第12章 適用除外カルテル等

第1 概   説

独占禁止法適用除外制度の概要
 独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することによ
り,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達
を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取
引制限,不公正な取引方法等を禁止しているが,他方,ー定の経済目的を
達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規
定等の適用を除外するという独占禁止法適用除外制度を設けている。
 独占禁止法適用除外制度の根拠規定は,①独占禁止法自体に定められて
いるもの,②私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外
等に関する法律(以下「適用除外法」という。)に定められているもの,
③独占禁止法及び適用除外法以外の個別の法律に定められているものに分
けることができる。
(1) 独占禁止法に基づく適用除外制度
 独占禁止法は,①自然独占に固有な行為(第21条),②事業法令に基
づく正当な行為(第22条),③無体財産権の行使行為(第23条),④一定
の組合の行為(第24条),⑤著作物等の特定商品についての再販売価格
維持行為(第24条の2),⑥不況に対処するためのカルテル(第24条の
3),⑦企業合理化のためのカルテル(第24条の4)をそれぞれ同法の
禁止規定の適用除外としている。
(2) 適用除外法に基づく適用除外制度
 適用除外法は,①陸上交通事業調整法等の法律又はその条項等を掲
げ,これらの法令の規定又は法令の規定に基づく命令によって行う正当
な行為を独占禁止法の適用除外とし(第1条),また,②水産業協同組
合法等特定の法律に基づいて設立された協同組合その他の団体及び一定
の要件を満たす団体を独占禁止法第8条の規定の適用除外としている
(第2条)。
(3) 個別法律に基づく適用除外制度
 独占禁止法及び通用除外法以外の個別の法律において,特定の事業者
又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているもの
として,現在,中小企業団体の組織に関する法律,輸出入取引法等28の
法律がある。
 独占禁止法適用除外制度に係る法律の数は,適用除外法に掲げられた
法律等を含めると,本年度末現在40に上っているが,その大部分は昭和
20年代又は昭和30年代に制定され,又は適用除外の規定が加えられたも
のであり,その数は次第に減りつつある。
 なお,個別法による独占禁止法適用除外制度については,これまでの
累次の閣議決定等において,これを見直す旨決定されてきており,最近
でも政府は,規制緩和推進計画(平成7年3月31日閣議決定)において
「個別法による独占禁止法の適用除外カルテル等制度については,平成
10年度末までに原則廃止する観点から見直しを行い,平成7年度末まで
に具体的結論を得る。また,その他の適用除外カルテル等制度について
も,引き続き,必要な検討を行う」こととされている。
適用除外カルテル制度の概要
 独占禁止法適用除外制度により独占禁止法の禁止規定等の適用が除外さ
れている行為としては,カルテルが大部分を占めており,本年度末現在,
36の法律において,55のカルテル制度が独占禁止法の適用除外とされてい
る。これらの独占禁止法適用除外カルテルが許容されている理由は,おお
むね次の5類型に分類される。
(1)  政府規制分野において,規制目的を補完するための手段等として協定
等が行われるもの(海上運送法,航空法等に基づく運輸カルテル,損害
保険料率算出団体に関する法律に基づく保険料率カルテル等)
(2)  大企業との取引上あるいは競争上劣位に置かれやすい中小企業の立場
を補強する必要から一定の範囲内で共同行為を認めるもの(独占禁止法
第24条の規定に基づく一定の組合の行為,中小企業等協同組合法等に基
づく共同経済事業等)
(3)  貿易関係の分野における貿易摩擦の回避,過度の輸出競争及び輸入競
争の防止等,公正な貿易秩序を維持するため,一定の範囲内でカルテル
を認めるもの(輸出入取引法に基づく輸出・輸入カルテル等)
(4)  深刻な不況により産業界に回復し難い打撃を与えるなどのおそれがあ
る場合にカルテルを認めるもの(独占禁止法に基づく不況カルテル,中
小企業団体の組織に関する法律に基づく安定事業)
(5)  企業の合理化のためにカルテルを認めるもの(独占禁止法に基づく合
理化カルテル,中小企業団体の組織に関する法律に基づく合理化事業
等)
 これらの独占禁止法適用除外カルテルのうち,独占禁止法に基づく不
況カルテル及び合理化カルテルについては,当委員会が認可を行ってお
り,また,特定の事業についての法律に基づくものは,一般に,当委員
会の同意を得,又は当委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認
可を行うこととなっている。
 また,独占禁止法適用除外カルテルの認可については,一般に,不況
の克服等当該適用除外カルテル制度の目的を達成するために必要である
こと等の積極的要件のほか,当該カルテルが行き過ぎて弊害をもたらさ
ないように,カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこ
と,不当に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれ
の法律により必要とされている。
 さらに,このような適用除外カルテルは,不公正な取引方法に該当す
る行為が用いられた場合等には,独占禁止法の適用除外とはならないと
されている。
通報除外カルテルの動向
 当委員会が認可し,又は当委員会の同意を得,若しくは当委員会に協議
若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は,昭和
40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテル
のように,同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ご
とにカルテルが締結されている場合等に,同一業種についてのカルテルを
1件として算定すると,件数は415件)をピークに減少傾向にあり,本年
度末現在では,53件(同20件)となった。そのうち,環境衛生関係営業の
運営の適正化に関する法律及び輸出入取引法に基づくカルテルが大部分を
占めている。

