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(平成11年度:事例6)ゼネラル・エレクトリック・カンパニー,(株)日立製作所及び(株)東芝による原子燃料事業の統合

(平成11年度:事例6)ゼネラル・エレクトリック・カンパニー,(株)日立製作所及び(株)東芝による原子燃料事業の統合

1 本件の概要

(1) 相談の概要

 ゼネラル・エレクトリック・カンパニー(以下「GE」という。),(株)日立製作所(以下「日立」という。)及び(株)東芝(以下「東芝」という。)は,昭和42年に3社の共同出資(GE40%,日立30%,東芝30%)により日本ニユクリア・フユエル(株)(以下「JNF」という。)を設立し,沸騰水型原子炉用燃料(以下「BWR用燃料」という。)の共同生産を行っているところ,それぞれの人的資源及び技術開発力を集約し,合理化を図るとともに,設計,技術開発,燃料製造及び販売の原子燃料事業全体を一貫化し,事業全体の効率化を図ることを目的として,当事会社3社が現在それぞれ独立して行っているBWR用燃料の販売・設計等の業務をJNFに統合しようとするものである。

(2) 原子燃料の概要

 国内で使用されている原子燃料には,BWR用燃料及び加圧水型原子炉(以下「PWR」という。)用の原子燃料(以下「PWR用燃料」という。)がある。国内の電力会社は,1社を除き,BWR又はPWRのいずれか一方のタイプの原子炉を設置している。発電用原子炉を有する電力会社のうちBWRを設置しているのは,東北電力(株),東京電力(株),中部電力(株),北陸電力(株),中国電力(株)及び日本原子力発電(株)の6社となっており,BWR用燃料のユーザーはこれら6社に限定されている。なお,これら6社のうち,東京電力は,BWR用燃料に対する国内の需要の約7割を占めている。

(3) BWR用燃料市場の概要

 国内におけるBWR用燃料の供給者は,当事会社3社及び原子燃料工業(株)(以下「NFI」という。)であり,NFIはBWR用燃料とPWR用燃料の両方について製造販売を行っている。なお,当事会社はいずれもBWRの製造販売を行っている原子炉メーカーでもあるが,NFIは原子燃料の製造販売だけを行っている。
 BWR用燃料のユーザーのうち東京電力は,原子炉の安全性や安定性,燃料の効率的な燃焼を確保するために必要な原子炉の炉心管理を自ら行うようになったことから,使用するBWR用燃料の選択の自由度が高まり,複数の燃料供給者から競争入札によってBWR用燃料を購入することが可能となっている。
 現在,東京電力は,国内の供給者である当事会社3社及びNFIを対象に競争入札を実施している。さらに近年は,海外の供給者を対象とした競争入札を実施し,GE(米国自社工場製造分)及びシーメンス・パワー・コーポレーション(米国:以下「SPC」という。)からもBWR用燃料の購入を開始し,並行して当該輸入品の燃焼効率など品質面等の所要の確認を行っている段階にある。
 東京電力以外のBWR用燃料のユーザーは,現在のところ,当事会社3社のうち当該電力会社が設置している原子炉のメーカー及びNFIの合計2社からBWR用燃料を購入しているが,炉心管理を自ら行うべくその技術取得を行っているところもあり,一部には海外の供給者からの購入を検討している電力会社も存在している。

(4) 原子炉設置時の原子燃料

 新規にBWRが設置された際に初めて装荷される原子燃料(以下「初装荷燃料」という。)については,現在は当該BWRを販売した原子炉メーカーの原子燃料が装荷されている。

2 独占禁止法上の考え方

(1) 一定の取引分野

 本件においては,BWR用燃料とPWR用燃料は基本設計や仕様などに大きな違いがあり,両者に互換性は認められないことから,国内におけるBWR用燃料の製造販売分野について一定の取引分野が成立すると判断した。

(2) 競争への影響

ア 当事会社の地位及び競争者

 当事会社3社のBWR用燃料販売シェアの合計は約70%(直近3年平均)であり,その順位が第1位となるとともに,国内の供給者は2社となる。
 また,SPCなどの海外の供給者は国内の供給者と同等の技術水準にあり,価格競争力を有していると認められるが,電力会社は厳格な審査を行った上で新規の原子燃料を採用し購入しているところ,現時点においては,海外の供給者の原子燃料については購入と並行して品質面等の所要の確認を行う段階にあること等から,海外の供給者が当該確認を終えている国内の供給者と競争上同等の立場にあるとは必ずしもいえない。

