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平成22年4月28日付 事務総長定例会見記録

平成22年4月28日付 事務総長定例会見記録

 [発言事項]

事務総長会見記録(平成22年4月28日(水曜)13時30分~ 於 官房第1会議室)

 [発言事項]

企業結合規制について

 (事務総長) 本日,私からは,企業結合規制についてお話しをしたいと思います。
 お手元に資料をお配りしておりますが,この資料を参照しながら御説明をさせていただければと思います。
 先々週の定例会見において,日本企業が国際競争力を高めるために国内で統合しようとする際に,独占禁止法がそのハードルになっているのではないかという御意見があるという趣旨の御質問がありましたので,本日は,独占禁止法による企業結合規制の考え方や現状といったものを御説明したいと思います。
 まず,資料の2ページ目でありますが,企業結合規制の基本的な考え方ということでありまして,独占禁止法は,株式保有,合併等の企業結合によって「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に,当該企業結合を禁止しています。それが独占禁止法の第10条,13条から16条といった条文等で規制されているわけですが,その場合,独占禁止法上の問題について,いわゆる問題解消措置,お手元の資料でいうと,右下の方の「企業結合の禁止」の下の「※印」部分にただし書きで書いてありますが,独占禁止法上の問題を解消する措置,問題解消措置が採られる場合には容認することになります。
 独占禁止法違反となる場合の「一定の取引分野」というのは何か,あるいは「競争を実質的に制限することとなる」場合について御説明をしていきたいと思いますが,資料の3ページ目の「国際競争と地理的範囲(市場)の考え方」を御覧ください。
 この一定の取引分野というのは,競争が行われる場のことでありまして,市場とも言われるわけでありますが,一般に,どのような商品の間で競争が行われているのかという商品の範囲と地理的範囲の2つから判断されます。この地理的な範囲については,経済がグローバル化して国際競争が行われているような場合には,日本国内を1つの市場とみるのか,国境を越えた市場でみるのかということがよく指摘されます。
 公正取引委員会は,以前から,世界市場を地理的範囲として判断した事案も公表しておりまして,平成17年度にソニーと日本電気が光ディスクドライブ事業を統合した際には世界市場での競争が行われていることを前提に判断をしたわけであります。そういう面では国境を越えて地理的範囲を確定することがあるという考え方は当時から示しているわけであります。また,平成19年3月に企業結合ガイドラインを改正したわけでありますが,その時に,このような考え方も明らかにいたしまして,お手元の資料の3ページ目にその抜粋が記載されておりますが,内外の需要者が内外の供給者を差別することなく取引しているような場合には,世界市場など,日本市場より広い地理的範囲で市場を画定することがあるということを企業結合ガイドラインに明記しているわけであります。
 このように市場の範囲について日本国の範囲を超えて画定することがあるわけでありますが,そのような商品がもちろん一般的ではなくて,大部分のものは日本市場なり,日本よりさらに狭い市場で画定することもあるわけでありますが,仮に日本市場で画定したとしても,国際競争がない商品というのは今,非常に少ないくらいでありますから,輸入や外国企業の参入圧力も,当然,違反になるかどうかを判断する際に考慮しているわけであります。
 そのような事例を資料の4ページ目,5ページ目に記載してあり,平成21年度に事前相談がありました事例を記載してあります。NECエレクトロニクスとルネサステクノロジの合併の事案でありますが,これは半導体の主要ユーザーのほとんどが世界中から調達しているということで,世界市場を認定して審査をして,独占禁止法上の問題はないという判断をした事例であります。それから,5ページ目では,日本市場と画定はしておりますが,輸入の競争圧力も考慮して審査を行い,問題なしとした事例として,これも平成21年度ですが,新日石グループと新日鉱グループの経営統合事案というものであります。これは,ナフサという商品について,地理的範囲を日本市場と画定しているわけでありますが,当事会社のシェアは第2位の会社の2倍とかなり高くなるわけですが,輸入シェアが25%あるという実態を踏まえれば独占禁止法上の問題はないと判断できるとした事例であります。こういう事例があるということであります。
 6ページ目でありますが,このような市場の画定において国際的な市場で画定する場合がある,あるいは競争を制限するかどうかという,その違法性の判断のところで,輸入や参入も考慮するということは,世界各国の競争当局が行う企業結合審査においてもほぼ同様であるというわけであります。要するに,海外市場等で外国企業と日本企業が競争している国際的な市場において,「競争の実態は国際的に行われているから各国の市場で見る必要はないのだ」という判断は,どこの競争当局もしていないというわけでありまして,それは欧州委員会,あるいはアメリカの競争当局でも同様であります。
 例えば,6ページ目に例示を記載しておりますが,ミタルによるアルセロールの買収案件,これは平成18年でありましたが,欧州委員会は鉄鋼製品について,世界全体ではなく,EUを地理的範囲としているというわけであります。このミタルによるアルセロールの買収案件については欧米の競争当局で審査が行われたわけでありますが,欧州委員会の方はアルセロールが所有するドイツとイタリアにある工場の譲渡を命じております。それから,ミタルが所有したポーランドの工場の譲渡といったような問題解消措置を採ることを条件に本件の統合を容認しております。
 それから,米国では司法省が審査をしたわけでありますが,司法省はアメリカ全体ということではなしに,アメリカの東部地方という地理的範囲を画定しまして,鉄鋼製品のうちティン・ミル製品というものについて問題があると指摘し,米国の東部地区にある3つの工場のうちの1つを売却することを条件に統合を認めたというわけであります。
