10 一般電気事業者による電気料金引上げ

 一般電気事業者が,自由化分野の需要家に対し,消費税の円滑かつ適正な転嫁のため,消費税率引上げ相当額の電気料金を引き上げることとし,同意が得られない需要家に対しても,包括的な変更条項を根拠に,一斉に,契約期間満了前に電気料金引上げを実施することについて,需要家に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるものではなく,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社(一般電気事業者)

2 相談の要旨

(1)電力市場の小売分野においては,現在,[1]一般電気事業者(注1)による地域独占が認められている規制分野(小口供給)と[2]一般電気事業者だけでなく特定規模電気事業者(注2)による電力供給も認められている自由化分野(大口供給)が併存している。

  (注1)一般電気事業者とは,一般の需要(自由化分野の需要を除いた,家庭用等の電力の需要のことをいう。)に応じ電気を供給する事業を営むことについて経済産業大臣の許可を受けた者をいう。
  (注2)特定規模電気事業者とは,自由化分野の需要家の需要に応じ電気を供給する事業を営むことについて経済産業大臣に届出をした者をいう。

(2)一般電気事業者であるX社は,自社の供給区域内における自由化分野の需要家向け電力供給量のほとんどを占めている。一方,特定規模電気事業者の電力供給の余力は非常に小さい。

(3)平成24年8月の税制抜本改革法により消費税法が改正され,平成26年4月1日及び平成27年10月1日に消費税率を引き上げることとされた(注3)。
 また,消費税は転嫁を通じて最終的に消費者が負担することが予定されている税であるところ,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため,平成25年6月に消費税転嫁対策特別措置法が制定され,同年10月から施行されている。
  (注3)消費税率引上げについては,税制抜本改革法(附則第18条第3項)に則り,経済状況等を総合的に勘案して判断することとしている。

(4)X社は,消費税率引上げに際し,税率引上げの相当額について,規制分野と自由化分野における電気料金をそれぞれ引き上げることとしている。
 なお,規制分野における電気料金引上げについては,電気事業法の規定に基づき,経済産業大臣に認可申請を行い,国の審査の上,認可を受ける必要がある。

(5)X社は,自由化分野における電気料金引上げについて,
  [1] 消費税の性格を踏まえれば,各需要家の間において電気料金引上げ時期が異なることは不適当であること
  [2] X社と需要家の間で締結している電気供給約款に,X社が電気料金その他の供給条件を変更することができる旨の変更条項があること
  [3] 電気料金引上げの幅については,消費税率引上げ相当額のみであること
を理由として,電気供給約款に記載されている電気料金を変更することにより,電気需給契約の契約期間が満了していない需要家を含め,需要家の同意が得られない場合についても,一斉に,将来の特定日以降の使用に係る電気料金の引上げを行うことを検討している。
 なお,X社は,将来の特定日までの間に,各需要家に対し,電気料金引上げの理由,内容等について,複数回にわたり,書面,電話,訪問等による丁寧な説明を行うこととしている。

  • 本件の概要図

 このようなX社の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1)取引上の地位が優越している事業者が,一方的に,取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施する場合に,当該取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは,優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号ハ,優越的地位濫用ガイドライン第4-3(5))に該当し,不公正な取引方法として独占禁止法上問題となる(同法第19条)。

(2)特定規模電気事業者の供給余力等を考慮すれば,X社の供給区域内における需要家がX社以外に取引先を変更できる余地はほとんどなく,需要家にとってX社との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,X社が需要家にとって著しく不利益な取引条件の提示等を行っても,需要家がこれを受け入れざるを得ない状況にあることから,X社は,供給区域内の需要家に対し,取引上の地位が優越していると考えられる。

(3)本件は,供給区域内の需要家に対して優越した地位にあるX社が,電気供給約款を変更することにより,消費税率引上げに際し,一斉に,契約締結時に定めた電気料金を契約期間満了前に引き上げるものであるが,
  [1] 消費税は転嫁を通じて最終的に消費者が負担することが予定されている税であり,電気料金についても消費税率引上げ相当額が需要家に転嫁されることが予定されているものであること
  [2] X社の電気料金引上げは,消費税率引上げに伴うものであり,電気料金引上げの幅についても,消費税率引上げ相当額にとどまること
などを踏まえれば,需要家に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるものではなく,優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X社が,自由化分野の需要家に対し,消費税の円滑かつ適正な転嫁のため,消費税率引上げ相当額の電気料金を引き上げることとし,同意が得られない需要家に対しても,包括的な変更条項を根拠に,一斉に,契約期間満了前に電気料金引上げを実施することは,需要家に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

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