イ 需要者の取組

 需要者である電力会社は,最近の規制緩和,競争原理の導入の流れを受けて,コストダウンのための取組を推進しているところである。国内におけるBWR用燃料の最大のユーザーである東京電力は,より競争的な購入方法への変更及び海外の供給者も購入先とすることによって,BWR用燃料市場における競争を維持・拡大するための取組を進めており,平成6年からBWR用燃料の購入に関して競争入札を採用し,平成9年度入札分からは,海外の供給者からの購入も開始しているところである。今後は,これら輸入品の品質面等の確認が行われた段階で,国内の供給者と海外の供給者間の競争をより直接的なものにしていく方向で購入方法を段階的に変更する計画である。さらに,新規参入を希望している他の海外の供給者の燃料についても,所要の審査が済めば採用を検討していくこととしている。
 東京電力以外の電力会社においても,使用するBWR用燃料の選択の自由度を高め,より競争的な購入方法を確立するため,炉心管理を自ら行おうとする動きがあり,今後,輸入品の使用を含めた購入先の選択の幅が拡大するための環境が整っていくものと考えられる。

ウ 当事会社の対応

 当委員会は当事会社に対して,本件事業統合によってBWR用燃料の製造販売分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある旨の指摘を行った。これに対し当事会社は,海外の供給者による国内市場への参入の促進等に資するために,以下の措置を採る旨の申出を行った。

(1) 海外の供給者のBWR用燃料の輸送に関する協力
 原子燃料の国内輸送に関しては輸送に関する確認申請や輸送容器に関する承認申請が必要であるところ,海外の供給者又は電力会社からの要請があった場合には,当該手続,輸送容器の貸与及び運搬に協力する。

(2) 各電力会社の炉心管理の自営化に関する協力
 各電力会社のBWR用燃料の購入における選択の自由度を高める観点から,各電力会社が炉心管理を自ら行うことに関して当事会社に対して協力の要請があった場合には,これに協力する。

(3) 他の供給者に対するデータの開示
 初装荷燃料に関し,電力会社からの要請があった場合には,当事会社が原子炉メーカーとして有している初装荷燃料の許認可解析に必要なプラントデータを他の供給者に開示し,また,当事会社の初装荷燃料設計を他の供給者に適切な対価により供与(実施許諾)する。

エ 当委員会の判断

 原子燃料は,その商品の性格上,電力会社が新規の燃料を使用するに当たっては,厳格な審査の必要があり,また,そのために一定の期間を要するものである。BWR用燃料の最大のユーザーである東京電力は,既に海外の供給者からの購入を開始し,今後,輸入品の品質面等の確認が行われた段階で,国内の供給者と海外の供給者の間の競争をより直接的なものとする方向で購入方法の変更を計画しており,また,東京電力以外の電力会社においても,今後輸入品の使用を含めた購入先の選択の幅が拡大するための環境が整っていくものと考えられる。
 当事会社においても,海外の供給者によるBWR用燃料の供給促進に資するため,海外の供給者のBWR用燃料の輸送に関する協力,各電力会社の炉心管理の自営化に関する協力及び他の供給者に対するデータの開示の措置を講ずることとしている。
 こうしたユーザー側の取組が進められ,また,当事会社による措置が講じられれば,海外の供給者が国内の供給者と同等の立場で競争する環境が確保されることになると考えられる。
 さらに,国内への参入が見込まれる海外の供給者は,いずれも海外のBWR用燃料市場において有力な地位を占めており,技術,価格,供給能力の面で国内の供給者と遜色ないものと認められることから,これらの海外の複数の供給者が,今後,国内の供給者に対する有力な競争者となり,国内のBWR用燃料の製造販売分野における競争を促進する要因として十分機能するものと評価することができると考えられる。
 加えて,ユーザーは価格交渉力のある電力会社6社に限定されており,また,需要の約7割を占めている東京電力が競争入札方式によりBWR用燃料を購入しているとともに,他の電力会社においても,より競争的な購入方法の導入のための取組がなされているなど,BWR用燃料市場においては競争的な調達方式が採られている。
 以上からすれば,本件事業統合によって,当事会社が単独で又は他の供給者との協調的行動を採ることにより,市場支配力を形成することは困難であると考えられることから,BWR用燃料の製造販売分野における競争を実質的に制限することとはならないものと判断した。

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