第4 清涼飲料水,食肉加工品及び婦人衣料品の流通・取引慣行に
   関する実態調査

調査の趣旨
 当委員会は,政府の「緊急円高・経済対策の具体化・補強を図るための
諸施策」(平成7年6月)において,内外価格差調査を実施しその要因の
分析を行うこととしていることを踏まえ,競争政策の観点から所要の実態
調査を行い,その要因分析を実施し,平成8年6月に公表した。
調査の対象・方法
 調査対象品目は清涼飲料水,食肉加工品(ハム・ソーセージ等)及び婦
人衣料品(婦人服及び婦人下着)であり,調査期間は平成7年10月から平
成8年6月までで,調査方法としてはそれぞれの調査対象品目の関係事業
者や消費者モニターに対し,アンケート調査(平成8年1月実施)を行う
とともに,必要なヒアリングを行った。
 本調査の視点としては,@小売業者の販売価格の自主的決定や市場にお
ける競争がメーカー等からの働きかけ又は業界の取引慣行によって阻害さ
れていないか,APB商品や輸入品の取扱いは,国内市場における競争圧
力として内外価格差縮小に資するが,これがどの程度進んでいるか,進ん
でいない場合その要因は何か,という2点から分析した。
調査結果の概要
 内外価格差の状況とその要因をそれぞれの品目ごとに分析すると次のと
おりである。
表1 内外価格差の状況
(1) 清涼飲料水(出荷額3兆円,上位5社集中度:63.1%)
 コーラの内外価格差は1.54倍から4.90倍と大きい(各調査対象品目の
内外価格差の状況は表1のとおり。)。この点については,主に次の点が
考えられる。
 缶入り清涼飲料水の自動販売機による販売は,小売業者の店舗内で
の販売を含めた全販売額の約半分を占め,小売業者の販売形態のほと
んどが飲料メーカー等からの貸与機によるものであって,メーカー希
望小売価格どおりで販売されていることが多く,安価な輸入品やPB
商品が自動販売機に装てんされていることは少ない。店売り価格は希
望小売価格よりも安い価格での販売もみられるが,貸与された自動販
売機での販売価格では,実態上は場所貸しと同じとなっている受動的
な販売姿勢や横並び意識,薄利多売に不向きという固定観念からメー
カー希望小売価格を重視する比率が高い。これに対し,小売店等の自
己所有自動販売機の場合,貸与された自動販売機と比較して商品選択
や価格設定について自主性がうかがわれる面がある。貸与された自動
販売機においては,中身商品の制限はあるとしても,価格設定におい
て硬直性があるのではないかと考えられる。
 国内市場に占める輸入品の割合は近年増加傾向にあり,チェーンス
トアやディスカウントストアを中心に輸入に積極的な姿勢がみられる
が,その割合は5%程度といまだ小さく,現在までのところ輸入品が
国産品の十分な競争圧力となっていない。消費者意識でも低価格販売
が望まれており,今後の事業者の低価格販売意識の向上が望まれる。
(2) 食肉加工品(ハム・ソーセージ類)(出荷額7223億円,上位5社集中
度:56.4%)
 ボンレスハムの内外価格差は,1.06〜1.78倍と大きい。これには,主
に次の点が考えられる。
 国内流通の面では,商品の厳しい鮮度管理や返品等の慣行が流通コ
ストを引き上げている可能性があり,また,メーカーからの販売価格
への関与があるとする意見も多い。
 食肉加工品の輸入については,総じて1%とごくわずかなものにと
どまっており,ソーセージ類で部分的に進んでいるが,輸入品が国産
品の十分な競争圧力となっていない。
 食肉加工品の主原料の8割は豚肉であり,そのうち6割は輸入であ
るが,関税制度のため,価格面での有利性をいかすことが困難となっ
ている面がある。
(3) 婦人衣料品(婦人服及び婦人下着)(それぞれ,出荷額8400億円,
2900億円,上位5社集中度:17.0%,53.3%)
 婦人衣料の内外価格差については,婦人服のうち婦人ブレザーは
0.77〜1.45倍と比較的小さいが,婦人下着のうちブラジャーは1.07〜
