3 シニア住宅と介護専用型有料老人ホームのセット販売

 シニア住宅入居契約者に対し,介護専用型有料老人ホームへの入居予約を義務付けることは,独占禁止法上問題ないと回答した事例。

1 相談者

 A社(老人ホーム運営)

2 相談の要旨

(1) A社は,介護専用型有料老人ホームの運営・管理,在宅介護サービスの提供等を行う事業者である。

(2) シニア住宅は,国土交通省及び厚生労働省所管の財団が定めた老人向けに配慮した居住基準に適合した住宅であり,老人ホームに比して建設の際に容積率等についての優遇措置が定められている。
 シニア住宅は,一般的に有料老人ホームと同様に居室及び共用スペース並びに医療等のサービスを終身受けることができる利用権販売(以下「販売」という。)という形で提供され,死亡によりその権利は消滅し,相続・譲渡はできない。

(3) A社は,シニア住宅契約者の95%は介護専用型有料老人ホームの予約契約を行うとの予測から,シニア住宅甲に介護専用型有料老人ホーム乙を併設し,シニア住宅甲の入居契約に当たっては,入居契約者に対して,併設の介護専用型有料老人ホーム乙への移行入居契約を義務付けている。これは,当該入居契約者が心身状態について,介護施設における介護が必要と判断された場合には,シニア住宅甲の入居契約は終了し,介護専用型有料老人ホーム乙への入居を義務付けるものである。

(4) シニア住宅甲は,総戸数130戸強で販売価格は3000万円台ないし9000万円台で,これには,介護専用型有料老人ホーム乙の予約金500万円が含まれる。販売価格は,16年間の在室を基本としており,16年以内に退去した場合は残額を払い戻すことになっているが,16年以上在室しても追加金の支払いはない。

(5) 介護専用型有料老人ホーム乙の販売価格は2500万円であり,これ以外に管理費等が必要である。部屋数は約100室(すべて個室)であり,このうち十数室をシニア住宅甲の利用者分としている。入居者がシニア住宅甲から乙へ移った場合は,乙の購入代金2500万円は不要である。
 このようなシニア住宅の販売は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

 A社は,シニア住宅の入居契約に併せて,介護専用型有料老人ホームへの移行入居契約を義務付けることから,本件は,抱き合わせ販売の観点から検討する。

(1) 商品又は役務の供給者が,取引の相手方に対し,ある商品又は役務(主たる商品等)の供給に併せて他の商品又は役務(従たる商品等)を自己又は自己の指定する事業者から購入させる行為は,主たる商品等の市場における有力な事業者が行い,従たる商品等の市場における自由な競争を減殺するおそれがある場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる。[独占禁止法19条(一般指定第10項抱き合わせ販売等)]

(2)
ア 相談の場合において,A社がシニア住宅甲の入居契約者に対して,併設の介護専用型有料老人ホーム乙への移行入居契約を義務付けるものであるところ,このような契約が抱き合わせ販売に該当するためには,シニア住宅の入居と介護専用型有料老人ホームへの移行入居が別個の商品といえる必要がある。

イ A社の予測は,シニア住宅の契約希望者はシニア住宅への入居のみを望んでいるというよりは,要介護状態になったときには介護専用型有料老人ホームでの介護が得られることも含めて,シニア住宅の入居契約を行うというものである。したがって,現時点においては,シニア住宅と介護専用型有料老人ホームとは,一体として単一の商品であるといえ,抱き合わせ販売に該当するものではないと考えられる。

ウ ただし,介護保険制度は始まったばかりであり,今後,A社のようなビジネスや介護の在り方がどのように発展・変化していくか必ずしも明らかではない。例えば,在宅介護が充実していけば,今後シニア住宅及び介護専用型有料老人ホームに対する顧客ニーズ及び市場の変化によっては,必ずしも単一の商品とはいえなくなる場合もある。その場合において,A社がシニア住宅における有力な事業者となり,本件の販売方法により,介護専用型有料老人ホーム市場における自由な競争が減殺される場合には,独占禁止法上問題となる。

4 回答の要旨

 本件のシニア住宅と介護専用型有料老人ホームとは,現時点においては別個の商品とは考えられないことから,本件は抱き合わせ販売には該当せず,独占禁止法上問題ない。
 ただし,今後の市場動向の変化等によっては,シニア住宅及び介護専用型有料老人ホームが別個の市場として成立し,その結果,本件のような販売方法が抱き合わせ販売として独占禁止法上問題となる場合もある。

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