12 海外競争政策の動き

 当委員会は,海外諸国,特にOECD加盟諸国の独占禁止法制及びその
運用状況について継続的に調査を行っている。以下では,1995年を中心と
したアメリカ,EU,ドイツ,イギリス,フランス及びアジア・大洋州諸
国の競争政策の動きを紹介する。この紹介は,OECD競争政策委員会に
提出された加盟各国の年次報告等に基づいている。

12−1 アメリ力

(1) 法制の動き
反トラスト法及び関連法規の改正
 連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は,1996年3月,反ト
ラスト法上の問題を生じさせるおそれのない一定の取引について届出
義務を免除する合併事前届出規則の改正を行った(1996年5月から施
行)。
反トラスト政策及びガイドラインの変更
(ア) 国際的事業活動ガイドラインの発表
 司法省反トラスト局(以下「反トラスト局」という。)と連邦取
引委員会は,1995年4月,国際的事業活動ガイドラインを共同で作
成・発表した。同ガイドラインは,アメリカの通商に直接的,実質
的かつ予見可能な効果を及ぼすいかなる反競争的行為もアメリカの
管轄権に服することとし,アメリカの消費者及び輸出業者に影響を
及ぼす外国での反競争的行為に対して措置を講ずることができると
した1992年の方針を明確化したものである。また,管轄権が認めら
れる場合でも,国際礼譲,外国主権の関与に対する抗弁を考慮する
とともに,外国の競争当局との連絡・協力が重要であるとしてい
る。
(イ) 知的財産権の実施許諾と取得に関する反トラスト法ガイドライン
の発表
 反トラスト局及びFTCは,1995年4月,知的所有権の実施許諾
と取得に関する反トラスト法ガイドラインを発表した。
 このガイドラインは,反トラスト法と知的所有権保護法との競争
を促進する上での補完的な関係を有する旨及び知的所有権の行使が
反トラスト法上問題となるケースを明らかにしている。すなわち,
同ガイドラインは,知的所有権の実施許諾契約が研究開発に与える
影響を評価する方法を定め,実施許諾契約中の制限が生産効率性を
促進するものか否か,次に当然違法の適用を受けるものか否かを検
討し,当該制限を当然違法の原則又は合理の原則に基づき提訴する
場合があるとしている。
 なお,実施許諾契約中の制限に対して合理の原則が適用される場
合に,実施許諾者と実施権者の合計市場シェアが当該政権により影
響を受ける関連市場の20%以下である場合にはこれを検討しないと
する安全地帯(セーフティー・ゾーン)を明記している。
(ウ) 合併事件の審決に係る方針変更等の発表
 FTCは,1995年6月,これまで合併事件の審決主文において
「将来合併を行う際に事前承認を受けなければならない」との条
項を挿入してきたところ,1995年6月,今後,一般的に同条項を
挿入しないとする方針変更を発表した。ただし,当該事件の当事
者に反競争的な合併を行うおそれがある場合には,FTCは,将
来の合併の事前承認又は事前届出を命じる権限を留保している。
 FTCは,1995年8月,審決主文における不作為命令につい
て,重要な条項については20年間,補足的な条項については10年
間で,その効力を終える(サンセット条項)こととすると発表し
た。
(2) 法の運用
措置件数及び主要な反トラスト事件の概要
 反トラスト局は,1995会計年度に249件の正式審査を開始し,84件
の提訴を行った。そのうち60件が刑事事件である。同年度中,個人16
名に延べ3,902日の拘禁刑が宣告され,個人及び法人に対する罰金額の
合計は,4143万ドルであった。
 FTCは,1995会計年度中に216件の正式審査を開始した。同年度
中,FTCが行った審決は94件で,うち競争関係が46件(合併事件34
件を含む。),消費者保護関係が48件であった。
 反トラスト局及びFTCが扱った主な事件は,次のとおりである。
(ア) カルテル関係
 反トラスト局は,日本製ファックス用感熱紙の輸入業者が,他
者とともに,同感熱紙の価格を引上げ,価格調整を行っていたと
してこれを起訴した。1995年7月,同輸入業者は有罪の申立てを
行い,20万ドルの罰金が科せられた。
 本件に関連して,既に,1994年8月,日系製紙メーカー等に合
計600万ドル超の罰金が科せられている。また,反トラスト局
は,別の日系製紙メーカー2社を起訴し,1995年9月,同2社は
有罪の申立てを行い,合計350万ドル超の罰金が科せられた。反
トラスト局は,1995年12月,さらに別の日系製紙メーカー2社及
び個人1名を起訴した。
 反トラスト局は,世界的な爆薬メーカー等が商業用爆薬の価格
を引き上げ,入札談合を行っていたとしてこれを起訴した。1995
年9月,爆薬メーカー等は,有罪の申立てを行い,最高1500万ド
ルの罰金が科された。この罰金額は,1企業当たりの史上最高額
である(企業に対するシャーマン法の最高罰金額は,1訴因につ
き1000万ドル。本件は2つの訴因に基づく。)。
 FTCは,レンタルビテオ業者の団体がレンタル料金の引上
げ,調整を行っていたとして,審判手続を開始し,1995年6月,
同意審決でこれを終結した。
(イ) 独占行為関係
