第3章 審判及び訴訟

第1 審   判

 本年度における審判事件数は,前年度から引き継いだもの12件,本年度中
に審判開始決定を行ったもの4件の計16件である。16件の内訳は,独占禁止
法違反被疑事件が14件,景品表示法違反被疑事件が2件である。本年度中
に,独占禁止法違反被疑事件2件,景品表示法違反被疑事件2件(うち1件
は,同意審決)について審決を行った(本章第2及び第3参照)。
 本年度末現在において審判手続係属中の事件は,下表の12件である。



第2 審判審決

平成元年(判)第1号東芝ケミカル株式会社に対する審決
(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が東芝ケミカル株式会社(以下「東芝ケミカル」
という。),日立化成工業株式会社(以下「日立化成」という。),松下電
工株式会社(以下「松下電工」という。),住友ベークライト株式会社
(以下「住友べーク」という。),利昌工業株式会社,鐘淵化学工業株式
会社,新神戸電機株式会社及び三菱瓦斯化学株式会社の8社(以下,
東芝ケミカルを除く7社を「同業7社」という。)に対し,独占禁止
法第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,同業7社は,こ
れに応諾したので,同業7社に対し平成元年8月8日,同条第4項の規
定に基づき,当該勧告と同趣旨の審決を行ったが,東芝ケミカルは,勧
告を応諾しなかったので,同社に対し同法第49条第1項の規定に基づ
き,審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものであ
る。
 本件について,当委員会は,平成4年9月16日に東芝ケミカルに対し
て審決(旧審決)を行っているが,同社から審決取消等請求訴訟(一次
訴訟)が東京高等裁判所に提起きれ,同裁判所は,平成6年2月25日,
旧審決を取り消し,事件を当委員会に差し戻す旨の判決(判決の概要
は,本章第4のとおりである。)を行ったため,当委員会は,東芝ケミ
カルから提出された異議の申立書及び審決案を更に新たに調査し,審決
を行ったものである(なお,本件については,平成6年6月24日に審決
取消し等を求める訴えが提起され,本年度末現在,東京高等裁判所に係
属中である(本章第4参照)。)。
(3) 認定した事実の機要
 東芝ケミカルは,紙基材フェノール樹脂銅張積層板の製造販売業を
営む者であり,そして同業7社は,紙基材フェノール樹脂銅張積層板
又はこれと同等品である紙基材ポリエステル樹脂銅張積層板(以下
「紙フェノール銅張積層板」という。)の製造販売業を営む者であ
る。東芝ケミカル及び同業7社(以下「8社」 という。)の紙フェ
ノール銅張積層板の国内向け供給量の合計は,我が国における紙フェ
ノール銅張積層板の総供給量のほとんどすべてを占めている。
 8社は,熱硬化性樹脂製造業を営む者をもって組織される合成樹脂
工業協会(以下「合協」という。)に加入しており,合協の品目別部
会の一つで各社の担当役員級の者で構成されている積層板部会(以下
「部会」という。)に所属している。
 部会の下部機関として,各社の部課長級の者で構成される業務委員
会及び海外委員会並びに各社の部課長,支店長,営業所長級の者で構
成される大阪委員会,名古屋委員会が設置されている。
 紙フェノール銅張積層板の販売価格は,輸出価格についてはドル建
てであったため,昭和60年秋以降のいわゆる円高の影響により採算が
悪化し,国内需要者向け価格についても,円高により輸出不振に陥っ
ていた最終需要者であるセットメーカーがコストダウンを図り,同積
層板のユーザーであるエッチングメーカー等に再三値引の要求を行っ
たため,昭和61年初めごろから下落傾向を続けていた。また,同年秋
ごろからは,フェノール,銅箔等の積層板の原材料の価格も上昇傾向
を示すなど 8社とも販売価格の下落防止,その引上げが強く要請さ
れる状況であった。そして,国内需要者向け価格の引上げのために
は,国内向けよりも安くなった輸出価格を引き上げることが先決で
あった。
 東芝ケミカルは,上記事情に加えて,昭和62年当時,同社の株式の
東京証券取引所第二部への上場申請を目前に控えていたため,予算を
計画どおり達成し,収益の確保を継続的に図る必要があった。
8社の属する積層板業界は,日立化成,松下電工及び住友べーク
(以下「大手3社」という。)が紙フェノール銅張積層板の国内向け
販売量の約70パーセントのシェア(昭和62年当時)を占め,大手3社
の動向に大きく影響される状況にあった。
 8社は,昭和62年初めごろから部会等において,紙フェノール銅張
積層板を含むプリント配線板用銅張積層板の販売価格の引上げについ
て意見交換を行ってきた。
 昭和62年4月20日,住友べークから紙フェノール銅張積層板の国内
需要者渡し価格を現行価格より1平方メートル当たり300円又は15
パーセントを目途に引き上げる旨の提案がされ,更に上記値上げ案に
