11 海外競争政策の動き

 当委員会は,海外諸国,特にOECD加盟諸国の独占禁止法制及びその
運用状況について継続的に調査を行っている。以下では,1994年を中心と
したアメリカ,EU,ドイツ,イギリス,フランス及びアジア・大洋州諸
国の競争政策の動きを紹介する。この紹介は,主として,OECD競争政
策委員会に提出された加盟各国の年次報告に基づいている。

11−1 アメリカ
(1) 法制の動き
反トラスト法及び関連法規の改正
 1994年11月,1994年国際反トラスト執行援助法が施行された。同法
は,外国の競争当局との協力協定締結の促進を目的とし,相互主義に
より,当該協定に基づき,米国司法省及び連邦取引委員会(FTC)
が,ケース・バイ・ケースで米国内にある反トラスト法違反の証拠を
当該外国競争当局に提供し,又は米国外にある競争法違反の証拠を当
該外国競争当局を通じて入手できるようにするものである。
反トラスト政策及びガイドラインの変更
(ア) 医療産業に対する反トラスト執行ガイドラインの改定(1994年9
月)  
 司法省反トラスト局(以下「反トラスト局」という。)とFTC
は,医療産業における合併等企業結合や業務提携に関する反トラス
ト法の執行方針を明確にする観点から,1993年9月,ガイドライン
を共同で作成・発表した。これは,個別産業に対するものとしては
初のガイドラインであり,小規模医療機関同士の合併,高額医療機
器等が関係するジョイント・ベンチャーなど行為類型ごとに問題と
しないもの(セーフティゾーン)を明確にし,それ以外のものにつ
いては合理の原則により分析することとするものである。
 1994年9月の改定では,前記の基本方針は変更せずに,行為類型
を一部手直しするとともに,医療機関による価格等情報交換への参
加などを新たに付け加えた。
(イ) 訴追免除の明確化と拡大に関する方針(対個人訴追免除方針)の
発表(1994年8月)
 反トラスト局は,従来,審査開始前に進んで反トラスト法違反を
自白した企業のうち,ー定の基準を満たす者については,これを訴
追しないこととしていたが,これを拡大し,審査開始後に進んで反
トラスト法違反を自白した企業に対しても,一定の基準を満たす場
合には,これを訴追しないこととした。さらに,審査開始前に進ん
で反トラスト法違反を自白した個人のうち,一定の基準を満たす者
については,これを訴追しないこととする対個人訴追免除方針を発
表した。
(ウ) 事前届出を要する合併の審査手続の簡素化方針の発表(1995年3
月)
 反トラスト局とFTCは,事前届出を要する合併の審査手続につ
いて,両当局間の執行の一貫性を高め,企業の負担を軽減すること
を目的として,9営業日以内に案件を処理し,追加情報提供範囲を
明確にするなどの迅速化を盛り込んだ方針を発表した。
(エ) 知的財産権の実施許諾と取得に関する反トラストガイドライン
(案)の発表(1994年8月)
 このガイドライン(案)は,反トラスト法と知的財産権保護法と
が競争を促進する上で相互に補完的な関係を有するとともに,反ト
ラスト法がその他の財産権に適用されると同様に知的財産権にも適
用されることを明らかにするものである。同ガイドライン(案)に
おいては,知的財産権の実施許諾契約又は実施許諾の取得が研究開
発に与える影響を評価する方法を定め,実施許諾契約中の制限が統
合的生産効率性を促進するものか否か,次に当然違法の原則の適用