2.20倍,ショーツは0.93〜2.31倍と大きい。消費者物価指数で価格の動
向をみると,婦人服(スーツ)は平成6,7年と下落しているが,下着
類は近年上昇を続けている。これには,主に次の点が考えられる。
 婦人服,婦人下着とも,メーカーはいわゆるブランド品と実用品と
を区別し,販路,販売方法,価格設定の面で異なる政策を採ってお
り,派遣店員,コーナー制を採用している。例えば,百貨店に対して
は,ブランドイメージの高い商品を取り扱うよう働きかけ,その際併
せて派遣店員及びコーナー制の採用も働きかける,又はこれらの採用
を取引を行う上での条件にすることにより,商品のブランドイメージ
を確立・維持しようとする。他方,百貨店以外の小売業者に対して
は,ブランドイメージの高い商品を扱いたいという希望があっても派
遣店員,コーナー制という条件を提示して,結果的に,第2ブランド
の商品を扱うよう働きかける等の動きがみられる。このようなメー
カーのチャネル政策により,輸入品による競争圧力が比較的働いてい
るとみられる婦人服においても,ブランド品においてはその効果は限
定的なものにとどまっている。
 衣類全体でみると輸入金額は近年増加傾向にあり,国内需要の3分
の1近くが輸入で賄われるまでになっている。しかし,特に婦人下着
では,開発輸入は進んできているが,製品輸入は仕入れの機動性,品
質等から比較的消極的であり,消費者のブランド志向もあり,国産品
に対する十分な競争圧力となっていない。
競争政策上の問題点
(1) 販売価格への関与(清涼飲料水,食肉加工品,婦人服及び婦人下着)
 小売業者の販売価格に関しては,清涼飲料水,食肉加工品,婦人服及
び婦人下着のいずれについても,この1年間にメーカー等から販売価格
について要請されたことがあると回答した小売業者がみられた。
 このような回答の割合は,調査3品目では食肉加工品で高くなってい
るほか,婦人服及び婦人下着では,特売の際に同様の要請を受けるとの
回答比率が高かった。また,飲料メーカーから貸与された自動販売機に
よる缶入り清涼飲料水の販売においては,メーカー希望小売価格より安
い価格で販売することがない理由として,メーカー等から販売価格につ
いて要請されることを挙げる小売業者もみられた。
 メーカーが小売業者に販売価格や値引き限度額を示し,当該価格で販
売するよう要請し,両者間で当該価格で販売するよう合意する,あるい
は要請に従わない場合には出荷停止を行う等により,小売業者がメー
カーの示した価格で販売するよう拘束されている場合には,再販売価格
の拘束として独占禁止法上問題となる。また,食肉加工品,婦人服及び
婦人下着について,賞味期限の迫った商品又は色やサイズ等がふぞろい
となった商品がメーカーの求めにより返品されることがある。この点に
ついては,品質保持を行う,品ぞろえをした上で再出荷する等の理由か
ら返品されることが多いとされているが,仮に,メーカーが小売業者に
安売りをさせないために返品させている場合には,独占禁止法上問題と
なる。
 今回の調査においてみられた事例が直ちに独占禁止法違反であると断
定することはできないが,清涼飲料水,食肉加工品,婦人服及び婦人下
着に関して,メーカー等が小売業者の販売価格に関与しているとみられ
る事例が多くみられることから,メーカー等において流通・取引慣行に
関する独占禁止法上の指針の趣旨を更に徹底する必要があると考えられ
る。したがって,各品目の関係団体等に対して,同指針の内容が会員各
社内で周知徹底されるよう要請するとともに,当委員会としても,今後
とも実態を注視し,独占禁止法に違反する行為があれば,厳正に対処す
ることとする。
表2  この1年間に小売業者における通常の販売価格を理由とする要請等が
あった事例(食肉加工品)
表3  この1年間に小売業者における販売価格を理由とする要請等があった
事例(婦人衣料品)
(2) メーカーのチャネル政策(婦人服及び婦人下着)
