第5 外資系企業からみた我が国事業者団体の活動に関する調査

調査の趣旨
 経済のグローバル化に伴い世界経済の相互依存・相互浸透の度合いがよ
り一層高まるにつれて,国内の事業者はもとより,外資系企業が我が国市
場に自由に参入し,事業活動を行うことができる機会を確保することは,
我が国経済における公正かつ自由な競争を一層促進することにより,我が
国市場をより競争的かつ開かれたものとしていく上で極めて重要なことで
ある。
 この調査は,我が国事業者団体の活動について,外資系企業がどのよう
な関連を持ち,外資系企業の活動との関係でどのような問題点が存在して
いるのか等を把握することにより,我が国事業者団体の活動の実態の一端
を明らかにし,今後の競争政策の運営に役立てることができるよう,我が
国において活動している外資系企業を対象に実施し,平成8年9月に公表
したものである。
 なお,当委員会では,平成4年にも外資系企業と我が国事業者団体との
関係について調査を実施しており,ここでも適宜当時の調査結果を引用す
る。
調査対象・方法
 現に我が国において事業活動を行い,外資の比率が50%以上とみられる
日本法人及び外国企業の日本支社(支店)の中から500社を選定し,アン
ケート及びヒアリングを中心とする調査を実施した(アンケート調査票の
発送は平成8年2月23日。回収率は55.6%。)。また,外資系企業から寄せ
られた回答に基づき,必要に応じて,事業者団体の側からのヒアリングを
行った。
調査結果の概要
(1) 事業者団体への加入の有無
 平成4年時の調査と比べて今回の調査では,事業者団体に加入してい
る外資系企業の割合が67.6%から73.8%に増加する一方,加入していな
い外資系企業の割合が33.8%から26.2%に減少しており,何らかの形で
事業者団体に加入している外資系企業が増えてきていることがうかがわ
れる。
 外資系企業の属する業種によって事業者団体への加入状況にどのよう
な違いがみられるかを示しているのが表1である。
表1 事業者団体への加入の有無
(2) 事業者団体への加入理由
 平成4年時の調査と比べて今回の調査では,事業者団体への加入理由
として「関係行政機関の通達などの行政情報が入手できるから」
(66.1%→55.3%)と「関係行政機関への申請業務などがスムーズにな
るから」(28.0%→18.4%)を挙げた者の割合が大幅に減少している。
他方,今回の調査で選択肢として新たに設けた「同業他社の多くが加入
しているから」(33.0%)と「団体が行う調査研究に参加できるから」
(22.3%)という理由を挙げてきた者がかなりの割合に達する。
(3) 事業者団体の加入に伴うデメリット等の有無及びその内容
 事業者団体に加入していることに伴うデメリットや事業者団体内部で
の不公平な取扱いを感じるとした外資系企業の割合は,平成4年時の調
査と比べて34.9%から8.3%へと大幅に減少している。そして,デメ
リット等と感ずるものの内容は,いずれの調査においても,多い順に,
「会費,負担金,賦課金などの金銭的負担が大きい」,「団体の活動のた
めに割かなければならない自社の人的負担が大きい」というものであ
り,経済的又は人的側面での負担を挙げる外資系企業が多い。また,今
回の調査では,「会員であっても団体の非公式な会合に参加できない」,
「会員であっても団体の重要な意思決定に参加できない」等の事業者団
体内部における差別的な取扱いの可能性を示すような回答が目立つ(表
2)。
第2 事業者団体の加入に伴うデメリット等の内容
(4) 事業者団体に加入しない理由
 平成4年時の調査に比べて今回の調査では,「自社が団体の加入資格
条件を満たしていないから」(9.3%→3.6%)と「団体があることを知
らないから」(22.7%→14.3%)との回答が顕著な減少をみせる一方,
「団体が有益な活動を行っていないから」(11.3%→20.2%)と「会費,
負担金,賦課金などが高いから(12.4%→23.8%)との回答が増加し
