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(平成29年9月26日)平成28年度公正取引委員会年次報告について

(平成29年9月26日)平成28年度公正取引委員会年次報告について

平成29年9月26日
公正取引委員会

 公正取引委員会は,独占禁止法第44条第1項の規定に基づき,内閣総理大臣を経由して,国会に対し,毎年,独占禁止法等の所管法令の施行の状況を報告しているところ,本日,平成28年度公正取引委員会年次報告書を国会に提出した。その要旨は以下のとおりである。

1 独占禁止法改正等

(1) 環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(独占禁止法の一部改正を含む。)の成立等

 平成28年2月4日に我が国を含む12か国により署名された環太平洋パートナーシップ(TPP)協定には「各締約国は、自国の国の競争当局に対し、違反の疑いについて、当該国の競争当局とその執行の活動の対象となる者との間の合意により自主的に解決する権限を与える。」とする規定が含まれているところ(第16.2条5),同規定は,現行の独占禁止法上担保されていないことから,同規定を担保するため,独占禁止法を改正し,「合意により自主的に解決する」制度である確約手続を導入することとした。確約手続の導入を内容とする独占禁止法の一部改正を含む環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案は,同年12月9日に,可決・成立し,同月16日に公布された(施行期日は,環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日)。環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(以下「TPP協定整備法」という。)により,確約手続が導入されることに伴い,公正取引委員会の確約手続に関する規則(平成29年公正取引委員会規則第1号。平成29年1月25日公布。施行日はTPP協定整備法の施行の日)を制定するなど,関係法令について所要の整備を行った。

(2) 独占禁止法研究会報告書の公表

 独占禁止法における課徴金制度は,違反行為者に対して金銭的不利益処分を課すことによって違反行為を抑止するための行政上の措置として,昭和52年に導入された後,約40年が経過し,その間,数次の改正が行われてきた。しかし,近年,事業者の経済活動や企業形態のグローバル化・多様化・複雑化は一層進展しており,硬直的な現行課徴金制度では事業活動の実態を反映せず適正に対応できていない場面も生じているため,経済・社会環境の不断の変化にも対応できる制度の在り方について検討する必要性が高まってきた。公正取引委員会は,このような認識の下,平成28年2月以降,課徴金制度の在り方について専門的見地から検討を行うことを目的として,各界の有識者からなる「独占禁止法研究会」を開催してきた。同研究会は,平成29年3月までの間,15回の会合を重ね,検討結果を踏まえ,報告書を取りまとめ,公正取引委員会は,同年4月25日にこれを公表した。

2  厳正・的確な法運用

(1) 独占禁止法違反行為の積極的排除

 公正取引委員会は,迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下,国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整,中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売など,社会的ニーズに的確に対応した多様な事件に厳正かつ積極的に対処することとしている。

 独占禁止法違反被疑事件として平成28年度に審査を行った事件は149件である。そのうち同年度内に審査を完了したものは128件であった。

 平成28年度においては,11件の排除措置命令を行った。これを行為類型別にみると,価格カルテルが1件,入札談合(官公需)が5件,受注調整(民需)が3件,不公正な取引方法が2件となっている(第1図参照)。また,延べ33名に対し総額97億9696万円の課徴金納付命令を行った。このうち,課徴金納付命令後に刑事事件裁判が確定した9名の事業者に対して,独占禁止法第63条第1項の規定に基づき,課徴金納付命令に係る課徴金の一部を控除する決定を,また,1名の事業者に対して,同条第2項に基づき,課徴金納付命令を取り消す決定を行った(以下「罰金調整」という。)。罰金調整の結果,平成28年度における課徴金額は,延べ32名に対して,総額91億4301万円となった(第2図参照)。
 なお,平成28年度においては,課徴金減免制度に基づき事業者が自らの違反行為に係る事実の報告等を行った件数は124件であった。

 また,平成28年度においては,違反行為は認定したが,特に排除措置を命ずる必要があるとは認められないとして審査を終了し,公表した事例が1件あった。
 

<平成28年度における法的措置事件>

価格カルテル

○ 壁紙の販売業者による価格カルテル事件
入札談合(官公需)

