第3章 審判及び訴訟

第1 審  判

 平成8年度における審判事件数は,平成7年度から引き継いだもの13件,
平成8年度中に審判開始決定を行ったもの2件の合計15件であり,平成8年
度中に,7件(うち審判審決1件,同意審決1件,課徴金納付命令審決5
件)について審決を行った(本章第2,第3及び第4参照)。平成8年度末
現在において審判手続係属中の事件は,下表の8件である。

第2 審判審決

平成6年(判)第1号広島県石油商業組合に対する審決
(1) 被審人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が広島県石油商業組合(以下「県石商」という。)
に対し,独占禁止法第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,
勧告を応諾しなかったので,同法第49条第1項の規定に基づき,県石商に
対し審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,県石商が平成8年3月25日付けの担当審判官の作成した
審決案に対し異議の申立てを行ったので,審決案を調査の上,審決案の
内容と同じ審決を行った。
(3) 認定した事実の概要
 県石商は,広島県の区域を地区とし,地区内において石油製品の販
売業を営む者を組合員とする中小企業団体の組織に関する法律に基づ
いて設立された商工組合である。
 県石商は,定款上の機関として総会,総代会,理事会等を置いてい
るほか,必要に応じて,経営部会,経営指導部会,理事,支部長会を
開いている。
 また,県石商は,かねてから,給油所を新設又は全面改装した組合
員,近隣の組合員,当該地区の支部長等の役員,経営部会役員及び給
油所を新設又は全面改装した組合員の取引先である石油元売業者によ
り五者協議会という会議を設けていたが,平成4年3月石油元売業者
の脱退によりこれを新設エス・エス情報懇談会と改組し,以降随時同
懇談会を開催している。
 県石商は、組合員の揮発油,軽油及び灯油の小売価格の低落を防止
してその経営基盤の安定を図るため,昭和63年6月ころ,組合員の当
該製品の販売方法に関し,①安値看板は出さないこと,②不特定多数
を対象としたチラシ,ダイレクトメール類は配布しないこと,③旗振
り等の行動はしないこと,④給油所の新設,改装,周年記念,謝恩
セール等すべての記念セールは当分の間全面的に中止すること,⑤石
油製品を景品とする販売は行わないことを内容とする自粛ルール五原
則(以下「自粛ルール五原則」という。)を取りまとめ,組合員に対
しそれを遵守するように指示する昭和63年6月27日付け文書を作成
し,支部長から組合員にその内容を周知させた。
 次いで,県石商は,昭和63年10月ころ,自粛ルール五原則のうち,
記念セールの全面的中止の部分を緩和することとし,組合員の給油所
の新設又は全面改装に伴う記念セールの場合の販売方法に関して,①
記念セールの期間は最長4日間までとすること,②チラシ,ポス
ター,看板等には,ガソリン,灯油,軽油等石油製品の安値表示をう
たわないこと,③小売価格は周辺の市況に合わせ,安値価格での販売
は行わないこと,④事前訪問活動及び景品の提供は,一定範囲内に自
粛すること,⑤記念セールを行う場合は,上記①ないし④のルールに
基づき五者協議会において協議することを内容とする自主ルール(以
下「自主ルール」という。)を取りまとめ,組合員に対しそれを遵守
することを指示する昭和63年10月4日付け文書を作成し,支部長から
組合員にその内容を周知させた。
 県石商は,組合員に対し,上記ウ及びエのとおり自粛ルール五原則
及び自主ルール(以下併せて「本件両ルール」という。)を周知させ
た後も,必要に応じて県石商の会議の場等で本件両ルールの遵守を繰
り返し確認するとともに,遵守対策を講じ,組合員に遵守させてい
る。
(4) 法令の適用
 県石商は,独占禁止法第2条第2項所定の事業者団体に該当するとこ
ろ,所属組合員に揮発油,軽油及び灯油の販売方法に関し,本件両ルー
ルを遵守させているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を
不当に制限するものであり,同法第8条第1項第4号に違反する。
(5) 命じた主な措置
 県石商は,組合員の揮発油,軽油及び灯油の販売方法に関し,昭和
