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(平成13年度:事例5) ポリプロピレン事業の統合

(平成13年度:事例5) ポリプロピレン事業の統合

1 本件各統合の概要

(1) 日本ポリケム(株)及びチッソ(株)の事業統合

 日本ポリケム(株)(以下「日本ポリケム」という。)及びチッソ(株)(以下「チッソ」という。)は,国際競争に対処するため,生産,物流,研究開発及び販売におけるコストを削減すること等を目的として,共同出資会社の設立により,両社のポリプロピレン(以下「PP」という。)事業を統合するものである。

(2) 三井化学(株)及び住友化学工業(株)の事業統合

 三井化学(株)(以下「三井化学」という。)及び住友化学工業(株)(以下「住友化学」という。)は,国際競争に対処するため,生産,物流,研究開発及び販売におけるコストを削減すること等を目的として,共同出資会社への営業譲渡により,両社のPP事業を統合するものである。

2 独占禁止法上の考え方

(1) 一定の取引分野

 本件においては,PPの製造・販売分野に一定の取引分野が成立するものと考えられる。

(2) 競争への影響

 本件の各統合により,日本ポリケム及びチッソを当事会社とする統合後の合算販売数量シェアは,約35%(第1位),また,三井化学及び住友化学を当事会社とする統合後の合算販売数量シェアは,約30%(第2位)となり,上位3社の累積集中度が約85%となる。

イ 輸入圧力の限定性
 汎用品の輸入は増加傾向にあるものの,下記ウのとおり,国内メーカーが汎用性に乏しい多くのグレード(銘柄)を供給していることが,汎用品中心で供給グレード数の少ない輸入品が我が国市場に浸透することを困難なものとしている要因の一つとなっている。また,厳しい品質基準が要求される用途や安全性が求められる用途については,現状では,輸入品の使用は限定的である。
 なお,輸入品の使用が限定的な上記用途についても,輸入品の品質向上やユーザー側のより低廉な価格による調達を重視する方針の強まりなどから,一部に輸入品を採用したり,今後,その採用について検討しようとする動きがみられる。また,平成16年に向けてPPの関税が段階的に引き下げられている。

ウ 汎用性に乏しいグレード数の多さとそれに起因する取引関係の固定性
 国内メーカーは,ユーザーごとに,その要求にきめ細かく対応し,汎用性に乏しい多くのグレードを供給することにより,取引先ユーザーを確保している側面がある。この結果,国内メーカーとユーザーとの取引関係の変更は必ずしも容易でない状況が認められる。
 なお,ユーザー側において,今後は,使用グレード数を削減することにより汎用性を高め,複数メーカーが供給可能な代替グレードを確保した上で,同一グレードの大量購入による原材料調達コストの削減を図ろうとする動きがみられる。

エ PP分野におけるメーカーの協調的行動
 PP分野におけるメーカーの価格改定行動について,これまでの状況をみると,協調的な行動がみられる。

(3) 問題点の指摘及び当事会社の対応策

 当委員会は,上記の状況を踏まえた場合,PPの製造・販売分野について,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある旨を当事会社に対し指摘した。

 当委員会の指摘に対し,各当事会社から,以下のような対応策を採る旨の申出があった。
(ア) 日本ポリケム及びチッソ

(1) 少量販売グレードの統廃合等により,PPのグレード数を,平成17年末までに,現状の約4割まで削減する。

(2) 統合新会社においては,業界団体の会合等に出席する場合は,コンプライアンス部署に事前届出及び事後報告することを義務化すること等,独占禁止法遵守体制を更に徹底する。
(イ) 三井化学及び住友化学

(1) 少量販売グレードの統廃合等により,PPのグレード数を,平成17年末までに,現状の約5割まで削減する。

(2) 統合新会社においては,業界団体への営業部門者の出席を一律禁止するとともに,その他の場合でも,事前の面談伺い及び事後報告制度を導入して,同業他社との接触を合理的必要性が認められる場合に限ること等,独占禁止法遵守体制を更に徹底する。

(4) 当委員会の判断

ア 取引固定性の改善

 各当事会社が申し出たPPのグレード数の削減計画は,これまでユーザーの要求にきめ細かく対応し供給されてきた汎用性に乏しい少量販売グレードの統廃合等により実施されるものであり,各当事会社が供給するグレードの汎用性を高めることに資するものであると考えられるところ,ユーザー側における原材料調達コスト削減の観点からの使用グレード数削減による代替グレード確保などの動きとも相まって,ユーザーによる取引先メーカー変更の可能性を増大させるものであると評価できる。

イ 輸入増大の蓋然性の高まり

 汎用品の輸入は従来から増加傾向にあったところ,各当事会社が申し出たPPのグレード数の削減計画は,上記のとおり,各当事会社が供給するグレードの汎用性を高めることに資するものであると考えられ,汎用品中心で供給グレード数が少ない輸入品の我が国市場への浸透をより容易とするものであると評価できる。
 また,これまで,厳しい品質基準や安全性が求められ,輸入品の使用が限定的であった用途についても,輸入品の品質向上やユーザー側における原材料調達コスト削減の必要性の高まりから輸入品を採用していこうとする動きがみられる。
 さらに,上記のとおり,PPの関税は,平成16年に向けて段階的に引き下げられているところ,PPの輸入が増大する蓋然性は高い。

ウ 独占禁止法コンプライアンス体制の徹底

 各当事会社が申し出たコンプライアンス体制の徹底は,競争事業者との接触を,事前届出・事後報告という厳格な社内手続の下に置くなど,これが厳正に実施された場合には,本件統合により,PP業界における協調的行為が行われやすくなるのではないかという懸念を払拭するための措置として評価できる。

エ 総合的判断

 以上から,各当事会社から申出のあった対応策が着実に実行されれば,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないものと考えられる。

3 今後の対応

 今後,当委員会は,PPの市場の競争状況を含め,各当事会社が申し出た対応策の履行状況を十分に把握していくとともに,独占禁止法に違反すると認められる行為がある場合には,これに対して厳正に対処していくこととする。

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