第12章 再販売価格維持契約

第1 概   説

 再販売価格維持契約(以下「再販契約」という。)とは,商品の供給者
が,その商品の取引先である事業者に対して転売する価格を指示し,これを
遵守させる行為(以下「再販行為」という。)を内容とする契約である。
 再販行為は,不公正な取引方法(再販売価格の拘束,一般指定12項)に該
当し,原則として,独占禁止法第19条の違反に問われるものであるが,同法
第24条の2の規定により,おとり廉売の防止等の観点から,当委員会が指定
する特定の商品(以下「再販指定商品」という。)及び著作物を対象とする
ものが例外的に同法の適用除外とされている。
 当委員会は,同法第24条の2の規定に基づき.昭和28年から昭和34年の間
に化粧品,染毛料,歯磨,家庭用石けん・合成洗剤,雑酒,キャラメル,医
薬品,カメラ,既製エリ付きワイシャツの計9商品を指定したが,昭和41年
以降徐々にその削減を図り,現在の再販指定商品は,一般用医薬品(26品
目)及び小売価格が1,030円以下の化粧品(24品目)に限られている。
 独占禁止法の適用を除外される行為は,「再販売価格を決定し,これを維
持するためにする正当な行為」であるが,「一般消費者の利益を不当に害す
ることとなる場合」及び 「その商品を販売する事業者がする行為にあっては
その商品を生産する事業者の意に反してする場合」には,適用除外とならな
い。また,再販指定商品及び著作物のいずれについても,消費者,勤労者の
互助を目的とする消費生活協同組合等の団体に対して販売する場合には,再
販行為は適用除外とならない。
 再販指定商品について再販契約を実施しようとする事業者は,その契約の
内容を当委員会に届け出ることが義務付けられているが,著作物について
は,その届出義務はない。

