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(平成13年度:事例10)日本航空(株)及び(株)日本エアシステムの持株会社の設立による事業統合

(平成13年度:事例10)日本航空(株)及び(株)日本エアシステムの持株会社の設立による事業統合

1 本件の概要

 本件は,日本航空株式会社(以下「JAL」という。)及び株式会社日本エアシステム(以下「JAS」という。)が,グローバルな厳しい競争に耐え得るような事業基盤を確立することを目的として,当事会社の親会社となる持株会社を設立し,その後,当事会社を事業別会社に再編することにより事業の統合を行うことを予定しているものである。

2 問題点の指摘

 当委員会が,本件統合計画について,これが競争を実質的に制限することとなるおそれがあるとして指摘を行った問題点は,以下のとおりである。

(1) 大手航空会社(JAL,JAS及び全日本空輸株式会社)が3社から2社に減少することにより,これまでも同調的であった大手航空会社の運賃設定行動が更に容易になる。

(2) また,就航企業数が少ない路線ほど特定便割引運賃が全便に設定される割合及びその割引率が低くなっており,大手航空会社数の減少は競争に重大な影響を及ぼす。

(3) このような状況の下,混雑空港における発着枠の制約等により,新規参入等が困難であることから,新規参入が同調的な運賃設定行動に対する牽制力として期待できない。

(4) その結果,航空会社が設定する運賃について,価格交渉の余地がない一般消費者がより大きな不利益を被ることとなる。

3 当事会社から提出された対応策等

(1) 当事会社の対応策

 当事会社から申出のあった対応策の内容は,以下のとおりである。

ア 新規参入促進のための措置

(ア) 発着枠の返上
 当事会社の有する羽田発着枠について,平成14 年10 月に,9便(注)を国土交通省に返上する。
 また,平成17 年2月の発着枠の再配分までに,上記9便を繰り入れる競争促進枠(後記3(2)参照)が不足する事態が生じた場合には,更に3便を上限として羽田発着枠を国土交通省に返上する。

 (注)1便は,離発着1回ずつの合計(1往復)をいう。

(イ) 新規航空会社に対する空港施設面での対応
 当事会社は,現在自社が使用しているボーディング・ブリッジ,固定スポット,チェックイン・カウンター等の空港施設の一部について,新規航空会社の希望があれば,新規航空会社にこれら施設を提供する。

(ウ) 航空機整備業務等各種業務受託による新規航空会社への協力
 新規航空会社の航空運送事業への参入や事業の継続・拡大に際し必要となる,航空機整備業務,空港地上業務など各種業務について,新規航空会社の希望があれば,積極的にこれを引き受ける。

イ 運賃面での措置等

(ア) 運賃面での措置

(1) 普通運賃を,主要なすべての路線について,一律10%引き下げ,少なくとも3年間は値上げしない。

(2) 特定便割引運賃・事前購入割引運賃を,他の大手航空会社と競合する主要なすべての路線及び統合により当事会社単独路線となる主要な路線について,全便に設定する。また,その水準についても現在の3社競合路線に設定されているものと同水準とする。

(イ) 路線網の拡充による競争促進と利便性の向上
 他の大手航空会社の単独路線や便数優位路線への参入・増便を図る。

(2) 国土交通省による競争促進策の強化

 国土交通省は,昨今の状況の変化を踏まえ,競争促進を通じた利用者利便の向上を図るため,以下のような新たな競争促進措置を講じることとしている。

ア 平成17 年2月までの措置
 新規航空会社が大手航空会社と競争して新たな事業展開を図るために使用するための発着枠として,新たに「競争促進枠」を創設し,下記平成17 年2月の発着枠配分の見直し(注)までの間,当事会社が対応策として今回返上する9便(9便を超えて必要な場合には更に3便を上限として追加返上)の羽田発着枠を繰り入れる。
 新規航空会社は,これまで6便までの羽田発着枠しか配分を受けることができなかったが,この競争促進枠の創設によって,6便を超えた羽田発着枠の配分を受けることができるようになる。

 (注) 平成12 年2 月施行の改正航空法により,混雑飛行場の使用については,国土交通大臣の許可制となり,5 年間の使用期限が付されている。現在の使用期限は,平成17 年2 月となっており,使用期限到来時に発着枠が回収・再配分されることとなっている。

イ 平成17 年2月の発着枠配分の抜本的見直し
 平成17 年2月の発着枠配分の見直しにおいては,新規航空会社が大手航空会社と伍して競争し,事業活動を拡大していくために十分なものとなり,有効な牽制力を有することが可能となるよう,既存のすべての発着枠を抜本的に見直して競争促進枠を拡充する。