 ミタルによるアルセロールの買収案件については,世界の競争当局が認めているのだから,日本も同じように広範な統合を認めるべきだという議論によく使われているわけでありますが,世界各国の競争当局が全く無条件で認めているわけではなく,各国のそれぞれの市場における競争の実態を判断して違反にならない問題解消措置を採ることを条件に認めているということであります。
 それから,資料の7ページ目には,競争を実質的に制限することとなる場合,どのような場合が競争制限として問題となるかという典型的なものを図で記載しております。これは,A社とB社が統合するという事案に関してですが,そこから商品を購入する需要者から見れば,A社とB社が納入価格等について競争するわけであります。それが統合してしまうと需要者の商品の購入先が1つになってしまうことになり,ユーザーは選択肢を失ってしまう,結果として,その納入価格が引き上げられても,それで買わざるを得なくなってしまうわけであります。特に,中小企業などの場合には,このように納入価格が引き上げられても,それを自らのユーザーである最終ユーザーの製品価格に転嫁がなかなかできませんので中小企業が非常に困るという事態が生じることが考えられるわけであります。
 これは,国内市場において,このような問題が起き得るということもそうですが,必ずしも国内での競争だけの問題ではなく,外国企業同士が統合することによって日本のユーザーが困るということも全く同じアナロジーで,国際的な統合事案でも同様の問題は生じ得るわけであります。例えば,日本の企業が原料を輸入に依存しているような場合,鉄鋼石や原料炭,そうした原料を生産して日本に輸出する有力な外国企業同士が統合してしまうと,統合した外国企業が価格を自由にコントロールできるということになり,ユーザーである日本企業は,他の購入先の選択肢がなくなれば値上げに対抗できないことになり,価格を引き上げられても購入せざるを得ないという問題が生じ得るというわけであります。ですから,このような問題は国際市場における外国企業の統合によって日本のユーザーが困る場合も,日本企業同士の統合によって日本国内市場において日本のユーザーが困る場合も,いずれも独占禁止法で規制をすべきものであるということになるわけです。
 その判断基準についてですが,8ページ目と9ページ目に記載がありますように,競争を実質的に制限することとなる場合,ならない場合についての判断基準として,セーフハーバー基準というものがあるわけであります。
 これは,平成19年に公表しました企業別のガイドラインにもこのようなデータを記載しておりますが,このセーフハーバーというのはどういうことかいうと,通常,競争を制限することとはならない企業結合の範囲を示しているわけであります。この場合,セーフハーバー基準を示すデータ,数値として,ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス,HHIという言葉が使われておりますが,これは各社のシェアを二乗し,それを合計して算出されるものでありまして,どのようなものかというのは9ページ目に詳しく記載してありますので,これは省略させていただきますが,日本だけではなく,アメリカやEUの合併のガイドラインといったようなものについても,同じように,このセーフハーバーとしてはHHIを使っております。現行のアメリカ,EUのHHIのセーフハーバー基準は,日本よりはかなり厳し目,要するに全く問題がない,通常,競争を制限して問題とならないというもののレベルは,日本よりはアメリカやEUの方が厳しく,一部のものしかそのセーフハーバーには該当しないということになっているわけであります。
 ただ,これはアメリカやEUのセーフハーバー基準自身がだいぶ以前に作られたものであって,公正取引委員会が,平成19年に企業結合ガイドラインを改定する時に,日本のセーフハーバーはこういう形で改定しようと考えているということを,アメリカとEUの競争当局と意見交換をしたわけでありますが,その時に,アメリカもEUも自分たちの国の実態からすれば,改定しようとしている日本のセーフハーバーについては,これが妥当である,自分たちも改定していくとすれば,日本と同様な基準に改定していかざるを得ないのではないだろうかと言っていて,日本が改定しようと考えていたセーフハーバーについて,米国もEUも自分たちの国よりは多少日本の方が緩めになっているわけでありますが,その緩い基準を問題とはしていない,実態的にはそういったものに該当するという状況であったわけであります。
 では,このセーフハーバー基準には該当しなかった場合どうなるのか。要するにセーフハーバー基準に該当すれば,これはもうほとんど問題ないと当然認められることになるわけでありますが,セーフハーバー基準に該当しないからといって,問題になるのかというと,もちろんそういうことではないわけであります。
 ガイドラインでは,セーフハーバー基準に該当しないものについて,競争制限の有無を判断する際はこのような考え方で判断するという記載がありまして,これが資料の10ページ目から11ページ目に書いてありますが,この当事会社のグループの地位及び競争者の状況,輸入,あるいは参入の状況,隣接市場からの競争圧力,需要者,ユーザーからの競争圧力等こういった項目で判断をしていくということであります。要するに,決してシェアだけから判断しているわけではなく,様々な考慮事項を総合的に判断して企業結合を認めていくかどうかという判断を行っているわけであります。当然,グローバルな競争実態があれば,先ほどもお話ししましたように輸入や外国企業の参入も踏まえて判断をしていくわけであります。
 ここまでが企業結合審査の基本的な考え方についての御説明なのですが,資料の12ページ目以降では,企業結合規制の執行面についてお話しをしていきたいと思います。
 私どもがどのように審査をし,事前相談制度とはどういうものなのかということですが,まず届出制度というものがあります。これは,一定の要件に合致する場合には企業結合を計画している企業が公正取引委員会に届出をしていただくというものでありまして,届出等の件数は,資料の12ページ目の表を御覧いただくと分かりますように,年間1,000件前後で推移しております。このうちの8割ぐらいが株式所有に係るものであります。