63年6月27日付けの各支部長を通じて組合員に自粛ルール五原則の遵
守方を求める指示及び同年10月4日付けの各支部長を通じて組合員に
自主ルールの遵守方を求める指示を撤回するとともに,これらのルー
ルに基づいて行っている組合員の事業活動を制限する行為を取りやめ
なければならない。
 県石商は,前記アに基づいて採った措置を組合員並びに県石商の地
区内の揮発油,軽油及び灯油の需要者に周知徹底させなければならな
い。
 県石商は,今後,前記アと同様の方法により,組合員の揮発油,軽
油及び灯油の販売方法に関する事業活動を制限する行為をしてはなら
ない。

第3 同意審決

平成6年(判)第4号野崎産業株式会社に対する審決
(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が野崎産業株式会社(以下「野崎産業」という。)
並びに株式会社明治屋(以下「明治屋」という。),雪印食品株式会社
(以下「雪印食品」という。)及び国分株式会社(以下「国分」とい
う。)の3社(以下この3社を「3社」という。)に対し,独占禁止法第
48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,3社は,これを応諾し
たので,3社に対し平成6年2月23日,同条第4項の規定に基づき,当
該勧告と同趣旨の審決を行ったが,野崎産業は,勧告を応諾しなかった
ので,同社に対し同法第49条第1項の規定に基づき,審判開始決定を行
い,審判官をして審判手続を行わせていたところ,野崎産業から,文書
をもって,同法第53条の3の規定に基づき同意審決を受けたい旨の申出
があり,かつ,具体的措置に関する計画書が提出されたので,これを精
査した結果,適当と認められたので,当委員会は,その後の審判手続を
経ないで,審決を行った。
(3) 認定した事実の概要
(ア)  野崎産業,明治屋及び国分は,それぞれ,自社の商標を付した畜
肉コンビーフ缶詰を他の事業者から供給を受けて販売しているもの
であり,また,雪印食品は,畜肉コンビーフ缶詰の製造販売業を営
む者である。
(イ)  畜肉コンビーフ缶詰には,コンビーフ缶詰100グラム缶,同190グ
ラム缶,ニューコンビーフ缶詰100グラム缶,同190グラム缶(以下
4品目を「特定コンビーフ」という。なお,販売量は100グラム缶
が大部分である。)等がある。
(ウ)  野崎産業及び3社は,特定コンビーフを直接又は卸売業者を通じ
て,量販店,いわゆるコンビニエンスストア(以下これらを総称を
して「量販店等」という。),酒屋等の小売業者に販売しているとこ
ろ,野崎産業及び3社の特定コンビーフの販売量の合計は,我が国
における畜肉コンビーフ缶詰の総販売量の大部分を占めている。
(エ)  野崎産業及び3社は,従来から,それぞれ,特定コンビーフにつ
いて,小売業者の販売価格の目安となる価格(以下「希望小売価
格」という。)を設定するとともに,これに一定率を乗ずることに
より,流通各段階における取引価格の目安となる価格(以下「建
値」という。)を設定している。
(オ)  野崎産業及び3社は,畜肉コンビーフ缶詰の需要を喚起するため
の方策等について検討するため,平成2年9月ごろ,野崎産業及び
3社の部長又は課長級の者による会合(以下「4社会」という。)
を設け,それ以降累次開催した4社会において畜肉コンビーフ缶詰
の宣伝広告の実施策や市況対策等について意見交換を行ってきた。
 野崎産業及び3社は,かねてから,特定コンビーフの販売価格の低
落に対処するための方策等について検討を行ってきたところ,特定コ
ンビーフの販売価格を引き上げるには希望小売価格及び建値を引き上
げ,これによって小売価格が引き上げられれば,順次,流通各段階の
取引価格が引き上げられ,自らの販売価格も容易に引き上げることが
できる状況にあることから,平成3年6月6日,東京都中央区所在の
国分会議室で開催した4社会おいて
(ア)  各社の希望小売価格をコンビーフ缶詰100グラム缶は330円に,同
190グラム缶は600円に,ニューコンビーフ缶詰100グラム缶は190円
に,同190グラム缶は320円に,それぞれ引き上げること
(イ)  各社の流通各段階における建値は,前記(ア)の希望小売価格に野崎
産業及び3社で確認した一定率を乗じた額とすること
