第13章 再販売価格維持契約

第1 概 説

 再販売価格維持契約(以下「再販契約」という。)とは,商品の供給者が
その商品の取引先である事業者に対して転売する価格を指示し,これを遵守
させること(以下「再販行為」という。)を内容とする契約である。
 再販行為は,原則として不公正な取引方法(再販売価格の拘束,一般指定
第12項)に該当し,独占禁止法第19条違反に問われるものであるが,おとり
廉売防止等の観点から,同法第24条の2の規定に基づき,当委員会が指定す
る特定の商品(以下「再販指定商品」という。)及び著作物を対象とするも
のについては例外的に独占禁止法の適用を除外されている。
 当委員会は,昭和28年から昭和34年の間に化粧品,染毛料,歯磨,家庭用
石けん・合成洗剤,雑酒,キャラメル,医薬品,カメラ及び既製エリ付きワ
イシャツの計9商品を再販指定商品と指定したが,昭和41年以降徐々にその
削減を図ってきており,平成7年1月以降の再販指定商品は,一般用医薬品
(14品目)及び小売価格が1,030円以下の化粧品(14品目)となっている。
 独占禁止法の適用を除外される行為は,「再販売価格を決定し,これを維
持するためにする正当な行為」であるが,「一般消費者の利益を不当に害す
ることとなる場合」及び「その商品を販売する事業者がする行為にあっては
その商品を生産する事業者の意に反してする」場合には適用除外とならな
い。また,消費者・勤労者の互助を目的とする消費生活協同組合等の団体に
対して販売する場合にも,適用除外とならない。
 再販指定商品について再販契約を実施しようとする事業者は,その契約の
内容を当委員会に届け出ることが義務付けられているが,著作物については
届出義務はない。

第2 再販適用除外制度の見直し

 当委員会は,平成3年7月,「政府規制等と競争政策に関する研究会」か
ら再販適用除外制度の見直しに係る提言を受けたことから,同提言等を踏ま
え,公正かつ自由な競争を促進するとの観点からその見直しのための検討を
行い,同年12月,再販適用除外に関する実態調査を公表するとともに,公聴
会を開催する等関係事業者,消費者,学識経験者等から広く意見を聴取し
た。当委員会は,公聴会等における意見のほか,関係省庁の意見も聞いた上
で,平成4年4月15日,再販指定商品の見直し及び再販適用除外が認められ
る著作物の取扱いについて,その検討結果を公表した。
 再販適用除外制度については,累次の閣議においてもその見直しが決定さ
れており,当委員会は,以上を踏まえ再販適用除外制度の見直しに係る措置
を実施してきている。これまでの実施状況は,次のとおりである。

1 再販指定商品の縮小

 当委員会は,平成4年5月1日,化粧品を再販指定商品に指定する告示
及び医薬品を再販指定商品に指定する告示を全部改正した(平成4年5月
公正取引委員会告示第21号及び第22号)。これにより,従来指定されてい
た品目のおおむね半数に当たる化粧品13品目,一般用医薬品12品目の指定
が平成5年4月1日,平成7年1月1日から取り消された。
 当委員会は,改定された規制緩和推進計画に基づき,これまでの再販指
定商品の範囲の縮小後の状況等の調査を行い,平成8年度中に,すべての
再販指定商品について,取消しのための所要の手続を実施し,同年度末ま
でに施行を図ることとしている。