を受けるものか否かを検討し,当該制限を当然違法の原則又は合理
の原則に基づき提訴する場合があるとしている。
 なお,実施許諾契約中の制限に対して合理の原則が適用される場
合に,実施許諾者と実施権者の合計市場占拠率が当該制限により影
響を受ける関連市場の20%以下である場合にはこれを検討しないと
する安全地帯(セーフティゾーン)を明記している。
(オ) 国際的事業活動に関するガイドライン(案)の発表(1994年10
月)
 このガイドライン(案)は,反トラスト局の1988年の国際的事業
活動ガイドラインを見直し,米国の輸出業者に対して影響を及ぼす
外国での反競争的行為に対して,米国の反トラスト法を適用すると
の観点から対象を管轄権に関連する事項に絞って,反トラスト局と
FTCの共同作業として作成されたものである。米国反トラスト法
の管轄権の確定に関し効果理論を採用し,直接的,実質的かつ予見
可能な効果を米国の通商に及ぼすいかなる行為も米国の管轄権に服
することとし,米国の輸出業者に対して影響を及ぼす外国での反競
争的行為に対して措置を採ることができるとした1992年の方針を確
認するとともに,例えば,外国のカルテル参加者が米国に対して実
質的な販売をしているとき,米国政府が海外で消費される商品又は
サービスの購入に実質的に融資しているとき,外国会社同士の合併
で,当事者がいずれも米国内に子会社等を有していないが米国に直
接販売を行っているときなどには管轄権があるとしている。また,
管轄権が認められる場合でも,国際礼譲,外国主権の関与に関する
抗弁(外国主権免除,外国王権強制の抗弁,国家行為等)を考慮す
るとともに,外国の競争当局との連絡・協力が重要である旨述べて
いる。
(2) 法の運用
措置件数及び主要な反トラスト事件(合併関係を除く。)の概要
 反トラスト局は,1994会計年度に156件の正式審査を開始し,78件
の提訴を行った。そのうち57件が刑事事件である。同年中,個人9名
に延べ1,497日の拘禁刑が宣告され,個人及び法人に対する罰金額の
合計は,4024万ドルであった。
 FTCは,1994会計年度に185件の正式審査を開始し,6件の審判
開始決定を行った。同年中,FTCが下した審決は97件で,うち競争
関係が36件(合併事件20件を含む。),消費者保護関係が61件であっ
た。                            .
 反トラスト局及びFTCが扱った主な事件は,次のとおりである。
(ア) カルテル関係
 反トラスト局は,プラスティック製食器メーカー3社が使い捨
てカップ等の価格を引き上げたとしてこれを起訴した。1994年6
月,メーカー3社は,有罪の申立てを行い,合計836万ドルの罰
金が科された。
 反トラスト局は,日本企業を含む感熱紙メーカー等が感熱紙に
ついて,価格を定め又は引き上げたとしてこれを起訴した。I994
年8月,日系感熱紙メーカーとその役員,日本企業とその在米子
会社は,有罪の申立てを行い,合計600万ドノレ超の罰金が科され
た。
 FTCは,アリゾナ州の自動車ディーラー団体が加盟事業者に
よる比較広告,値引き広告等を禁止した自主基準を採用し,加盟
事業者間の競争を制限していたとして,審判手続を開始し,I994
年5月,同意審決でこれを終結した。
(イ) 独占行為関係
 反トラスト局は,英国のガラスメーカーが自己の主要競争業者
の全部と特許及びノウハウ実施許諾契約を締結し,特許期間満了.