(ウ)  希望小売価格及び建値の引上げを遅くとも平成3年9月初めから
行うこととし,平成3年6月25日から同年7月5日にかけて,それ
ぞれ取引販売業者に通知すること
(エ)  希望小売価格及び建値の引上げに伴う販売価格引上げの実効を確
保するため
 野崎産業及び3社の取引先販売業者に対する最低販売価格は,
コンビーフ缶詰100グラム缶は198円以上,ニューコンビーフ缶詰
100グラム缶は105円以上とすること
 量販店等が通常時に販売する価格について,コンビーフ缶詰
100グラム缶を318円以上,ニューコンビーフ缶詰100グラム缶を
178円以上に設定するよう量販店等と交渉し,その状況について
4社会において情報交換すること
について合意した。
 野崎産業及び3社は,前記イの合意に基づき,それぞれ,自己の取
引先販売業者に対し希望小売価格及び建値の引上げについて通知する
とともに,必要に応じ,自ら量販店等と価格引上げ交渉を行いつつ,
4社会において,その状況について情報交換を行うなどして,特定コ
ンビーフの販売価格をおおむね引き上げている。
 平成6年2月23日,当委員会は,3社に対し,前記イの事実に係る
特定コンビーフの販売価格の引上げに関する合意の破棄を命じる審決
を行い,同年3月,3社は,同審決に基づいて同合意を破棄した。
(4) 法令の適用
 野崎産業及び3社は,共同して,特定コンビーフの販売価格の引上げ
を決定することにより,公共の利益に反して,我が国における特定コン
ビーフの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,
これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,
同法第3条の規定に違反するものである。
(5) 命じた主な措置
 野崎産業は,次の事項をコンビーフ缶詰及びニューコンビーフ缶詰の
100グラム缶及び190グラム缶製品の販売業者及び一般消費者に周知徹底
させなければならない。
 野崎産業は,平成3年6月6日,3社と前記製品の販売価格の引上
げに関する合意をしたが,この合意は破棄された旨
 野崎産業は,今後,3社と共同して前記製品の販売価格を決定せ
ず,自主的に決める旨

第4 課徴金納付命令審決

平成7年(判)第1号中国塗料株式会社に対する審決
(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が中国塗料株式会社(以下「中国塗料」という。)
並びに日本ペイント株式会社,関西ペイント株式会社,関西ペイントマ
リンコーティング株式会社,ニチユヨートン株式会社,大日本塗料株式
会社,シントーシグマコーティングス株式会社,株式会社トウペ,神戸
ペイント株式会社及びカナヱ塗料株式会社の9社(以下「9社」とい
う。)が,共同して,船舶用塗料等の販売価格の引上げを決定している
行為が独占禁止法第3条の規定に違反するとして,平成6年2月28日に
審決を行い,同年11月18日,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づ
き課徴金納付命令を行ったところ,中国塗料はこれを不服として審判手
続の開始を請求したので,同社に対し独占禁止法第49条第2項の規定に
基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものであ
る。
 当委員会は,中国塗料が平成8年3月1日付けの担当審判官の作成し
た審決案に対し異議の申立てを行ったので,審決案を調査の上,審決案
と同じ内容の審決を行った。
(3) 認定した事実等の概要
課徴金に係る違反行為
 中国塗料は、9社と共同して,船舶用塗料等の販売価格の引上げを
決定することにより,我が国における船舶用塗料等の販売分野におけ
る競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第
3条の規定に違反するものであり,かつ,同法第7条の2に規定する
当該商品の対価に係る行為である。
課徴金の計算の基礎
(ア)  中国塗料は,船舶用塗料向けのシンナー(以下「船舶用シン
ナー」という。)及び船舶用塗料(以下これらを合わせて「船舶用
塗料等」という。)の製造販売業を営む者である。
(イ)  中国塗料が違反行為の実行としての事業活動を行った日は,船舶