ている。こうしたことから,従来は,外資系企業の意思とは直接的な関
係のない原因(団体の存在を知らない,加入資格要件を満たしていな
い)に基づいて事業者団体に加入しないケースが多かったが,最近で
は,事業者団体の活動内容や対費用効果を吟味した上で事業者団体に加
入するか否かを決める外資系企業が多くなってきている様子かうかがわ
れる。
(5) 事業者団体に加入しないことに伴うデメリット
 事業者団体に加入しないことによるデメリットを感じるとした外資系
企業の割合は,平成4年時の調査と比べて18.0%から4.2%へと大幅に
減少している。
(6) 事業者団体への加入を断られた経験の有無
 過去に事業者団体への加入を申請したにもかかわらず,その団体から
加入を断られた経験がある外資系企業の数は5社(全体の1.8%)と極
めて少なく,事業者団体が外資系企業の加入を断るというケースは多く
ない状況がうかがわれる。事業者団体から加入を断られた経験のある5
社に対して加入を断られた理由を聞いたところ,5社のうち3社までが
「自社が日本国内に製造や販売のための設備を有していなかったから」
と回答している。この点について3社から補足ヒアリングを行った結果
では,3社のうち2社は,一度は加入を断られたもののその後に国内に
製造設備等を保有することになって当該団体に加入できたとのことであ
り,残る1社についても加入を断られた事業者団体に加入しなくても事
業上特段の不利益はない旨回答しており,いずれも独占禁止法上問題と
なるようなケースではなかった。国内での製造設備の保有を事業者団体
の加入資格要件とすることは,事業者団体に加入しなければ事業活動を
行うことが困難な状況においては独占禁止法上問題となることから,関
係する事業者団体に対しては個別にその旨注意喚起を行った。
 次に集計結果では,「既にその団体のメンバーとなっていた自社の同
業者が自社の加入に難色を示したから」との回答が1社から寄せられて
いる。当該事業者団体にはその後も加入できてはいないものの,当該事
業者団体と既に同社が加入している別の事業者団体が合併して発足する
新たな事業者団体に加入できることとなり,また,加入を断られた事業
者団体に加入しなくても事実上多少不利になる程度で事業の遂行自体に
支障はなかったとのことであり,これが直ちに独占禁止法上問題となる
事例ではなかった。
 なお,補足ヒアリングの結果,会員会社の推薦を加入資格要件の一つ
としている事業者団体が見受けられた。多くの場合,事業者団体に新規
に加入を申請する事業者と当該事業者団体の会員会社とは直接的な競合
関係にあると考えられるところ,このような加入資格要件は,上記のよ
うに,事業者団体に加入しなければ事業活動を行うことが困難な状況に
おいては独占禁止法上問題となることから,そのような加入資格要件を
設定していた事業者団体に対しては,その旨の注意喚起を行った。
 また,今回の調査においては,事業者団体への加入を拒否された理由
として「外資系企業だから」との理由を挙げた外資系企業は存在しな
かった。事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針の参考例5−
1−3−Cにおいては,事業者団体が「『日本国法人』や『日本国籍を
有する者』等国籍による制限を内容とする加入資格要件を設定するこ
と」は,事業者団体に加入しなければ事業活動が困難な状況においては
独占禁止法上問題になるとされており,当委員会としては,今後とも,
国籍による制限を内容とする加入資格要件の設定に関しても注視してい
くこととしている。
(7) 事業者団体と行政機関との関係について
 外資系企業が,我が国事業者団体と行政機関との関係をどのようにみ
ているかについては,回答の多い順に,「団体は,行政機関に対して,
もっと積極的に意見表明や政策提案を行うべきである」(34.5%),「行
政機関は,業界の自主基準・自主ルールの作成を団体に委託することが
多い」(33.5%),「行政機関は,団体を通じてのみ行政情報を提供する