第2 独占禁止法に基づく適用除外カルテル

不況に対処するためのカルテル
 独占禁止法は,第3条及び第8条において事業者及び事業者団体による
カルテルを原則的に禁止しているが,同法第24条の3において不況が深刻
化した場合には,厳格な認可要件の下に,一時的,例外的に不況に対処す
るため生産業者等が当委員会の認可を得て行うカルテル(以下「不況カル
テル」という。)を認めている。
 しかしながら,平成元年10月以降,不況カルテルは実施されていない。
企業合理化のためのカルテル
 独占禁止法は,第24条の4において技術の向上,品質の改善,原価の引
下げ,能率の増進その他企業の合理化を遂行するため,特に必要がある場
合には,需要者の利益を害するおそれがないこと等一定の条件の下に,生
産業者等が,技術若しくは生産品種の制限,原材料若しくは製品の保管若
しくは運送の施設の利用又は副産物,くず若しくは廃物の利用若しくは購
入に係るカルテル(以下「合理化カルテル」という。)を当委員会の認可を
得て実施することを認めている。
 しかしながら,昭和57年1月以降,合理化カルテルは実施されていな
い。

第3 特別法に基づくカルテル等

概    要
 本年度において,特別法に基づき主務大臣から当委員会に対し同意を求
め,又は協議,通知のあったカルテル等の処理状況は第1表のとおりであ
り,このうち主な特別法に基づくカルテル等の動向は,次のとおりであ
る。
 なお,中小企業団体の組織に関する法律,環境衛生関係営業の運営の適
正化に関する法律,砂糖の価格安定等に関する法律,卸売市場法,港湾運
送事業法,内航海運組合法,酒税の保全及び酒類業組合に関する法律,真
珠養殖等調整暫定措置法及び果樹農業振興特別措置法に基づくカルテルに
関する同意,協議等は1件もなかった(第1表)。



中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテル
 中小企業団体の組織に関する法律に基づき商工組合が安定事業又は合理
化事業を行う場合には,調整規程を設定し,主務大臣の認可を受ける必要
があり,主務大臣はその認可に際して当委員会に協議等をしなければなら
ないこととなっている。
 本年度において,主務大臣から協議等を受けたものはなく,また,同法
に基づき唯一実施されていた日本金属洋食器工業組合の安定事業に係る調
整規程が期限到来をもって終了した(第2表)。これにより,同法に基づ
く調整規程は全廃された。

輸出入取引法に基づくカルテル
 本年度において,輸出入取引法に基づき新規に設定されたカルテルはな
く,本年度中に終了したカルテルは7件であり,本年度末現在における同
法に基づくカルテルの件数は12件となっている(第3表)。


 また,本年度において新規に定められたアウトサイダー規制命令はな
く,終了したアウトサイダー規制命令は3件であり(第4表),本年度末現
在におけるアウトサイダー規制命令の件数は4件となっている。

