第1部 総 論
第1 概 説
1 | 我が国を取り巻く経済環境 | ||||||||||||||||||||||||||||
平成8年度における我が国経済は,景気回復局面にあるものの,当初そ の回復テンポは緩やかであった。これは,景気回復への好循環が途切れが ちであったことによるものであるが,その背景には,バブル期における膨 大な設備投資によって生じた過剰設備能力の調整が行われてきたこと,バ ブル崩壊後の資産価格下落等による財務面の悪化に対応するための企業の バランスシートの調整が長引いたこと等が挙げられる。 しかし,平成8年度半ばごろから,在庫調整が一巡し,次第に循環の回 復作用が働き始め,円安傾向によって外需がプラス要因化したことや雇用 情勢の改善を受けて雇用不安が薄らいだこと等が寄与し,民間需要主導に よる自律的回復がみられるようになった。 このように民間需要主導の自律的景気回復へ移行しつつあるが,中長期 的将来への不透明感等から,景気回復感が十分ではない中,我が国経済 は,大きな転換期を迎えている。経済のグローバル化が一層進展する等の 中で,国際的な大競争時代が到来しており,他方で,長期的には急速な高 齢化の進展に伴い,生産年齢人口の減少,貯蓄率の低下等による経済の潜 在的活力の低下が懸念されている。我が国経済が抱えるこれらの課題を解 決し,我が国市場を内外に一層開かれたものとするため,市場原理に立脚 した経済構造改革を推し進めて,事業者の創意工夫が最大限発揮される自 由で魅力ある市場を創造するとともに,活力ある豊かな経済を実現してい くことが求められている。 |
|||||||||||||||||||||||||||||
2 | 規制緩和の推進と競争政策の積極的展開 | ||||||||||||||||||||||||||||
政府は,我が国経済社会の抜本的な構造改革を図っていくために規制緩 和の推進を重要課題として位置付け,平成7年度からの3か年の規制緩和 推進計画に沿って,規制緩和の推進に取り組んでいるところである。規制 緩和推進計画は毎年度改定されることとされ,平成8年3月の改定に続 き,平成9年3月28日に再改定がなされた。 再改定された規制緩和推進計画においては,我が国経済における公正か つ自由な競争を一層促進することにより,我が国市場をより競争的かつ開 かれたものとするとの観点から,引き続き,規制緩和とともに競争政策の 積極的展開を図ることとされている。 |
|||||||||||||||||||||||||||||
3 | 平成8年度において講じた施策の概要 | ||||||||||||||||||||||||||||
公正取引委員会は,こうした状況を踏まえ,独占禁止法の厳正かつ積極 的な運用により,独占禁止法違反行為を排除し,また,政府規制制度及び 独占禁止法適用除外制度を見直し,経済環境の変化に即応した公正な競争 条件の整備を進めるとともに,経済のグローバル化が進む中,競争政策の 国際的展開に適切に対処するよう努めた。 また,規制緩和とともに競争政策の一層の徹底を図るため,独占禁止法 の運用機関である公正取引委員会の機能強化が必要であるとの観点から, 公正取引委員会の事務を処理する組織として従来の事務局に代えて事務総 局を置くこと,委員長及び委員をより幅広い観点から人選するとの観点か ら,その定年年齢を引き上げること等を内容とする独占禁止法の改正が行 われた(平成8年6月7日成立,同月14日公布・施行)。 平成8年度においては,次のような施策に重点を置いて競争政策の運営 に積極的に取り組んだ。
|
第2 業務の大要
業務別にみた平成8年度の業務の大要は,次のとおりである。
1 | 企業活動のグローバル化,我が国経済における産業の空洞化の懸念と いった内外の諸情勢の変化を背景として,主として規制緩和の観点から, 持株会社の全面的な禁止を改めること,大規模会社の株式保有総額の制限 に係る適用除外株式を追加すること等を内容とする独占禁止法改正法案が 平成9年3月に第140回国会に提出された。同法案は,平成9年6月11日 に可決・成立し,同月18日に公布された。施行日については,公布の日か ら起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するこ ととされた。 |
2 | 独占禁止法と他の経済法令との調整に関する業務としては,電気通信事 業法の一部を改正する法律案,日本電信電話株式会社法の一部を改正する 法律案,国際電信電話株式会社法の一部を改正する法律案等について,関 係行政機関が立案するに当たり,所要の調整を行った。 |