 この届出制度につきましては,平成21年も独占禁止法改正によりまして,制度改正が行われまして,今年の1月から施行されておりますが,その結果,届出義務に関しての企業負担が大幅に軽減されております。例えば,株式取得については,一定の株式保有比率を超えて株式を取得する場合には届出が必要でありますが,届出の閾値(いきち)という言い方をしているのですが,従前は3段階,10%,25%,50%の議決権保有比率を超える場合に届出する必要があったわけですが,これを2段階に簡素化して,20%と50%の2段階に簡素化しました。
 それから,届出が必要な企業結合の範囲に関しましても,企業規模について,従前は総資産基準であったものを国内売上高基準に改めて,金額も100億円,10億円であったものを200億円,50億円に引き上げるという改正を行ったわけであります。これによりまして,今年の1月以降,施行された届出の件数というのは,株式所有を中心に大幅に削減され,大体半数ぐらいになるのではないかと見込んでいるところであります。
 こういう届出が行われた結果,もし競争を制限するものであると公正取引委員会が判断をしますと,公正取引委員会が調査を行った上で排除措置命令,そのような結合をしてはいけないという判断を出すわけであります。もちろん,そのような法的措置が命じられますと,それについては審判等で争う,あるいはさらに不服があれば裁判で争うこともできるわけであります。ただ,公正取引委員会の正式な事件審査を経て,命令が出る前に,事前に相談を受けたい,公正取引委員会の感触を知った上で結合の手続に入りたいと考える企業が事前相談という制度を活用されることもあるわけであります。
 それが資料の14ページ目に記載してありますが,事前相談について,制度を作り,どういうふうに対応するかという事前相談制度への対応方針,これも企業結合ガイドラインの改定等と合わせて平成19年に改定したものを公表しております。
 この事前相談の対応方針では,事前相談の始まりから終わりまでのプロセスを明らかにしております。まず,資料リストを提示させていただきますが,公正取引委員会に提出していただく資料としてどういう資料が必要かというものについては,事前相談の申出があってから20日以内に提示します。そして,実際にその必要な資料リストの資料が提出されれば,それから30日以内に第1次審査を終了させて問題ない旨の回答をするか,第2次審査に移行する旨の回答をします。第2次審査に移行して,その資料の提出があってからは,90日以内に問題があるかないかということの事前相談の回答を行うというようなスキームになっているわけであります。
 その第2次審査において,公正取引委員会が問題点を指摘する際には,その具体的根拠を示します。問題点の具体的根拠も同時に示しますということは,この対応方針に明記されているわけであります。また,その当事会社が事前相談のどの時点においても,資料,あるいは意見書等を自由に提出することができるということも対応方針に明記されております。そういう面で当事会社が公正取引委員会にいろいろ主張できる,あるいはデータを提供して自分たちはこう考える,違反にならない,というようなことについて十分に主張できる機会を提供しているものが,この事前相談スキームということであります。
 また,この当事会社の問題について,当事会社以外の利害関係者が意見を表明する機会があるのかということでありますが,これにつきましても,対応方針におきましては,第2次審査に移行する,要するに,問題が全くないという回答を第1次審査で行う場合以外,第2次審査に移行してさらに詳細な審査が必要であるという場合でありますが,この場合には,移行した旨を公表した後,当該企業結合計画について意見がある者は誰でも意見書を提出できることとなっており,利害関係者による意見表明の機会が保障されています。私どもとしても,そのヒアリング,アンケート等によって,利害関係者や統合企業のユーザーから意見を聞くことになっていて,利害関係者もその意見表明の機会を保障されているようになっております。
 このような形で公正取引委員会が事前相談について判断して回答を行っていること等を前提に,毎年度,主要事例集というものを公表しておりまして,公正取引委員会がどのような要素で判断し,どのような考え方を採ったのか,どのような問題解消措置を採ることで問題ありとかなしとか判断したかということも,事例集を見ていただければ具体的に分かるようになっているところであります。
 その状況がどうなっているかということが,資料の15ページ目の表に記載してあります。御案内のとおり,届出件数としては,1,000件前後ということでありますが,そのうち事前相談があったのは,平成19年度が50件,20年度が28件,21年度が24件となっており,全体の届出件数の3%前後かと思います。
 そのうち,問題解消措置を採っていただいた件数は,一番右に出てきますが,平成19年度が5件,20年度が2件,21年度が4件であり,合計11件は問題解消措置を採っていただいた上で容認しております。特に事前相談をしていただいた案件のうち,9割方の案件は,問題解消措置がないままに,統合計画のままで独占禁止法上問題ないという判断をしているというわけであります。
 また,この事前相談の途中で当事会社が事前相談を取り下げるという案件も,2割程度あるわけでありますが,この取り下げる案件の大部分は,統合計画の過程において,当事会社間の意見が不一致になる,これは合併比率というような問題もあるでしょうし,あるいはいろいろな外部要因によって価格が上がるとか下がる,需給状況が変更することによって経営統合が中止になり,取り下げられることもあります。
 公正取引委員会が独占禁止法上の問題がありますということを言ったために,事前相談を取り下げたというのは,あまりないという状況であります。
 こういった公正取引委員会の企業結合審査については,その透明性,迅速性の向上が必要であろうということもありますし,いろいろな面で情報をオープンにしていくことも必要であろうということから,今申しました資料等を公正取引委員会のホームページで公表しているところです。これが資料の16ページ目に記載してありますので,このガイドラインはどのような内容になっているのか,事前相談の対応方針はどうなっているのか,あるいは事例集ではどのようになっているのかということも,ホームページからアクセスできるようになっております。企業の担当者の方も,それを事前に御理解いただいた上で,判断できるようになっているということであります。
 私からは以上であります。

