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(平成20年度:事例3)Westinghouse Electric UK社による原子燃料工業(株)の株式取得

(平成20年度:事例3)Westinghouse Electric UK社による原子燃料工業(株)の株式取得

第1 本件の概要

 本件は,原子力発電設備の設計・建設・保守及び原子燃料の製造販売事業を行う事業者であり,株式会社東芝(以下「東芝」という。)の子会社である英国に本社を置くWestinghouse Electric UK社(以下「WH社」という。)が,原子燃料の製造販売事業等を行う原子燃料工業株式会社(以下「原子燃料工業」という。)の株式を取得することを計画したものである。
 関係法条は,独占禁止法第10条である。

第2 一定の取引分野

1 製品概要

(1)原子燃料供給事業
 事例2における第2-1(1)アのとおり,原子力発電設備には,加圧水型原子炉及び沸騰水型原子炉の2種類があり,それぞれの原子炉につき加圧水型用原子燃料,沸騰水型用原子燃料が使用されているところ,当事会社のうち,原子燃料工業は,国内で電力会社向けに加圧水型及び沸騰水型の原子炉に使用する原子燃料を供給する事業を行っている一方,WH社及びその関連会社(以下「WHグループ」という。)は,海外では継続的に加圧水型用原子燃料及び沸騰水型用原子燃料の燃料供給事業を行っているものの,ここ数年日本国内には納入実績がない。
 その他の国内メーカーとしては,事例2のとおり,加圧水型用原子燃料では三菱原子燃料株式会社(以下「三菱原燃」という。)がおり,また,沸騰水型用原子燃料では,WH社の親会社である東芝が,株式会社日立製作所と米国に本社を置くGeneral Electric社とともに設立したGlobal Nuclear Fuel Holding 社(以下「GNF-H」という。)の子会社である株式会社グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン(以下「GNF-J」という。)がある。
 また,海外メーカーであるAREVA社及びGNF-Hの子会社である米国のGlobal Nuclear Fuel Americas社(以下「GNF-A」という。)の燃料も輸入されている(以下「GNF-H」,「GNF-J」,「GNF-A」及び後述する「GNF」を併せて「GNFグループ」という。)。

(2)初装荷燃料と取替燃料
 原子燃料供給には,新規の原子炉に装荷する初装荷燃料としての供給と,既存の燃料の取替分として装荷される取替燃料としての供給の2種類があるところ, 取替燃料は,初装荷燃料以降の燃料交換にあたり納入されるものであり,両者は,基本的に同一の商品である。
 初装荷燃料については,通常,当該原子炉を製造したプラントメーカー又はその系列の燃料メーカーが供給している状況にあるが,これは,初装荷燃料については,原子炉の安全性及び性能保証と密接に結びつくものであるため,原子炉の建設を受注したプラントメーカーが,原子炉の建設から燃料の性能まで併せて責任を持つよう電力会社から求められていることに起因している。
 一方,取替燃料については,当該原子炉を建設したプラントメーカーを介することなく,電力会社から燃料メーカーに対して直接発注を行っており,その発注先は当該原子炉を建設したプラントメーカー又はその系列の燃料メーカーに限られない。

(3)輸入原子燃料導入に係る規制
 海外メーカーが製造した原子燃料を国内のユーザーが導入するに当たっては,認可済みの原子燃料との仕様差により必要に応じて,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)に基づく原子炉設置許可の変更申請並びに電気事業法に基づく工事計画の認可申請及び輸入燃料体検査の各手続を,原子炉ごとに,経済産業省原子力安全・保安院に申請する必要がある。また,原子炉設置許可及び工事計画の認可申請の有無に関わらず,輸入ごとに輸入燃料体検査申請を同院に行う必要がある。これらの手続には4年から7年程度の期間を要する(事例2第2-1(1)イ再掲)。

2 一定の取引分野の画定

 事例2のとおり,加圧水型用原子燃料及び沸騰水型用原子燃料は,需要面及び供給面双方において代替性が認められないことから,加圧水型用原子燃料の製造販売分野及び沸騰水型用原子燃料の製造販売分野のそれぞれについて商品範囲を画定した。
 また,同様に地理的範囲は全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響について

1 加圧水型用原子燃料

 平成19年度における加圧水型用原子燃料の市場規模は約230億円である。
 近年は加圧水型用原子炉の新規運転が行われておらず,取替燃料のみが供給されている。
 WHグループは,国内において,近年は供給実績がなく,本件行為によっても,シェアの増加はない。

2 沸騰水型用原子燃料

(1)市場規模
 平成19年度における沸騰水型用原子燃料の市場規模は約150億円である。
 沸騰水型用原子炉については,平成17年度に2基,平成18年度に1基の原子力発電所が新たに運転を開始しており,平成15年度及び平成16年度に,当該発電所への初装荷燃料の供給が行われている。