○ 東日本高速道路株式会社東北支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事の入札参加業者による入札談合事件
○ 東日本高速道路株式会社関東支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事の入札参加業者による入札談合事件
○ 消防救急デジタル無線機器の製造販売業者による入札談合事件
○ 地方公共団体等が宮城県又は福島県の区域を施工場所として発注する施設園芸用施設の建設工事の工事業者による入札談合事件
○ 防衛装備庁が発注するビニロン又は難燃ビニロンを材料として使用する繊維製品の入札参加業者による入札談合事件

受注調整(民需)

○ 東京電力が発注する電力保安通信用機器の製造販売業者による受注調整事件
○ 中部電力株式会社が発注するハイブリッド光通信装置の製造販売業者による受注調整事件
○ 中部電力株式会社が発注する伝送路用装置の製造販売業者による受注調整事件

再販売価格の拘束 ○ コールマンジャパン株式会社による再販売価格の拘束事件

拘束条件付取引

○ 土佐あき農業協同組合による拘束条件付取引事件

第1図 排除措置命令件数等の推移

(注1)複数の行為類型に係る事件は,主たる行為に即して分類している。
(注2)価格カルテルとその他のカルテルが関係している事件は,価格カルテルに分類している。
(注3)「その他」とは,事業者団体による構成事業者の機能又は活動の不当な制限等である。

第2図 課徴金額等の推移

(注)平成17年独占禁止法改正法(独占禁止法の一部を改正する法律〔平成17年法律第35号〕をいう。以下同じ。)による改正前の独占禁止法に基づく課徴金の納付を命ずる審決に係る金額を含む。

 このほか,違反するおそれのある行為に対する警告10件,違反につながるおそれのある行為に対する注意1,239件(不当廉売事案について迅速処理による注意を行った1,155件を含む。)を行うなど,適切かつ迅速な法運用に努めた。

 公正取引委員会は,独占禁止法違反行為についての審査の過程において,競争政策上必要な措置を講じるべきと判断した事項について,事業者団体・発注者等に要請や申入れ等を行っている。
平成28年度においては,一般社団法人教科書協会に対して要請を,消防救急デジタル無線機器の発注者に対して連絡を,公益社団法人みやぎ農業振興公社に対して申入れを,それぞれ行った。

 平成28年度における審判件数は260件(排除措置命令に係るものが130件,課徴金納付命令に係るものが130件)であった(第3図参照)。これらのうち,平成28年度中に平成25年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決を14件(排除措置命令に係る審決6件,課徴金納付命令に係る審決8件)行ったほか,被審人による審判請求の取下げが1件あった。この結果,平成28年度末における審判件数(平成29年度に繰り越すもの)は245件となった。
 

第3図 審判件数の推移

(注1)審判件数は,行政処分に対する審判請求ごとに付される事件番号の数である。
(注2)「課徴金納付命令審判事件」には,平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審判事件を含む。

(2)公正な取引慣行の推進

ア 優越的地位の濫用に対する取組
(ア) 公正取引委員会は,以前から,独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する優越的地位の濫用行為が行われないよう監視を行うとともに,独占禁止法に違反する行為については厳正に対処している。
 また,優越的地位の濫用行為に係る審査を効率的かつ効果的に行い,必要な是正措置を講じていくことを目的とした「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置し,審査を行っている。
 平成28年度においては,優越的地位の濫用につながるおそれがあるとして48件の注意を行った。
(イ) 公正取引委員会は,中小事業者の取引の公正化を図る必要が高い分野について,実態調査等を実施し,普及・啓発に努めている。
 平成28年度においては,「ブライダルの取引に関する実態調査報告書」及び「葬儀の取引に関する実態調査報告書」を平成29年3月22日に公表した。
(ウ) 公正取引委員会は,過去に優越的地位の濫用規制に対する違反がみられた業種,各種の実態調査で問題がみられた業種等の事業者に対して一層の法令遵守を促すことを目的として,業種ごとの実態に即した分かりやすい具体例を用いて説明を行う業種別講習会を実施している。
 平成28年度においては,荷主・物流事業者向けに10回の講習会を実施した。
(エ) 公正取引委員会は,下請事業者を始めとする中小事業者からの求めに応じ,当委員会事務総局の職員が出向いて,下請法等の内容を分かりやすく説明するとともに相談受付等を行う「中小事業者のための移動相談会」を実施している。
 平成28年度においては,「中小事業者のための移動相談会」を全国45か所で実施した。このほか,事業者団体が開催する研修会等に当委員会事務総局の職員を講師として10回派遣した。