漁業生産調整組合法に基づくカルテル
 漁業生産調整組合法に基づき漁業生産調整組合が調整事業を行う場合に
は,調整規程を設定し,農林水産大臣の認可を受ける必要があり,農林水
産大臣はその認可に際して当委員会に協議しなければならないこととなっ
ている。
 本年度において協議を受けたものは,全国さんま棒受網漁業生産調整組
合が実施している漁船の登録,臨時休漁,陸揚げ制限及び一時陸揚げの制
限に係る調整規程について陸揚げ制限の内容を一部緩和した上での期間の
延長並びに北部太平洋海区まき網漁業生産調整組合が実施している漁船の
登録,投網の制限,臨時休漁及び陸揚げ制限に係る調整規程の期間を2年
から1年に短縮した上での期間の延長についての2件である。
 これに対し,当委員会は所要の調査を行った結果,特に問題ないと認
め,異議のない旨回答した。
 本年度末現在における同法に基づく調整規程の件数は3件である。
輸出水産業の振興に関する法律に基づくカルテル
輸出水産業の振興に関する法律に基づき輸出水産業組合が調整事業を行
う場合には,調整規程を設定し,農林水産大臣に届け出る必要があり,農
林水産大臣はその届出を受理したときは当委員会に通知しなければならな
いこととなっている。
 本年度において通知を受けたものは,日本水産缶詰輸出水産業組合が実
施している輸出向けさば缶詰及びいわし缶詰に係る調整規程の対象品目か
らいわし缶詰を除いた上で期間の延長を行うとするものであったが,所要
の調査を行った結果,問題はなかった。
 本年度末現在における同法に基づく調整規程の件数は1件である。
漁業再建整備特別措置法に基づく整備計画
 漁業再建整備特別措置法は,政令で定めた業種に係る漁業協同組合等の
団体が行う漁船の隻数の縮減等の整備計画について農林水産大臣が同法第
6条第1項の規定に基づき認定しようとするときは,同法第16条の規定に
基づき当委員会に協議しなければならないこととしている。
 本年度においては,大中型まき網漁業の整備計画に関し,農林水産大臣
から協議を受けた。これに対し,当委員会は,所要の調査を行った結果,
特に問題はないと認め,異議のない旨回答した(第5表)。なお,当該整
備計画は本年度中に終了した。

内航海運組合法に基づくカルテル
 内航海運組合法に基づき内航海運組合又は内航海運組合連合会が調整事
業を行う場合には,調整規程を設定し,運輸大臣の認可を受ける必要があ
り,運輸大臣はその認可をしたときは当委員会に通知しなければならない
こととなっている。
 本年度においては,運輸大臣から通知を受けたものはなかった。
 また,本年度において,同法に基づき実施されていた日本内航海運組合
総連合会の沖縄航路配船に係る調整規程が期限到来をもって終了したこと
から,本年度末現在における同法に基づく調整規程の件数は1件となった
(第6表)。

環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づくカルテル
 環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づき環境衛生同業組
合が適正化事業を行う場合には,環境衛生同業組合連合会の設定する適正
化基準に準拠して適正化規程を設定し,厚生大臣又は都道府県知事の認可
を受ける必要があり,厚生大臣又は都道府県知事はその認可に際して当委
員会に協議しなければならないこととなっている。また,環境衛生同業組
合が同規程を廃止したときは,厚生大臣又は都道府県知事に届け出る必要
があり,厚生大臣又は都道府県知事はその届出があったときは当委員会に
通知しなければならないこととなっている。
 本年度においては,厚生大臣又は都道府県知事から協議を受けたものは
なく,通知を受けたものは適正化規程廃止に係る5件である。
 同法に基づく適正化規程は理容業の1業種のみであり,各都道府県の理
容業の環境衛生同業組合によって36件設定されていたが,本年度におい
て,このうち5件の適正化規程が廃止されたことから,本年度末現在にお


ける同法に基づく適正化規程の件数は31件となった(第7表)。
 なお,適正化規程の基本となる適正化基準は,本年度末現在,理容業の
ほか,美容業及びクリーニング業について存続している。