(2)市場シェア
 沸騰水型用原子燃料のシェアは,以下のとおりである。

(3)参入
 事例2のとおり,海外の有力な沸騰水型用原子燃料の供給業者であるAREVA社は,国内の加圧水型用原子燃料のメーカーである三菱原燃との間で国内原子 燃料事業に係る統合を行うことから,現状では,AREVA社の国内沸騰水型用原子燃料市場におけるこれまでの納入実績は限られているものの,今後,三菱原燃が沸騰水型用原子燃料市場に参入し,三菱原燃及びAREVA社のグループが,国内の沸騰水型用原子燃料市場におけるシェアを伸ばしていく可能性がある。
 しかしながら,国内で沸騰水型用原子燃料を販売するためには,各電力会社の原子炉ごとに許認可が必要であり,当該許認可の取得には相当程度の期間を要することに鑑みると,三菱原燃及びAREVA社のグループを沸騰水型用原子燃料市場において有力な競争事業者と評価できるようになるためには,相当程度の期間が必要と考えられ,国内の沸騰水型用原子燃料市場における参入圧力としては,現時点では限定的なものにとどまると評価される。

第4 独占禁止法上の評価

1 加圧水型用原子燃料供給事業

 原子燃料工業が国内で営んでいる加圧水型用原子燃料供給事業について,WH社は,近年の納入実績がなく,実質的には国内においては事業を行っていないことから,本件株式取得によるシェアの増加はない。
 ただし,WHグループは,海外においては加圧水型用原子燃料供給事業を継続して行っていることから,国内における加圧水型用原子燃料の製造販売分野において潜在的競争者の立場にはあるところ,

(1)ユーザーである電力会社は,燃料供給の安定性,トラブル発生時の対応の迅速性等の観点から,国内メーカーからの調達を優先しており,海外メーカーによる供給可能枠は限定されていること

(2)海外メーカーが新規参入するためには許認可の取得が必要であるところ,当該許認可の取得には4年から7年程度の期間が必要となり参入障壁が存在することから,潜在的競争者としてのWHグループの競争圧力は相当程度低いものと考えられる。

 したがって,本件株式取得により,加圧水型用原子燃料供給事業の分野における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

2 沸騰水型用原子燃料供給事業

(1)懸念事項
 WHグループは,国内において沸騰水型用原子燃料の納入実績がなく,実質的に事業を行っていないことから,原子燃料工業との関係では潜在的競争者の立場にとどまるものの,WHグループの親会社である東芝が,当該事業を行っているGNF-Jの親会社であるGNF-Hの株式を間接的に22%保有している。そのため,東芝及びWHグループとGNFグループとの間に結合関係が形成されていることとなる場合には,本件においてWHグループが原子燃料工業の株式を所有することを通じて,競争関係にある原子燃料工業とGNFグループとの間にも結合関係が形成されることとなる結果,両者の合算市場シェア・順位は約95%・第1位,HHIは9,050と極めて高くなるところ,新規参入圧力等も認められないことから,単独行動又は協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

(2)欧州委員会との合意
 平成18年の東芝によるWHグループの株式取得の際,東芝は,欧州委員会との間で,

[1] 東芝(子会社を含む。以下同じ。)は,GNFグループからの取締役等すべての役員を引き揚げ,将来にわたって派遣を行わないこと
[2] 東芝は,例外的に認められたものを除き,GNFグループにおける燃料供給事業に係る営業情報等の非公開情報を取得するすべての権利を放棄すること
[3] GNFの合弁契約上,東芝に与えられたGlobal Nuclear Fuel社(GNF-Hの運営を受託している会社。以下「GNF」という。)の経営に関する拒否権を放棄すること

 の3点を内容とし,東芝がGNF及びGNF-Hの持分を保有する限りその効力が存続する旨の合意書を締結することを条件として,欧州委員会から統合を承認された。上記事情を受け,東芝を含むGNFグループの出資者3社は,東芝がGNFグループに対する議決権を放棄すること,GNFグループの非公開情報に対する権利を放棄すること,GNFグループへの役員派遣を行わないこと等を合意している。

(3)結合関係の評価
 上記2(2)のような事情があるものの,初装荷燃料は,原子炉を製造したプラントメーカー系列の燃料メーカーが納入する慣行となっているところ,東芝が建設した原子炉に係る初装荷燃料については,必ずGNF-Jが供給している状況が認められるとともに,東芝によるGNF-Hに対する出資比率が22%を占めていることを勘案すると,東芝がGNFグループの意思決定に対する支配力をまったく行使できないとしても,WH社及びGNFグループ双方の事業の成果に強い利害を有していると考えられることから,東芝及びWHグループとGNFグループとの間において結合関係が形成されていないとは評価できない。

第5 当事会社が申し出た問題解消措置

 本件行為について,沸騰水型用原子燃料の分野における上記競争上の懸念を指摘したところ,東芝は,以下の措置を採ることを申し出た。

 「現在,東芝はGNF-Hに22%の出資を行っているが,これについて,東芝がGNF-Hから得られる経済的利益の比率を,2年以内に15%未満まで引き下げる。
 また,欧州委員会との3点の合意事項について,東芝がGNFグループの株式を直接又は間接に保有する限り遵守する。」

第6 問題解消措置を踏まえた独占禁止法上の評価

 上記第4-2(2)の事情及び東芝が上記第5で申し出た措置が実施された場合には,東芝のGNFグループに対する利害関係は相当程度低下するため,東芝とGNFグループとの間に結合関係が形成されているとは認められず,GNFグループと原子燃料工業は沸騰水型用燃料市場においてそれぞれ独立した競争単位として評価できることから,本件株式取得により,沸騰水型用燃料供給事業の分野における競争が実質的に制限されることとはならないと評価される。

第7 結論

 以上の状況から,東芝が申し出た措置が確実に実施された場合には,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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