ついて部会,業務委員会等で意見交換を行ってきた。
 輸出価格の値上げ動向が昭和62年6月10日ごろ判明すること等を受
け,6月10日,臨時部会(以下「本件臨時部会」という。)におい
て,輸出価格の動向等を踏まえ,8社はプリント配線板用銅張積層板
の国内需要者渡し価格の引上げについて意見交換を行い,日立化成か
ら,7月10日出荷分から紙フェノール銅張積層板の国内需要者渡し価
格を現行価格より1平方メートル当たり300円又は15パーセントを目
途に引き上げることが表明されたことを契機に,松下電工からは6月
21日出荷分から,住友べークからは7月1日出荷分から,同様に値上
げすることが各表明された。残る5社については,大手3社の関係者
から大手3社に追随して同年7月末までを目標として,同様に値上げ
を実施するように要請されたが,上記要請に対し東芝ケミカルを含め
各社反対の意見は出なかった。
 なお,同年6月22日,大手3社は,合意の上で前記の値上げの実施
時期を日立化成については7月10日を7月15日に,松下電工について
は6月21日を7月10日に各変更した。
 東芝ケミカル及び同業他社は,本件臨時部会後,本件紙フェノール
銅張積層板の値上げを社内に指示等し,また需要者らに対し上記値上
げを通知し,その要請をしている。
 昭和62年7月20日,主要なエッチングメーカーと積層板のメーカー
との懇親のための会合であるST会において,東芝ケミカルは,同業
他社とともに主要な需要者に紙フェノール銅張積層板1平方メートル
当たり15パーセント又は300円の値上げを要請した。
 昭和62年7月28日の大阪委員会,同年8月10日,8月21日,8月31
日の名古屋委員会等において,東芝ケミカルは,主要な需要者に対す
る値上げについて同業他社とその交渉経過を報告し合い,値上げの具
体策の打合せをした。
 平成元年8月8日,当委員会は同業7社に対し,前記オの事実に係
る昭和62年6月10日に行った紙フェノール銅張積層板の国内需要者渡
し価格の引上げに関する決定の破棄等を命ずる審決をし,前記のころ
同業7社は,同審決に従って前記決定を破棄した。
(4) 法令の適用
 東芝ケミカルは,同業7社と共同して紙フェノール銅張積層板の国内
需要者渡し価格の引上げを決定することにより,公共の利益に反して,
紙フェノール銅張積層板の販売分野における競争を実質的に制限してい
たものであって,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引
制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。
(5) 命じた主な措置
 東芝ケミカルは,昭和62年6月10日,同業7社と共同して紙フェノー
ル銅張積層板の国内需要者渡し価格を引き上げることを決定したが,こ
の決定は破棄されたこと及び今後,共同して紙基材フェノール樹脂銅張
積層板の国内需要者渡し価格を決定せず,自主的に決めることを紙基材
フェノール樹脂銅張積層板の取引先販売業者及び需要者に周知徹底させ
なければならない。
昭和59年(判)第1号三菱電機ビルテクノサービス株式会社ほか5名に
対する審決
(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が上記被審人6社(以下「6社」という。)に対
し,独占禁止法第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,6社
はこれに応諾しなかったので,6社に対し,昭和59年4月20日,同法第
49条第1項の規定に基づき,審判開始決定を行い,審判官をして審判手
続を行わせたものである。
 当委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,これを適当と
認めて審決案の内容と同じ審決を行った。
(3) 認定した事実の概要
 6社は,いずれも昇降機(エレベーター,エスカレーター及びダム
ウェーターをいう。以下同じ。)等の保守(点検を含む。以下同じ。)
業等を営む事業者であり,6社が保守を行っている昇降機の保守台数
の合計は,我が国における昇降機の総保守台数の大部分を占めてい
る。昇降機に関する顧客との保守契約には,フルメンテナンス契約
(以下「FM契約」という。)とパーツ・オイル・グリース契約,い
わゆる点検契約(以下「POG契約」という。)の2種類があり,
FM契約は,給油,調整,清掃の外,意匠部品等の若干の部品を除
き,他のすべての部品交換を含めた長期間の点検,検査,修理に至る
一連の保守業務を平準化された料金により行うものであり,POG契
約は 点検,給油,調整,清掃の外,若干の消耗品の交換,オイル類
の補充を平準化された料金で行い,部品や大量のオイルの交換は別途
料金を徴収するものである。
 6社は,それぞれFM契約あるいはPOG契約を締結するに当たっ
て顧客に提示する昇降機保守料金を,昇降機の機種ごとに標準的な階
