13 海外競争政策の動き

 当委員会は,海外諸国 特にOECD加盟諸国の独占禁止法制及びその運
用状況について継続的に調査を行っている。以下では,1996年を中心とした
アメリカ,EU,ドイツ,イギリス,フランス及びアジア・大洋州諸国の競
争政策の動きを紹介する。この紹介は,OECD競争政策委員会に提出され
た加盟各国の年次報告等に基づいている。

13-1 アメリカ
(1) 法制の動き
反トラスト法及び関連法規の改正
 1996年においては,反トラスト法及び関連法規の改正は,特にな
かった。
反トラスト政策及びガイドラインの変更
(ア)  連邦取引委員会事務局報告書「新たな技術革新・グローバル市場
における競争政策」の公表
 連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は,1996年5月,「新
たな技術革新・グローバル市場における競争政策」と題する事務局
報告書を公表した。同報告書は,市場条件の変化がもたらす競争の
変質が,反トラスト法及びアメリカの競争政策に修正を必要とさせ
ているか否かについて検討するため,1995年にFTCが開催した公
聴会の結論を同事務局の意見とともにまとめたものである。同報告
書においては,合併審査における効率性の取扱いの再検討,「技術
革新市場」に係る分析の導入等が提言されている。
(イ)  合併審査における効率性に関する合併ガイドラインの改正
 FTC及び司法省反トラスト局(以下「反トラスト局」とい
う。)は,1997年4月,1992年合併ガイドラインの「第4章効率
性」に関する改正を行った旨公表した。同改正は,前記FTC事務
局報告書における提言を受けたもので,合併を承認する要素として
の効率性の取扱いをより明確化したものである。
(ウ)  医療分野における反トラスト法執行ガイドラインの改正
 FTC及び反トラスト局は,1996年8月,医療分野における反ト
ラスト法執行ガイドラインを共同で改正・公表した。改正ガイドラ
インにおいては,同ガイドラインの適用に係る病院等ネットワーク
の範囲が拡大されるとともに,効率化をもたらし消費者に便益を及
ぼす病院等のネットワークに対し,より柔軟に合理の原則を適用す
ることが明確化されており,医療分野における技術革新の促進が企
図されている。
(2) 法の運用
措置件数及び主要な反トラスト事件の概要
 司法省反トラスト局(以下「反トラスト局」という。)は,1996会
計年度(1995年10月~1996年9月)に347件の正式審査を開始し,71
件の提訴を行った。そのうち42件が刑事事件である。同年度中,個人
5名に延べ2,431日の拘禁刑が宣告され,個人及び法人に対する罰金
額の合計は,2682万ドルであった。
 FTCは,1996会計年度中に71件の審決を行ったが,このうち競争
法関係が31件(合併事件23件を含む。),消費者保護関係が40件であっ
た。
 反トラスト局及びFTCが扱った主な事件は,次のとおりである。
(ア) カルテル関係
 反トラスト局は,日本及びアメリカの製紙メーカーがアメリカ
及びカナダで販売するファックス用感熱紙に関し価格カルテルを
行っていたとして,1994年7月から1996年4月までの間に4回に
わたって起訴したが,このうち,有罪を認めず争っていた日系の
製紙メーカー1社に対し,1996年9月,ボストン連邦地裁が本案
審理の前に管轄権がないとして訴え却下の判決を行ったので,反
トラスト局は,これを不服として控訴していた。これに対し,第
1巡回連邦控訴裁判所は,1997年3月,連邦地裁判決を破棄し同
地裁に差し戻す旨の判決を行った。
 反トラスト局は,日本,アメリカ等の食品添加物メーカー4社
がアメリカを含む全世界の市場で販売するリジンに関し価格カル
テル及び数量カルテルを行っていたとして,1996年8月から同年
12月までの間に3回にわたって起訴した。4社は,いずれも有罪
を認め,罰金の支払に合意したが,4社のうちアメリカのメー
カーが別の事件を含めて合意した罰金額は,史上最高の1億ドル
であった。
 反トラスト局は,1996年7月,有力な株式市場に加盟する大手
証券会社24社が共同して株式の売値最高値と買値最安値との差額
を不当に引き上げ,これにより,投資家が支払う売買手数料を高
くしていたとして提訴した民事事件について,当該24社は当該行
