第3章 審判及び訴訟

第1 審 判

 本年度における審判事件数は,前年から引き継いだもの7件,本年度中に
審判開始決定を行ったもの3件,計10件である。10件の内訳は,独占禁止法
違反被疑事件が7件,景品表示法違反被疑事件が3件である。これらのう
ち,本年度中に審決を行ったものは2件であり(本章第2参照),本年度末
現在において審判手続係属中のものは8件である(第1表)。

第2 正式審決

株式会社日本交通公社に対する件(平成2年(判)第1号)
(1) 事件の経過
 本件は,当委員会が株式会社日本交通公社(以下「日本交通公社」と
いう。)に対し,景品表示法第6条の規定に基づき排除命令を行ったと
ころ,同社は,同法第8条第1項の規定に基づき,審判手続の開始の請
求を行ったので,同社に対し,独占禁止法第49条第1項の規定に基づ
き,審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものであ
る。
 当委員会は,日本交通公社が平成3年9月3日,担当審判官の作成し
た審決案に対し,異議の申立てを行うとともに,独占禁止法第53条の2
の2の規定に基づき 当委員会に対し,直接陳述の申出を行ったので,
同年10月7日に日本交通公社から陳述聴取を行い,調査の上,審決を
行ったものである。
(2) 認定した事実の概要
 日本交通公社は 自社の実施する主催旅行への参加者の募集に関
し,平成元年2月から同年7月までの間に,「熟年海外旅行 想い出
の旅 季節特選1989年5月〜8月 白い浪漫を求めて 白夜の北極圏
と北欧四カ国フィヨルドの旅 11日間」と題するリーフレット約6万
6千部,また,平成元年10月から同年12月までの間に,「華紀行 欧
羅巴」と題するパンフレット約3万3千部を自社の支店の店頭に置く
こと等により,また,平成元年4月10日発行の「エイビーロード4月
号」の「海外旅行情報」の部852ページ及び853ページに「とっておき
のオーストラリア リゾート・パース」と題する広告を掲載すること
により,一般消費者に広告した。
「熟年海外旅行 想い出の旅 季節特選1989年5月〜8月 白い浪
漫を求めて 白夜の北極圏と北欧四カ国フィヨルドの旅 11日間」と
称する主催旅行の件について
 日本交通公社は,平成元年5月24日を最初の,同年8月16日を最後
の出発日として全13回実施する予定の主催旅行について,顧客募集用
リーフレットの中で,「ミッドナイト・サン−白夜の浪漫を求めて真
の北極圏イヴァロへ。」,「沈まない太陽を訪ねるラップランドでの1
日のフィナーレは,ホテルの近くの丘陵地より望むミッドナイトサン
(白夜)です。」と記載することにより,本主催旅行のいずれの実施
予定コースに参加しても,イヴァロにおいて24時間沈まない太陽を見
ることができるかのように表示しているが,実際には,イヴァロにお
いて24時間沈まない太陽は,5月22日ごろから7月22日ごろまでの期
間にのみ見ることができる現象であるため,7月26日以降に日本を出
発する4回のコースにおいては見ることができない。
「魅惑の四大都市を巡る ヨーロッパ周遊の旅10日間 ロンドン・
マドリード・ローマ・パリ」と称する主催旅行の件について
 日本交通公社は,平成元年11月24日を最初の,平成2年2月 4日を
最後の出発日として全19回実施する予定の主催旅行について,顧客募
集用パンフレットの中で,日程表の4日目に「1日:マドリード市内
及びトレド観光 プラド美術館など」と記載すること等により,本主
催旅行のいずれの実施予定コースに参加しても,4日目にプラド美術
館を見学できるかのように表示しているが,実際には,全19回のうち
10回の実施予定コースにおいては,4日目が同美術館の定期休館日に
当たるため,日程表どおり4日目に同美術館を見学することはでき
ず,同美術館を見学するためには泊地等の変更を伴う日程変更をせざ
るを得ないため,旅行サービスの内容,その順序等に変更や異同を生
じ,本件パンフレット記載の旅行サービスとは異なった旅行参加者に
とって不利な旅行サービスとなる。
「ジョーイオーストラリア シドニー・パース8日間」 及び
「ジョーイオーストラリア 西オーストラリア・パース8日間」と称
する主催旅行の件について
 日本交通公社は「エイビーロード平成元年4月号」の852ページ及
び853べージの 「とっておきのオーストラリア リゾート・パース」