3 | 独占禁止法違反被疑事件として平成8年度中に審査を行った事件は, 180件であり,そのうち平成8年度内に審査を完了したものは,110件で あった。その内訳は,独占禁止法第48条の規定に基づく勧告19件,違反行 為がなくなった日から1年を経過していたため勧告を行わず課徴金納付命 令のみを行った事件2件,警告17件,注意61件及び違反事実が認められな かったため審査を打ち切った事件11件であった。これらを行為類型別にみ ると,私的独占1件,価格カルテル34件,入札談合10件,不公正な取引方 法41件,その他の行為24件となっている。勧告等の法的措置を採った事件 は21件であり,この内訳は,私的独占1件,価格カルテル10件,入札談合 5件,不公正な取引方法2件,その他の行為3件となっている。 また,価格カルテル事件及び入札談合事件14件について,計370名に対 し,総額75億1632万円の課徴金の納付を命じた。このうち,2名に対する 課徴金納付命令(課徴金額3016万円)については,審判手続が開始された ことにより失効した。 さらに,東京都が発注する水道メーターに係る入札談合事件について, 平成9年2月,独占禁止法第73条第1項及び第96条の規定に基づき,株式 会社金門製作所ほか水道メーター製造業者等24社及びこれら25社の受注業 務に従事していた者34名を検事総長に告発した。 審判中の事件は,前年度から引き継いだ13件を含めた計15件であった が,これら事件はすべて独占禁止法違反事件であり,平成8年度中に7件 について審決(うち審判審決1件,同意審決1件,課徴金納付命令審決5 件)を行った。 |
4 | 独占禁止法の運用の透明性を確保し,違反行為を未然に防止するための 取組として,平成8年度においては,消費税率の引上げ及び地方消費税の 導入を控え,平成8年12月に「消費税率の引上げ及び地方消費税の導入に 伴う転嫁・表示に関する独占禁止法及び関係法令の考え方」を公表した。 |
5 | 政府規制制度の見直しについては,「政府規制等と競争政策に関する研 究会」を開催して,国内定期航空旅客運送事業分野及び電気事業分野・ガ ス事業分野について検討を行い,同研究会が取りまとめた報告書「国内定 期航空旅客運送事業における政府規制の見直しについて」(平成9年3 月),「電気事業分野における規制緩和と競争政策上の課題」(平成9年4 月)及び「ガス事業分野における規制緩和と競争政策上の課題」(平成9 年4月)を公表した。 独占禁止法適用除外制度の見直しについては,我が国経済社会の抜本的 な構造改革を図り,国際的に開かれ,自己責任と市場原理に立つ自由な経 済社会を実現するために,規制緩和の推進とともに,公正かつ自由な競争 を一層促進することにより,我が国市場をより競争的かつ開かれたものと するとの観点、から,個別法に基づく適用除外制度のうち20法律35制度につ いて廃止等の措置を採るための一括整理法案が第140回国会に提出され た。一括整理法案は同年6月13日に可決・成立し,同月20日に公布され, 同年7月20日に施行された。また,6法律6制度については個別に法改正 等の措置が既に実施済み又は実施される予定であり,7法律8制度につい ては,引き続き検討し,平成9年度末までに具体的結論を得る旨が再改定 された規制緩和推進計画に盛り込まれた。 さらに,独占禁止法に基づく適用除外制度及び適用除外法に基づく適用 除外制度については,再改定された規制緩和推進計画において,「適用除 外となる行為及び団体の全範囲について,制度自体の廃止を含めて見直 し,平成9年度(1997年度)末までに具体的結論を得る。この際,適用除 外法については,法そのものの廃止を含めて抜本的見直しを行う」ことと された。 |
6 | 独占禁止法第18条の2の規定に基づく価格の同調的引上げに関する報告 徴収については,平成8年度においては該当するものはなかった。なお, 同規定の市場構造要件に該当する品目を改定し,連用基準別表に掲載した (平成9年6月1日から実施)。 |
7 | 競争政策の適切な運用に資するため,平成8年度においては,独占的状 態調査,住宅用資材・設備機器等に関する実態調査,一般用カラー写真 フィルム及びカラー写真用印画紙の取引に関する実態調査,清涼飲料水, 食肉加工品及び婦人衣料品の流通・取引慣行に関する実態調査,外資系企 業からみた我が国事業者団体の活動に関する調査等を行った。 |
8 | 独占禁止法第9条から第16条までの規定に基づく企業結合に関する業務 については,金融会社の株式保有について88件の認可を行い,また,事業 会社の株式所有状況について9,379件の報告を,競争会社間の役員兼任に ついて5,042件の届出を,会社の合併・営業譲受け等について3,747件の届 出をそれぞれ受理し,これらについて所要の審査を行った。 また,法運用の透明性を確保するため,平成8年度における主要な合併 等の事例を平成9年6月に公表した。さらに,「独占禁止法第4章改正問 題研究会」の下で「企業結合規制見直しに関する小委員会」を開催して合 併等の届出制度,株式保有の報告制度など第4章の手続面を中心として検 討を行い,同研究会が取りまとめた「企業結合規制の手続規定の在り方に 関する報告書」を平成9年7月に公表した。 |
9 | 独占禁止法第8条の規定に基づく事業者団体の届出件数は,成立届130 件,変更届1,707件,解散届62件であった。 また,独占禁止法に関する理解を深め,違反行為を未然に防止するため の措置の一環として,事業者団体の活動に関する相談・指導業務を行うと ともに,平成9年6月に平成8年度の事業者団体の活動に関する主要相談 事例集を公表した。 |