イ 不当廉売に対する取組
 公正取引委員会は,小売業における不当廉売について,迅速に処理を行うとともに,大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案であって,周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては,周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い,問題がみられた事案については,法的措置を採るなど厳正に対処している。
 平成28年度においては,酒類,石油製品,家庭用電気製品等の小売業において,不当廉売につながるおそれがあるとして1,155件(酒類420件,石油製品732件,家庭用電気製品1件,その他2件)の事案に対して注意を行った。

ウ 下請法違反行為の積極的排除等
(ア) 公正取引委員会は,下請事業者からの自発的な情報提供が期待しにくいという下請取引の実態に鑑み,中小企業庁と協力し,親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書面調査を実施するなど違反行為の発見に努めている。また,中小事業者を取り巻く環境は依然として厳しい状況において,中小事業者の自主的な事業活動が阻害されることのないよう,下請法の迅速かつ効果的な運用により,下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護に努めている。
 平成28年度においては,親事業者39,150名及びこれらと取引している下請事業者214,500名を対象に書面調査を行い,書面調査等の結果,下請法に基づき11件の勧告を行い,6,302件の指導を行った(第4図参照)。

<平成28年度における勧告事件>
○ 冠婚葬祭式の施行等を行う事業者(親事業者)による下請事業者に対する購入・利用強制事件
○ フランチャイズ・システムによるコンビニエンスストア事業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額事件
○ 食料品,日用品等の卸売業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額及び不当な経済上の利益の提供要請事件
○ 衣料品等の小売業者(通信販売業者)(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額,返品及び不当な経済上の利益の提供要請事件
○ 自動車部品等の製造業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額事件
○ 旅行業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額事件
○ 医薬品,日用品,化粧品等の卸売業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額事件
○ フランチャイズ・システムによる弁当等の販売事業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額及び返品事件
○ 化粧品,日用品,家庭用品,ペット用品等の卸売業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額事件
○ 宗教用品の製造業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額事件
○ 内装金物の製造業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金の減額事件

第4図 下請法の事件処理件数の推移

(注1)勧告を行った事件の中には,製造委託等及び役務委託等との双方において違反行為が認められたものがあるが,本図においては,当該事件の違反行為が主として行われた取引に区分して,件数を計上している。
(注2)「製造委託等」とは,製造委託及び修理委託をいい,「役務委託等」とは,情報成果物作成委託及び役務提供委託をいう。

(イ) 平成28年度においては,下請事業者が被った不利益について,親事業者302名から,下請事業者6,514名に対し,下請代金の減額分の返還等,総額23億9931万円相当の原状回復が行われた(第5図参照)。このうち,主なものとしては,[1]下請代金の減額事件においては,親事業者は総額18億4452万円を下請事業者に返還し,[2]返品事件においては,親事業者は下請事業者から総額3億3957万円相当の商品を引き取り,[3]買いたたき事件においては,親事業者は総額8411万円を下請事業者に支払い,[4]下請代金の支払遅延事件においては,親事業者は遅延利息として総額6958万円を下請事業者に支払った。