後もフロートガラス工場の建設・操業場所及びフロートガラス製
法技術の使用を制限し,さらに,かかる制限を実施することによ
り,また,その他の略奪的又は排他的な行為により,フロートガ
ラス工場の設計・建設の世界市場における独占を獲得し維持した
として提訴し,1994年12月,同意判決でこれを終結した。
 反トラスト局は,自動預金払出機(ATM)ネットワーク運営
会社が,自己が運営するATMネットワークの加入者が第三者か
らデータ・プロセス・サービスを購入することを禁止し,ATM
ネットワーク加入銀行が競合するネットワークと接続することを
防止するためにATM処理について自己の支配権を行使したとし
て提訴し,1994年10月,同意判決でこれを終結した。
(ウ) 不公正な取引方法関係
 反トラスト局は,国内で第1位の室内用日焼け用品メーカーが
室内用日焼け用品の再販売価格を設定,維持していたとして提訴
し,1994年11月,同意判決でこれを終結した。
 FTCは,スポーツ用シューズ等のメーカーが,スポーツ用
シューズ等の消費者向け広告価格及び販売価格を決定することに
より,消費者向け販売価格を引き上げ小売業者間の競争を制限し
たとして審判手続を開始し,1994年4月,同意審決でこれを終結
した。
合併事前届出及び主要な合併事件の概要
 反トラスト局及びFTCは,1994会計年度に,合計4,602件の事前
届出を受理した。主要な合併事件は,次のとおりである。
(ア)  反トラスト局は,TCI社(米国で最大の有線放送運営会社)に
よるリバティ社(有線放送番組制作会社)の合併について,有線多
重放送システム運営会社とビデオ番組提供者との間の垂直的統合を
促進し,人気のあるビデオ番組を入手しにくくすることにより,有
線放送運営会社間の競争を実質的に減殺するおそれがあるとして,
1994年4月,これを提訴した。現在,同意判決の手続中である。
 なお,本件は,十数年ぶりの垂直的合併提訴事件である。
(イ)  反トラスト局は,イギリスの電話会社ブリティッシュ・テレコ
ミュニケーション社(BT,世界で第4位の電話会社)によるアメ
リカの電話会社MCI(世界で第5位の電話会社)の株式の一部取
得(43億ドル相当)と両社によるジョイントベンチャー設立計画に
ついて,当該ジョイントベンチャーがBTのイギリス国内のネット
ワークに優先的にアクセスでき,他の競争者よりも不当な利益を得
られるため,競争を実質的に減殺するおそれがあるとして提訴し,
1994年9月,同意判決でこれを終結した。
(ウ)  FTCは,10億ドルに上るBAT (イギリスのたばこ会社)によ
るアメリカン・タバコ社の取得計画について,たばこ産業は高度に
集中化した産業であり,本件取得によりアメリカ国内のたばこ市場
の競争が減殺され たばこの価格が上昇することとなるとして,
1994年10月,審判手続を開始し,同年12月に同意審決でこれを終結
した。
(3) 規制緩和による競争法の適用分野の拡大
 不必要な規制は米国の競争力を損なうおそれがあり,競争力の強化の
ためには反トラスト法の強力な執行による競争の促進が必要であるとの
観点から,連邦レベルでは,引き続き,政府による経済的規制の緩和,
適用除外の見直しが進められている。その中で,司法省反トラスト局及
びFTCは,連邦や州の経済的規制に関し,競争促進の立場から,積極
的に意見を表明してきている。
 反トラスト局は,石油パイプラインの規制緩和について連邦エネル
ギー規制委員会に対し,海運同盟の不当な運賃値上げ等について連邦海
事委員会に対し,牛乳等の販売規制の経済効果について連邦農務省に対
し,また,FTCは,AT&T社の上限価格規制修正案について連邦通
信委員会に対し,それぞれ意見書を提出した。
11−2 E U
(1) 法制の動き
 EUの競争法制に動きはなかったが,適用期間の満了が予定されてい
る一括適用免除規則について,規則案を発表し関係者等の意見を求め
た。
技術移転契約に関する一括適用免除規則(案)の発表(1994年10
月)              .