為を中止することなどとする同意判決を行う旨合意した。
(イ) 独占行為関係
 反トラスト局は,1996年7月,大手コンピュータ・メーカーと
の間で,1956年の同意判決によりコンピュータ市場における同社
の独占的支配力を抑制するため同社に課していた中古コンピュー
タ市場への参入制限を2001年7月までに終了させるとの和解を
行った。
 FTCは,1996年11月,アメリカの代表的な消防ポンプ製造業
者2社がそれぞれの取引先に対し競争品の取扱いを制限しこれに
より当該2社間の競争を減殺し他の事業者の当該市場への参入を
妨げていたとして審判開始決定していた件について,同意審決を
行った。
(ウ) 不公正取引関係
 FTCは,1996年9月,アメリカにおける大手出版社6社がそ
れぞれ大手書店チェーンとの間で書籍の卸売価格及び販売促進の
ためのディスカウントに関し独立系書店には与えていない有利な
条件で取引していたとして審判開始決定していた件について,差
別価格の制度が是正され,関係事業者間の民事訴訟が和解したこ
とから,当該審判開始決定を取り下げた。
 反トラスト局は,大手調査会社がメーカー向けの小売販売状況
調査契約に関し,同社が市場支配力を有する国の顧客に対し,同
社が市場支配力を有しない国においても同社を利用する場合にの
み有利な条件を提示するという違法な抱き合わせ取引に該当する
おそれのある行為を行っていたとして審査を行っていたが,同社
が欧州委員会との間で当該問題点を解決する旨合意したことを受
けて,1996年12月,当該審査を打ち切った。
合併事前届出及び主な合併事件の概要
 反トラスト局及びFTCは,1996会計年度に,3,087件の合併事前
届出を受理した。主要な合併事件は,次のとおりである。
 FTCは,ロッキード・マーチン社によるローラル社の取得につ
いて,当該取得が航空管制システム等の分野における競争を減殺す
るとして,審判開始決定したが,1996年9月,条件付きで承認する
旨の同意審決で終結した。
 FTCは,タイム・ワーナー社によるターナー・ブロードキャス
ティング・システム社の取得について,当該取得がケーブル・テレ
ビの受信料金の引上げをもたらし一般消費者による番組の選択を制
限するものであるとして審判開始決定したが,1997年2月,条件付
きで承認する旨の同意審決で終結した。
(3) 規制緩和における競争法の適用分野の拡大
 不必要な規制は,米国の競争力を損なうおそれがあり,競争力の強化
のためには反トラスト法の強力な執行による競争の促進が必要であると
の観点から,連邦レベルでは,引き続き,政府による経済的規制の緩
和,適用除外の見直しが進められている。
 反トラスト局及びFTCは,連邦や州の経済的規制に関し,競争促進
の立場から,積極的に意見を表明してきている。
 1996会計年度において,反トラスト局は,連邦通信委員会に対し,衛
星放送サービスに対する規則及び方針の改正,1996年電気通信法に関す
る地域競争条項の実施,コロンビア地区における地域的参入障壁に関す
る電気通信会社からの申立て,周波数の指定のための連邦通信委員会の
規則改正,地域多基点配信サービス(local multipoint distribution
service)・衛星サービスに対する規則及び方針の制定等について,意見
を提出した。
 また,FTCは,同年度において,地域多基点配信サービス及び衛星
サービスに対する規則及び方針の制定について連邦通信委員会に対し意
見を提出したほか,著作権管理局(Copyright Office)に対し,オー
プン・ビデオ・システムに対する著作権の実施許諾義務の拡大のための
勧告について意見提出を行った。
13-2 E  U
(1) 法制の動き
審査活動に協力した違反事業者に対する制裁金の減免措置の導入
 欧州委員会は,1996年7月,年々巧妙になっていくカルテル行為に
対抗するため,カルテル行為に関する情報を欧州委員会に提供した違
反行為参加事業者に対し情報提供の時期,内容等に応じて制裁金の10
パーセントから全額までを免除する措置を採る旨決定した。
欧州委員会・EU加盟国間におけるEU競争法違反事件処理協力に
関する告示案の公表
 欧州委員会は,1996年10月,EU競争法違反事件処理に関する欧州