と題する顧客募集用広告の中で,平成元年4月5日を最初の,同年9
月27日を最後の出発日として全26回実施する予定の主催旅行につい
て,「パースは春に向かうこれからの季節がベストシーズン。なぜな
ら西オーストラリア州の野山が一面のワイルドフラワーの大群落で飾
られ,しかもパース市内の広大なキングスパークが最も美しい姿を見
せてくれるからです。」と記載し,また,平成元年4月3日を最初
の,同年9月27日を最後の出発日として全52回実施する予定の主催旅
行について.「パースはワイルドフラワーの咲き乱れるこれからが観
光シーズン。」と記載することにより,両主催旅行のいずれの実施予
定コースに参加しても,パースにおいてワイルドフラワーの咲き乱れ
る美しい光景を見ることができるかのように表示しているが,実際に
は,パースにおいてこのような光景を見ることができるのは,おおむ
ね8月以降に限られるため,それ以前に日本に帰着する過半の実施予
定コースにおいては見ることができない。
(3) 法令の適用
 日本交通公社は,各主催旅行の内容について,それぞれ実際のものよ
りも著しく優良であると一般消費者に誤認されるため,不当に顧客を誘
引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示をしていた
ものであって,かかる行為は景品表示法第4条第1号の規定に違反す
るものである。
(4) 命じた主な措置
 日本交通公社は,次に掲げる事項を速やかに公示すること。
次に掲げる事項が,いずれも実際のものよりも著しく優良であると
一般消費者に誤認される表示であった旨
(ア)  「白い浪漫を求めて 白夜の北極圏と北欧四カ国フィヨルドの旅
11日間」と称する主催旅行の取引に関し,平成元年2月から同年
7月までの間に配布した 「熟年海外旅行 想い出の旅 季節特選
1989年5月〜8月 白い浪漫を求めて 白夜の北極圏と北欧四カ国
フィヨルドの旅 11日間」と題するリーフレットの見開き部分の表
示のうち,沈まない太陽の観光に関する記載
(イ)  「魅惑の四大都市を巡る ヨーロッパ周遊の旅10日間 ロンドン
・マドリード・ローマ・パリ」と称する主催旅行の取引に関し,平
成元年10月から同年12月までの間に配布した「華紀行 欧羅巴」と
題するパンフレットの2枚目左側部分の表示のうち,プラド美術館
の見学及び同美術館の見学の前後の日程表の日次2ないし5の旅行
サービスの内容に関する記載
(ウ)  「ジョーイオーストラリア シドニー・パース8日間」及び
「ジョーイオーストラリア 西オーストラリア・パース8日間」と
称する主催旅行の取引に関し,平成元年4月10日発行「エイビー
ロード4月号」に掲載した広告の表示のうち,ワイルドフラワーの
観光に関する記載
株式会社藤田屋に関する件
(1) 事件の経過
 本件は,当委員会が株式会社藤田屋(以下「藤田屋」という。)に対
し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,同社
は,これを応諾しなかったので,同社に対し同法第49条第1項の規定に
基づき,審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたもので
ある。
 当委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,これを適当と
認めて,審決を行った。
(2) 認定した事実の概要
 藤田屋は,主として,家庭用テレビゲーム機(携帯用コンピュータ
ゲーム機を含む。),家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト等の家庭用電
子玩具の卸売業を営む者である。
 藤田屋は,潟Gニックスが平成2年2月11日から発売開始したゲーム
ソフトであるドラゴンクエストM(以下「ドラクエM」という。)を平
成2年3月末までの間に,一次卸売業者である服部玩具鰍ルか4社の卸
売業者から,約7万7,600本購入した。
 ドラクエMは,ドラゴンクエスト・シリーズの前3作がいずれも人気
ゲームソフトとなったところから,前人気が高く,同ゲームソフトの発
売時には消費者が店頭に殺到することが予想されたため,小売業者は同
ゲームソフトの入荷量確保に躍起となる状況にあった。
 藤田屋は,このような状況において,ドラクエMの販売に当たり同社