 反トラスト局は,コンピュータ用ソフトウェアメーカーが自己
の独占的な地位を利用して,取引先パソコンメーカーに対し,同
社製ソフトウェアの搭載の有無に関係なく出荷されるパソコンの
台数に応じた実施許諾料の支払いを義務付けるなど,取引先と排
他的で不当に制限的なライセンス契約を締結したとして提訴して
いたが,1995年8月,連邦地裁による同意判決でこれを終結し
た。
 本件は,FTCが約3年間の審査を行った後,1993年の2月と
7月に審判開始決定を見送った事案を反トラスト局が同年8月か
ら引き続き審査したものである。このように一方の反トラスト当
局が見送った事案を他方の反トラスト当局が引き継ぐのは,米国
反トラスト史上極めて異例のことである。
 また,本件は,連邦地裁が,同意判決案が公共の利益に適合し
ていないとして,これを棄却したため,司法省が控訴し,控訴審
において,同意審決案が公共の利益に適合しているとして,本件
を連邦地裁に差戻しを行っていたものである。
 反トラスト局は,1996年2月,ゴミ運搬処理会社2社が,自己
の市場力を利用して,顧客との間で,当該顧客からのゴミの収
集・処理に関する独占権を認めさせるなど,排他的内容の自動更
新条項付き長期契約を締結することにより,小規模ゴミ運搬処理
業者を2社の特定地域の市場から排除していたとして,両社を提
訴するとともに,同意判決案を提出した。現在,同意判決の手続
中である。
(ウ) 不公正な取引方法関係
 反トラスト局は,大手鉄道玩具メーカーが自社製品の販売に関
し再販売価格を公表し,ディーラーに対し最低再販価格の遵守を
強制していたとして提訴し,1995年5月,同意判決でこれを終結
した。
 FTCは,日系オーディオ家電メーカーの子会社が,自社製品
の販売に関しディーラーとの間で再販売価格に合意し,おおむね
これを遵守させることなどにより,同社に対する1982年の審決に
違反したとしてこれを提訴した。1995年7月,日系オーディオ家
電メーカーの子会社は,和解に同意し,22万5000ドルの罰金が科
された。
合併事前届出及び主な合併事件の概要
 反トラスト局及びFTCは,1995会計年度に,2,816件の事前届出
を受理した。主要な合併事件は,次のとおりである。
(ア)  反トラスト局は,ドイツ・テレコム社(ドイツの独占電話会社)
及びフランステレコム社(フランスの独占電話会社)によるスプリ
ント社(アメリカの長距離電話会社)の株式の一部取得(40億ドル
相当)とこれら3社によるジョイント・ベンチャー設立計画につい
て,アメリカの他の電話会社を競争上不利な立場に追いやることに
より国際電気通信における競争を減殺するとして提訴していたが,
1996年2月,計画の変更を求める同意判決で終結した。
(イ)  キンバリー・クラーク社及びスコット・ペーパー社の合併につい
て,合併後の会社が顔用ティッシューの販売の60%,乳児用ティッ
シューの販売の55%を支配することとなり,顔用,乳児用ティッ
シューの国内市場において実質的に競争を減殺し,価格を引き上げ
るおそれがあるとして提訴していたが,1996年4月,条件付きで承
認する旨の同意判決でこれを終結した。
(ウ)  FTCは,1996年4月,米国の2大医薬品小売チェーンであるラ
イト・エイド社としブコ社の合併について,合併後の会社が広範な
大都市地域の市場において高いシェアの店舗数を持つ単一の小売
チェーンを形成することとなり,当該市場において実質的に競争を
減殺し,小売価格を引き上げ,消費者の利益を害するおそれがある
として,緊急停止命令の申立てを行った。同申立ての後,ライト・
エイド社とレブコ社は,本件合併を断念した。
(3) 規制緩和における競争法の適用分野の拡大
 不必要な規制は,米国の競争力を損なうおそれがあり,競争力の強化
のためには反トラスト法の強力な執行による競争の促進が必要であると
の観点から,連邦レベルでは,引き続き,政府による経済的規制の緩
和,適用除外の見直しが進められている。
 また,反トラスト局及びFTCは,連邦や州の経済的規制に関し,競
争促進の立場から,積極的に意見を表明してきている。
電気通信改革法の施行
 1996年2月,電気通信改革法が施行された。同法は,現在それぞれ
の管轄地域内の市内電話事業を独占している地域電話会社に,長距離
電話事業への参入を認めるとともに,その参入については自己の地域
電話ネットワークへの競争事業者の接続を認めることを条件とするこ
と等により,電気通信事業全般に競争原理を導入するものである。
 同法は,当該参入について連邦通信委員会は司法長官と協議しなけ
ればならないとしており,その際,公共の利益に係る判断について
は,司法長官の判断に拘束されるとしている。
経済的規制に関する意見表明
 反トラスト局は,電力プール協定等について連邦エネルギー規制委
員会に対し,株式市場(ナスダック)における新規則について証券取
引委員会に対し,農産品(タート・チェリー)の販売規制の経済効果
について連邦農務省に対し,大手鉄道会社の統合について州際通商委
員会に対し,また,FTCは,ソフトウェアに対する特許に関するガ
イドラインについて連邦特許庁に対し,それぞれ意見書を提出した。

