ホーム >独占禁止法 >相談事例集 >流通・取引慣行に関するもの >不当廉売 >

1 重大事故を防止することを目的として行われる原価割れ販売

1 重大事故を防止することを目的として行われる原価割れ販売

[不当廉売]

 一般ガス(いわゆる都市ガス)の供給業者が,一酸化炭素中毒による重大事故を防止する観点から,不完全燃焼防止装置が装備されていないガス機器を使用する者に対し,不完全燃焼防止装置付きのガス機器への買替え需要を喚起するために,供給に要する費用を下回る価格で不完全燃焼防止装置付きのガス機器を販売することは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社(一般ガスの供給業者(以下「ガス事業者」という。)であり,ガス機器Aの製造・販売も行っている。)

2 相談の要旨

(1) X社を含むガス事業者は,一般ガスの供給に当たっては供給区域規制が定められており,X社は甲地域の一般家庭に対して一般ガスを独占的に供給している。

(2) X社は,甲地域において,OEMメーカーから供給を受けたガス機器Aを,販売店を通じて販売している。ガス機器Aを製造販売するメーカーはX社以外にも存在するところ,甲地域内におけるX社のガス機器Aのシェアは約50パーセントである。ガス機器Aを使用するには設置工事が必要であり,各販売店はユーザーの負担で設置工事も行っている。

 現在,製造・販売されているガス機器Aには,不完全燃焼防止装置が装備されているが,過去に製造された機器には装備されていないものがある(以下,不完全燃焼防止装置が装備されていないガス機器を「旧型」といい,同装置が装備されているガス機器を「新型」という。)。このため,旧型の使用において死亡事故を含む重大な事故が連続して発生し,社会問題化している。

(3) ガス事業者は,ガス事業法により一般ガスの利用に伴う危険の発生を防止するために必要な事項をユーザーに周知し,ユーザーが用いるガス機器がガス事業法上の安全基準に適合しているか調査することが義務付けられている。そこでガス事業を所管する省庁は,旧型による事故の再発防止と一般ガスの供給に対する国民の信頼を回復するため,ガス事業者に対して,旧型のユーザーが新型への買替えを進めるための方策を採るよう要請した。

(4) 甲地域で設置されているガス機器A(X社以外の事業者が製造・販売したものを含む。)のうち旧型は約2パーセントである。X社は,前記(3)の要請を受け,以下の取組を行うことを検討している。

ア 旧型のユーザーが新型に買い替える場合にはX社が8千円でユーザーに直接に販売する。その際,設置工事は販売店に委託するが,設置工事費は全額X社が負担する。

イ 旧型のユーザーがX社以外のメーカーが製造した新型のガス機器Aを購入する場合,新型への取替えを確認した後,設置工事費相当額(1万円)をユーザーに支払う。

(5) 新型の販売店における平均的な販売価格は設置工事費込みで4万円前後であるが,X社が8千円でユーザーに直接に販売すれば,新型の供給に要する費用を下回ることとなる。

 このようなX社の販売方法は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 事業者が正当な理由なく,供給に要する費用を著しく下回る価格で継続して販売し,その他不当に低い価格で販売することにより,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合には,不公正な取引方法(第6項・不当廉売)として問題となる。

 一般に,事業者が供給に要する費用を下回る価格で販売する行為については,単に価格が供給に要する費用を下回ることのみならず,競争者の事業活動に及ぼす影響や,当該廉売を行う理由等を総合的に勘案して,市場における競争に及ぼす影響について検討される。

(2) X社が,新型を8千円でユーザーに直接販売することは,供給に要する費用を下回る価格で販売するものであるが,本件取組は旧型を新型に取り替え,重大な事故を未然に防止するという社会公共的な目的に基づくものであって,

ア 本件取組の対象となる甲地域で設置されている旧型は,ガス機器A全体の約2パーセントにとどまること

イ 旧型のユーザーがX社以外からガス機器Aを購入する場合にも,その設置工事費用をX社が負担するとしていること
から,甲地域におけるX社以外のガス機器Aを製造販売するメーカーの事業活動を困難にさせるおそれがないと考えられることから,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X社が,前記取組を実施することは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

ページトップへ