第5図 原状回復の状況

(ウ) 公正取引委員会は,親事業者の自発的な改善措置が,下請事業者が受けた不利益の早期回復に資することに鑑み,当委員会が調査に着手する前に,違反行為を自発的に申し出,かつ,自発的な改善措置を採っているなどの事由が認められる事案については,親事業者の法令遵守を促す観点から,下請事業者の利益を保護するために必要な措置を採ることを勧告するまでの必要はないものとして取り扱うこととし,この旨を公表している(平成20年12月17日公表)。
 平成28年度においては,上記のような親事業者からの違反行為の自発的な申出は61件であった。また,同年度に処理した自発的な申出は86件であり,そのうちの10件については,違反行為の内容が下請事業者に与える不利益が大きいなど勧告に相当するような事案であった。
(エ) 公正取引委員会は,下請代金の支払遅延,下請代金の減額,買いたたき等の行為が行われることのないよう,平成28年11月25日,約33,000名の親事業者及び約650の関係事業者団体に対し,下請法の遵守の徹底等について,公正取引委員会委員長及び経済産業大臣連名の文書をもって要請を行った。
(オ) 公正取引委員会は,「経済財政運営と改革の基本方針2016」(平成28年6月2日),「未来への投資を実現する経済対策」(平成28年8月2日)等の閣議決定や下請等中小企業の取引条件改善に関する関係府省等連絡会議等の議論を踏まえ,中小企業等の取引条件の改善に向け,下請法・独占禁止法の運用強化に向けた取組を進めていくこととした。その取組の一環として,平成28年12月14日に,親事業者による違反行為の未然防止や事業者からの下請法違反行為に係る情報提供に資するよう違反行為事例の充実等を内容とした「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年12月公表)の改正を行ったほか,下請代金の支払はできる限り現金によるものとすること等について,公正取引委員会事務総長及び中小企業庁長官連名の文書をもって関係事業者団体への要請を行った。

エ 消費税転嫁対策に関する取組
(ア) 公正取引委員会は,様々な情報収集活動によって把握した消費税の転嫁拒否等の行為(以下「転嫁拒否行為」という。)に関する情報を踏まえ,立入検査等の調査を積極的に実施している。これらの調査の結果,転嫁拒否行為が認められた事業者に対しては,転嫁拒否行為に係る不利益の回復などの必要な改善指導を迅速に行っている。
 平成28年度においては,中小企業庁と合同で,中小企業・小規模事業者等(売手側。約285万名)に対する悉皆的(しっかいてき)な書面調査を実施した。また,中小企業庁と合同で,個人事業者(売手側。約350万名)に対する書面調査を実施した。書面調査等の結果,消費税転嫁対策特別措置法に基づき勧告を行ったものは6件,指導を行ったものは362件であった。
(イ) 公正取引委員会は,転嫁拒否行為等に関する事業者からの相談や情報提供を一元的に受け付けるための相談窓口を設置し,平成28年度においては,444件の相談に対応した。また,事業者にとって,より一層相談しやすい環境を整備するため,平成28年度においては,移動相談会を36回実施した。
(ウ) 公正取引委員会は,転嫁拒否行為を受けた事業者にとって,自らその事実を申し出にくい場合もあると考えられることから,転嫁拒否行為を受けた事業者からの情報提供を受動的に待つだけではなく,中小企業庁と合同で書面調査を実施し,転嫁拒否行為に関する情報収集を積極的に行った。また,様々な業界における転嫁拒否行為に関する情報や取引実態を把握するため,平成28年度においては,2,385名の事業者及び581の事業者団体に対してヒアリング調査を実施した。
(エ) 公正取引委員会は,平成28年度においては,消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為11件の届出を受け付けたほか,事業者又は事業者団体からの届出書の記載方法等に関する相談に対応した。
(オ) 公正取引委員会は,消費税転嫁対策特別措置法の内容を広く周知するため,事業者及び事業者団体を対象として,当委員会主催の説明会を実施している。
 平成28年度においては,36回の説明会を実施した。また,商工会議所,商工会及び事業者団体等が開催する説明会等に当委員会事務総局の職員を講師として73回派遣した。

(3) 企業結合審査の充実

 独占禁止法は,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる会社の株式取得・所有,合併等を禁止している。公正取引委員会は,我が国における競争的な市場構造が確保されるよう,企業結合規制の的確な運用に努めている。個別事案の審査に当たっては,必要に応じ,経済分析を積極的に活用している。
 平成28年度においては,独占禁止法第9条から第16条までの規定に基づく企業結合規制に関する業務として,銀行又は保険会社の議決権取得・保有について2件の認可を行い,持株会社等について108件の報告,会社の株式取得・合併・分割・共同株式移転・事業譲受け等について319件の届出をそれぞれ受理し,必要な審査を行った。
 また,平成28年度においては次のような企業結合事案について,的確に処理するとともに,その内容を公表した。