12−2  E U

(1) 法制の動き
国際海運分野におけるコンソーシアムに関する一括適用免除規則の
採択
 欧州委員会は,1995年4月,海運業者間の運行日程の調整,船舶の
相互融通,収入プール等に係るコンソーシアム協定について,一定の
シェア基準の下で認める旨の国際海運分野におけるコンソーシアムに
関する一括適用免除規則を採択した(1995年4月から施行)。
自動車流通に関する一括適用免除規則の採択
 欧州委員会は,1995年6月,旧規則(有効期限1995年6月)に代わ
る新しい自動車流通に関する一括適用免除規則を採択した。(1995年
10月から施行)。同規則により,@メーカーのディーラーに対する競
争品の取扱いの制限及びテリトリー制の緩和等が図られるとともに,
Aメーカーの独立系部品製造業者及び修理業者に対する修理に関する
一定範囲の技術情報の開示義務が課された。
技術移転契約に関する一括適用免除規則の採択
 欧州委員会は,1996年1月,特許ライセンス契約に関する一括適用
免除規則及びノウハウ・ライセンス契約に関する一括適用免除規則を
統合一本化することにより規則の簡素化を図り,併せて技術に関する
知識の一層の普及を図ること等を目的として,技術移転契約に関する
一括適用免除規則を採択した(1996年4月から施行)。
合併規制規則改正案の発表
 欧州委員会は,1996年1月,審査対象範囲の拡大及び合併届出手続
に関する事業者の負担軽減を目的として,合併届出対象範囲に係る規
模基準である,@関連事業者の全世界での売上高合計が50億ECU
超,かつ,A関係事業者の少なくとも2社のそれぞれのEC域内での
売上高が2億5000万ECU超である場合であって,B関係事業者それ
ぞれがEU域内での売上高のうちの3分の2超を同一加盟国内で得て
いない場合との現行規定を,@については20億ECU超,Aについて
は1億ECU超にそれぞれ引き下げる旨の合併規制規則改正案を発表
した。
(2) 法の運用
カルテル等及び市場支配的地位の濫用の規制
 欧州委員会は,1995年に,3件の禁止決定を行い,うち2件につい
て合計約1451万ECUの制裁金を科した。
 主な事例は,次のとおりである。
(ア)  欧州委員会は,1995年6月,ドイツの自動車塗料メーカーとその
ベルギー及びルクセンブルクにおける総代理店1社に対し,イギリ
スへの並行輸入を阻止したとして,総額271万ECUの制裁金を科
した。
(イ)  欧州委員会は,1995年11月,オランダのクレーンリースの事業者
団体に対し,価格カルテルを行っていたとして,1150万ECUの制
裁金を科した。
 また,前記団体が提唱して設立したクレーンリース事業者に認証
を付与する団体に対し,当該認証を受けた同団体の会員が会員以外
の事業者へクレーンを転貸することを禁止することにより,会員以
外の事業者のクレーンリース事業への参入を排除したとして,30万
ECUの制裁金を科した。
合併規制の運用状況
 欧州委員会は,合併規制規則に基づき,1995年に,114件の事前届
出を受理し,109件について決定を行った。内訳は次のとおりであ
る。
@ 共同体市場と両立する旨の決定 102件
A 共同体市場と両立する旨の決定(条件なし)  2件
B 共同体市場と両立する旨の決定(条件付き)    3件
C 共同体市場と両立しない旨の決定(禁止) 2件
(注) @は予備審査の結果,A〜Cは正式審査の結果によるもので
ある。
 主な事例は,次のとおりである。
(ア)  欧州委員会は,1995年7月,ノルウェー,デンマーク及びス
ウェーデンの有力メディア3社(ノルスク・テレコム社,テレデン
マーク社及びキネヴィック社)による一般家庭向け衛星放送事業及
びケーブルテレビ放送事業者向け放送番組提供事業を営むジョイン
ト・ベンチャーの設立について,ノルウェー,デンマーク,ス
ウェーデン等向けの衛星放送等の市場において支配的地位を形成す
るおそれがあるとして,これを禁止した。
(イ)  欧州委員会は,1995年9月,オランダのテレビ放送業者2社(R
TL社,ヴェロニカ社)及びテレビ番組製作業者1社(エンデモル
社)によるジョイント・ベンチャーの設立について,オランダの放
送事業及びテレビ広告事業等の市場において支配的地位を形成し,
かつ,他の加盟国に所在する事業者を含む他の事業者の参入が排除
されるおそれがあるとして,これを禁止した。
(3) 規制緩和の動き
 EU各国においては,国営(国有)企業の民営化,政府規制の緩和が
進展しており,競争政策が適用される分野が拡大しているが,欧州委員
会は,欧州共同体設立条約第90条に基づき,加盟各国の公企業が独占的
権利を認められている事業分野への競争法の適用に関し必要がある場
合,委員会指令及び決定を出すことができる。
 欧州委員会は,1995年から1996年にかけて,1990年6月に制定した委
員会指令が定める電気通信事業の1998年1月までの全面的自由化実施に
向けて,同指令の一部改正として,次の各指令の採択を行った。
電気通信事業者によるCATVネットワーク使用の自由化
 欧州委員会は,1995年10月,電気通信のための代替事業設備自由化
の一環として,CATV網における伝送容量を通信サービス(音声電
話サービスを除く。)のために利用することに対する制限を撤廃する
旨の委員会指令の採択を行った(1996年1月から施行)。
移動体通信市場の自由化
 欧州委員会は,1996年1月,移動通信及びパーソナル通信市場に競
争を導入するための自由化指令を採択した(1996年2月から施行)。
音声電話通信等すべての電気通信事業の自由化
 欧州委員会は,1996年3月,音声電話通信等すべての電気通信事業
の自由化及び公共ネットワーク(鉄道,高速道路等)が有する事業設
備利用の自由化のための委員会指令を採択した(1996年4月から施
行)。