に在庫となっているゲームソフトを処分することを企画し,取引先小売
業者約310店に対しては過去の取引実績に応じた数量配分として約7万
3,300本を販売することとした上,過去の取引実績に応じた数量配分以
上の購入を希望する小売業者に対しては,平成元年12月下旬以降, 同社
に在庫となっているゲームソフト3本を購入することを条件にドラクエ
M1本を販売すること等を商品案内を送付すること等によって通知した。
 藤田屋は,前記に記載の販売条件に応じて購入を希望した小売業者25
店に対し,合計でドラクエM約1,700本と在庫となっている他のゲーム
ソフト約3,500本を抱き合わせて購入させた。
(3) 法令の適用
 藤田屋は,その取引先小売業者に対し,不当に,ドラクエMの供給に
併せて他のゲームソフトを自己から購入させていたものであって,これ
は,一般指定第10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する。
(4) 命じた主な措置
 藤田屋は,家庭用テレビゲーム機用のゲームソフトであるドラゴンク
エストMを販売する条件として,同社に在庫となっていた他の家庭用テ
レビゲーム機用ゲームソフトを抱き合わせて購入させていたが,この行
為を取りやめたこと及び今後は同様な行為を行わないことを取引先小売
業者に周知徹底させること。

第3 訴   訟

独占禁止法関係の損害賠償請求事件
 本年度当初において係属中の独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償
請求事件はなく,また,新たに提起された事件もなかった。
 他方,昭和63年12月8日付けの課徴金納付命令に係る横須賀米軍基地に
おける入札談合事件に関し,その被害者である米国政府による損害賠償請
求事件について,平成3年5月に公表した「独占禁止法違反行為に係る損
害賠償請求訴訟に関する資料の提供等について」に基づき,同年10月,裁
判所に関係資料を提供した。
その他の訴訟
 本年度において係属中の公正取引委員会が関係する国家賠償請求事件
は,豊田商法の被害者によるもの3件,明石書店ほか34名による行政処分
取消等請求事件1件の計4件であり,これらのうち1件については本年度
中に判決があり,原告により控訴がなされた。他の3件は,いずれも本年
度末現在係属中である。
(1) 豊田商法の被害者(46名)による国家賠償等請求事件(東京地方裁判
所昭和61年(ワ)第3829号・第3830号)
   訴提起日    昭和61年 3月31日
 本件訴訟は,豊田商法の被害者46名(訴え提起時47名)が国及び個人
被告(豊田商事株式会社の元従業員)33名(訴え提起時111名)を相手
に損害賠償を請求したものである。国に対する請求は,当委員会及び通
商産業省が豊田商法による被害の発生を防止するために必要な措置を講
じなかったとの主張に基づくものである。
訴状の要旨(当委員会に関係する部分)
 原告らは,豊田商法の被害者のうち年齢60歳以上の者(主として東
京都及びその周辺地域に居住する。)である。
 豊田商法により公正で自由な取引秩序が害され,国民の財産に対す
る不法な侵害が全国的規模により継続された。公正取引委員会におい
て規制権限を行使すれば,容易にその侵害を阻止することができ,し
かも公正取引委員会がその権限を行使しなければ侵害を防止できない
関係にあり,一般国民を始め国会,通商産業省,警察庁等から豊田商
事株式会社に対する有効な規制が客観的に期待される状況下にあった
のであるから,公正取引委員会は権限を行使するか否かを決定する裁
量の余地はもはや存在せず,その権限不行使は,作為義務に違反する
違法な行為であり,国家賠償法第1条第1項にいう違法なものという
べきである。
訴訟手続の経過
 本件について,東京地方裁判所は 本年度,口頭弁論等を10回行
い,平成4年2月19日結審し,判決言渡期日は同4月22日を指定し
た。
(2) 豊田商法の被害者(2名)による国家賠償等請求事件(神戸地方裁判
所昭和60年(ワ)第826号・第849号) 
 訴提起日    昭和60年 6月11日(第826号事件)
   昭和60年 6月14日(第849号事件,併合)
 本件訴訟は,豊既商法の被害者2名が国及び豊田商事株式会社を相手
に損害賠償を請求したものであるが,被告豊田商事株式会社について
