9 事業者団体によるガイドライン例の作成及び提示

 食品の原材料の生産者で組織する農業協同組合で構成される社団法人が,農業協同組合に対し,生産管理等を記録していない生産者からの販売委託を拒否することができるガイドライン例を作成して提示すること及び農業協同組合がガイドライン例の内容と同内容のガイドラインを作成し,生産管理等を記録していない生産者からの販売委託を拒否することは,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者 X社団法人(食品の原材料の生産者で組織する農業協同組合で構成される団体)

2 相談の要旨

(1) X社団法人は,食品Aの原材料aの生産者で組織する農業協同組合(以下「単位農協」という。)で構成された全国団体である。

(2) 原材料aは全国各地で生産されているものであり,単位農協は,県単位,市単位など地域ごとに設立されている。

(3) 単位農協は,原材料aの生産者から原材料aの販売に係る委託を受けて,食品Aのメーカーに対して,原材料aを販売している。

(4) 単位農協は,原材料aの受託販売を行うに当たっての受託規程を定めている。

(5) 受託規程では,「生産管理等の記録が講じられない場合又は改善されない場合は,原材料の販売委託を受けないものとする」旨の規定があるが,具体的にどのような場合に販売委託を拒否できるのかについて明確な記載がないため,これまで単位農協は,当該規定を根拠に生産者からの販売委託を拒否したことはない。

(6) 近年の食に対する消費者の安全意識の高まりを受け,X社団法人は,食品Aのメーカーから,生産設備の洗浄,温度管理等といった安全性に係る記録事項(以下「必須事項」という。)の記録を徹底するよう要請されている。また,単位農協の生産者のうち,必須事項を記録している者からは,単位農協が必須事項を記録していない生産者からの販売委託を受けていることに対して不満が出てきている。

(7) そこで,X社団法人は,原材料aの生産者による必須事項の記録の徹底を図るため,次の内容のガイドライン例を作成し,単位農協に提示することを検討している。
ア 必須事項を記録していない生産者に対して記録するよう注意する。
イ アの1か月後に再度チェックし,それでも記録していない生産者に対しては文書により警告する。
ウ 警告した生産者については翌年度最初の受託時に再度記録の有無を確認し,記録が行われていない場合は原材料aの販売委託を拒否する。
エ ウ以降,記録していない生産者が記録を行うようになれば直ちに受託を再開する。
 なお,必須事項の内容は,現在,原材料aの生産者の9割以上が記録しているものであり,かつ,必須事項の記録は原材料aの生産者にとって過度の負担になるものではない。

(8) X社団法人は単位農協に対して指示,命令等する権限を有しておらず,X社団法人が単位農協に提示するガイドライン例は,あくまでも受託を拒否する際の手続を例示したものであり,実際にガイドラインを作成するか否か,作成する場合,内容をどのようなものにするかは単位農協の判断に委ねることとする。

 ○ 本件の概要図

 このようなX社の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 本件は,X社団法人が,原材料aの生産者による生産管理等の記録を徹底させるため,自らの構成員であって原材料aの受託販売を行う単位農協に対し,必須事項が未記録であった生産者からの委託を拒否することができるガイドライン例を作成,提示するものであることから
ア X社団法人が単位農協の機能又は活動を不当に制限するものか(独占禁止法第8条第4号)
イ 単位農協が,仮にガイドライン例の規定内容と同内容のガイドラインを作成し,必須事項を記録していない生産者の委託を拒否した場合,この行為がその他の取引拒絶に該当するか(不公正な取引方法第2項,独占禁止法第19条)
 の観点から検討する。

(2) X社団法人が単位農協に対し,ガイドライン例を作成,提示することは
ア X社団法人は単位農協に対して指示,命令等する権限を有していないこと
イ ガイドライン例は,委託を拒否する際の手続のモデルであって,その内容も後記(3)のとおり合理的なものであり,ガイドラインを作成するか否か,内容をどのようなものにするかは,単位農協の判断に委ねるとしていること
 から,単位農協の機能又は活動を不当に制限するものとはならず,独占禁止法上問題となるものではない。

(3) 単位農協が,仮にガイドライン例の規定内容と同内容のガイドラインを作成し,必須事項を記録していない生産者の委託を拒否することは,食品の安全性を担保し,販売先や消費者の信頼を確保するために行うものであって正当な目的を有するものであり,また,生産設備の洗浄,温度管理等といった必須事項の記録は当該目的を達成するために合理的な理由が認められる必要最小限のものであることから,不公正な取引方法に該当するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X社団法人が,単位農協に対し,生産管理等を記録していない生産者からの販売委託を拒否することができるガイドライン例を作成して提示すること及び単位農協がガイドライン例の内容と同内容のガイドラインを作成し,生産管理等を記録していない生産者からの販売委託を拒否することは,独占禁止法上問題となるものではない。

ページトップへ