<平成28年度に届出のあった主な企業結合事案>
○ 出光興産株式会社による昭和シェル石油株式会社の株式取得
○ JXホールディングス株式会社による東燃ゼネラル石油株式会社の株式取得
○ 新日鐵住金株式会社による日新製鋼株式会社の株式取得

3  競争環境の整備に向けた調査等

(1) 「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」の改定

 公正取引委員会は,電気通信事業分野における公正かつ自由な競争をより一層促進していく観点から,総務省と共同して,独占禁止法及び電気通信事業法(昭和59年法律第86号)の適用に当たっての基本的考え方及び問題となる行為等を明らかにした「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」を作成・公表している。
 電気通信事業分野における最近の市場実態の変化等を踏まえ,平成28年5月20日に本指針を改定した。
 同改定において,各分野ごとに独占禁止法上問題となり得る事例を追加した。

(2) 「適正なガス取引についての指針」の改定

 公正取引委員会は,通商産業省(現経済産業省)と共同して,ガス市場における公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為等を明らかにした「適正なガス取引についての指針」を平成12年3月に作成・公表している。
 平成29年4月にガスの小売業への参入が全面自由化されること等に伴い,平成29年2月6日に本指針を改定した。
 同改定において,今般の制度改正に伴い想定される独占禁止法上の問題点について,事例を追加した。

(3) 「適正な電力取引についての指針」の改定

 公正取引委員会は,通商産業省(現経済産業省)と共同して,電力市場における公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為等を明らかにした「適正な電力取引についての指針」を平成11年12月に作成・公表している。
 平成29年4月に需要家が需要を抑制することにより得られる電気を転売することができる「ネガワット取引(特定卸供給)」が制度化されること等に伴い,平成29年2月6日に本指針を改定した。
 同改定により,区域において一般電気事業者であった小売電気事業者又は区域において一般電気事業者であった発電事業者の行為のうち,想定される独占禁止法上の問題点について事例を追加した。

(4) 「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の改正

 公正取引委員会は,「規制改革に関する第3次答申~多様で活力ある日本へ~」(平成27年6月16日規制改革会議)を受けて策定された「規制改革実施計画」(平成27年6月30日閣議決定)を踏まえ,「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月11日公表。以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。)に関し同実施計画において検討することとされたいわゆるセーフ・ハーバーに関する基準や要件等について所要の検討を行い,流通・取引慣行ガイドラインを一部改正し,平成28年5月27日に公表した。同改正では,いわゆるセーフ・ハーバーの基準を,改正前の「市場におけるシェアが10%未満であり,かつ,その順位が上位4位以下」から「市場におけるシェアが20%以下」(順位基準は廃止)に改めた。
 また,流通・取引慣行ガイドラインが制定されてから約25年が経過しており,我が国における流通・取引慣行の実態が大きく変化していることから,そうした実態に即したガイドラインの見直しに関して必要な検討を行うことを目的として,各界の有識者からなる「流通・取引慣行と競争政策の在り方に関する研究会」を開催した。同研究会により取りまとめられた報告書(平成28年12月16日公表)において,「最近の実態を踏まえつつ,分かりやすく,汎用性のある,事業者及び事業者団体にとって利便性の高い流通・取引慣行ガイドラインを目指すべき」とされたことを受け,公正取引委員会は流通・取引慣行ガイドラインを改正し,平成29年6月16日に公表した。同改正では,全体の構成について,適法・違法性判断基準が同一の行為類型を統合するなどして,改正前の流通・取引慣行ガイドラインの第2部「流通分野における取引に関する独占禁止法上の指針」を中心として再構築するなどの構成変更を行うとともに,適法・違法性判断基準について,[1]分析プロセスの明確化,[2]オンライン取引に関連する垂直的制限行為に係る考え方の明記,[3]審判決例や相談事例の積極的な活用による具体例の追加等,更なる明確化を行っている。