用シンナーについては平成2年10月15日,船舶用塗料については同
年11月1日である。
 また,中国塗料は,平成6年3月1日,前記違反行為を取りやめ
ており,その後,その実行としての事業活動はなくなっている。
  したがって,中国塗料については、前記違反行為の実行としての
事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくな
る日までの期間が3年を超えることとなるため,私的独占の禁止及
び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成3年法
律第42号)(以下「改正法」という。)附則第3項により,前記違反
行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行として
の事業活動がなくなる日までの期間は,平成3年3月2日から平成
6年3月1日までの3年間とみなされる。
(ウ)  中国塗料の前記期間における船舶用塗料等の売上額は,独占禁止
法施行令第5条の規定に基づき算定すると,改正法の施行日である
平成8年7月1日前については,15億654万4679円であり,同日以
後については108億8965万3060円である。
 よって,中国塗料が国庫に納付しなければならない課徴金の額
は,改正法附則第3項により,平成3年7月1日前の売上額に100
分の4を乗じて得た額の2分の1に相当する額と,同日以降の売上
額に100分の6を乗じて得た額とを合計した額から,独占禁止法第
7条の2第4項により1万円未満の端数を切り捨てて算出された6
億8351万円である。
(4) 法令の適用
 中国塗料は,船舶用塗料等の製造販売業を営む者であるが,改正法施
行前に事業者として不当な取引制限の行為を開始し,改正法施行後にそ
の行為を終わったところ,当該行為は独占禁止法第7条の2第1項所定
の課徴金の対象となる商品の対価に係るものであるから,改正法附則第
3項により,改正法施行日前に係るものについては改正法による改正前
の独占禁止法第7条の2第1項,第3項,独占禁止法施行令第5条を適
用して,改正法施行日以後に係るものについては改正法による改正後の
独占禁止法第7条の2第1項,第4項,独占禁止法施行令第5条を適用
して,中国塗料が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,前記(3)
イ(ウ)のとおりである。
(5) 命じた措置
中国塗料は,課徴金として6億8351万円を平成8年6月25日までに国
庫に納付しなければならない。
平成5年(判)第2号東芝ケミカル株式会社に対する審決
(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が東芝ケミカル株式会社(以下「東芝ケミカル」と
いう。)に対し,平成5年8月2日,独占禁止法第48条の2第1項の規
定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,東芝ケミカルはこれを不服
として審判手続の開始を請求したので,同法第49条第2項の規定に基づ
き審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,平成8年7月 5日付けの担当審判官の作成した審決案を
調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
 なお,本件については,当委員会が,東芝ケミカルが,日立化成工業
株式会社,松下電工株式会社,住友ベークライト株式会社,利昌工業株
式会社,鐘淵化学工業株式会社,新神戸電機株式会社及び三菱瓦斯化学
株式会社の7社(以下「7社」という。)と共同して,紙フェノール銅
張積層板の国内需要者渡し価格の引上げを決定していた行為が独占禁止
法第3条の規定に違反しているとして,東芝ケミカルらに対して,平成
元年6月6日に勧告を行ったところ,東芝ケミカルが当該勧告を応諾し
なかった(7社は,勧告を応諾したので,同年8月8日勧告審決を行
い,平成2年7月11日課徴金の納付を命じた。)ので,同社に対し審判
手続を開始した。審判手続を経て,東芝ケミカルに対し,平成4年9月
16日審決を行ったところ,同社は,審決取消請求の訴え(1次訴訟)を
東京高等裁判所に提起し,同裁判所は,平成6年2月25日,同審決を取