12−3  ドイツ

(1) 法制の動き
 ドイツは,競争制限禁止法を可能な限りEU競争法に適合させるため
に同法の第6次改正を行う意向を示してきており,1996年5月,同法第
1条をEC条約第85条と同様にしてカルテル全般の禁止を明示し,企業
結合の事後届出基準を現行の5億ドイツマルクから10億ドイツマルクに
引き上げることなどを内容とする同法の改正法案の骨子を公表した。
(2) 法の運用
 カルテル規制,再販売価格維持行為に対する規制等
 連邦カルテル庁が1995年に行った決定の件数は11件であった。その
うち,制裁金決定件数は5件であり,19事業者及び22個人に対して,
合計650万ドイツマルクの制裁金が科された。主な事例は,次のとお
りである。
(ア)  連邦カルテル庁は,1995年7月,化学会社及びその代表者に対
し,道路上のペイント標示の受注に際し価格協定を行っていたとし
て,合計450万ドイツマルクの制裁金を科した。
(イ)  連邦カルテル庁は,1995年8月,ペット・フード製造業者に対
し,同社製品の販売業者に最低販売価格を遵守させていたとして,
7万5000ドイツマルクの制裁金を科した。
(ウ)  連邦カルテル庁は,1995年11月,石油販売業者5社及びその従
業員7名に対し,共同して,他の石油販売業者に対し,大口需要家
との取引を断念させるために不当に圧力をかけていたとして,合計
39万7000ドイツマルクの制裁金を科した。
合併等企業結合規制
 1995年に連邦カルテル庁に届出された企業結合の件数は,1,530件
である。連邦カルテル庁は,1995年に4件の企業結合を禁止した。主
な事例は,次のとおりである。
(ア)  連邦カルテル庁は,1995年2月,ホッホティーフ社(ドイツ第2
位の建設会社)によるフィリップ・ホルツマン社(ドイツ最大の建
設会社)の持株比率の引上げについて,大規模プロジェクト市場に
おいて両社が支配的地位を獲得することになるとして,これを禁止
した。
(イ)  連邦カルテル庁は,1995年7月,T&N社(イギリスのエンジニ
アリング会社)とコルベンシュミット社(ドイツの有力なピストン
メーカー)による合併計画について,ドイツのピストンリング市場
においてT&N社の子会社であるA.E.ゲッツェ社がすでに有して
いる支配的地位を強化し,ドイツの特定ベアリング市場において支
配的な地位を形成おそれがあり,かつ,このような支配的地位は,欧
州市場においても形成されるおそれがあるとして,これを禁止した。
(3) 規制緩和及び民営化の動き
 ドイツは,かねてから規制緩和と民営化を推進してきており,電気通
信分野については,EU域内の電気通信事業の自由化(1998年)に対応
するために,同事業分野への参入規制を撤廃して競争を導入することを
内容とする新たな電気通信事業規制法案が,1996年7月,連邦議会にお
いて可決成立し,同年8月,一部施行された。また,1996年11月には,
現在国営であるドイツ・テレコム社の民営化(株式売却)が予定されて
いる。

