1 化学品メーカーの卸売業者に対する仕切価格の差の設定

 化学品メーカーが,他メーカーと競合する製品について,購入実績の多い卸売業者に対する仕切価格を引き下げることについて,独占禁止法上問題ないと回答した事例。

1 相談者

 A社(化学品メーカー)

2 相談の要旨

(1) A社は,化学品の甲製品市場で有力なメーカーであるが,他にも有力なメーカーが複数存在する。

(2) 甲製品は,メーカーから卸売業者を通じてユーザーに販売されるが,昨今,ユーザーからの値引要請が強まっている。A社製の甲製品についても,取引先卸売業者は,ある程度はユーザーからの値引要請に応じざるを得ないが,A社の現在の仕切価格(卸売業者への販売価格)のままでは値引要請に対応し得なくなってきている。
 A社では,これまで仕切価格を一本とし,事後値引きは一切行わないこととしてきたが,このような状況であることから,平成12年4月以降は,他メーカーと競合する一部の甲製品について,品目ごとに仕切価格の修正(品目により一律に1~3%引き)を行うこととしている。仕切価格の修正の対象となる卸売業者は,当該卸売業者における甲製品のメーカー別購入額順位の上位10位以内にA社が入る者としたいが,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

 A社は,他メーカーと競合する甲製品について,卸売業者の自社からの購入実績により,仕切価格を修正しようとするものであることから,本件は,差別対価の観点から検討する。

(1) 事業者が自己の商品又は役務の価格をどのように設定するかは,本来事業者の自由であり,取引先によって価格差が存在すること自体は,直ちに違法となるものではない。
 しかし,競争の反映ないし結果とは認められない価格差によって,自己の競争者の事業活動を困難にさせ,又は取引の相手方を競争上著しく有利又は不利にさせるおそれがある場合や,廉売の防止等独占禁止法上違法又は不当な目的を達成するための手段として用いられる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる。[独占禁止法第19条(一般指定第3項 差別対価)]

(2) 相談の場合において,A社の仕切価格の修正がA社の競争者や卸売業者に与える影響をみると,(1)甲製品市場には,A社のほかにも複数の有力なメーカーが存在すること,(2)仕切価格の修正は,品目により一律1~3%引きにとどまり,累進的なものではないこと,(3)仕切価格修正の基準は,A社製甲製品の購入額が上位10位以内に入ればよいというのみであることから,本件の仕切価格の修正がA社の競争者や卸売業者に与える影響は小さいと考えられ,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと考えられる。
 ただし,本件の仕切価格の修正が,A社による卸売業者のユーザーへの納入価格への関与をもたらし,納入価格の拘束の手段として用いられる場合は,独占禁止法上問題となる。

4 回答の要旨

 A社が,自社製甲製品の購入実績に応じて卸売業者への仕切価格を引き下げることは,独占禁止法上問題ない。

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