は,昭和62年12月11日第13回口頭弁論において訴えが取り下げられてい
る。国に対する請求は,当初,国会議員,通商産業省,経済企画庁,農
林水産省,法務省,警察庁及び内閣の豊田商法に対する不作為が違法で
あるとして行われていたが,昭和62年9月11日の第12回口頭弁論におい
て,公正取引委員会についても豊田商法に対する権限不行使は違法であ
るとして,追加主張が行われたものである。
公正取引委員会に関する追加主張の要旨
 豊田商法は,独占禁止法の不公正な取引方法及び景品表示法の不当
表示に該当する行為であり,両法に違反することは比較的客観的に証
明できるのであるから,これを認識していた公正取引委員会は,調査
のための強制処分を駆使して不当表示であることを解明し,排除命令
を出すべきであった。公正取引委員会は,その権限を行使する法律上
の義務があったにもかかわらず,何ら権限を行使することなく消費者
の利益を確保する義務を怠った。
訴訟手続の経過
 本件について,神戸地方裁判所は,口頭弁論期日を追って指定する
ことになり,本年度末現在,同裁判所に係属中である。
(3) 豊田商法の被害者(1,488名)による国家賠償請求事件(大阪地方裁
判所昭和63年(ワ)第3702号・第10176号)    
 訴提起日    昭和63年 4月23日(第3702号事件)
   昭和63年11月 4日(第10176号事件,併合)
 本件訴訟は,豊田商法の被害者1,488名が国を相手に損害賠償を請求
したものである。国に対する請求は,当委員会,法務省,警察庁,大蔵
省 経済企画庁及び通商産業省が豊田商法による被害の発生を防止する
ために必要な措置を講じなかったとの主張に基づくものである。
訴状の要旨(当委員会に関係する部分
 豊田商法は,独占禁止法に規定する不公正な取引方法に該当し, ま
た,景品表示法に規定する不当表示にも該当するのは明らかである。
 公正取引委員会は,昭和58年秋ころには,それらに該当する疑いが強
いことを十分に認識していた。したがって,公正取引委員会は,その
調査権限を行使し,違法な実態を速やかに解明し,違法な営業活動の
差止め等の措置を講ずることができたはずであり,遅くとも昭和59年
4月ごろまでには,公正取引委員会は,裁量の余地なく,′これらの措
置を講ずる義務が生じていたものというべきである。にもかかわら
ず,公正取引委員会は,その義務を怠り,何らの措置も講じなかった。
訴訟手続の経過
 本件について,大阪地方裁判所は,本年度,口頭弁論等を7回行
い,本年度末現在,同裁判所に係属中である。
(4)  竃セ石書店ほか34名による行政処分取消等請求事件(東京地方裁判所
平成元年(行ウ)第144号)
  訴提起日 平成元年7月20日
 本件訴訟は,出版社35社が公正取引委員会及び国を相手に,消費税の
実施に伴う再販制度の運用について,行政処分の取消し及び損害賠償を
求めたものである。
訴状の要旨
(ア)  原告らは,消費税実施後の書籍の定価は消費税抜き価格であるべ
きと考えており,公正取引委員会が従来の定価の概念を変更し,消
費税実施後の再販売価格は消費税込み価格であるとして「内税方
式」を強制した行政処分「消費税導入に伴う再販売価格維持制度の
運用について」は取り消すべきである。
(イ)  公正取引委員会の前記(ア)の行政処分により,本来付け換える必要
がなかった出版物の定価表示をシール貼付等により変更する必要が
生じ損害を被った。
訴訟手続の経過
 本件について,東京地方裁判所は,本年度口頭弁論等を6回行い,
平成4年2月26日結審し,同3月24日判決を言い渡した(公正取引委
員会に対する訴えを却下,国に対する請求を棄却)。
 なお,原告明石書店ほか32名は,平成4年4月6日,東京高等裁判
所に控訴した。
 判決の概要は次のとおりである。
東京地方裁判所判決の概要
(ア)  本件公表文の公表の取消等を求める訴えの適否について
本件公表文は,その記載内容からしても,消費税導入後の再販制
度の運用に関して問題となってくる独占禁止法の規定の解釈等につ
いて,被告公正取引委員会の考え方を説明したに止まるものである
ことは明らかであり,本件公表文の公表は,今後そこに説明された
ような法解釈を前提とした独占禁止法の運用を行っていくことが予
想されるものではあるにしても,それ自体が直ちに,直接国民の権
利義務に法的な影響を及ぼし,あるいはその範囲を具体的に確定す