12−4 イギリス

(1) 法制の動き
 1996年3月,競争制限的協定の登録制度の廃止と原則禁止規制の導
入,制裁金制度の創設等を内容とする制限的取引慣行法の改正に関す
る政府方針(グリーンペーパー)が公表された。
 再販売価格法により,商品の供給者が販売者に最低販売価格を課す
ることは禁止されている。しかし,制限的取引慣行裁判所は,公共の
利益に適合すると認める場合に限り,特定の商品を適用除外とするこ
とができる。現在,制限的取引慣行裁判所により適用除外が認められ
ている商品は,書籍及び医薬品のみである。適用除外の廃止について
は,公正取引庁が適用除外承認以降の関連状況の実質的な変化につい
て一応の証拠をもって制限的取引慣行裁判所に申立てを行うことによ
り,同裁判所が再審理を開始することになっている。
(ア)  公正取引庁は,1995年3月,制限的取引慣行裁判所に対し,書籍
の再販売価格維持行為の適用除外の廃止を求める許可申請を行い,
同裁判所は同年12月,本件について手続きを開始した。
 本件は,有力出版業者が書籍の定価販売を取りやめたことによ
り,出版業者による書籍の定価販売協定が事実上崩壊したが,1社
及び出版物の購入者の審理の継続を要求しているため,現在も同裁
判所に係属している。
(イ)  公正取引庁は,1995年10月,医薬品の再販売価格維持行為の適用
除外について再検討する旨発表した。
(2) 法の運用
制限的協定(カルテル)規制
 制限的取引慣行法により,競争制限的協定は公正取引庁に登録する
こととなっており,登録されない場合,当該協定は無効・違法とな
る。未登録に対する制裁規定はないが,公正取引庁長官は,登録すべ
き協定が登録されていないと認められる場合には,関係者に対し詳細
な情報を求める通知を発出することができる。
 公正取引庁は,1995年に,1,393件の協定の届出を受理し,このう
ち,602件の協定を登録簿に追加した。現在の総登録件数は約1万
2,500件である。また,未登録の2件の協定関係者に対し,詳細な情
報を求める通知を行った。
 公正取引庁長官は,登録された協定のうち,制限的取引慣行裁判所
の審査を必要とするほど重要性を持たないものを除いて,同裁判所に
審査を付託し,同裁判所が当該協定が公共の利益に適合しているか否
かの審査を行う。同裁判所は,公共の利益に反すると認めた場合,当
該協定の禁止等を命じることができる。
 制限的取引慣行裁判所が判決を行った主な事例は,次のとおりであ
る。
 制限的取引慣行裁判所は,1995年8月,生コンクリート会社17社
に対し,17社が価格協定及び市場分割協定を行っていたとし,ま
た,これは,1978年及び1979年に同裁判所に提出したこのような協
定に関与しないとする確約書及びこれに係る判決に違反したとし
て,総額837万5000ポンドの罰金を科した。さらに,これらの会社
の役員のうち5名に対し,違反行為を幇助・教唆したとして総額8
万7500ポンドの罰金を科した。
再販売価格維持行為に対する規制
 公正取引庁は,1995年に,再販売価格法違反に係る63件の申告の受
け付けたが,このうち,10件について供給業者から販売業者に対し最
低再販売価格を強制しない旨の確約書を受理した。
反競争的行為規制
 公正取引庁は,競争法により,排他的取引,抱き合わせ販売等の反
競争的行為について調査し,違反行為を認められた場合には,その旨
