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(平成16年度:事例7)山之内製薬株式会社と藤沢薬品工業株式会社の合併について

(平成16年度:事例7)山之内製薬株式会社と藤沢薬品工業株式会社の合併について

第1 本件の概要

 本件は,山之内製薬株式会社(以下「山之内」という。)と藤沢薬品工業株式会社(以下「藤沢」という。)が,平成17年4月に合併し,医療用医薬品の製造・販売を行うアステラス製薬株式会社を設立するものである。
 本件の関係法条は,独占禁止法第15条である。

第2 製品の概要

 医療用医薬品は,医療機関において医師が治療に使用又は処方する医薬品であり,医薬品卸売業者を通じて,医療機関・保険薬局(以下「医療機関等」という。)に販売されている。また,保険医療において使用された際に保険者から医療機関等に償還される「薬価」は,医薬品卸売業者の医療機関等への納入価格の上限価格として機能しており,納入価格の低下を反映して引下げ改訂が続いている。

第3 独占禁止法上の考え方

1 一定の取引分野

(1) 医療用医薬品の分類

 本件の一定の取引分野については,需要者である医療機関等からみて医療用医薬品の機能・効用が同種であるかどうかによることから,本件合併の審査では,医療用医薬品をその主成分の主な薬効により分類している「ATCコード」(「Anatomical Therapeutic Chemical Classification」の略称であり,世界的な分類コード。)のうち,医療用医薬品の効果・効能がある程度特定できるレベル3(レベルは1から4まであり,4に近づくほど分類が細分化される。)によって区分された医療用医薬品ごとに市場をみることとした。
 ただし,ATCコードのレベル3による分類では効果・効能が異なる医療用医薬品が包含される等の理由により,競争への影響を判断するためには細分類した市場をみる必要がある場合には,レベル4(レベル4では個別の医薬品に近い分類になる。具体例は下表。)の細分類で検討するのが適当と考えられる。

○  ATCコードの具体例

ATCコード 名称
レベル1 J 一般的全身性抗感染剤
レベル2 J07 ワクチン類(トキソイドを含む)
レベル3 J07A 単一ワクチン類
レベル4 J07A1 流行性感冒(インフルエンザ)ワクチン

(2) 当事会社間の競合製品及び検討を要する製品について

 当事会社間で競合するATCコードのレベル3の製品のそれぞれについて,一定の取引分野が成立するが,このうち,合併後の市場シェアが10%未満で本件合併が直ちに競争を実質的に制限することとはならないと考えられるもの及び合併後の順位が4位以下で競争に与える影響が軽微であると考えられるものを除く,(1)かいよう治療剤,(2)繊維素溶解剤,(3)強心配糖体及びその配合剤,(4)セファロスポリン系製剤,(5)単一ワクチン類(インフルエンザワクチン),(6)混合ワクチン類,(7)抗精神病薬,(8)眼科用抗アレルギー剤の8品目について検討した。
 ただし,単一ワクチン類については,対象となる病気(インフルエンザ,日本脳炎等)によって接種するワクチンがそれぞれ異なって同種の製品とは認められないことから,レベル4の分類で当事会社間の競争状況をみることとし,その結果,インフルエンザワクチンが当事会社の単一ワクチン類の大部分を占め,かつ,シェアの増加が大きいことから,単一ワクチン類については,インフルエンザワクチンについて検討することとした。

2 市場の状況

 前記8品目の市場規模,本件合併による当事会社の合算シェア,HHI等については,下表のとおりとなる。

<(1) かいよう治療剤>
 市場規模:約3,600億円

順位 会社名 シェア
1 山之内 約25%
10位以下 藤沢 0~5%
(1) 当事会社合算 約25%
HHI約1,000 HHI増100未満

<(2) 繊維素溶解剤>
 市場規模:約40億円

順位 会社名 シェア
2 山之内 約20%
5 藤沢 約5%
(2) 当事会社合算 約25%
HHI約2,400  HHI増約200

<(3) 強心配糖体及びその配合剤>
 市場規模:約30億円

順位 会社名 シェア
2 山之内 約45%
4 藤沢 0~5%
(1) 当事会社合算 約45%
HHI約4,300 HHI増約250

<(4) セファロスポリン系製剤>
 市場規模:約2,220億円

順位 会社名 シェア
2 藤沢 約20%
10位以下 山之内 0~5%
(2) 当事会社合算 約20%
HHI約2,000 HHI増100未満

<(5) インフルエンザワクチン>
 市場規模:約280億円

順位 会社名 シェア
2 藤沢 約25%
4 山之内 約15%
(1) 当事会社合算 約40%
HHI約3,400 HHI増約700

<(6) 混合ワクチン類>
 市場規模:約60億円

順位 会社名 シェア
2 藤沢 約30%
8 山之内 0~5%
(2) 当事会社合算 約30%
HHI約3,000 HHI増100未満

<(7) 抗精神病薬>
 市場規模:約860億円

順位 会社名 シェア
2 藤沢 約25%
10位以下 山之内 0~5%
(1) 当事会社合算 約25%
HHI約2,700 HHI増100未満

<(8) 眼科用抗アレルギー剤>
 市場規模:約200億円

順位 会社名 シェア
3 藤沢 約20%
10位以下 山之内 0~5%
(3) 当事会社合算 約20%
HHI約1,900 HHI増100未満

 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会において作成)