(5) 携帯電話市場における競争政策上の課題に関する調査

 公正取引委員会は,携帯電話市場におけるMVNO(Mobile Virtual Network Operator)の新規参入の促進の観点を中心に,同市場に関する取引慣行について,関係事業者等からヒアリングを行い,携帯電話市場における競争政策上の課題について,総務省による一連の取組を踏まえつつ,調査・検討を行い,平成28年8月2日,「携帯電話市場における競争政策上の課題について」を公表した。

(6) 介護分野に関する調査・提言

 現在,我が国では,少子高齢化が進行し,社会保障制度の改革が最重要課題となっている。とりわけ,介護については,高齢化が進む中で,仕事との両立をいかに図っていくかが喫緊の課題となっている。
 公正取引委員会では,事業者の公正かつ自由な競争を促進し,サービス等の質の向上も含めた消費者の利益を確保することを目的とする競争政策の観点から,介護分野の現状について調査・検討を行い,平成28年9月5日,競争政策上の考え方や提言を取りまとめた「介護分野に関する調査報告書」を公表した。

(7) ガソリンの取引に関するフォローアップ調査

 公正取引委員会は,平成25年7月,「ガソリンの取引に関する調査報告書」を公表している。その後,ガソリン販売業者に対するガソリンの仕切価格の決定方法に変更があったことなどガソリンの流通市場における競争環境に変化がうかがわれることから,改めてガソリンの流通実態を把握するためにフォローアップ調査を実施し,平成28年4月28日,「ガソリンの取引に関するフォローアップ調査報告書」を公表した。

(8) 外航海運に係る独占禁止法適用除外制度の見直し

 外航海運については,海上運送法(昭和24年法律第187号)に基づき,船社による運賃及び料金その他の運送条件,航路,配船等を内容とする協定の締結について,国土交通大臣への事前届出を前提として,独占禁止法適用除外制度が設けられている。同制度の見直しに関しては,「規制・制度改革に係る対処方針」(平成22年6月18日閣議決定)を踏まえて平成22年度に行った検討の結果,国土交通省は,公正取引委員会と協議しつつ,平成27年度に再度検討を行うこととなっていた。これを踏まえ,公正取引委員会は実態調査を行い,外航海運に係る独占禁止法適用除外制度を維持する理由が存在するかどうかについて検討し,平成28年2月4日にその結果を取りまとめた報告書「外航海運に係る独占禁止法適用除外制度の在り方について」を公表した。
 国土交通省は,同月以降実施した公正取引委員会との協議を踏まえ,平成28年6月14日に,「外航海運に係る独占禁止法適用除外制度に関する再検討の結果について」を公表し,運賃同盟(注)については,届出に係る行為の存在が確認できない運賃同盟の加盟船社に対し,速やかな脱退を求めることなどにより,運賃同盟の締結件数が減少し,国際海上輸送サービスの安定的供給に支障がないと判断される場合には,運賃同盟に係る適用除外制度を廃止する方向で見直す旨,また,運賃同盟以外の船社間協定については,その類型ごとの状況や荷主の利益への影響等を踏まえ,必要と認められる場合には,当委員会と協議しつつ見直しを行っていく旨を示した。
(注)運賃又は料金について加盟船社を拘束する船社間協定。

(9) 競争評価に関する取組

 平成19年10月以後,各府省が規制の新設又は改廃を行おうとする際,原則として,規制の事前評価の実施が義務付けられ,その際,規制による競争状況への影響分析(以下「競争評価」という。)についても行うこととされ,平成22年4月から試行的に実施されている。競争評価については,各府省は,規制等に関して,競争状況への影響・分析に関するチェックリスト(以下「競争評価チェックリスト」という。)の記入を行い,評価書と共に総務省に提出し,総務省は競争評価チェックリストを公正取引委員会へ送付することとされている。
 平成28年度においては,総務省から113件の競争評価チェックリストを受領し,内容を精査した。

(10) 入札談合の防止への取組

 入札談合の防止を徹底するためには,発注者側の取組が極めて重要であるとの観点から,公正取引委員会は,地方公共団体等の調達担当者等に対する独占禁止法や入札談合等関与行為防止法の研修会を開催するとともに,国,地方公共団体等が実施する調達担当者等に対する同様の研修会への講師の派遣及び資料の提供等の協力を行っている。
 平成28年度においては,研修会を全国で29回開催するとともに,国,地方公共団体等に対して258件の講師の派遣を行った。