り消し,事件を当委員会に差し戻す旨の判決を行ったため,当委員会
は,平成6年5月26日再審決を行い,同社が,これに対し審決取消請求
の訴え(2次訴訟)を東京高等裁判所に提起し,同裁判所は,平成7年
9月25日請求棄却の判決を行った。
(3) 認定した事実等の概要
課徴金に係る違反行為
 東芝ケミカルは,7社と共同して,紙フェノール銅張積層板の国内
需要者渡し価格の引上げを決定することにより,不当な取引制限で商
品の対価に係る違反行為をしていたものである。
課徴金の計算の基礎
(ア)  東芝ケミカルは、紙フェノール銅張積層板の製造販売業を営む者
である。
(イ)  東芝ケミカルが前記違反行為の実行としての事業活動を行った日
は,昭和62年8月24日である。
 また,東芝ケミカルは,昭和63年6月12日以降,前記違反行為の
実行としての事業活動を行っていない。
 したがって,東芝ケミカルは前記違反行為の実行としての事業活
動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日ま
での期間は,昭和62年8月24日から昭和63年6月11日までである。
(ウ)  東芝ケミカルの前記期間における紙フェノール銅張積層板の売上
額は,独占禁止法施行令第5条に基づき算定すると,27億802万8248
円となる。
 よって,東芝ケミカルが国庫に納付しなければならない課徴金の
額は,売上額に100分の4を乗じて得た額の2分の1に相当する額
から1万円未満の端数を切り捨てて算出された5416万円である。
(4) 法令の適用
 東芝ケミカルは,紙フェノール銅張積層板の製造販売業を営む者であ
るが,東芝ケミカルの行為は,改正法附則第2項により適用を受ける同
法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項所定の課徴金の対象とな
る商品の対価に係るものであるから,改正前の同法第7条の2第1項,
第3項,独占禁止法施行令第5条を適用して,東芝ケミカルが国庫に納
付しなければならない課徴金の額は,前記(3)イ(ウ)のとおりとなる。
(5) 命じた措置
 東芝ケミカルは,課徴金として5416万円を平成8年10月 7日までに国
庫に納付しなければならない。
平成5年(判)第3ないし第5号トッパン・ムーア株式会社ほか2名に
対する審決
(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会がトッパン・ムーア株式会社(以下「トッパン・
ムーア」という。),大日本印刷株式会社(以下「大日本印刷」とい
う。)及び小林記録紙株式会社(以下「小林記録紙」という。)の3社
(以下「3社」という。)に対し,平成5年9月24日,独占禁止法第48
条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,3社はこ
れを不服として審判手続の開始を請求したので,3社に対し同法第49条
第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行
わせたものである。
 当委員会は,3社が平成8年6月28日付けの担当審判官の作成した審
決案に対し,異議の申立てを行ったので,審決案を調査の上,審決案と
同じ内容の審決を行った(なお,本件は,大日本印刷から平成8年8月
28日に,トッパン・ムーアから同年9月 2日に,小林記録紙から同年9
月3日に,それぞれ,審決取消訴訟が提起され,平成8年度末現在,東
京高等裁判所において係属中である。)。
 なお,本件に関連し,3社及び株式会社日立情報システムズ(以下
「日立情報」という。)は,独占禁止法違反事件として,それぞれ,罰
金400万円に処せられ(平成5年12月14日東京高等裁判所判決)、また、
国(社会保険庁)が3社を相手に不当利得返還請求訴訟を東京地方裁判
所に提起している。
(3) 認定した事実等の概要
課徴金に係る違反行為
 3社は,日立情報と共同して,社会保険庁が指名競争入札の方法に
より発注する国民年金,厚生年金及び船員保険年金の各種通知書等貼
付用シール(以下「本件シール」という。)について,あらかじめ受
注予定者を決定することにより,不当な取引制限で商品の対価に係る
違反行為をしていたものである。なお,日立情報は,前記違反行為の