10 | 独占禁止法第6条の規定に基づく国際契約の届出件数は,702件であ り,このうち,不当な取引制限又は不公正な取引方法に該当するおそれが ある事項を含む33件の国際契約について指導等を行った。 また,経済のグローバル化,事業者の負担軽減等の観点から,国際契約 届出制度の規定の削除等を内容とする独占禁止法改正法案が,持株会社の 全面的な禁止を改めること等と併せ第140回国会に提出された。同法案は 平成9年6月11日に可決・成立し,同月18日に公布され,国際契約届出制 度関係の改正については,同日から施行された。 |
11 | 不公正な取引方法に関する業務については,違反行為を未然に防止する ための措置の一環として,事業者等からの相談に積極的に応じるととも に,適切な指導に努めた。 また,貨物自動車運送業等の役務の委託取引について実態調査を行うと ともに,「企業取引研究会」を開催して検討を行い,同研究会が取りまと めた報告書「役務の委託取引と独占禁止法」を平成9年6月に公表した。 |
12 | 独占禁止法第24条の3の規定に基づく不況カルテル及び同法第24条の4 の規定に基づく合理化カルテルについては,平成8年度において実施され たものはなかった。 個別法に基づき,当委員会に協議等を行った上で主務大臣が認可等を行 うカルテルの平成8年度末における現存数は12件である。 |
13 | 平成8年度における再販契約に関する届出受理件数は,変更届24件であ り,成立届はなかった。 再販適用除外制度については,累次の閣議においてその見直しが決定さ れており,平成9年4月1日から,すべての再販指定商品の指定告示を廃 止した。また,再販適用除外が認められている著作物(書籍,雑誌,新 聞 レコード盤,音楽用テープ及び音楽用CD)については「政府規制 等と競争政策に関する研究会」の「再販問題検討小委員会」の中間報告書 を公表以降,関係業界,消費者団体等との間で意見交換を行っており,平 成8年度においては全国7か所でシンポジウムを開催した。また,平成9 年2月以降,「政府規制等と競争政策に関する研究会」を開催し,検討を 進めているところである。 |
14 | 下請法に関する業務としては,下請取引の公正化及び下請事業者の利益 保護を図るため,親事業者13,857社及びこれらと取引している下請事業者 70,453社を対象に書面調査を行った。調査の結果,勧告2件,警告1,439 件の措置を採った。 |
15 | 景品表示法第6条の規定に基づき排除命令を行ったものは6件であり, 警告を行ったものは,景品関係211件及び表示関係318件の計529件であっ た。 都道府県における景品表示関係の業務の処理状況は,注意を行ったもの が1,353件(景品313件,表示1,040件)であった。 景品提供に関しては,経済社会情勢の変化,各方面からの要望等を踏ま え,景品規制の見直し・明確化を行うため,平成8年2月に告示・運用基 準の改正を行い,同年4月から実施したところであるが,これに引き続 き,その内容に即して,業種別告示・公正競争規約についても見直しを 行った。 |
16 | 消費者関係業務については,平成8年度において景品表示法の連用業 務,消費者に対する不公正な取引方法の指定に関する業務,消費者モニ ターに関する業務等,消費者利益の確保に関する業務を一元的に担当する 部署として消費者取引課を新設し,消費者利益の確保に一層積極的に取り 組んでいる。 また,関東近県に所在する96施設の有料老人ホームの表示・契約等の実 態について調査を行い,消費者に対する適切な情報提供等,消費者取引の 適正化の観点から検討を行い,その結果を「有料老人ホームにおける消費 者取引の適正化について」として平成9年6月に公表した。 |
17 | 国際関係の業務としては,各国共通の競争政策上の問題について,E U,イギリス,フランス,ドイツ,韓国の競争当局との間で二国間意見交 換を行ったほか,経済協力開発機構(OECD),アジア太平洋経済協力 (APEC),国際連合貿易開発会議(UNCTAD)等の国際機関にお ける多国間会議に積極的に参加した。また,平成8年12月,東京において 規制制度改革に関するセミナーをOECD・当委員会共催で開催した。 貿易摩擦問題への対応に関しては,競争政策の観点から,外国企業の我 が国市場への参入に当たり,反競争的行為があった場合にはこれに厳正に 対処することとし,また,日米包括経済協議の「規制緩和・競争政策」 の作業部会等に積極的に対応するとともに,日米フィルム問題に関する WTO協議に対応した。 さらに,平成7年度に引き続きJICAを通じて,アジア・旧ソ連諸国 における競争当局等の職員を対象として「独占禁止法と競争政策」をテー マとする技術研修を実施したのを始め,発展途上国や旧社会主義国に対す る競争法・競争政策に関する技術協力を行った。 なお,平成8年8月,APECにおいて,「前進のためのパートナー」 (PEP)のプロジェクトとして,我が国が提案した競争政策に関する人 材育成のための研修を行うことが承認された。 |