を公表するとともに事業者に対し是正措置を採る旨の確約を求めるこ
とができる。公正取引庁長官は,事業者が是正措置を採ることを確約
しない場合には,独占・合併委員会に調査を付託する。同委員会は,
調査を行い,違反行為が認められた場合など必要があるときは,貿易
産業大臣に提出する調査報告書の内容の結論部分において勧告を行
う。同大臣が勧告を相当と判断した場合には,再度,公正取引庁に対
して事業者と是正措置の確約を求める協議を行うよう命令を出す。こ
の再協議が不調に終わった場合は,同大臣が事業者に対し契約の破棄
等必要な措置を命じる。同委員会に対する付託に係るこのような手続
は,下記エの独占規制及びオの合併規制の場合も同様である。
 1995年に,公正取引庁が同委員会に調査を付託した案件は1件であ
る。
独占規制
 貿易産業大臣と公正取引庁長官は,公正取引法に基づき,独占的状
態(1社でイギリス市場の25%以上の市場占拠率を有する場合等)が
存在すると認める場合,それに関して独占・合併委員会に調査を付託
できる。
 公正取引庁長官は,1995年に,求人広告サービス業者及び電気器
具販売業者に対する2件について独占・合併委員会に調査の付託を
行った。
 また,同委員会は,1995年に,テレビゲームの供給業者及びバス事
業者に対する2件の報告書を公表した。このうち,テレビゲームの供
給業者に関する報告書の概要は,次のとおりである。
 独占・合併委員会は,1995年3月,テレビゲーム市場において有
力な地位を有する日本企業2社が,テレビゲームソフト会社とのラ
イセンス契約に基づき,当該テレビゲームソフト会社の供給するテ
レビゲームソフトの出荷数量を制限したことが,公共の利益に反
し,かつ,テレビゲームソフトの価格と入手に悪影響を与えている
として,当該2社に対し当該テレビゲームソフト会社とのライセン
ス契約の修正等の措置を求める勧告を含む調査報告書を公表した。
合併規制
 公正取引庁は,1995年に,473件の合併案件を審査した。公正取引
庁長官は,11件について,独占・合併委員会に調査を付託するよう貿
易産業大臣に勧告を行い,同大臣は,このうち98件について同委員会
に付託した。
 独占・合併委員会は,1995年に,10件について報告書を公表した。
主な事例は次のとおりである。
 独占・合併委員会は,1995年5月,葬儀業者(サービス・コーポ
レーション・インターナショナル社)と火葬場運営業者(プランツ
ブルック・グループ社)との合併に関し,当該合併が公共の利益に
反し,消費者に有害となるおそれがあるとして,同委員会は,当該
2社に対し葬儀事業の一部の譲渡等の措置を求める勧告を含む調査
報告書を公表した。
 独占・合併委員会は,1995年12月,食品メーカー2社である
ニュートリシア・ホールディング社とヴァリオ・インターナショナ
ル・UK社との合併について,当該合併により特定の食品の価格を
引上げが可能となるため,合併後の会社に対し今後4年間当該食品
の販売価格を現行価格以上に設定しないことを求める勧告を含む調
査報告書を公表した。
(3) 規制緩和及び民営化の動き
 イギリスにおいても規制緩和及び民営化を促進しており,鉄道の民営
化計画の一環として,鉄道のインフラを運営・管理する会社の株式上場
に向けての準備作業が進展しており,これまでに24事業部門の売却,車
両賃貸会社3社の売却契約が締結された。