 本規則案は,特許ライセンス契約に関する一括適用免除規則(1985
年1月施行)及びノウハウライセンス契約に関する一括適用免除規則
(1989年4月施行)を一本化し,技術に関する知識の一層の普及と高
技術製品の製造の促進を図ろうとするものである。具体的には,ライ
センサーがライセンシーに与える排他的ライセンス,ライセンサーの
商標の排他的使用等について,EU競争法第85条第1類の適用が免除
される旨規定している。
自動車流通に関する一括適用免除規則(案)の発表(1994年10月)
 欧州委員会は,自動車流通に関する一括適用免除規則(1985年7月
施行)の有効期限(1995年6月)が近づいてきたため,新しい一括適
用免除規則(案)を発表した。それによると,これまでの規則と大き
く異なる点は,一定の条件の下で,販売業者は,2以上の銘柄の自動
車を販売できるようになり,取引先メーカー以外のものから補修部品
を購入できるようになることである。
(2) 法の運用
カルテル等及び市場支配的地位の濫用の規制
 欧州委員会は,1994年中に,9件の禁止決定を行い,合計約5億E
CUの制裁金を科した。
 なお,1994年末時点において,欧州委員会は1,058件の未処理案件
を抱えている。新規審査開始案件392件のうち,236件が企業等からの
申告によるものであり,140件が欧州委員会が職権で手続を開始した
ものであり,16件は,申請又は届出案件である。
 主な事例は次のとおりである。
(ア)  欧州委員会は,ドイツ連邦鉄道に対して,ドイツの港に陸揚げし
てドイツ連邦鉄道を利用する海上輸送コンテナの荷主に差別的に低
廉な運賃を請求していたとして,1994年3月,1100万ECUの制裁
金を科した。
(イ)  欧州委員会は,ヨーロッパの段ボールメーカー19社に対し,価格
協定を締結して段ボールの価格を引き上げたとして,1994年7月,
総額1億3215万ECUの制裁金を科した。
(ウ)  欧州委員会は,ヨーロッパのセメントメーカー34社及び8事業者
団体に対し,輸出価格を輸出先国の現地メーカーの価格に合わせる
こととしていたとして,1994年11月,総額2億4800万ECUの制裁
金を科した。
(エ)  欧州委員会は,海運同盟の海運会社13社に対し,コンテナ一貨物
の陸上運送運賃を取り決めたとして,1994年12月,それぞれ,1万
ECUの制裁金を科した。
(オ)  欧州委員会は,スウェーデンのテニスボールメーカーとその代理
店4社に対し,同社のアイルランド工場で製造されるテニスボール
の輸出先を制限するなどして,並行輸入を阻止したとして,1994年
12月,総額64万ECUの制裁金を科した。
合併規制の運用状況
 欧州委員会は,合併規制規則に基づき,1994年には 95件の事前届
出(うち6件は撤回)を受理した。
 1994年中に,欧州委員会は,同規則に基づいて,91件について決定
を行った。内訳は次のとおりである。
@ 規則に該当しない旨の決定              5件
A 共同体市場と両立する旨の決定           80件
B 共同体市場と両立する旨の決定(条件なし)     5件
C 共同体市場と両立する旨の決定(条件付き)     0件
D 共同体市場と両立しない旨の決定(禁止)      1件
 (注)  Aは予備審査の結果,B〜Dは正式審査の結果によるもので
ある。
 主な事例は,次のとおりである。
(ア)  欧州委員会は,ドイツ・テレコムを含むドイツ企業3社による有
料放送番組・テレビショッピングサービス提供ジョイント・ベン
チャー設立計画について,ドイツの有料テレビ放送市場において支
配的地位を形成するおそれがあるとして,1994年11月,これを禁止
した。
(イ)  欧州委員会は,ドイツの大手自動車メーカーによるバス会社の取
得について,他に買い手がないこと,取得後のドイツにおける市場
の状態が他の加盟国の状況と著しく異なるものではないことなどを
考慮して,1995年2月,これを承認した。
 なお,合併規制規則は,1993年末までに見直しされることになっ
ていたが,欧州委員会は,1993年7月,現段階では規則改正は行わ
ず,1996年末までに再度見直しを行うこととした。
(3) 規制緩和の動き