床(階高)に応じた月額料金を設定している標準保守料金表の料金を
基準として,停止階床等に係る増減や特殊仕様等に係る増減を行うな
どして算出している。
 6社は,昭和52年ごろから各社の営業担当課長級の者による「二十
日会」を設け,おおむね月1回の会合を開き,また,三菱,日立,東
芝,日本オーチスの業界上位4社は,昭和56年ごろから各社の営業担
当部長級の者による「十日会」を設け,おおむね2カ月に1回会合を
開き,それぞれ昇降機の保守料金,中小の保守業者の動向,安全対策
等に関する情報交換を行っていた。
 昭和57年3月末ごろ,三菱及び日立により昭和58年度の昇降機の保
守の標準料金を改定する必要性が確認され,同年7月22日,6社の二
十日会メンバーが出席し,昭和58年度の保守の標準料金の引上げ幅に
ついての意見交換がされた。業界1位のシェアを占める三菱は,同年
8月初旬から半ばにかけて業界2位の日立と昭和58年度の保守の標準
料金の改定案について情報交換をし,日立の改定案を参考に自社の改
定案を調整して,同年8月19日ごろ担当部署において改定案を一応内
部的に決定した後,自社の改定案を他の5社に個別に伝え,5社から
それぞれ昭和58年度の改定案について連絡を受けた。同年8月31日に
は,6社が会合し,他の議案とともに昭和58年度の保守の標準料金案
について話合いがもたれた。
 6社は,同年9月以降,昭和58年度の保守の標準料金表(ただし,
うち2社は案の作成にとどまっている。)を作成したが,このうち4
社の標準料金表の料金は,審査官が決定したと主張する料金と異なっ
ている。
(4) 法令の適用
 本件については,審査官主張の違反事実を認めることができないこと
から,被審人らの本件行為については,独占禁止法第3条の規定に違反
する事実を認めることはできない。
 平成5年(判)第1号東京もち株式会社に対する審決
(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が景品表示法第6条第1項の規定に基づき,東京も
ち株式会社(以下「東京もち」という。)の販売する包装もちの品質に
ついての表示が同法第4条第1号に違反するとして行った排除命令につ
いて,東京もちがこれを不服として審判開始の請求を行ったので,同社
に対し同法第8条第2項の規定に基づき,審判開始決定を行い,審判官
をして審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,東京もちが平成6年3月30日担当審判官の作成した審決
案に異議の申立てを行うとともに独占禁止法第53条の2の2の規定に基
づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,同年7月28日に東京
もちから陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決を行ったものである
(なお,本件については,平成6年10月19日に審決取消しを求める訴え
が提起され,本年度末現在,東京高等裁判所に係属中である(本章第4
参照)。)。
(3) 認定した事実の概要
 東京もちは,包装もち等の製造販売業を営む事業者であり,「杵つ
き生きり餅」と称する1キログラム入りの包装もちを昭和62年9月か
ら製造し,卸売業者等を通じて,主に関東,東海及び関西の地域の一
般消費者に販売している。
 東京もちは,前記商品の包装袋に「純もち米100%使用」,「原材料
名 水稲もち米」及び「本品は厳選したもち米が原料の『きねつき』
による本格製法の生もちです。」と記載し,あたかも,当該商品がも
ち米のみを原材料として製造されたもちであるかのように表示してい
る。
 ところが,前記商品は,原材料として,もちとうもろこしでん粉が
約15パーセントの割合で使用されていたものであり,もち米のみを原
材料として製造されたものではない。
 本件について,当委員会が調査を開始したところ,東京もちは,前
記商品の原材料としてもちとうもろこしでん粉を使用することを取り
やめており,平成4年5月ごろ以降,原材料としてもちとうもろこし
でん粉を使用した当該商品は販売されていない。
(4) 法令の適用
 東京もちは,前記商品の品質について,実際のものよりも著しく優良
であると一般消費者に誤認されるため,不当に顧客を誘引し,公正な競
争を阻害するおそれがあると認められる表示をしていたものであって,
これは景品表示法第4条第1号の規定に違反するものである。
(5) 命じた主な措置
 東京もちは,①一般消費者の誤認を排除するために,前記商品の包装
袋に「純もち米100%使用」等と表示していたが,実際には,当該商品
の原材料の一部としてもちとうもろこしでん粉を使用していた旨を速や
かに公示しなければならず,②今後,原材料にもちとうもろこしでん粉
を混入した包装もちを販売する場合には,当該商品にもちとうもろこし
でん粉が混入されていないものと一般消費者に誤認される表示をしては
ならない。