12−5  フランス

(1) 法制の動き
 1996年6月に競争法の改正法が成立し,同年7月,施行された。当該
改正法は,メーカー及び商品の加工を行う流通業者が,市場から競争者
を排除することを目的として,不当な価格で販売する行為を禁止するこ
となどを主な目的としている。
(2) 法の適用
 競争評議会は,1995年に123件の決定を下した。このうち,制裁金が
科されたものは38件であり,制裁金の合計は,4億8118万フランであ
る。1995年以降の主な事例は,次のとおりである。
共同行為
(ア)  競争評議会は,1995年4月,ゴミ収集業者6社が,地中海岸地区
の自治体が発注する住宅ゴミ収集サービスについて入札談合を行っ
ていたとして,合計700万フランの制裁金を科した。
(イ)  競争評議会は,1995年8月,電気工事会社5社に対し,ある地方
の高校等の電気工事について入札談合を行っていたとして,合計
165万5700フランの制裁金を科した。同評議会は,当該5社のうち
の2社については,全国的な企業であり,かつ,数年前,制裁金の
賦課を受けていることから,特に高額の制裁金を科した。
(ウ)  競争評議会は,1995年11月,建設会社31社に対し,セーヌ河に架
かるノルマンディー橋ほかの橋梁工事,高速鉄道(TGV)の建設
工事等の総額100億フランに上る発注額の公共工事について入札談
合を行っていたとして,合計3億7800万フランの制裁金を科した。
本件の制裁金額は,1987年の同評議会設立以来の史上最高額であ
る。
合併等企業結合
 競争評議会は,1995年に5件の企業結合について,経済大臣に意見
書を提出した。
(3) 国営(国有)企業の民営化
 フランスは,規制緩和及び民営化を促進しており,パリ国立銀行,
ローヌ・プーラン社(化学会社),エルフ・アキテーヌ社(石油会社),
UAP社(保険会社),ルノー社(自動車会社)及びセイタ社(タバコ
会社)については,既に民営化又は一部民営化を終え,ブル社(コン
ピュータ会社),ユジノール・サシロール社(鉄鋼メーカー)について
は民営化を準備中である。
 なお,ルノーについては,1996年6月,株式売却が行われ,株式の政
府保有割合は50%未満となった。

12−6 韓国

 韓国の競争法は,公正取引法である。同法は,市場支配的地位の濫用禁
止,企業結合の制限と経済力集中の抑制,不当な共同行為の禁止,不公正
取引行為の禁止等を規定している。施行機関は,公正取引委員会である
が,同委員会は,違反被疑行為を審査し,違反行為が行われていると判断
した場合には,当該行為の禁止を命じることができるほか,制裁金を科す
ことができる。1994年の同法の強化改正(大規模企業集団に所属する企業
の出資制限),同年末に行われた政府機構改革による組織強化(首相府直
属機関に格上げ)に引き続き,1996年3月の組織改革により,1局6課の
増設,42名の増員等の組織強化が図られた。

12−7 アジア・太平洋諸国

 アジア・大洋州諸国においても,近年の世界経済のグローバル化,規制
緩和政策の推進の動きを反映し,新しい経済情勢における公正かつ自由な
競争を促進するため,競争法・競争政策への積極的な取組がなされてい
る。
 オーストラリア,インド,モンゴル,ニュージーランド,パキスタン,
スリランカ及びタイのように既に競争法を有している諸国は,法律の強化
改正,運用組織の拡充等競争政策を着実に推進している。競争法を持た
ず,その役割を表示取引法,民法,刑法等に競争法的な機能を委ねている
インドネシア及びマレイシアにおいても,独占禁止法のような体系的な競
争法の制定・導入について検討している。
 また,社会主義国である中国及びベトナムにおいても市場経済システム
を模索する動きが活発化するとともに,経済政策運営における競争政策の
重要性が理解され,両国においても本格的な競争法の制定・導入が検討さ
れている。
 各国の法制の概要及び主な競争政策関係の動きは,以下のとおりであ
る。