 EU加盟各国においては国営(国有)企業の民営化,政府規制の緩和
が進展しており,競争政策が適用される分野が拡大している。また,欧
州委員会は,欧州共同体設立条約第90条に基づき,加盟各国公企業の独
占的権利を制限・排除する委員会指令又は決定を出すことができる。こ
れらを背景に,電気通信,運輸,金融,保険,エネルギー等の分野で一
層の自由化促進,競争法の適用が図られている。
 1995年2月,欧州委員会は,1998年1月1日に予定されている電気通
信産業の自由化の準備を目的として,電気通信産業に競争法規を施行す
る規則(案)を発表した。それによると,加盟各国当局は,電話の取付
期間,修理料金についての電話案内の設置,料金表の公表,電話帳の定
期的な発行等が義務付けられている。
11−3 ドイツ
(1) 法制の動き
 競争法制に特段の動きはなかった。
(2) 法の運用
カルテル規制,市場支配的事業者の濫用行為に対する規制等
 連邦カルテル庁が1994年中に下した決定の件数は17件であった。そ
のうち,制裁金決定件数は4件であり,30事業者及び28個人に対し
て,合計1170万ドイツマルクの制裁金が科された。主な事例は,次の
とおりである。
(ア)  連邦カルテル庁は,1994年8月,消火用ホースのメーカー6社に
対して,数年間にわたり,消火用ホースと建設用及び産業用ホース
の市場を分割し,価格を協定したとして,総額460万ドイツマルク
の制裁金を科した。
(イ)  連邦カルテル庁は,1994年5月,法律関係専門書等の出版社に対
して,法律関係データベースのCD−ROM製品の再販売価格維持
行為を行ったとして,当該行為を禁止する決定を下した。
 (注)  ドイツでは出版物に関しては再販売価格維持行為を認めて
いるが,今回の措置は,CD−ROM製品は出版物には当た
らないとの判断に基づくものである。
合併等企業結合規制
 1994年中に連邦カルテル庁に届け出られた企業結合の件数は,
1,564件である。連邦カルテル庁は,1994年に3件の企業結合を禁止
した。主な事例は,次のとおりである。
(ア)  連邦カルテル庁は,1994年8月,フィリップス社(ヨーロッパ及
び世界の主導的な電灯供給業者であるオランダのフィリップス社の
関連会社)によるリントナー社(電灯メーカー)の株式の過半数の
取得について,一般用電灯産業における市場支配的寡占を一層強化
するとして,これを禁止した。
(イ)  連邦カルテル庁は,1995年2月,エッセン州所在のデパートとフ
ランクフルト市所在のデパートによる合併計画について,ベルリン
市内の8商業地域のうち6地域で40%〜50%を支配しており,ベル
リン,ハンブルグ等のCD,レコード等の分野において卓越した地
位を有しているが,当事者が,ベルリン,ハンブルグ等4地域のレ
コードショップとベルリンにある16店舗のうちの適当な数店舗の売
却を確約したため,これを認めることとしたと発表した。
(3) 規制緩和及び民営化の動き
 連邦政府は,かねてから規制緩和と民営化を促進してきており,1992
年7月には,電気通信,連邦鉄道,連邦高速道路等の分野で1994年以
降,ー層の民営化を実施する民営化プログラムを閣議決定した。
 今後の課題としては,その他の公共部門で民営化すべきものに関する
検討及び残存している連邦政府の持分の削減(ルフトハンザ,小企業
等),連邦政府所有不動産の売却等がある。
 なお,旧東ドイツにおける国営企業等の民営化については,信託公社
が1994年末までに不動産,住宅建設,農業の部門を除く部門の民営化を
ほぼ達成した。
11−4 イギリス
(1) 法制の動き
独占禁止法及び関連法規の改正
 1989年7月に,競争制限的協定の登録制度の廃止と原則禁止規制の
導入,制裁金制度の創設等を内容とする制限的取引慣行法制に関する
政府提案が行われているが,1994年中には,その提案を実施に移す措
置は採られなかった。なお,1994年規制緩和法(1995年1月一部施
行)により,独占・合併委員会への調査付託に代えて国務大臣(貿易
産業大臣)が是正措置の確約書を受領できるようになり,また,反競
争的行為の存在が疑われる場合に,公正取引庁長官が予備調査を行え
るとする規定が廃止された。
独占禁止政策及びガイドラインの変更
 1980年競争法により公正取引庁は反競争的行為と考えられる行為を
