第4章 流通・取引慣行等に関する 競争政策上の対応
第1 流通・取引慣行等の独占禁止法上の指針の作成
(1) | 流通・取引に関する慣行は,歴史的,社会的背景の中で形成されてきた ものであり,世界の各国において様々な特色を持っているが,その在り方 については,常に見直され,より良いものへと変化していくことが求めら れている。我が国の流通・取引慣行についても,国民生活に真の豊かさが 求められ,また,経済活動がグローバル化し我が国の国際的地位も向上す る中で,消費者の利益が一層確保され,我が国市場が国際的により開放的 なものへと変化していくことが求められている。そのためには,公正かつ 自由な競争を促進し,市場メカニズムが十分に機能し得るようにしていく ことが重要であり,具体的には,①事業者の市場への自由な参入が妨げら れず,②それぞれの事業者の取引先の選択が自由かつ自主的に行われ,③ 価格その他の取引条件の設定がそれぞれの事業者の自由かつ自主的な判断 で行われ,④価格,品質,サービスを中心とした公正な手段による競争が 行われることが必要である。 このような観点から,公正取引委員会は,我が国の流通・取引慣行につ いて,どのような行為が公正かつ自由な競争を妨げ独占禁止法に違反する のか具体的に明らかにすることにより,事業者及び事業者団体の独占禁止 法違反行為の未然防止とその適切な活動に役立てるため,「流通・取引慣 行に関する独占禁止法上の指針」(ガイドライン)を作成し,平成3年7月 11日公表している。 公正取引委員会は,現在,このガイドラインの周知徹底に努めるととも に,流通・取引慣行に係る事前相談制度を設置し,個々の具体的なケース について,事業者又は事業者団体からの個別の相談に応じることによっ て,事業者等の独占禁止法違反行為の未然防止等を図っている。 |
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(2) | ガイドラインは,第1部「事業者間取引の継続性・排他性に関する独占 禁止法上の指針」,第2部「流通分野における取引に関する独占禁止法上 の指針」,第3部「総代理店に関する独占禁止法上の指針」によって構成 され,その内容は以下のとおりである。
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第2 流通・取引慣行ガイドラインに基づく事前相談制度の状況
当委員会は 平成3年7月,「流通・取引慣行ガイドラインに.関する独占
禁止法上の指針」を公表するとともに,流通・取引慣行に係る事前相談制度
を設けた。本制度に基づき,事業者又は事業者団体が実施しようとする流通
・取引慣行に関する行為について,文書により個別に相談に応じている。
本年度における事前相談件数は2件であった。そのうち,1件の概要は次
のとおりである。
ある医薬品の特許権者である外国法人がその医薬品の通常実施権をA,B
両医薬品メーカー(A社は当該外国法人と100%の株式所有関係で結合して
いる。)に許諾するに際し,その販売先をA社は病院向けに,B社は開業医
向けに限定する行為について相談が寄せられた。
本件相談に係る行為を独占禁止法上の規定に照らして判断すると,
1. | 被許諾者の販売先を制限する行為については,①当該医薬品市場にお いて,A,B両社は有力な事業者には当たらないこと,②制限の対象と なる医薬品は同市場への新規参入商品であること,③同市場においては 常に新薬が開発され競争が活発であることから,現時点においては,本 件行為によって,当該医薬品市場における競争が減殺されるおそれはな いと認められるので,不公正な取引方法には該当しない。 |
2. | 本件行為を実施するためには,A,B両社はそれぞれ取引先卸売業者 の販売先を制限することになるが,A,B両社は有力な事業者に当た らないこと,それぞれの取引先卸売業者はほとんどすべての医薬品メー カーと取引していること及び上記②,③の事実から,現時点において は,本件行為によって,当該医薬品の価格が維持されるおそれはない と認められるので,不公正な取引方法には該当しない。 |
3. | なお,当該外国法人と100%の株式所有関係で結合しているA社との 取引は,実質的に内部取引に該当するが,A社は当該行為を履行するた めには取引先である卸売業者の販売先を制限しなければならなくなり, 実質的に親会社である外国法人の行為は不公正な取引方法による規制の 対象となるものである。 しかしながら,本件行為は,上記1及び2のとおり,公正競争阻害性 がなく不公正な取引方法には該当しない。 以上から,本件相談に係る行為は独占禁止法第19条の規定に抵触する ものではない旨回答し,公表した。 |