ウ 空港施設面での新規航空会社への協力
 新規航空会社が事業を行う上で必要不可欠な,ボーディング・ブリッジ,固定スポット,チェックイン・カウンター等の空港施設について,大手航空会社に対し,新規航空会社が必要とするスペースの割譲等を求めていく。
 新規航空会社による競争促進枠の使い残しがある場合には,競争促進の観点から,大手航空会社が他社の単独路線へ参入する等航空会社間の競争が促進される場合に,暫定的に使用させることとするが,その場合には,ボーディング・ブリッジ,固定スポット,チェックイン・カウンター等の空港施設を新規航空会社に対して割譲等を行うことを条件とする。

エ 航空機整備業務等各種業務の新規航空会社に対する支援
 新規航空会社が航空運送事業に参入し,事業を継続するに際して必要な航空機整備等の各種業務の支援・受託について,大手航空会社に対し,積極的に協力することを求めていく。

(3) 新規航空会社の状況

ア 特定路線において事業活動を行っている新規航空会社の存在
 羽田空港の発着枠6便の配分を受けて,特定の路線において事業活動を行っている新規航空会社が2社(注)存在している。
 (注)スカイマークエアラインズ株式会社,北海道国際航空株式会社

イ 本格的な事業展開を計画している新規航空会社の存在
 上記アの新規航空会社の中には,運航乗務員等の自社養成や整備・地上業務等の自営化を図るなど,事業拡大のための体制を整備しており,仮に現時点で羽田空港の発着枠9便の追加配分があれば,それに応じて事業活動を拡大することを具体的に計画しているところもある。
 また,同社は,平成17 年2月以降についても,発着枠の見直しによって,配分される発着枠が大幅に増加すれば,事業活動を抜本的に拡大し,現在参入している路線に限らず,その他の路線においても大手航空会社と伍して競争し,本格的な事業展開を行っていこうとすることを具体的に計画している。

ウ 今後新規参入を予定している航空会社等の存在
 このほか,平成17 年2月までの間に,現在未配分となっている羽田空港の新規航空会社枠の配分を受け,新規参入を予定している新規航空会社が2社(注)存在している。また,その後も未配分の新規航空会社枠が5便確保されている。
 さらに,羽田発着枠の配分を受けていないものの,国内航空運送分野に新規に参入している新規航空会社も存在する。
 (注)スカイネットアジア航空株式会社,レキオス航空株式会社

4 当委員会の判断

(1) 新規航空会社の事業拡大等により有効な競争が生じる蓋然性の高まり

ア 発着枠の返上・再配分

(ア) 平成17 年2月までの評価
 上記のとおり,既に新規航空会社枠6便の配分を受け,事業活動を行っている新規航空会社は,現状においては6便を超えた羽田発着枠の配分を受けることができない状況にあるところ,かかる新規航空会社の中には,平成17年2月の国土交通省による発着枠配分の見直しまでの間に9便の増便を計画しているところもある。かかる状況の下,当事会社の対応策による羽田発着枠9便の返上及び国土交通省による競争促進枠の創設により,当該増便計画に見合う9便の発着枠が確保されることとなり,当該新規航空会社の事業拡大が可能となる。また,新規航空会社において9便を超える発着枠が必要となった場合には,当事会社は,3 便を上限として更に返上することとしていることから,平成17 年2月までの間における新規航空会社の事業拡大について支障は生じないものと考えられる。
 したがって,平成17 年2月までの間は,特定の路線に限定されるものの,競争が活発に行われるものと考えられる。

(イ) 平成17 年2月の発着枠の抜本的見直し以降の評価
 平成17 年2月以降の発着枠の配分については,国土交通省が既存のすべての発着枠を対象とした抜本的な見直しを行い,新規航空会社が大手航空会社と伍して競争し,事業活動を拡大していくことができるよう,競争促進枠を更に拡充することとしている。
 また,上記のとおり新規航空会社の中には,必要な発着枠が確保されれば大手航空会社と伍して競争し,本格的な事業展開を行っていこうとすることを具体的 に計画しているものが存在していることに加え,下記の空港施設面での対応等が有する効果を踏まえると,このような新規航空会社が,国内航空運送分野において大手航空会社に対して有効な競争を行うことが可能な競争事業者となる蓋然性は高いものと考えられる。

イ 新規航空会社に対する空港施設面での対応に対する評価
 当事会社の対応策及び国土交通省の競争促進策は,当事会社以外の大手航空会社も含め,新規航空会社に対する空港施設面での支援を強化することにより,新規航空会社の事業拡大等を可能・容易にするものであると考えられる。