委員会と加盟国当局との協力関係のあり方に関する告示案を公表し
た。
 加盟国競争当局の中には,自国競争法のみならずEU競争法の執行
が認められているものがある。同告示案は,加盟国当局のリソースと
国内情報の蓄積を活用して効率的な競争法の執行を図る一方,加盟国
当局の法執行活動が欧州委員会による競争法の執行と抵触することを
回避する観点から,欧州委員会と加盟国当局との間の執行活動の調整
についての具体的考え方を示している。
合併規制規則の改正
 欧州委員会は,1996年7月,企業結合のグローバル化が進展する中
で,企業結合規制の整合的・効果的な遂行,企業結合を行う事業者の
法的安定性の向上,手続コストの軽減等の観点から,合併規制規則に
基づく一元的処理の範囲を拡大するための同規則の改正案を理事会に
提出した。同改正案は,1997年6月,一部修正の上,理事会により採
択された。
(ア) 売上高基準の引下げ
 現行規則の適用範囲に係る売上高基準(①関係事業者の全世界で
の年間売上高合計が50億ECU超,かつ,②関係事業者の少なくと
も2社のそれぞれのEC域内での年間売上高2億5000万ECU超で
ある場合であって,③関係事業者それぞれがEU域内での年間売上
高のうちの3分の2超を同一加盟国内で得ていない場合)に該当す
る場合に加えて,以下のすべての要件を満たす場合にも同規則を適
用することとする。
 関係事業者すべての全世界での合計年間売上高が25億ECU超
であること。
 関係事業者のうち少なくとも2社のEU域内の年間売上高がそ
れぞれ1億ECU超であること。
 3以上の加盟国のそれぞれにおいて,関係事業者すべての年間
売上高の合計が1億ECU超であること。
 ③の要件に合致する加盟国のそれぞれにおいて,関係事業者の
うち少なくとも2社の年間売上高がそれぞれ2500万ECU超であ
ること。
 関係事業者のいずれも,単一加盟国において,EU域内におけ
る年間売上高の3分の2を超える売上を有しないこと。
 なお,1996年7月に提出された当初改正案では,現行規則の売上
高基準について,全世界売上高を30億ECU超,EU域内売上高を
1.5億ECU超にそれぞれ引き下げることが提案されていた。
(イ) ジョイント・ベンチャーの取扱い
 ジョイント・ベンチャーが,独立した競争主体としての構造を有
する場合には,現行規則では適用範囲外とされていた親会社間の事
業活動の調整を図る内容を含むジョイント・ベンチャー契約につい
ても合併規制規則の対象に加えることとした。
(ウ) その他
 金融業者の売上高算定方法,第一次審査に基づく条件付き承認制
度の明定,待機期間の延長等について改正が行われた。
 垂直的制限に対するEU競争法の適用に関するグリーンペーパーの
公表
 排他的販売契約,排他的購入契約,フランチャイズ契約,選択的販
売制度については,EU競争法第85条第3項に基づき一括適用免除規
則が定められているが,欧州委員会は,1997年1月,これらの一括適
用免除規則の見直しを中心とした垂直的制限に対するEU競争法の適
用についての見直しのためのグリーンペーパーを公表した。
 現行の垂直的制限に係る一括適用免除規則に対しては契約条項の内
容だけではなくその経済的効果を考慮すべきであるとの主張がされて
きたことも考慮し,グリーン・ペーパーでは,一定の制限条項につい
ては当事者の市場シェアを考慮して適用免除の可否を決定することを
含む幅広い選択肢を提示している。
 航空運送業における共同プランニング,スケジュール調整,運賃協
議,空港のスロット配分に関する一括適用免除規則の改正
 欧州委員会は,1996年7月,標記規則を改正し,航空貨物運送に係
る運賃協議については今後は適用免除を認めないこととした。これ
は,貨物運送においては一貫輸送が行われておらず,また,その他の
形態での貨物輸送にあっては運賃協議が行われている場合の運賃水準
が通常の市場価格を上回る実態があったことから,もはや運賃協議に
適用免除を認める必要がないものと判断されたためである。
(2) 法の運用
カルテル,市場支配的地位の濫用等の規制
 欧州委員会は,1996年に,4件の禁止決定を行い,これらについて
合計375万ECUの制裁金を課した。
 主な事例は次のとおりである。
(ア)  欧州委員会は,1996年1月,ドイツの大手製薬会社が心血管疾患