3 考慮事項

(1) 単独行動による競争の実質的制限について

ア 有力な競争業者の存在
 8品目は,いずれも市場構造が寡占的((1)かいよう治療剤を除く7品目は市場構造が高度に寡占的)な市場であるが,8品目のうち(1)かいよう治療剤,(4)セファロスポリン系製剤,(6)混合ワクチン類,(7)抗精神病薬,(8)眼科用抗アレルギー剤の5品目は,HHI増加分が100未満で市場シェアの増加分は僅少であり,いずれも10%以上のシェアを有する競合メーカーが存在する。
 また,(2)繊維素溶解剤,(3)強心配糖体及びその配合剤,(5)インフルエンザワクチンの3品目は,HHI増加分が100以上あるが,(2)繊維素溶解剤,(3)強心配糖体及びその配合剤でのシェアの増加は少なく,また,シェア10%以上の有力な競合メーカーが(2)繊維素溶解剤で2社,(3)強心配糖体及びその配合剤で1社,(5)インフルエンザワクチンでは2社が存在する。

イ 競争業者の供給余力
 医療用医薬品について,競合他社においては,数多くの製造受託企業を利用した増産が可能な状況にあることから,当事会社グループの単独の値上げを牽制する供給余力は十分にあると考えられる。しかし,(5)インフルエンザワクチンについては,十分な供給が得られるよう計画的に生産されているが,生産に時間を要し,需要期の約6ヶ月前には生産を開始するため,計画を上回る需要が生じた場合に増産が困難な状況にある。

ウ 隣接市場からの競争圧力
 (2)繊維素溶解剤の市場規模は,類似の薬効を持っている医薬品の影響や繊維素溶解剤が用いられてきた血栓に対する治療法の変化により大きく減少し,価格も低下している。

エ 川下市場からの競争圧力
 医療用医薬品については,医薬品卸売業者と医療機関等との取引では,安価な調達のための様々な取組がなされ,医療機関等に対する医薬品卸売業者の販売競争が活発に行われており,医療機関等への納入価格の低下がみられる。
 特に,(5)インフルエンザワクチンは,製品寿命が1シーズンしかなく,接種時期を過ぎると売れなくなる商品であり,このような限られた需要期の中で,より多くのインフルエンザワクチンを販売するためには,早めに医療機関に発注を出してもらわなければならないので,医療機関への売り込み競争が活発に行われている状況にある。

(2) 協調的行動による競争の実質的制限について

ア 当事会社グループの地位及び競争業者の状況
 8品目のうち(1)かいよう治療剤を除きいずれも,HHIが1,800を超える高度な寡占市場となっている。一方,競争業者数は,(5)インフルエンザワクチンで合併により主な販売会社が4から3に減少することを除けば,競争業者数は多く,協調的行動が行われにくい状況にある。

イ 新規参入等によるメーカー間の活発な競争
 製薬メーカー各社が,競って新薬を市場に投入することによって,メーカー間のシェアは大きく変動しており,特に8品目のうち(7)抗精神病薬,(8)眼科用抗アレルギー剤については,直近5年間に新規で投入された医薬品が,各市場において大きなシェアを占めることとなり,活発な競争が行われている。また,(1)かいよう治療剤については,治療法の変化により異なる特性の医薬品間の競争が活発に行われている。

ウ 隣接市場からの競争圧力
 (2)繊維素溶解剤は,類似の薬効を持っている医薬品の影響や血栓に対する治療法の変化により大きく需要が減少しており,また,(4)セファロスポリン系製剤については,近年,セファロスポリン系製剤に対する耐性菌の出現により使用が敬遠され,他の抗生物質へ需要が移っている。

エ 川下市場からの競争圧力
 前記(1)エに同じ。

第4 独占禁止法上の評価

1 単独行動による競争の実質的制限についての検討

 前記第3の3(1)から,8品目のうち,(5)インフルエンザワクチンを除く7品目については,合併後に当事会社が仮に単独で価格を引き上げようとする場合には,医療機関等は取引先を他に変更することが容易であり,また,8品目のすべてについて,隣接市場又は川下市場からの競争圧力が認められ,特に(5)インフルエンザワクチンについては,前記第3の3(1)エのとおり,医療機関への売り込み競争が活発に行われていることから,本件合併により,当事会社が単独で価格等を自由に左右できることとはならないと考えられる。

2 協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 前記第3の3(2)から,8品目のうち,(1)かいよう治療剤を除く7品目については,いずれも高度な寡占市場であるものの,(5)インフルエンザワクチンで主な販売会社が4から3に減少することを除けば競争業者数は多数存在し,また,8品目すべてについて,新規参入による活発な競争又は隣接市場若しくは川下市場からの競争圧力が認められることから,本件合併により,当事会社が競争業者と協調して価格等を自由に左右できることとはならないと考えられる。

第5 結論

 以上の状況から,当事会社の提出資料等を前提とすれば,本件合併により,前記第3の1で画定した一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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