第5章 価格の同調的引上げに関する報 告の徴収

第1 概  説

 独占禁止法第18条の2の規定により,年間国内総供給価額が300億円超で,
かつ,上位3社の市場占拠率の合計が70%超という市場構造要件を満たす同
種の商品又は役務につき,首位事業者を含む2以上の主要事業者(市場占拠
率が5%以上で第5位以内のもの)が,取引の基準として用いる価格につい
て,3か月以内に,同一又は近似の額又は率の引上げをしたときは,当委員
会は,主要事業者に対し,当該価格の引上げ理由について報告を求めること
ができる。
 この規定の適用については,当委員会は,その運用基準を明らかにすると
ともに,市場構造要件に該当する品目をあらかじめ調査し,これを運用基準
別表に掲げ,当該別表が改定されるまでの間,同別表に掲載された品目につ
いて価格の同調的引上げの報告徴収を行うこととしている。

第2 価格の引上げ理由の報告徴収

 本年度において,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上げに
該当すると認めてその引上げ理由の報告を徴収したものはビール,マヨネー
ズ・ドレッシング類及び魚肉ハム・ソーセージの3件である。価格の引上げ
理由の概要は,以下のとおりである。
 なお,ビールの価格引上げ理由の報告の概要は,平成元年度年次報告に記
載している。

マヨネーズ・ドレッシング類
 マヨネーズ・ドレッシング類の国内総供給価額(生産者販売額)は,昭
和63年において1,150億円であり,キューピー株式会社(以下「キュー
ピー」という。),味の素株式会社(以下「味の素」という。)及びケンコー
マヨネーズ株式会社(以下「ケンコー」という。)の上位3社の市場占拠
率の合計は,88.3%であり,首位事業者は,キューピーである。また,市
場占拠率が5%以上の事業者は, キューピー,味の素及びケンコーの3社
である。
 味の素は平成2年5月25日から,また,キューピーは同年6月1日か
ら,マヨネーズ・ドレッシング類のうちマヨネーズを中心とする主要製品
の販売価格の引上げを実施したが,この価格引上げは,独占禁止法第18条
の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると認められたので,当委員
会は,同年10月22日,両社に対して価格引上げの理由の報告を求めた。
(1) マヨネーズ・ドレッシング類の価格引上げ状況
 価格引上げは,キューピー(平成2年5月16日),味の素(同年5月23
日)の順で公表された。
 キューピー及び味の素の価格引上げの公表日,公表日に予告された実施
日,実際の実施日及びマヨネーズ・ドレッシング類(乳化液状ドレッシン
グ及び分離液状ドレッシングを除く。)とその内訳である家庭用及び業務
用別の生産者販売価格の加重平均による引上げ状況は,下表のとおりであ
る。
 なお,( )内はマヨネーズ・ドレッシング類全体の加重平均による価
格引上げ率である。
(2) 各社別の価格引上げ理由
 キューピー及び味の素から提出された報告書によると,価格引上げの理由
は,以下のとおりである。
キューピー
 キューピーは,マヨネーズ・ドレッシング類のうちマヨネーズを中心
とする主要製品の生産者販売価格引上げの主たる理由として,平成2年
度(平成元年12月1日~平成2年11月30日)においては,前回価格改定
(値下げ)を行った昭和62年度(昭和61年12月1日~昭和62年11月30日)
に対し,主原料のサラダ油等の購入価格及び経費(保管運搬費,減価償
却費等)が上昇することにより,マヨネーズ・ドレッシング類の製造原
価が1㎏当たり6.6%増加することなどから,総原価が5.1%上昇し,収
益が減少することが予想されたため,その改善を図る必要があったこと
を挙げている。
味 の 素
 味の素は,マヨネーズ・ドレッシング類のうちマヨネーズを中心とす
る主要製品の生産者販売価格引上げの主たる理由として,平成2年度
(平成2年4月1日~平成3年3月31日)においては,前回価格改定(値
下げ)を行った昭和62年度(昭和62年4月1日~昭和63年3月31日)に
対し,原料費(特に食用油及び鶏卵)などが上昇することにより,マヨ
ネーズ・ドレッシング類の製造原価が,1㎏当たり30.7%増加すること
から,総原価が5.8%上昇し,収益が悪化することが予想されたため,
その改善を図る必要があったことを挙げている。
魚肉ハム・ソーセージ
 魚肉ハム・ソーセージの国内総供給価額(生産者販売額)は,昭和63年
において446億円であり,大洋漁業株式会社(以下「大洋」という。),丸
大食品株式会社(以下「丸大」という。)及び日本水産株式会社(以下「日
水」という。)の上位3社の市場占拠率の合計な,70.4%であり,、首位事業
者は大洋である。また,市場占拠率が5%以上の事業者は,大洋,丸大,
日水,東洋水産株式会社(以下「東洋」という。)及び株式会社丸善(以
下「丸善」という。)の5社である。
 日水は平成2年8月1日から,大洋及び丸大は同年9月1日から,東洋
は同年10月1日から,丸善は同年10月21日から魚肉ハム・ソーセージの全
製品の販売価格の引上げを実施したが,この価格の引上げは,独占禁止法
第18条の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると認められたので,
当委員会は,平成3年3月11日,5社に対して価格引上げの理由の報告を
求めた。
(1) 魚肉ハム・ソーセージの価格引上げ状況
 価格引上げは,日水(平成2年7月3日),大洋(同年7月27日)の順
で2社が公表し,大洋,丸大,日水,東洋及び丸善の5社すべてが取引先
へ通知している。
 大洋及び日水の価格引き上げの公表日,大洋,丸大,日水,東洋及び丸善
の取引先への通知日,公表日及び通知日に予告された実施日,実際の実施
日並びにメーカー希望小売価格の加重平均及び単純平均による引上げ状況
は,下表のとおりである。