2 再販適用除外が認められる著作物の取扱いの検討

(1) 当委員会は,平成4年4月15日,独占禁止法第24条の2第4項の規定
に基づき再販適用除外が認められている著作物(書籍,雑誌,新聞,レ
コード盤,音楽用テープ及び音楽用CD)の取扱いを明確化するために
は,法的安定性の観点から立法措置によって対応することが妥当である
との見解を公表し,幅広い観点から総合的な検討を行っている。
 この検討の一環として,当委員会は,現在再販適用除外が認められて
いる書籍,雑誌,新聞,音楽用CD等について,出版社,新聞発行本
社,音楽用CD等メーカー,流通業者等を対象として,書面調査,ヒア
リング調査等により,流通実態等を把握するための調査を行った。ま
た,学識経験者からなる「政府規制等と競争政策に関する研究会 再販
問題検討小委員会」(座長 金子 晃 慶応義塾大学教授)を開催し,
同研究会は,再販適用除外が認められる著作物の範囲について主として
法律・経済の理論的側面から検討を行い,平成7年7月,国民各層にお
いて議論が深められることを期待して,同小委員会が取りまとめた中間
報告書及び当委員会が実施した書籍,雑誌,新聞,音楽用CD等各品目
の流通実態調査報告書を公表した。
(2) 上記中間報告書の概要は,以下のとおりである。
 再販適用除外制度が本来独占禁止法上原則的に違法な行為を例外的
に許容するものである以上,何らかの特別な要因によってそれを必要
とするのであれば,国民各層が納得し得るような明確かつ具体的な理
由が必要と考えられる。
 著作物に係る現行の再販適用除外制度の下では,次のような具体的
問題点が生じていると考えられる。
(ア) 寡占的市場構造の下で協調的企業行動がみられることから,再販
適用除外制度がブランド内競争を制限しているだけでなく,市場全
体にその影響力を及ぼし,ブランド間競争まで抑制しているおそれ
がある。
(イ) 流通システムが固定化し,事業者が多様な消費者ニーズに対応す
ることを怠りがちになりやすい。
(ウ) 長期間にわたる再販適用除外制度により,価格設定の硬直化等に
よる弊害が助長されている。
(エ) 非効率的な取引慣行が生じている。
 関係業界からは,例えば,再販適用除外制度によって書籍等の店頭
陳列・品揃えが充実し,新聞の戸別配達が確保されるため,同制度は
我が国の文化の普及に資することが主張されている。この点について
は次のように考えられる。
(ア) 店頭陳列・品揃え
 理論的には,再販適用除外制度自体が店頭陳列・品揃えを促進す
る機能を有しているものではない。全商品について一律にマージン
が保証される場合には,小売業者に特定の商品の取扱いを促す効果
は生じない。
 実態面でも,店頭陳列・品揃えの充実が実際に確保されていると
はいえない。
(イ) 戸別配達
 理論的には,再販適用除外制度自体が戸別配達維持の機能を有し
ているものではない。配達コストの異なる新聞販売店に一律に又は
戸別配達コストに関係なく手数料等を支給する場合には,かえって
過剰マージンが生じる。
 実態面でも,戸別配達が再販適用除外制度なしに維持できないも
のかどうか,現行の再販適用除外制度が戸別配達を維持するように
運用されているといえるかどうかにも疑問がある。
 現在,我が国市場の開放性を高め,消費者利益を確保する観点か
ら,政府規制の緩和と併せて独占禁止法適用除外制度の見直しが重要
な課題になっている。著作物に係る再販適用除外制度の趣旨について
も,制度導入以降の経済・社会状況の変化を踏まえ,再度検討される
必要があると考えられる。
 現行の再販適用除外制度については,前記のような具体的弊害が生
じているおそれがあると考えられ,他方,これまでの関係業界の主張
を前提とする限り,再販制度が,消費者が商品を購入する機会の確保
等を通じて我が国の文化の普及等の効果をもたらすかどうかについて
疑問があると考えられる。
 この中間報告書は,著作物に係る再販売価格維持制度について主と
して理論的側面から取りまとめたものであり,これに基づいて国民各
層において活発な議論が行われ,この問題についての理解が深まり,
その取扱いについて国民的合意が形成されることを期待するものであ
る。
(3) 上記中間報告書の公表以降,当委員会において,関係業界や消費者団
体等から意見を聴取してきたところであり,今後も引き続き国民各層の
多様な意見の把握に努め,更にこの問題について議論を深めていくこと
としている。
 当委員会としては,その上で,再販適用除外が認められている著作物
について,改定された規制緩和推進計画に基づき,平成9年度末までに
その範囲の限定・明確化を図ることとしている。

第3 再販契約の弊害規制

 再販指定商品については,既に再販契約を実施している商品の価格変更及
び新規に再販契約を実施しようとする商品の申請があった場合は,その商品
の原価,競合品の価格等を検討し,不当な価格設定が行われ,消費者の利益
が不当に害されることのないよう監視及び指導を行っている。
 平成7年度においては,再販指定商品で既に契約を実施している商品及び
新規に再販契約を実施しようとする商品の販売価格に関する事前相談は28件
であった。
 また,再販行為が許容される書籍,雑誌等の著作物についても,消費者の
利益が不当に害されることのないようその実態把握に努め,必要に応じ,業
界への指導を行っている。

第4 再販契約の実施状況

 平成7年度における再販契約に関する届出受理件数は,変更届57件であ
り,成立届はなかった。
 平成7年12月末現在において再販契約実施中のものは,46事業者,2,017
商品であり,前年に比べ化粧品は22商品増加し,医薬品は74商品減少した
(第1表)。