1 オーストラリア
 オーストラリアの競争法である1974年取引慣行法は,1995年7月に全面
的な改正が行われた。今回の改正により,取引慣行委員会と価格監視委員
会が統合され,競争関係の問題を処理する唯一の全国組織として競争・消
費者委員会が設置された。同委員会は,取引慣行法及び価格監視法の施行
機関となる。また,その諮問機関として全国競争評議会が設置された。
 改正取引慣行法は,反競争的協定,再販売価格維持行為,排他条件付取
引,市場力の濫用,競争制限的な企業結合等の規制行為自体に変更はない
が,その適用範囲を拡大し,州又は準州の政府企業に対する適用除外を廃
止した。また,従来の取引慣行裁判所は,その名称を競争裁判所に変更し
た。
2 中国
 中国は,社会主義市場経済の導入に伴う施策として,1993年に不当競争
禁止法を制定・施行した。同法は,本格的な競争法とは言えないが,国務
院国家工商行政監理局公正交易局を施行機関として,入札談合,不当廉
売,抱き合わせ販売,不当表示などの不公正な取引方法,競争制限的行為
(政府機関の行為を含む。)を規制している。
3 インド
 インドの競争法は,1969年独占及び制限的取引慣行法で,資源の広範囲
な分配と,富と権力が分散した経済体制の確立を基本方針としている。同
法は,独占的・制限的取引慣行,不公正な取引慣行を規制しており,施行
機関である独占・制限的取引慣行委員会は,調査を行い,公共の利益に反
する行為が存在する場合,独占的取引慣行については政府に対し答申を提
出し,制限的取引慣行と不公正な取引慣行については当該行為の禁止を命
じることができる。このほか,被害者の申立てにより損害賠償を命じるこ
とができる。
4 インドネシア
 インドネシアは,現在,計画経済体制から市場経済への移行が行われて
おり,その過程において,包括的な競争法の導入が検討されている。
 なお,現在,インドネシアは,競争法を有していないが,経済政策とし
て公正競争の創出,有害な経済活動の防止のための措置を採っている。現
行法上競争政策に関するものとしては,原産地に関する虚偽表示等が刑法
の処罰対象となるほか,計量法,産業法等による不公正な取引慣行の規制
が実施されている。
5 マレイシア
 マレイシアは,1983年以降,国有企業の民営化と規制緩和を積極的に推
進しており,競争政策を担当する国内取引消費者問題省が,不公正な取引
方法,市場構造規制を内容とする競争法の制定を検討中である。現在は,
体系的な競争法を有していないことから,個別法規によって競争政策上の
問題に対処している。例えば,産業調整法は,政府は産業の競争に有害な
影響を与えると考えられる行為を排除できる旨規定しており,取引表示法
は不当表示を禁止し,年割賦購入法は割賦購入取引における不公正な取引
行為を規制している。
6 モンゴル
 モンゴルは,1992年に新憲法を採択し,市場経済への移行に伴う競争促
進政策の一環として1993年には不正競争禁止法を制定・施行した。同法
は,市場原理の下での経済主体の競争を原則とし,国の経済活動に対する
監督権限を制限した。具体的には,市場支配的地位を有する経済主体によ
る濫用行為を禁止するとともに,市場支配的地位を有する経済主体による
競争制限的協定(入札談合など)等を禁止している。施行機関である国家
開発庁は,違反被疑行為を調査し,必要な排除措置を命じることができ
る。
7 ニュージーランド
 ニュージーランドは,1984年に始まった国家による伝統的な管理経済か
ら市場経済への転換が行われ,競争法は,この経済変換の流れの中で中心
的な役割を演じた。ニュージーランドの競争法は,商務委員会が所管する
商業法である。同法は,1975年に制定,1986年に全面的な改正が行われ,
カルテル,再販売価格維持行為,市場支配的地位の濫用等の制限的取引慣
行,競争制限的な企業結合等を規制している。商務委員会は,違反被疑事
件を調査し,違反行為が認められた場合,裁判所に提訴する。裁判所は,
違反行為の差止めを命じることができるほか,法人に対して最高500万
ニュージーランドドル,個人に対しては50万ニュージーランドドルの罰金
を科すことができる。
8 パキスタン
 パキスタンの競争法は,独占及び制限的取引慣行法である。同法は,過
度の経済力集中,不当な独占力,不当な制限的取引慣行を規制している。
施行機関である独占規制庁は,同法の施行に必要な調査・情報収集を行
い,公共の利益に反する行為が存在する場合には,当該行為の中止,所有
株式の売却など必要な措置を命じることができる。
9 スリランカ
 スリランカの競争法は,1987年公正取引委員会法である。同法は,独占
状態,企業結合及び反競争的行為を規制している。施行機関である公正取
引委員会は,調査・情報収集を行い,公共の利益に反する行為が存在する
場合には,当該行為の差止め,契約の修正,所有株式の売却など必要な措
置を命じることができる。
10 タイ
 タイの競争法は,価格統制及び独占禁止法である。同法は,不公正な価
格統制を規制する消費者保護規定と,独占及び制限的取引慣行の防止並び
に公正な事業競争の普及を目的とした禁止規定等から構成されている。施
行機関は,価格統制及び独占禁止委員会であり,同委員会は,監視対象商
品及び監視対象事業の指定・公表とそれらに対する監視・監督等の権限を
有している。
 タイ政府は,現在,貿易と投資の自由化政策,広範囲の民営化と政府企
業の見直し作業を遂行中である。
11 ベトナム
 ベトナムは競争法を有していないが,経済的停滞を打開するため,1986
年以降,市場経済の導入を図っており,国営企業の改革,民間企業の活性
化等の施策を実施している。現在,1997年までに競争法を導入することを
検討している。