調査することができるが,1994年8月,施行令が改正され,同法に基
づく調査対象企業は,イギリスにおいて年間売上高が1000万ポンド以
上であって市場占拠率が4分の1以上である企業,又はかかる売上げ
及び市場占拠率を有する企業グループに属する企業とされた。
 公正取引庁は,調達担当官,経営者及び消費者を対象に,反カルテ
ルの啓蒙活動を行うためカルテルタスクフォースを設置した。
(2) 法の運用
制限的協定(カルテル)規制
 1976年制限的取引慣行法により,競争制限的協定は登録割になって
おり,1994年中には,1,280件の協定が公正取引庁に届け出られ,前
年より15%少ない581件の協定が登録簿に追加された。1956年以来の
登録総件数は,約12,000件である。
 登録すべき協定が登録されていないと認められる場合には,公正取
引庁長官は,関係者に対し詳細な情報を求める通知を発出することが
でき,1994年には9件の通知を発出した。
 公正取引庁長官は,違法な制限的協定を制限的慣行裁判所に提訴す
ることができる。制限的慣行裁判所は,裁判手続の後,当該協定の禁
止等を命じることができる。制限的慣行裁判所の判決に違反した場
合,法廷侮辱罪に問われる。
 1994年には,コンクリートの登録協定について,9社及び8個人に
対し,裁判所判決又は確約に違反したとして,裁判手続が継続してい
る。
再販売価格維持行為に対する規制
 1994年中には,公正取引庁に対し,1976年再販売価格法違反の疑い
で34件の申告があった。同庁は,6件について供給業者から最低再販
売価格を強制しない旨の確約書を受理した。
 1976年再販売価格法により,商品の供給者が販売者に最低再販売価
格を課すことは禁止されている。しかし,制限的慣行裁判所は,公共
の利益に適合すると認める場合に限り,特定の商品を適用免除とする
ことができる。これまでに,適用免除が認められたのは書籍(1962
年)と医薬品(1970年)のみであるが,1995年3月,公正取引庁は,
制限的慣行裁判所に対し,書籍の適用免除の廃止を求める許可を申請
した。
反競争的行為に対する規制
 1980年競争法により,公正取引庁は,反競争的と考えられる行為を
調査し,当該行為が競争を阻害すると判断したときには,独占・合併
委員会に調査を付託することができる。1994年中には,1件の調査を
行い,その結果を公表した。その概要は次のとおりである。
 バス会社が,地方公共団体からの補助金により運営されている競
争者のバス運行に対抗して,赤字を計上しながらバスを運行したこ
とは反競争的行為に該当するが,確約書を提出したため,公正取引
庁は,本件を独占・合併委員会には付託しなかった。
独占に関する調査
 1973年公正取引法に基づき,国務大臣と公正取引庁長官は,独占状
態(1社でイギリス市場の25%以上の市場占拠率を有する場合等)が
存在すると認める場合,それについて独占・合併委員会に調査を付託
でき,1994年には,イングランド北東部におけるバスサービスの提供
など3件について付託を行った。また,独占・合併委員会は,個人医
療サービスなど7件の報告書を公表した。主な事例は次のとおりであ
る。
 独占・合併委員会は,英国医療協会等のガイドラインなどに従っ
た個人医療サービスには,複合独占状態が存在すると判断し,前記
ガイドラインの表示が公共の利益に反するとする報告書を提出し
た。同協会は,前記ガイドライン又はそれと同様の効果を有する個
人医療サービス用料金表を表示しないとする確約書を提出した。
合併規制
 公正取引庁は,1994年中に381件の合併案件を審査した。公正取引
庁長官は,うち8件について,案件を独占・合併委員会に付託するよ
う貿易産業大臣に助言した。
 1994年中に,貿易産業大臣は,8件を独占・合併委員会に付託し
た。また,独占・合併委員会は2件について報告書を公表した。主な
事例は次のとおりである。
 独占・合併委員会は,あるバス路線を運行するバス会社2社の合
併により運行主体が1社となった場合について,鉄道路線に代わる
路線としての期待が増し,サービスと乗客数が増加した結果,競合
する鉄道が提供する割引料金により当該路線のバス料金の値上げが
抑制されたため,当該合併は公共の利益に反しないと判断した。