るという効果を持つものではないと言わなければならないから,本
件公表文の公表は,抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しない
ものであり,その取消しあるいは無効確認を求める原告らの被告公
正取引委員会に対する本件各訴えはいずれも不適法な訴えとして,
却下を免れない。
(イ)  被告国に対する国家賠償請求の訴えの適否について
抗告訴訟と国家賠償請求訴訟が併合提起された場合においても,
その国家賠償請求訴訟について管轄等の問題をも含めた訴えの適法
要件が備わっている場合には,当事者が特に抗告訴訟が不適法と判
断された場合には国家賠償請求訴訟に対する審判を求めないものと
しているというような特殊な事情がある場合を除いては,抗告訴訟
が不適法であるからといって,これによって国家賠償請求訴訟も不
適法となるものと解すべき根拠はない。本件国家賠償請求の訴えに
ついて,右のような特殊な事情があるものとは認められず,訴えは
適法なものというべきであるから,これを独立の訴えとして扱っ
て,これに対する審理,判断を行うこととなる。
(ウ)  被告国に対する国家賠償請求の訴えの当否について
本件公表文に示された独占禁止法の規定の解釈等の適否
消費税導入後の再販商品の再販売価格の意義
 独占禁止法第24条の2第1項にいう再販売価格は,論理的に
いって,消費税相当分を含んだ価格として消費者が書店に支払
う価格でしかあり得ないから,小売段階の再販売価格は消費者
が支払う消費税込みの価格であるとする本件公表文中の被告公
正取引委員会の法解釈は,法律的にみて正しいものである。
再販売価格の設定方法
 再販行為を実施する事業者が,その消費税率の範囲内で消費
税相当分を商品の価格に上乗せし,課税事業者と免税事業者に
対して同一の再販売価格を設定したとしても,それが直ちに一
般消費者の利益を不当に害することとはならない。
再販売価格(定価)の表示方法
 本件公表文は,書籍の価格(再販売価格)の表示方法につい
て,いくつかの方法を例示して,そのような価格表示の方法に
よることが適当と考えられるとしているに過ぎず,そこに例示
された表示方法を採用すべきことを強制しようとまでするもの
でないことは,その文言自体からして明らかである。
一般消費者に生ずる不利益
 消費税の導入に伴って書籍の出版業者が定価表示の変更等の
ために新たな経費負担を強いられることとなったときは,出版
業者がそれに対応する負担増を消費者に対して求めたとして
も,それが直ちに独占禁止法の規定にいう「消費者の利益を不
当に害することとなる場合」に当たるものではない。
被告公正取引委員会の事務当局者による指導等の適否
 国家賠償法第1条第1項(国の公務員の違法な公権力の行使)
 被告公正取引委員会の事務当局者による消費税法施行後の法
定再販商品たる書籍の定価の表示方法についての見解あるいは
本件公表文に示された独占禁止法の規定の解釈等が違法なもの
とは考えられないのであるから,被告公正取引委員会による指
導あるいは本件公表文の公表が,国家賠償法第1条第1項にい
う国の公務員の違法な公権力の行使には当たらない。
 被告公正取引委員会の事務当局者による被告公正取引委員会
見解の強要
 消費税法施行後の法定再販商品たる書籍の定価の表示方法に
関する被告公正取引委員会側の見解の内容自体は何ら違法なも
のとは認められず,しかも,被告公正取引委員会の事務当局者
と出版4団体代表者又は原告らの加入する出版流通対策協議会
幹部らとの面談における被告公正取引委員会の事務当局者の発
言の内容も,原告らの側からすれば場合によっては法改正につ
ながるというニュアンスのものに受け取れたという程度のもの
であって,それ以上に具体的な内容を持つものではなかったこ
とが認められるし,臨時行政改革審議会(行革審)において,
現に「再販商品につき一般消費者の利益を不当に害しないよう
限定的,厳正な運用を行うとともに,今後そのあり方について
検討する。」との内容の答申が出されていたことからすれば,
被告公正取引委員会の事務当局者が上記答申の内容に言及した
ことをもって,違法な強要に当たるものとすることは,到底困
難である。
結語
 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,原告ら
の被告国に対する国家賠償の請求は,理由がないものとして棄却
を免れない。