用薬について,イギリスへの並行輸入を行っていたフランス及びス
ペインの卸売業者に対する同商品の供給を削減することによって並
行輸入を阻止したとして,300万ECUの制裁金を課すことを決定
した。
(イ)  欧州委員会は,1996年12月,ドイツの大型コンピューター用プリ
ンター製造業者に対し,卸売業者との取引契約において,①決めら
れたテリトリー外への同製造業者の製品の輸出行為を全面的に禁止
すること,②テリトリー内の事業者であっても,その者が国外へ輸
出することが明らかである場合には,当該事業者に販売することを
禁止すること及び③再販売価格については事前に協議して決定する
ことを定め,当該契約により市場分割及び再販売価格維持を行って
いたとして,10万ECUの制裁金を課す旨決定した。
合併等企業結合規制
  欧州委員会は,合併規制規則に基づき,1996年に,131件の事前届
出を受理し,125件について決定を行った。内訳は次のとおりであ
る。
[予備審査の結果]
共同体市場と両立する旨の決定 120件
[正式審査の結果]
共同体市場と両立する旨の決定(条件なし) 0件
共同体市場と両立する旨の決定(条件付き) 2件
共同体市場と両立しない旨の決定(禁止等) 3件
 主な事例は,次のとおりである。
(ア)  欧州委員会は,1996年4月,イギリスのローンロ社の南アフリカ
所在の子会社と南アメリカのゲンソー社による南アフリカのプラチ
ナ生産業者であるインパラ・プラチナ社の共同取得について,プラ
チナの生産業者は,本件関係事業者以外には,南アフリカに1社と
ロシアにあるのみであり,ロシアについては備蓄の先細りが顕著で
あることから,本件取得を認めた場合,プラチナ生産市場が複占状
態になるとして,当該取得について禁止決定を行った。
(イ)  欧州委員会は,1996年11月,フィンランドの食料品・日用品販売
業者であるケスコ社とツコ社の合併について,フィンランドの食料
品,日用品等の小売業及び卸売業の分野において市場支配的地位を
形成し,この結果,フィンランドの当該市場に対する他のEU加盟
国に所在する事業者の輸出及び新規参入が妨げられるおそれがある
として,当該合併は,共同体市場と両立しないものとして,排除措
置を命じる決定を行った。
 なお,本件の関係事業者2社の売上高は,EU合併規制規則に係
る届出範囲を規定する売上高基準を満たさないが,フィンランドに
は合併規制が存在しないことから,EU合併規制規則第22条に基づ
き,同国から欧州委員会に対し付託が行われたものである。
(ウ)  欧州委員会は,1996年12月,フランスのSEPR社,ドイツのE
SK社及びオランダのNOMの3社によるシリコン・カーバイドの
生産のためのジョイントベンチャーの設立について,ヨーロッパ経
済地域(EEA)における研磨材用及び耐火材用シリコン・カーバ
イドの生産分野において市場支配的地位を形成し共同体市場に適合
しないものとしてこれを禁止する決定を行った。
(3) 規制緩和の動き
 EUにおいては,EU域内単一市場の確立のため,政府規制の緩和に
積極的に取り組んでおり,競争政策が適用される分野が拡大している
が,欧州委員会は,欧州共同体設立条約第90条に基づき,加盟各国の公
企業が独占的権利を認められている事業分野への競争法の適用に関し必
要がある場合,委員会指令及び決定を出すことができる。
 欧州委員会は,1995年から1996年にかけて,電気通信事業の1998年1
月1日までの全面的自由化実施に向けて準備を進めており,さらに,通
信事業者間の相互接続,従来の独占企業が保有・管理しているインフラ
への新規参入事業者のアクセスの確保等についての検討を進めている。
13-3 ド イ ツ
(1) 法制の動き
 ドイツは,1996年5月,競争原理の全般的強化及びEU競争法との調
和を図ることを目的とし,カルテル規制等に関するEU競争法の禁止規
定等の導入,企業結合の届出対象となる現行の売上高基準5億マルクを
10億マルクへ引き上げることなどを内容とする競争制限禁止法の第6次
改正案の骨子を発表した。
(2) 法の運用
カルテル等に対する規制等
 連邦カルテル庁が1996年に行った決定の件数は7件であった。その
うち,制裁金決定は5件であり,15事業者及び39個人に対して,合計
1956万ドイツマルクの制裁金が課された。