ことが多い」(32.0%),「日本においては,団体は行政機関の末端とし
ての役割を担っている」(29.9%)等となっている。
(8) 事業者団体に加入しないことによる不利益の程度
 「事業者団体に加入しなくても事業上特段の影響はない」と「事業者
団体に加入しないと事業上多少不利になるが,事業に支障はない」と回
答してきた外資系企業の割合は,平成4年時の調査と比べて69.5%から
71.2%へと若干増加している。また,「事業者団体に加入しないと事業
上かなり不利になり,事業が困難である」と「事業者団体に加入しない
と事業は事実上不可能になる」と回答してきた外資系企業の割合は,
11.7%から10.5%に若干減少している。これらのことから,事業者団体
に加入しなければ事業活動が困難となったり,それに近い状況がもたら
されるという実態は,大局的にみれば,わずかではあるが減少傾向にあ
るという状況がみて取れる。
競争政策上の問題点
(1)  今回の調査結果からは,今後の競争政策の運営において留意すべき点
を次のとおり挙げることができる。
 今回の調査においては,事業者団体内部での差別的な取扱いの存在
をうかがわせる選択肢(「会員であっても団体の非公式な会合に参加
できない」,「会員であっても団体の重要な意思決定に参加できない」
等)を挙げた外資系企業が目立った。このことは,事業者団体の重要
な意思決定の会合が閉鎖的であったり,重要情報の開示が限られた範
囲に限定される等の事業者団体内部における差別的な取扱いの観点か
らの問題が多少残っていることを示していると考えられる。今後は,
事業者団体内部における不当な差別という観点をも十分に視野に入
れ,独占禁止法上の問題となるような実態があれば厳正に対処してい
く必要がある。
 今回の調査では,過去に事業者団体から加入を断られた経験がある
と回答した外資系企業の中に,断られた理由として「既にその団体の
メンバーとなっていた自社の同業者が自社の加入に難色を示したか
ら」を挙げたものが1社あったが,事業者団体のそうした行為は,当
該事業者団体に加入しなければ事業活動を行うことが困難な状況にお
いては,不当な加入制限として独占禁止法上問題となり得るものであ
る(事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針の参考例5−1−
3−B(直接的な競合関係にある事業者の了承等))。どのような場合
に「事業者団体に加入しなければ事業活動を行うことが困難な状況」
が生じているといえるのか,相談事例等を通じてそうした点に係る実
態把握を行うとともに,そうした実態を踏まえた具体例の整理が必要
となってくるものと考えられる。
 我が国で活動している外資系企業の多くはいわゆる欧米系の外資系
企業であり,今回の調査に寄せられた回答の多くも,これらの者に係
る我が国事業者団体の活動を反映したものである。今後,経済のグ
ローバル化に伴い世界経済の相互依存・相互浸透の度合いが高まるに
つれて,欧米系の外資系企業のみならず,経済成長の著しいアジア系
の外資系企業を中心に,我が国市場への外資系企業の積極的な参入が
予想されるが,そうした中で,我が国事業者団体の活動においても,
より一層の開放性,無差別性,透明性が求められるところであり,我
が国市場が国内外に対してより開かれたものとなるよう,事業者団体
の活動が参入制限的に機能することのないよう十分注視していく必要
がある。
 今回の調査の中では,平成4年時に比べると,外資系企業の側に事
業者団体を通じて行使される行政機関の影響力から一定の距離を置こ
うとする姿勢がうかがわれる一方で,行政機関の側には,依然として
行政情報の伝達などについて事業者団体を利用して一定の行政目的を
達成しようとしている状況がうかがわれた。
 中でも,大雑把な業種分類ではあるが,金融・保険業に属する外資
系企業から寄せられた次のような回答状況をみる限り,行政機関のそ
うした姿勢がその原因となっているのかは必ずしも明確ではないが,
結果として,その分野で活動する外資系企業にとっては事業者団体の