ウ 航空機整備業務等各種業務受託による新規航空会社への協力に対する評価
 当事会社の対応策及び国土交通省の競争促進策は,当事会社以外の大手航空会社も含め,航空機整備業務等の各種業務受託を積極的に引き受けることとなり,新規航空会社の各種業務委託の引受け先の確保を容易にすることにより,新規航空会社の事業拡大等を可能・容易にするものと考えられる。

(2) 運賃面での措置等

 普通運賃の引下げ及び特定便割引運賃・事前購入割引運賃の設定拡充や,他の大手航空会社の単独路線及び便数優位路線への参入・増便といった当事会社の対応については,本件統合による合理化効果を一般消費者の利益となるよう用いるものとして,一定の評価を行うことができるものと考えられる。

(3) 結論

 以上から,本件統合計画の実施により,国内航空運送分野における競争を実質的に制限することとはならないものと考えられる。
 なお,当委員会は,今後,当事会社が申し出た対応策の履行を確実なものとするため,統合前においても可能なものについては所要の措置を採るよう求めるとともに,対応策の履行状況を監視していく。また,国内航空運送分野の競争状況を十分に把握・監視していくとともに,同分野における競争の促進を図る観点から,国土交通省との間で密接に連絡を取っていくこととする。さらに,必要に応じ,これらの実施状況等について適宜公表することとする。

経営統合に関する対応策について(概要)

平成14 年4 月23 日
日本航空株式会社
株式会社日本エアシステム

 日本航空株式会社(以下「JAL」という)及び株式会社日本エアシステム(以下「JAS」という)は、両社が計画する持株会社設立による事業の統合(以下「本件統合」という)に関し、平成14 年3 月15日付文書「日本航空株式会社及び株式会社日本エアシステムの持株会社設立による事業統合について」において貴委員会よりご指摘のあった問題点につき、下記の通り対応策を提出いたします。

1. 新規参入促進のための競争措置

 JAL及びJASは、統合の効率化により捻出される発着枠、生産施設・設備及び人員等を用いて、新規航空会社の新規参入や事業の継続・拡大のため、次の各項を実施することと致します。

1. 新規航空会社のための発着枠返上

 JAL 及びJAS は、新規航空会社の路線参入拡大を可能とし、国内航空市場における一層の競争の促進を図るため、JALおよびJASの統合に伴い捻出される羽田発着枠の9便分を国土交通省に返上することとします。
 なお、平成17 年2 月の羽田発着枠回収再配分までに、上記9 便分の新規航空会社用発着枠にて不足する事態が生じた場合には、その時点においてJAL及びJASの発着枠のうち更に3便分を上限として、国土交通省に返上することとします。

2. 新規航空会社に対する空港施設面での具体的対応策

 JAL及びJASは空港施設等において新規航空会社に対し、次に示す環境の整備に協力し、競争促進を図ります。

(1) ボーディング・ブリッジ及び固定スポットの提供について

 羽田空港
(1) 西ターミナルビルのJAL・JAS側を使用する新規航空会社が、ボーディング・ブリッジ及び固定スポットの利用を希望する場合、新規航空会社1社分について、現在JAL/JASが使用している割合と同程度の割合(運航便数の約半分、3 便程度)で使用できるよう対応します。
 実施する時期については、平成14 年10 月JAL/JAS経営統合後、新規航空会社が希望する時期からとします。

(2) 東ターミナルビル展開後、JAL及びJASが位置するターミナルビルにおいて、新規航空会社で優先使用または共用の固定スポットの割り当てを受けていない会社がある場合には、西ターミナルビルと同様に、使用環境等を踏まえつつ、当該新規航空会社がJAL及びJASと同程度の割合で固定スポットを使用できるよう対応します。

 その他の空港
 新規航空会社が、羽田空港以外の空港において、ボーディング・ブリッジ及び固定スポットの利用を希望する場合、現在JAL/JASが使用している割合と同程度の割合で使用できるよう対応します。
 実施する時期については、平成14 年10 月JAL/JAS経営統合後、新規航空会社が希望する時期からとします。

(2) チェックイン・カウンター、事務室等の提供について

 羽田空港

(1) 西ターミナルビルのJAL及びJAS側を使用する新規航空会社が、自社カウンター位置の変更を希望する場合には、新規航空会社1 社分のカウンター・スペースを確保できるよう対応します。
 実施する時期については、平成14 年10 月JAL/JAS経営統合後、新規航空会社が希望する時期からとします。

(2) 東ターミナルビル展開後の各社カウンターの具体的配置プラン等は現在未定ですが、JAL及びJASの統合効果により空港施設スペースに余裕が生じます。このため、新規航空会社がカウンター等の施設を展開することが従来に比べ容易になりますが、JAL及びJASとしても可能な限りの協力を行います。

