ちに食する需要という面で競合する調理めんなどからの競争圧力が働いている。
 以上から,当事会社の単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(2) 協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 上記(1)でみたとおり,各メーカー間において,価格競争・製品開発競争が活発に行われていると認められるところ,カップめんの取引分野については,中小を含めると50社以上の事業者が参入しており,製品のライフサイクルが短いことから,値下げをして利益を拡大する誘因が大きいと考えられる。また,上記(1)のとおり,需要者であるスーパーやコンビニエンスストアが強い価格交渉力を有していること,スーパー等においては袋めん,めん入りカップ スープ,冷凍めんなどから,コンビニエンスストア等においては調理めんなどから,それぞれ競争圧力を受けている。
 以上から,当事会社と競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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