4 共同研究開発の成果等の競争者への供与の制限

 機械を利用するサービス事業者及びその機械のメーカーが,共同研究開発を実施するに当たり,その成果を利用した機械の競争者への販売を制限することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社(サービス事業者)及びP社(機械メーカー)

2 相談の要旨

(1)X社は,機械Aを用いてサービスαを提供する事業者である。我が国のサービスαの提供市場におけるX社のシェアは約15パーセント(第2位)である。X社の競争者として,シェア約20パーセント(第1位)を有するY社のほか,シェア5パーセント以下の事業者が複数存在する。
 P社は,機械Aのメーカーである。我が国の機械Aの製造販売市場におけるP社のシェアは約40パーセント(第1位)である。P社の競争者として,シェア約30パーセント(第2位)を有するQ社が存在する。
 なお,Y社は,Q社の親会社であり,専らQ社から機械Aを仕入れている。

(2)X社及びP社は,機械Aの改良を目的とする共同研究開発を実施することとしている。当該共同研究開発は,機械Aの基本構造は変えずにX社の希望する仕様を実現する部品を機械Aに取り付けるためのものである。これによりサービスαの一部で質が向上し,競争者との差別化が期待できるが,革新的とまでいえるものではない。

(3)X社は,サービスαの提供市場の競争におけるY社のサービスとの差別化及びQ社へのノウハウの流出防止の観点から,P社との間で共同研究開発の成果を利用した機械A(以下「機械A’」という。)を,Y社に対して販売しない旨取り決めることを検討している(Y社以外のサービス事業者に対しては販売できる。)。

  • 本件の概要図

 このようなX社及びP社の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1)共同研究開発の成果である技術を利用した製品の販売先を制限することは,成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に,合理的な期間に限って,成果に基づく製品の販売先について,他の参加者又はその指定する事業者に制限する場合を除き,不公正な取引方法(一般指定第11項〔排他条件付取引〕又は第12項〔拘束条件付取引〕)に該当するおそれがある。なお,例えば,取引関係にある事業者間で行う製品の改良又は代替品の開発のための共同研究開発については,市場における有力な事業者によってこのような制限が課されることにより,競争者の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には,公正な競争が阻害されるおそれがあるものと考えられる(共同研究開発ガイドライン第2-2(3)イ)。
 「市場における有力な事業者」と認められるかどうかについては,当該市場におけるシェアが20パーセントを超えることが一応の目安となる。市場におけるシェアが20パーセント以下である事業者や新規参入者が行う場合には,通常,競争者の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易に見いだすことが困難となるおそれはなく,違法とはならない(流通・取引慣行ガイドライン第1部第4-2(注7)〔取引先事業者に対する自己の競争者との取引の制限〕)。

(2)本件は,X社が,P社に対し,共同研究開発の成果を利用した機械A’のY社への販売を制限するものであるが,
 [1] 本件の共同研究開発は,取引関係にある(競争関係にない)X社及びP社の間で機械Aを改良した代替品を開発するものであって,X社の競争者は,機械A’の供給を受けなくともサービスαの提供が可能であること
 [2] サービスαの提供市場におけるシェアが約15パーセント(20パーセント以下)であるX社によって行われるものであること
から,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X社及びP社が,共同研究開発の実施に当たり,機械A’の競争者への販売を制限することは,独占禁止法上問題となるものではない。

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