 また,対抗関係の明確なソーセージ95g(1本)とソーセージ160g(1
本)のメーカー希望小売価格の引上額及び引上率は,下表のとおりである。
(2) 各社の価格引上げ理由
 大洋,丸大,日水,東洋及び丸善から提出された報告書によると,価格
引上げの理由な以下のとおりである。
大  洋
 大洋は,魚肉ハム・ソーセージの価格引上げの主たる理由として,流
通段階の配送費,労務費,その他の諸経費の上昇にかんがみ,流通業者
からマージンアップの希望が強く寄せられていたことから,各流通段階
ごとのマージンを増大させる必要があったこと及び全量生産委託してい
るところ,主原料価格及び工場労務費等のアップを生産委託先が吸収で
きなくなったため,仕入価格を6.7%引き上げる必要があったことを挙
げている。
丸  大
 丸大は,魚肉ハム・ソーセージの価格引上げの主たる理由として,価
格引上げ予定日の平成2年9月1日からの1年間(平成2年9月1日~
平成3年8月31日)においては,平成元年度(平成元年4月I日~平成
2年3月31日)に対し,主原料(スリ身等)等の購入価格が上昇するこ
とにより,魚肉ハム・ソーセージの製造原価が,1㎏当たり18.5%増加
すること,経費(運賃,燃料費等)が上昇することなどから,総原価が
13.7%上昇し,収益が圧迫されることが予想されたことを挙げている。
日  水
 日水は,魚肉ハム・ソーセージの価格引上げの主たる理由として,平
成2年度(平成2年4月1日~平成3年3月31日)見直し後の予算にお
いては,平成2年度当初予算に対し,主副原料費等の購入価格が上昇す
ることにより,魚肉ハム・ソーセージの製造原価が,1㎏当たり12.5%
増加すること,多頻度小口配送に伴う物流費のアップ等の経費が上昇す
ることなどから,生産及び販売コストの削減をしても,なお総原価が上
昇し,収益が悪化することが予想されたことを挙げている。
東  洋
 東洋は,魚肉ハム・ソーセージの価格引上げの主たる理由として,平
成2年度(平成2年4月1日~平成3年3月31日)においては,平成元
年度(平成元年4月1日~平成2年3月31日)に対し,主原料のスリ身
の購入価格の上昇により,魚肉ハム・ソーセージの製造原価が,1㎏当
たり8.6%増加すること,小口配送による物流費の高騰による経費が上
昇することなどから,総原価が16.6%上昇し, 収益の減少が予想された
こと及び流通業者へのマージンの増大を図る必要があったことを挙げて
いる。
丸  善
 丸善は,魚肉ハム・ソーセージの価格引上げの主たる理由として,平
成2年度(平成2年4月1日~平成3年3月31日)においては,平成元
年度(平成元年4月1日~平成2年3月31日)に対し,主副原料の購入
価格及び物流費,運賃等が上昇することにより,できうる限りの経営合
理化を図り,収益の確保に努めても,魚肉ハム・ソーセージの総原価が
1㎏当たり4.6%上昇し,なおもスリ身価格及び運賃の高騰が予測さ
れ,収益性が損なわれることが予想されたこと及び小売店からマージン
アップの強い要望が寄せられていたことを挙げている。