 婦人服及び婦人下着のメーカーの中には,百貨店,専門店,チェーン
ストア等,販路に応じて,その取引対象となる商品に差異を設ける販売
政策を採っているものがある。
 このような販売政策に基づいて,メーカーが取引先小売業者を選択す
ることについては,基本的にはメーカーの取引先選択の自由の問題であ
り,品質,サービス等の要因を考慮して,独自の判断によって,小売業
者を選択しても,基本的には独占禁止法違反となるものではない。しか
し,メーカーが取引先小売業者を決定するに際して,安売りを行わない
ことを条件として取引する場合には独占禁止法上問題となる。
 また,派遣店員が小売価格を監視できる立場にあることを利用して,
メーカーが価格維持を図っている場合には独占禁止法上問題となる。
 当委員会は,今後とも実態を注視し,独占禁止法に違反する行為があ
れば,厳正に対処することとする。
(3) 自動販売機による販売における制限(清涼飲料水)
中身商品の制限
 飲料メーカーから貸与されている自動販売機について,「当該自動
販売機では当該メーカーの商品以外を販売しないよう要請される」な
どとする小売業者がみられた。しかし,当該飲料メーカー以外の飲料
メーカーから小売業者が自動販売機の貸与を受けることまで制約して
いる実態はみられなかった。
 今回の調査によれば,少数ではあるが,小売業者等の中には,自動
販売機の所有者である飲料メーカーと交渉するなどにより,当該飲料
メーカーの商品以外の商品を当該自動販売機で販売しているとするも
のもみられる。このような事例が今後増加すれば小売業者のPB商品
や輸入品にとって,販路を更に拡大することが可能となり,清涼飲料
水市場における競争も一層活発化するものと期待される。
自動販売機の入手
 自動販売機を所有している小売業者はほとんどなく,小売業者が自
動販売機を入手するのは困難であるとされているが,今回の調査で
は,飲料メーカー等が小売業者の自動販売機の入手を妨害している等
の事実は認められなかった。
 しかしながら,市場における有力な飲料メーカー等が,取引先であ
る自動販売機メーカーに対し,自動販売機による缶入り清涼飲料水の
販売分野における競争者である小売業者と取引しない条件又はその販
売先を制限する条件を付けて取引をし,それにより小売業者の取引の
機会が減少し,他に替わり得る取引先を容易に見いだすことができな
くなるおそれがある場合には,不公正な取引方法に該当し,違法とな
ると考えられることから,当委員会としては,今後ともこのようなこ
とが行われないよう監視していくこととする。
(4) 関税制度(食肉加工品)
 食肉加工品の原料である豚肉及び一定の食肉加工品については,昭和
46年の輸入自由化以降,安い海外産豚肉から国産豚肉を守り国内生産の
安定を図ることを目的として,国内の価格安定制度を前提とした差額関
税制度が採られていた。その後,平成5年のガット・ウルグァイ・ラウ
ンド(新多角的貿易交渉。以下「UR」という。)合意により関税化さ
れ,基準輸入価格は国内の安定基準価格及び安定上位価格からは切り離
される等の変更が加えられたが,基本的には現在も同様の制度が採られ
ている。
 これらの制度はガット上認められたものであり,UR合意を受けて基
準輸入価格は漸次引き下げられることになっているが,食肉加工品の内
外価格差の要因の一つとなっているとする声が多く聞かれるところであ
る。また,緊急措置の発動については,今回の調査において,「価格が
高騰し,食肉加工品の安定供給に支障を来す」,「価格高騰がかえって国
内農家の生産性向上の努力に水を差す」という意見がみられた。
 平成12年まで基準輸入価格が漸次引き下げられることに伴い,輸入豚
肉の競争圧力が増していくものとみられ,また他方で,国産豚肉の生
産・流通コストの低減努力が更に進められることが期待される。こうし
た競争条件の変化が国内の豚肉価格に適正に反映されるよう既存の諸制
度が運用されることが望まれる。