 主な事例は,次のとおりである。
(ア)  連邦カルテル庁は,1995年7月から1996年6月までの間に,道路
工事の入札談合に関し,道路工事業者33社及び29名の役員に対して
総額2540万マルクの制裁金を課した。
(イ)  連邦カルテル庁は,1996年2月,ザール州周辺においてビル工事
物件の契約に関し価格カルテルを行っていたとして,換気・空調機
器製造業者4社並びにこれらの代表者及び社員に対して総額57万マ
ルクの制裁金を課した。
合併等企業結合規制
 1996年に連邦カルテル庁に届出された企業結合の件数は,1,434件
である。連邦カルテル庁は,1996年に3件の企業結合を禁止した。
 主な事例は,次のとおりである。
(ア)  連邦カルテル庁は,1996年5月,VEBA社によるSWB社の株
式取得について,電力の供給分野におけるVEBA社グループの市
場支配的地位をさらに強化するものであるとして,当該取得を禁止
する決定を行った。
(3) 規制緩和及び民営化の動き
電気通信
 ドイツは,かねてから規制緩和及び民営化を推進してきており,電
気通信分野については,EU域内の電気通信事業の自由化(1998年)
に対応するため,1996年7月,同事業分野への参入規制を撤廃して競
争を導入することを内容とする新たな電気通信事業法を制定した。
また,1996年11月,ドイツ・テレコムの民営化(株式売却)が開始
された。
電力・ガス
 ドイツは,1996年6月,エネルギー産業法の改正案を公表した。同
改正案においては,電力事業及びガス事業への競争導入のため,独占
的供給地域に係る保護が廃止され,電力事業者及びガス事業者に対す
る競争制限禁止法の適用除外制度(排他的事業地域)が廃止されるこ
ととされている。
13-4 イギリス
(1) 法制の動き
制限的取引慣行法の改正方針案の公表
 貿易産業省は,1996年3月,競争制限的協定の登録制度の廃止と原
則禁止規制の導入,制裁金賦課制度の導入等を内容とする制限的取引
慣行法の改正に関する政府方針(グリーンペーパー)が公表した。
書籍に関する再販売価格維持行為の適用除外の廃止
 制限的取引慣行裁判所は,1997年3月,公正取引庁長官からの申立
てを認め,29年間認められてきた書籍及び地図に関する再販売価格維
持行為の適用除外を廃止する旨の判決を行った。これにより、制限的
取引慣行裁判所により再販売価柊維持行為の適用除外が認められてい
る商品は,医薬品のみとなったが,公正取引庁長官は,同判決前の
1996年10月に制限的取引慣行裁判所に対し医薬品の適用除外の廃止の
申立てのための許可申請をする予定である旨公表している。
(2) 法の運用
制限的協定(カルテル)規制
 制限的取引慣行法により,競争制限的協定は公正取引庁に登録する
こととなっており,登録されない場合,当該協定は無効・違法とな
る。未登録に対する制裁規定はないが,公正取引庁長官は,登録すべ
き協定が登録されていないと認められる場合には,関係者に対し詳細
な情報を求める通知を発出することができる。
 公正取引庁長官は,登録された協定のうち,制限的取引慣行裁判所
の審査を必要とするほどには重要性を有しないものを除いて,同裁判
所に審査を付託し,同裁判所が当該協定が公共の利益に適合している
か否かの審査を行う。同裁判所は,公共の利益に反すると認めた場
合,当該協定の禁止等を命じることができる。
 公正取引庁は,1996年に1,819件の協定の届出を受理し,このう
ち,699件の協定を登録簿に追加した。この結果,総登録件数は,
13,535件となった。
 制限的取引慣行裁判所が判決を行った主な事例は次のとおりであ
る。
(ア)  制限的取引慣行裁判所は,1996年12月,製糖業者2社の小売業者
向けの砂糖の価格に関する協定について,公共の利益に反するとし
て禁止決定した。
(イ)  制限的取引慣行裁判所は,1996年12月,手荷物運送業者5社と雑
誌社に対して,価格制限,市場分割及び広告制限に関する協定を無
登録で行っていたとして,同協定の破棄を命じた。
再販売価格維持行為に対する規制
 公正取引庁は,1996年に再販売価格法違反に係る185件の申告を受
け付けたが,このうち,6件について供給業者から販売業者に対し最
低販売価格を強制しない旨の確約書を受理した。
独占規制