第2 再販指定商品の見直し等

経   緯
 公正取引委員会は,平成3年7月,「政府規制等と競争政策に関する研
究会」から,
(1)  再販指定商品である化粧品(24品目)及び一般用医薬品(26品目)に
ついては,早急に必要な調査を行い,消費者,関係業界等から広く意見
を聞きつつ,指定の取消しを含め抜本的な見直しを行うべきである。
(2)  レコード盤,音楽用テープ及び音楽用CD(以下「音楽用CD等」と
いう。)については,早急に必要な調査を行い,消費者,関係業界等か
ら広く意見を聞きつつ,当研究会が指摘した問題について更に検討を進
め,再販が認められる著作物として取り扱うかどうかについて明確にす
べきである。
との提言を受けた。また,物価問題あるいは規制緩和の観点から,臨時行
政改革推進審議会,経済審議会構造調整部会物価委員会等において,再販
適用除外制度を限定的かつ厳正に運用するとともに同制度の在り方を検討
すべきであるとの提言が行われた。
 当委員会は,これを受けて,再販適用除外制度の本来の趣旨,今日の我
が国経済の状況を勘案しつつ,再販適用除外制度の見直しに関して,平成
3年9月から11月にかけ,化粧品及び一般用医薬品並びに音楽用CD等に
ついて,メーカー団体,メーカー,小売業者団体等から広くヒアリングを
行ったほか,消費者団体,消費者に対しても,ヒアリング,書面調査を行
うとともに,海外主要国における再販適用除外制度の状況等についても調
査を行い,同年12月,調査結果を公表した。さらに,同年12月25日に開催
した公聴会等を通じて,関係事業者,消費者,学識経験者等から広く意見
を聴取し,また,所管官庁の意見も聞いた上で,平成4年4月15日,再販
指定商品の見直し及び音楽用CD等の再販適用除外の取扱いについて,そ
の検討結果を公表した。
再販指定商品の見直し
(1)  再販指定商品は,おとり廉売等の不公正な取引から小売業者等の利益
を守るとともに,メーカーの商標の信用保持にも役立つものとして認め
られたものであるが,今日これらの商品のみを特別視して再販適用除外
を認めていることは 種々の観点から問題が多いと考えられる。
 現行の再販指定商品は,指定以来約40年,また,昭和48年の見直し以
来既に18年経過しているが,我が国の社会・経済環境はこの間大きく変
容してきていることにかんがみ,現時点において法律上の指定要件,と
りわけ「当該商品について自由な競争が行われていること」という要件
に適合しているかどうかについて改めて検討を行う必要がある。このこ
とは,同種の商品についてメーカー間において自由な競争が行われてい
る限り,再販行為の弊害を最小限にとどめることが可能であると解され
ていることによるものである。
 しかし,近年の状況をみると,メーカー段階における寡占化と再販行
為とがあいまって,流通機構の効率化が阻害される等その弊害が現れて
きており,競争政策上の問題が生じてきている。また,再販適用除外制
度の取扱いについての諸外国の状況をみても,我が国において同制度が
設けられた昭和28年当時と現在とでは状況が大きく変わり,全面的廃止
ないし縮小の方向にある。
(2)  前述のとおり,再販指定商品に係る再販適用除外は,生産・流通段階
を通じ長年にわたって実施されてきた制度であり,その下で現在の流通
秩序が形成されてきたとの経緯もある。再販適用除外が認められている
ためもあって,化粧品及び医薬品小売業においては 小売業の中でも中
小零細小売店が多く,国際的にみても店舗密度が高い等の特徴が生じて
おり,流通機構,特に小売段階の効率化が阻害されているといった弊害
が現れてきている。
 他方,公聴会等の場を通じて,再販指定商品の見直しに対して,流通
段階 特に小売業者を中心に,おとり廉売に対する不安等流通の混乱に
対する危惧が強く表明された。
 競争政策の観点からは,再販指定商品については廃止を含め抜本的な
見直しを行うべきものと考えるが,一挙に指定を取り消すことは,再販
適用除外制度に長い間慣れてきた関係業界 なかんずく小売段階の流通
秩序に不測の混乱を招くおそれがあるとも考えられるので,円滑な移行
が行われるよう段階的に整理することが適当であると考え,当面,
 メーカー段階における寡占の程度が極めて高く,かつ,再販契約の
対象となっている商品の出荷額の割合が高い品目については独占禁止
法の適用除外とする弊害が大きいこと
 再販契約の対象となっている商品の出荷額が小さい品目な指定取消
しによる影響が小さいとみられること
から,これらの条件に該当する化粧品12品目及び養毛料のうちリンス並
びに一般用医薬品12品目の指定を取り消すこととした(第1表参照)。
 以上の措置の結果,メーカー出荷額(平成2年)でみて,再販契約の
対象となっている化粧品の約4割,一般用医薬品の約7割が指定を取り
消されることとなる。また,品目数でみると,現在指定されている品目
のおおむね半数が指定を取り消されることとなる。
 指定取消しの対象となる品目については,経過措置として,平成5年
3月31日までの間は再販行為の存続が認められるものとする。ただし,
混合ビタミン剤及び総合代謝性製剤については,中小零細小売店がこれ
らの品目の販売に依存する割合が大きいことにかんがみ,平成6年12月
31日までの間は再販行為の存続が認められるものとする。
 また,指定取消しの対象とならなかった品目については,再販指定商
品縮小後の状況,流通実態を勘案しつつ,平成10年中に見直しを行
う。
(3)  再販指定商品の縮小に伴い,化粧品及び医薬品小売業において問題と
なる可能性のある不当廉売,とりわけ一部の商品のみを著しく安い価格
で販売することにより顧客の誘引を図るいわゆるおとり廉売やおとり広
告に対する効果的な規制に努めることとする。
(4)  以上の方針に基づき,平成4年5月1日,化粧品を再販指定商品に指
定する告示及び医薬品を再販指定商品に指定する告示を全部改正した。
音楽用CD等の再販遼用除外の取扱い
(1) 音楽用CD等の再販適用除外の取扱い
 公正取引委員会は,音楽用CD等の再販適用除外の取扱いに関し,以
下のとおり見解を取りまとめた。
 独占禁止法第24条の2第4項に規定する「著作物」の範囲が著作権
法上の「著作物」と一致すべきかどうかについては,法解釈上種々の
見解があるところであるが,当委員会は,立法当初から,再販適用除
外が認められる著作物の範囲については,著作権法上の著作物と同一
のものと解する必要はなく,立法趣旨,商品特性,諸外国の動向等を
考慮して,書籍,雑誌,新聞,レコード盤及び音楽用テープであると
解釈してきている。
 また,当委員会は,再販適用除外制度については,独占禁止法上原
則として禁止されている再販行為に対する例外的措置であることから
厳格な取扱いが行われるべきであり,再販適用除外が認められる著作
物の範囲は限定的に解されるべきであると考えている。
 音楽用CDについてみると,昭和57年ごろから販売が開始された商
品であり,これをレコード盤と同一視できるかどうかについては議論
のあるところであり,また,当委員会の音楽用CD等に関する実態調
査や公聴会等においても,種々の問題が指摘されているところであ
る。
 他方,音楽用CDはしコード盤の代替商品であり,その延長線上に
あると認識されてきた側面もあることは否定できない。
 前述のとおり再販適用除外が認められる著作物の範囲について法解
釈上種々の見解があることやレコード盤と音楽用CDとの関係につい
て種々の認識があることのほか,今後,新しい情報媒体を含む新商品
が現れるたびに再販適用除外が認められる著作物の範囲が問題となる
おそれがあること等から,当委員会は,この際 独占禁止法上再販適
用除外が認められる著作物の取扱いを明確にするためには,法的安定
性の観点から,立法措置によって対応するのが妥当であるとの結論に
達した。このため,当委員会としては,今後,再販適用除外が認めら
れる著作物の範囲について幅広い角度から総合的な検討に着手するこ
ととする。
 なお,音楽用CDについては,立法措置によってその取扱いが明確
にされるまでの間, 当面,レコード盤に準じて取り扱われることとな
る。
(2) 音楽用CD等に対する弊害規制
 当委員会は,レコードメーカーに対し,前記音楽用CD等の再販適用
除外の取扱いに関する見解を通知し,公表するとともに,併せて,公聴
会等において音楽用CD等について次のような問題が指摘されているこ
とにかんがみ,一般消費者の利益を確保する等の観点から,メーカー各
社が自主的に改善努力を行うよう要請した。
 音楽用CD等の価格は,発行枚数の多寡等と関係なく,各社ともほ
ぼ同一水準に設定されており,しかも,近年の需要の著しい増大にも
かかわらず下方硬直的であり,国際的にみても割高になっているので
はないか。