(11) 独占禁止法コンプライアンスの向上に向けた取組

 独占禁止法コンプライアンスの向上に関連した企業の取組を促していく観点から,公正取引委員会では,企業における独占禁止法に関するコンプライアンス活動の状況を調査し,改善のための方策等と併せて,報告書の取りまとめ・公表を行うとともに,その周知に努めている。
 平成28年度においては,事業者団体に関連する独占禁止法違反事件が依然として数多く存在する現状を踏まえ,事業者団体における独占禁止法コンプライアンスの取組の現状を把握し,課題を明らかにすることにより,事業者団体における独占禁止法コンプライアンス体制の強化に資することを目的として,事業者団体1,041団体に調査を行い,独占禁止法コンプライアンスの取組を推進するために有効と考えられる方策や留意点を取りまとめた報告書「事業者団体における独占禁止法コンプライアンスに関する取組状況について」を平成28年12月21日に公表した。

4  競争政策の運営基盤の強化

(1) 競争政策に関する理論的・実証的な基盤の整備

 競争政策研究センターは,平成15年6月の発足以降,独占禁止法等の執行や競争政策の企画・立案・評価を行う上での理論的・実証的な基礎を強化するための活動を展開している。平成28年度においては,国際シンポジウムを1回,公開セミナーを3回開催したほか,以下の2テーマについて検討会を開催し,それぞれ報告書を取りまとめ公表した。

ア 「バンドル・ディスカウントに関する検討会」
 電力小売の自由化を一つの契機として,バンドル・ディスカウント(いわゆるセット割引)が急速に増加しつつある状況を踏まえ,どのような場合に,バンドル・ディスカウントによって,競争者が排除される可能性が生じ,独占禁止法上の問題となり得るかについて検討を行い,平成28年12月14日,「バンドル・ディスカウントに関する独占禁止法上の論点」を公表した。

イ 「データと競争政策に関する検討会」
 IoT(Internet of Things)の普及や人工知能関連技術の高度化を背景として,「ビッグデータ」の解析等を通じて,データを事業活動に生かすことの重要性が高まる中で,データの利活用を促すことに資するような競争政策上の課題について検討を行うことが必要となっている状況を踏まえ,データの収集及び利活用に関連する競争政策及び独占禁止法上の論点を整理するための検討を行い,平成29年6月6日,「データと競争政策に関する検討会」報告書を公表した。

(2) 経済のグローバル化への対応

 近年,複数の国・地域の競争法に抵触する事案,複数の国・地域の競争当局が同時に審査を行う必要のある事案等が増加するなど,競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている。このような状況を踏まえ,公正取引委員会は,二国間独占禁止協力協定,経済連携協定等に基づき,関係国の競争当局と連携して執行活動を行うなど,外国の競争当局との間で緊密な協力を行っている。
 また,公正取引委員会は,国際競争ネットワーク(ICN),経済協力開発機構(OECD),アジア太平洋経済協力(APEC),国連貿易開発会議(UNCTAD)等といった多国間会議にも積極的に参加している。
 さらに,発展途上国において,既存の競争法制を強化する動きや新たに競争法制を導入する動きが活発になっていることを受け,公正取引委員会は,これら諸国の競争当局等に対し,当委員会事務総局の職員の派遣や研修の実施等による技術支援活動を行っている。
 このほか,我が国の競争政策の状況を広く海外に周知することにより公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させるため,英文ウェブサイトに掲載する報道発表資料の一層の充実,海外の弁護士会等が主催するセミナー等へのスピーカーの派遣等を行っている。
 平成28年度においては,主に以下の事項に取り組んだ。

ア 競争当局間における連携強化
 公正取引委員会は,中華人民共和国の商務部及びケニア共和国の競争当局との間においてそれぞれ二国間の協力に関する覚書を締結した。また,モンゴル国の公正競争・消費者保護庁との間における協力に関する取決めを締結した。