事実に基づいて,3社とともに同一内容の排除措置命令を受けたが,
前記違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行
としての事業活動がなくなる日までの期間とみなされる期間(以下
「本件実行期間」という。)において本件シールの発注者である社会
保険庁との間で締結した納入契約の実績がなかったので,課徴金納付
命令は受けていない。
課徴金の計算の基礎
(ア)  3社は,いずれも,本件シールの受注面において製造業者として
の地位にある。
(イ)  3社が前記違反行為の実行としての事業活動を行った日は,遅く
とも平成元年11月11日以前である。
 また,3社は,いずれも,平成4年11月11日,前記違反行為を取
りやめており,その後は,その実行としての事業活動はなくなって
いる。
 したがって,3社各自について,それぞれ前記 違反行為の実行と
しての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えることとなる
ため,改正法附則第3項により,前記違反行為の実行としての事業
活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日
までの期間は,平成元年11月12日から平成4年11月11日までの3年
間とみなされる。
(ウ)  前記違反行為は,社会保険庁から受注する本件シールのみに関
し,あらかじめ受注予定者を決定することにより不当な取引制限行
為をしたというもので,契約時点で契約額が算定できるところ,本
件実行期間における社会保険庁からの本件シールの発注には,発注
頻度が年間を通じて平準化されておらず,かつ,発注額が時期的に
均一でないこと,契約締結から完納までの期間が長期間を要するも
のが大部分を占めているなど本件実行期間において引き渡した本件
シールの売上額と本件実行期間において締結した本件シールの販売
に係る契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異
を生ずる事情があるので,3社の本件実行期間における本件シール
の売上額は,独占禁止法施行令第6条に基づき算定すると,トッパ
ン・ムーアにおいては,平成3年7月1日前については20億9476万
5507円,同日以降については8億3707万6477円,大日本印刷におい
ては,平成3年7月1日前については4億4005万8024円,同日以降
については5億3829万5242円であり,小林記録紙においては,平成
3年7月1日前については10億7536万3630円,同日以降については
2億6443万458円である。
 よって,3社が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,改
正法附則第3項により,平成3年7月1日前の各売上額に100分の
4を乗じて得た額の2分の1に相当する額(ただし,改正法による
改正前の独占禁止法第7条の2第3項により1万円未満の端数を切
り捨てたもの)と,同日以降の各売上額にl00分の6を乗じて得た
額(ただし,改正後の独占禁止法第7条の2第4項により1万円未
満の端数を切り捨てたもの)とを合計して算出した,トッパン・
ムーアにおいては9211万円,大日本印刷においては4109万円,小林
記録紙においては3736万円である。
(4) 法令の適用
 3社は,いずれも,改正法施行前に事業者として不当な取引制限の行
為を開始し,同法施行後にその行為を終わったところ,当該行為は独占
禁止法第7条の2第1項所定の課徴金の対象となる商品の対価に係るも
のであるから,改正法附則第3項により,同法施行日前に係るものにつ
いては同法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項,第3項,独占
禁止法施行令第6条を適用して,改正法施行日以降に係るものについて
は同法による改正後の独占禁止法第7条の2第1項,第4項,独占禁止
法施行令第6条を適用して,3社がそれぞれ国庫に納付しなければなら
ない課徴金の額は,前記(3)イ(ウ)のとおりである。
(5) 命じた主な措置
 トッパン・ムーアは9211万円を,大日本印刷は4109万円を,小林記録
紙は3736万円を,それぞれ課徴金として平成8年10月 7日までに国庫に
納付しなければならない。