 発売当初の価格で売れなくなった音楽用CD等は,メーカーにより
回収され,全量廃棄されているが,価格を引き下げればまだ需要はあ
るのではないか。
 この要請を受けて,レコードメーカーは,次の措置を講ずることとし
た旨を当委員会に報告してきている。
 各社は,音楽用CD等の小売価格について,それぞれ自主的な価格
設定を行うとともに,その引下げに努力する。.
 各社は,発売後一定期間(2年以内)を経過した音楽用CD等につ
いて,小売業者が自由な価格で販売できるようにするための仕組み
(いわゆる時限再販制度)を平成4年(11月ごろ)に導入する。
 各社は,従来回収され廃棄されていた音楽用CD等を消費者に安価
に提供できるようにするため,平成4年秋以降 全国で即売会を開催
するほか,将来はこれらの音楽用CD等が円滑に流通するよう努め
る。

第3 再販契約の弊害規制

 再販指定商品については,既に再販契約を実施している商品の価格変更及
び新規に再販契約を実施しようとする商品の申請があった場合は その商品
の原価,競合品の価格等を検討し,不当な価格設定が行われ,消費者の利益
が不当に害されることのないよう監視及び指導を行っている。
 本年度における再販指定商品で既に再販契約を実施している商品及び新規
に再販契約を実施しようとする商品の販売価格に関する事前相談は61件あっ
た。
 また,再販行為が許容される書籍,雑誌等の著作物についても,消費者の
利益が不当に害されることのないようその実態把握に努め,必要に応じ業界
への指導を行っている。

第4 再販契約の実施状況

 本年度における再販契約に関する届出受理件数は,変更届105件,成立届
2件であった。
 平成3年12月末日現在において再販契約を実施中のものは,57事業者,
2,817商品であり,前年に比べ化粧品は253商品,医薬品は9商品増加した
(第2表)。