 [質疑応答]

 (問) 大手の家電量販店の通販サイトで,アップル社の製品の販売が今控えられているという報道について,当事者があまり事実関係を明らかにしていないので詳細は分かりかねる部分があるのですが,これについて公正取引委員会の御関心,御見解とですね,あわせて一般論でも構わないのですが,仮に,品物を卸す立場の方から,販売方法に対して何らかの制限をかけたときに,公正な取引を問う観点から問題の有無というものについて,どういうお考えなのかお聞きしたいのですが。

 (事務総長) 御指摘のように事実関係が明らかになっていない,一部の報道ということになりますので,また個別の事案にかかわる話にもなりますので,公正取引委員会として正式に具体的にこう考えるとか,違反である,違反ではないというようなことを申し上げる状況ではもちろんありませんが,一般論として申し上げれば,メーカーが小売業者に対して販売方法を制限する,この場合で言うと,ネットによる通信販売を禁止するということについては,例えば,商品の安全性を確保するであるとか,品質の保持を図るとか,ブランドの信用保持を図るとか,その販売のために一定の制限を加えることが合理的であるということが認められるケースというのもあるわけであります。
 また,一方,それが小売業者間の価格競争を制限することによって,競争を制限すると判断されるというケースもあり得るというわけであります。
 そのような小売価格なり販売先の競争を制限すると判断されなければ,その販売方法について,いろいろ合理的な理由によって制限すること自身は販売方法に拘束を加えることが直ちに違反になるというものではない。そういう面では,こういう販売方法の制限というのは,独占禁止法の言葉で言うと,合理の原則と言いますか,ルール・オブ・リーズンと言いますか,それなりの競争阻害効果とを比較考量して判断していくという考え方になると思います。
 本件の場合,まだ具体的な事実関係が分かっていないこともありますので,具体的なことを申し上げるわけではありませんが,今言ったようなことで,そのような安売りを防止する,価格競争を維持したり,制限するという目的で行われているという事実関係があった場合には,当然,独占禁止法上の問題になり得ることもあり得るかと思います。

 以上

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