11−5 フランス
(1) 法制の動き
 競争法制に特段の動きはなかった。
(2) 法の適用
 1994年中に,競争評議会は62件の決定を下した。うち,制裁金が科さ
れたものは25件であり,制裁金の合計は,7500万フランである。主な事
例は次のとおりである。
共同行為
 競争評議会は,1995年1月,工事請負業者4社に対し,ある地方
のダム工事の電気設備に関し協定を締結していたとして,合計2540
万フランの制裁金を科した。
市場支配的地位の濫用
 競争評議会は,フランス・テレコムの電話帳掲載広告管理会社に
対し,広告代理店による市場アクセスを阻止したとして,700万フ
ランの制裁金を科した。また,フランス・テレコムに対し,100万
フランの制裁金を科すとともに,前記広告管理会社が掲載する広告
の修正を指示した。
合併等企業結合
 競争評議会は,1994年中に15件の企業結合について,経済大臣に意
見書を提出した。経済大臣は,13件について競争評議会の意見に従っ
た。
 経済大臣は,ベルテルスマンによるコーズ・ルーゾーの買収につ
いて,ベルテルスマンの子会社の一部を売却するとの条件を付し
て,これを承認した。
(3) 国営(国有)企業の民営化
 1993年6月下旬,.政府は,経済再建資金を賄うため,銀行,保険及び
運輸部門の21の国営(国有)企業を民営化する方針を発表した。
 さらに,政府は,EU域内電話通信が1998年1月に自由化されること
に伴い,1993年7月19日,フランス・テレコム社を民営化する方針を追
加発表した。
 なお,パリ国立銀行,ローヌ・プーラン(化学会社),エルフ・アキ
テーヌ(石油会社),UAP(保険会社),ルノー(自動車会社)及びセ
イタ社(タバコ会社)については,既に民営化又は一部民営化を終え,
ブル社(コンピュータ会社),ユジノール−サシロール(鉄鋼メー
カー)については民営化を準備中である。
11−6 アジア・大洋州諸国
 近年,アジア・大洋州諸国では,経済の著しい発展に伴い,競争法制が
次第に整備・充実されてきている。
 オーストラリア,ニュー・ジーランド,韓国,インド,パキスタン,ス
リ・ランカ,タイのように競争法を有している諸国は,法律の運用強化や
強化改正を行い,又は強化改正を検討している。体系的な競争法を有して
いないインドネシア,マレイシア,フィリピンは,体系的な競争法の制
定,導入を検討している。
 また,社会主義国であったモンゴル,現在社会主義国である中国やヴィ
エトナムは,市場経済への移行を図る中で競争法を導入し,又は導入を検
討している。
オーストラリア
 オーストラリアの競争法は,1974年取引慣行法である。同法は,反競争
的協定,再販売価格維持行為,排他条件付取引,市場力の濫用,競争制限
的な企業結合等を禁止している。同法の施行機関は取引慣行委員会で,違
反被疑事件を審査し,裁判所に提訴する。裁判所は,違反行為に対して,
当該行為の禁止を命じることができるほか,企業の場合最高1000万オース
トラリアドル,個人の場合最高50万オーストラリアドルの罰金を科すこと
ができる。
中 国
 中国は,社会主義市場経済の導入に伴う施策として,1993年に不当競争
禁止法を制定し,施行した。同法は本格的な競争法とはいえないが,国務
院国家工商行政管理局公正交易局を施行機関として,入札談合,不当廉
売,抱き合わせ販売,不当表示などの不当競争行為,競争制限的行為や政
府機関の行為も含めた公正競争妨害行為を規制している。
 なお,中国は,現在,本格的な独占禁止法の制定を検討中である。
インド
 インドの競争法は1969年独占及び制限的取引慣行法で,資源の広範囲な
分配と,富と権力が分散した経済体制の確立を基本方針としている。同法
は 独占的取引慣行,制限的取引慣行,不公正な取引慣行を規制してお
り,施行機関である独占・制限的取引慣行委員会は,調査を行い,公共の
利益に反する行為が存在する場合,独占的取引慣行については政府に対し
て答申を提出し,制限的取引慣行と不公正な取引慣行については当該行為
の禁止を命じることができる。このほか,被害者の申立てにより損害賠償
を命じることができる。
インドネシア
 インドネシアは競争法を有していないが,開放経済体制を採っており,