イ 多国間協議への参加
 国際競争ネットワーク(ICN)においては,その設立以来,運営委員会メンバーを務めるとともに,平成23年5月から平成26年4月までカルテル作業部会の共同議長を,平成26年4月から平成29年5月まで同作業部会サブグループ(SG1)の共同議長を務め,平成29年5月からは企業結合作業部会の共同議長を務めている。また,公正取引委員会主導の下で設立された「(カルテルに関する)非秘密情報の交換を促進するためのフレームワーク」及び「企業結合審査に係る国際協力のためのフレームワーク」を運用するなど各作業部会の取組に参画している。
 経済協力開発機構(OECD)においては,競争委員会の本会合,各作業部会等に参加し,忠誠リベート,価格差別等のテーマに即して,公正取引委員会の過去の経験,取組について紹介するなど,議論に参画した。このほか,平成28年9月に韓国・ソウルにおいて韓国競争当局等との共催により,第12回東アジア競争政策トップ会合を開催した。

ウ 経済連携協定への取組
 我が国は,現在,EU,中国・韓国,トルコ等との間で経済連携協定等の締結交渉を行っており,また,東アジア地域包括的経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)の締結交渉を行っている。
 公正取引委員会は,経済連携協定等において競争政策を重要な要素と位置付け,競争分野における協力枠組みに係る条項等を盛り込む方向で交渉に参加している。

エ 技術支援
 インドネシアの競争当局に公正取引委員会事務総局の職員を派遣するとともに,インドネシア,モンゴル等の競争当局職員を招いて研修を行う等により,競争政策に関する技術支援を実施している。
 また,平成28年9月から,ASEAN(東南アジア諸国連合)競争当局者フォーラム及びインドネシアの競争当局の協力の下,日・ASEAN統合基金(JAIF)を活用した新たな技術支援プロジェクトを開始しており,ASEAN加盟国の競争当局職員を招いて研修を行ったほか,ベトナムにおいてワークショップを開催した。

(3) 競争政策の普及啓発に関する広報・広聴活動

 競争政策に関する意見・要望等を聴取して施策の実施の参考とし,併せて競争政策への理解の促進に資するため,独占禁止政策協力委員から意見聴取を行った。
 また,経済社会の変化に即応して競争政策を有効かつ適切に推進するため,公正取引委員会が広く有識者と意見を交換し,併せて競争政策の一層の理解を求めることを目的として,独占禁止懇話会を開催しており,平成28年度においては,3回開催した。
 さらに,全国8都市において,公正取引委員会委員と各地の有識者との懇談会を,また,全国各地区において,地方事務所長等の当委員会事務総局の職員と各地区の有識者との懇談会を,全国8都市において,公正取引委員会委員等による弁護士会等に対する講演会等を,それぞれ開催した。
 前記以外の活動として,本局及び地方事務所等の所在地以外の都市における独占禁止法等の普及啓発活動や相談対応の一層の充実を図るため,「一日公正取引委員会」を開催するとともに,一般消費者に独占禁止法の内容や公正取引委員会の活動を紹介する「消費者セミナー」を開催した。
 加えて,中学校,高等学校及び大学(短期大学等を含む。)に当委員会事務総局の職員を講師として派遣し,経済活動における競争の役割等について授業を行う独占禁止法教室(出前授業)の開催など,学校教育等を通じた競争政策の普及啓発に努めた。

<平成28年度における主な取組>
○ 独占禁止政策協力委員150名に対する意見聴取の実施
○ 独占禁止懇話会の開催(3回)
○ 地方有識者との懇談会の開催(帯広市,青森市,甲府市,金沢市,神戸市,岡山市,高松市及び佐賀市)
○ その他の地方有識者との懇談会の開催(78回)
○ 弁護士会等に対する講演会等の開催(13回)
○ 一日公正取引委員会の開催(帯広市,秋田市,さいたま市,浜松市,神戸市,下関市,徳島市及び宮崎市)
○ 消費者セミナーの開催(77回)
○ 独占禁止法教室の開催(中学生向け54回,高校生向け33回,大学生等向け109回)

関連ファイル

平成28年度公正取引委員会年次報告

問い合わせ先

公正取引委員会事務総局官房総務課
電話 03-3581-3574(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp/

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