 その他の空港
 羽田空港以外の空港においては、統合により、チェックイン・カウンター、事務室等の施設スペースに余裕ができるため、新規航空会社の要請があれば、その施設提供について積極的に対応します。
 実施する時期については、平成14 年10 月JAL/JAS経営統合後、新規航空会社が希望する時期からとします。

(3) 羽田空港における整備用格納庫の提供

 新規航空会社が、羽田空港において自社で重整備(Cチェック等)を行うための整備用格納庫の確保を希望する場合は、JAL及びJASは現有格納庫について、自社機の整備状況を踏まえつつ新規航空会社が必要とする期間、貸与を行います。
 実施する時期については、平成14 年10 月JAL/JAS経営統合後、新規航空会社が希望する時期からとします。

 注: 新規航空会社が自社整備ではなく重整備の業務委託を希望する場合には、統合会社は、従来と同様に、自社機の整備状況を踏まえつつ格納庫の使用を含む業務受託により対応します。(この場合も、統合による効率化で応需能力の向上が見込まれます)

 また、将来、新規航空会社が独自に専用の整備用格納庫の確保を希望する場合は、JAL及びJASが新たに格納庫を確保する際、新規航空会社の専用使用を前提として建設計画を行うことを了解します。

3. 各種業務受託による新規航空会社への協力

 統合により、JAL及びJASの応需能力が高まることから、新規航空会社が航空運送事業への新規参入や事業の継続・拡大に際し必要となる航空機整備関連業務、運航関連業務やグランドハンドリング等の空港地上業務など各種業務の受託を積極的に行います。

2. 路線網の拡充による競争促進と利便性の向上

 JAL及びJASにおいては、統合後、一部路線での減便調整により捻出される羽田発着枠を活用し、他の大手航空会社単独路線への参入やJAL及びJASの便数劣位路線での増便を順次実施し、一層の競争促進と旅客利便性の向上を図ります。

3. 運賃面での競争措置

1. 普通運賃の引下げ

 JAL及びJASは、今般の統合により重複する施設、人員及び機材等の合理化を推進することが可能となり、運賃競争力を確保できることから、貴委員会より本件統合に対し表明された利用者への不利益のおそれありとの懸念を勘案し、本年10 月よりJAL(日本航空株式会社及び株式会社ジャルエクスプレス)及びJAS(株式会社日本エアシステム)の国内線における普通運賃を現在の水準よりも全路線一律10%引下げることとします。 この普通運賃の引下げは、統合後の合理化効果の実現に対する経営としての決意の意味も含め、急激な経済環境の変化のない限り、今後少なくとも3 年間は値上げをしないこととします。

2. 競争型割引運賃の設定拡充

 統合後は、上記2で述べたように他の大手航空会社単独路線・多便数路線にJAL及びJASが参入・増便することから、競争型割引運賃である特定便割引運賃・事前購入割引運賃が他の大手航空会社との競合路線に広く拡大され、併せて競合路線に比べて相対的に低かった当該路線の割引率が拡大することとなります。

 具体的には以下の通り競争型割引運賃の拡大を行います。

(1) 特定便割引の設定拡大
 「特定便割引運賃」(JAL:特売り、JAS:特便割得)は、利用者数も多く運賃競争の有効な手段と考えられることから、これまで2~4社競合路線の9割程度に設定されていたものを、統合後は、JAL及びJASが新たに参入する路線も含め他の大手航空会社とのすべての競合路線(但し、離島路線、成田路線及び50 席以下の小型機路線を除く)及び現在JAL及びJASのみが競合している路線(すなわち、羽田-女満別線及び羽田-とかち帯広線)の全便に設定し、運賃競争を促進します。また、その割引運賃の運賃水準についても、現在の3 社競合路線に設定されているのと同程度の水準を設定することとします。

(2) 事前購入割引の設定拡大
 「事前購入割引運賃」(JAL:前売り、JAS:3週割得)は、低価格を重視した運賃であり、特定便割引に次ぐ有効な競争手段と考えられることから、これまで2~4社競合路線の内6割弱程度しか設定されていなかった設定を拡大し、他の大手航空会社とのすべての競合路線(但し、離島路線、成田路線及び50 席以下の小型機路線を除く)及び現在JAL及びJASのみが競合している路線(すなわち、羽田-女満別線及び羽田-とかち帯広線)の全便に設定し、価格競争を促進します。

4. その他

 JAL及びJASは、上記対応策の実施状況につき、貴委員会からの照会に応じ、適宜ご報告申し上げるとともに、統合による新しい企業グループの誕生を契機として、あらためて独占禁止法コンプライアンス体制の一層の拡充に努めることと致します。

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