経済政策として公正競争の創出,有害な経済活動の集中防止のための措置
を採っている。憲法は国民の基礎的必需品について国家管理とすることを
規定しており,独占を完全に禁止してはいない。原産地に関する虚偽表示
等が刑法の処罰対象となるほか,計量法,産業法等が競争法的な役割を有
している。
韓 国
 韓国の競争法は,1980年公正取引法である。同法は市場支配的地位の濫
用禁止,企業結合の制限と経済力集中の抑制,不当な共同行為の禁止,不
公正取引行為の禁止等を規定している。施行機関は公正取引委員会で,違
反被疑行為を審査し,違反行為が行われていると判断した場合には,当該
行為の禁止を命じることができるほか,制裁金を科すことができる。1994
年の法改正により,特に大規模企業集団(大統領令に基づき総資産額上位
30集団を指定)に所属する企業の出資制限が強化され,課徴金の賦課算定
率が引き上げられた。また,1994年末に行われた政府の機構改革に伴い,
公正取引委員会は首相府直属の機関とされ,調査局の拡充など施行体制の
強化が図られた。
マレイシア
 マレイシアは競争法を有していないが,個別法規の中に,競争の促進を
定めたものがある。例えば,産業調整法は,政府は 産業の競争に有害な
影響を与えると考えられる行為を排除できる旨規定しており,1972年取引
表示法は不当表示を禁止し,1967年割賦購入法は割賦購入取引における不
公正慣行を規制している。政府は,1983年以降国有企業の民営化と規制緩
和を積極的に推進しており,競争政策を担当する国内取引消費者問題省が
1995年中の施行を目途に競争法を起草中である。
モンゴル
 モンゴルは1992年に新憲法を採択し,市場経済への移行に伴う競争促進
政策の一環として1993年不正競争禁止法を制定し施行した。同法は市場原
理の下での経済主体の競争を原則とし,国の経済活動に対する監督権限を
制限した。具体的には,市場支配的地位を有する経済主体による濫用行為
を禁止するとともに,集団としてみると市場支配的地位を有する経済主体
による競争制限的協定(入札談合など)等を禁止している。施行機関であ
る国家開発庁は,違法行為を調査し決定を下し,市場支配的地位を濫用し
ている経済主体に解散を命じることができる。
ニュー・ジーランド
 ニュー・ジーランドの競争法は,商務委員会が所管する商業法である。
同法は1975年に制定され,1986年に全面的な改正が行われた。商業法は,
カルテル,再販売価格維持行為,市場支配的地位の濫用等の制限的取引慣
行や競争制限的な企業結合を規制している。商務委員会は,違反被疑事件
を審査し,違反行為が行われていると判断した場合,裁判所に提訴する。
裁判所は,違反行為の禁止を命じることができるほか,法人に対して最高
500万ニュー・ジーランドドル,個人に対しては最高50万ニュー・ジーラ
ンドドルの罰金を科すことができる。
パキスタン
 パキスタンの競争法は,1972年独占及び制限的取引慣行法である。同法
は,過度の経済力集中,不当な独占力,不当な制限的取引慣行を規制して
いる。施行機関である独占規制庁は 同法の施行に必要な調査・情報収集
を行い,公共の利益に反する行為が存在する場合には,当該行為の中止,
所有株式の売却など必要な措置を命じることができる。
10 スリ・ラン力
 スリ・ランカの競争法は1987年公正取引委員会法である。同法は,独占
状態,企業結合及び反競争的行為を規制している。施行機関である公正取
引委員会は,調査を行い,公共の利益に反する行為が存在する場合には,
契約の修正,株式の売却等の措置を命じることができる。
11 タ イ
 タイの競争法は1979年価格統制及び独占禁止法である。同法は,不公正
な価格統制を規制する消費者保護規定と,独占及び制限的取引慣行の防
止・公正な事業競争の普及を目的とした独占禁止規定から構成されてい
る。施行機関は価格統制及び独占禁止委員会で,監視対象商品や監視対象
事業の指定・公表とそれに対する監視・監督等の権限を有する。
12 ヴィエトナム
 ヴィエトナムは競争法を有していないが,経済的停滞を打開するため,
1986年以降市場経済の導入を図っており,国営企業の改革,民間企業の活
性化等の施策を実施している。現在,1997年までに競争法を導入すること
を検討している。