存在が他の業種と比べて相対的に重要なものとなっているのではない
かと推測できる。
(ア)  事業者団体に加入している外資系企業の割合が,外資系企業全体
でみると73.8%であるのに対して,金融保険業に属する外資系企業
に限ってみると96.7%に達していること。
(イ)  事業者団体に加入していないことによる事業上の不利益の程度に
ついて,「事業上特段の影響はない」との回答の割合が,外資系企
業全体でみると36.2%であるのに対して,金融・保険業に属する外
資系企業に限ってみると23.3%にとどまる一方,「事業上かなり不
利になり事業が困難である」との回答の割合が外資系企業全体でみ
ると10.0%であるのに対して,金融・保険業に属する外資系企業に
限ってみると43.3%に達していること。
こうした点に加え,事業者団体による過去の独占禁止法違反事件の
中で,公的規制や行政との関連の中で行われたものの割合が,入札談
合事件も含めると相当程度高いという実態を考え合わせると,事業者
団体による違反行為の未然防止の徹底を図るには,事業者団体の側に
おける取組だけではなく,行政機関の側における取組も必要であると
考えられる。その場合,行政機関の側における取組として一番重要な
のは,行政情報の伝達などについて安易に事業者団体を利用して一定
の行政目的を達成しようという意識や姿勢を改めることではないかと
考えられるが,当委員会としても,引き続き,事業者団体の活動に関
する独占禁止法上の指針をはじめ各種ガイドラインの内容の周知を図
るとともに,様々な行政調整の場面で十分に独占禁止法の趣旨を説明
するなど,行政機関に対する積極的な働きかけを行っていく必要があ
る。
(2)  調査結果を子細に検討すると,上記(1)のような問題点がみられるもの
の,今回の調査結果で示された次のような点を総合的に判断すると,我
が国の事業者団体の活動に関しては,従前に比べて,開放性,無差別
性,透明性が向上してきているのではないかと考えられる。
 事業者団体に加入している外資系企業の割合が平成4年時の67.6%
から73.8%に上昇していること。
 事業者団体に加入していることによって発生するデメリットや負担
等がある旨の回答の割合が平成4年時の34.9%から8.3%に大幅に減
少していること。
 事業者団体に加入しないことに伴うデメリットを感じる旨の回答の
割合が平成4年時の18.0%から4.2%に大幅に減少していること。
 過去に事業者団体への加入申請を行ったにもかかわらず,事業者団
体から加入を断られた経験のある外資系企業が5社(1.8%)と極め
て少数(低率)にとどまっていること。
 事業者団体に加入しないことによる不利益の程度について,「事業
上特段の影響はない」と「事業上多少不利になるが,事業に支障はな
い」との回答を合わせた割合が平成4年時の69.5%から71.2%へ若千
増加する一方,「事業上不利になり,事業が困難である」と「事業は
事実上不可能になる」との回答を合わせた割合が平成4年時の11.7%
から10.5%へ若干減少していること。
 今回の調査では,次のような外資系企業のある意味では合理的な企
業行動が見受けられたが,そのこと自体が我が国事業者団体の活動が
閉鎖的,排他的に行われているものではないことの一つの証左と考え
得ること。
(ア)  事業者団体に加入する理由として「団体が行う調査研究に参加で
きるから」を挙げた外資系企業の割合が46社(22.3%)に達するな
ど,明確な目的意識を持って事業者団体に加入していると認められ
る外資系企業が存在すること。
(イ)  事業者団体に加入しない理由として「団体が有益な活動を行って
いないから」と「会費,負担金,賦課金などが高いから」との回答
の割合が,それぞれ,平成4年時の11.3%から20.2%,同じく
12.4%から23.8%へ増加していることに示されるように,事業者団
体へ加入するか否かを決する際に事業者団体の活動内容や対費用効
果を吟味する外資系企業が増えてきていること。