 公正取引庁は,公正取引法により,独占的状態(1社でイギリス市
場の25%以上の市場占拠率を有する場合等)及び反競争的取引慣行に
ついて調査し,違反行為が認められた場合には,その旨を公表すると
ともに,事業者に対し是正措置を採る旨の確約を求めることができ
る。公正取引庁長官は,事業者が是正措置を採ることを確約しない場
合には,独占・合併委員会に調査を付託する。同委員会は,調査を行
い,公共の利益に反すると認められる場合には,貿易産業大臣に是正
措置を講じるよう勧告を行う。同大臣は,当該勧告を相当と認めた場
合には,公正取引庁に対し,関係事業者と是正措置の確約を求める協
議を再度行うよう命令する。そして,この再協議が不調に終わった場
合は,貿易産業大臣が,当該事業者に対し,契約の破棄等必要な措置
を命じる。
 なお,公正取引庁の独占・合併委員会への付託に係る上記の手続に
ついては,下記エ(合併規制)に関しても同様である。
公正取引庁は1996年に,不動産売買サービス事務弁護士センター及
び海外旅行サービス業者に対する2件について独占・合併委員会に調
査の付託を行った。
 また,独占・合併委員会は,1996年に,上演・演奏権団体及び電話
帳広告業者に関する2件の報告書を公表した。このうち,上演・演奏
権団体に関する報告書の概要は,次のとおりである。
 独占・合併委員会は,イギリスにおける唯一の上演・演奏権及び
映像関係複製権の管理団体による著作権料収入の同団体の構成員へ
の配分方法が公平でないとの申告を受けて調査した結果,1996年2
月,同団体の組織及び運営が非効率であり,団体の方針及び手続の
透明性を欠き,著作料の配分方法に関する公平性,費用及び効率性
の調査を怠っていたと認定し,さらに,同団体により許容されてい
ないライブの上演・演奏に係る権利に関する同団体の構成員による
自主管理を許容すべきであるとの判断を示した勧告を含む報告書を
公表した。
合併規制
 公正取引庁は,1996年に,531件の合併を審査した。公正取引庁長
官は,12件について,独占・合併委員会に調査を付託するよう貿易産
業大臣に勧告を行い,同大臣は 当該12件を同委員会に付託した。
 独占・合併委員会は,1996年に,12件について報告書を公表した。
 主な事例は次のとおりである。
(ア)  独占・合併委員会は,ベルファースト国際空港会社とベルファー
スト・シティ航空会社の合併について,当該合併が公共の利益に反
するおそれがあり当該合併を中止させるべきであるとの勧告を貿易
産業大臣に行った。この結果,1996年5月,当該合併当事会社は,
貿易産業大臣に対し当該合併を行わない旨の確約を提出した。
(イ)  独占・合併委員会は,鉄道会社であるナショナル・エキスプレ
ス・グループ社とミッドランド・メイン・ライン社の合併につい
て,当該合併はシェフィールド,チェスターフィールド,ダービー
等と中央ロンドン間の5つの鉄道路線に関し旅客運賃の引上げ及び
サービスの低下をもたらすため公共の利益に反するとして,貿易産
業大臣に対し合併当事会社から運賃及びサービスに関する確約を求
めるよう勧告を行った。当該勧告を受けて,貿易産業大臣は,公正
取引庁長官に対し当該勧告の主旨に沿って合併当事会社から確約を
得るよう指示した。公正取引庁は,1996年末現在,当該確約を得る
ため折衝中である。
(3) 規制緩和及び民営化の動き
 イギリスにおいては,かねてから民営化が進められており,近年にお
いては,バス事業,水道事業,鉄道事業等についての民営化が進められ
ている。
13-5 フランス
(1) 法制の動き
 1996年6月に競争法の改正法が成立し,同年7月,施行された。 当該
改正法は,メーカー及び商品の加工を行う流通業者が,市場から競争者
を排除することを目的として,不当な価格で販売する行為を禁止するこ
となどを主な目的としている。
(2) 法の運用
反競争的行為等
 競争評議会は,共同行為等の反競争的行為などに対して,1996年に
97件の決定を行った。このうち,制裁金が課されたものは39件であ
り,制裁金の合計は,約1億1700万フランス・フランである。
 主な事例は,次のとおりである。
(ア)  競争評議会は,1996年2月,独占的電気通信会社から県単位の電
話帳の広告の独占的な権利を認められた広告会社が,当該電話帳の
広告と県より小さい地域単位の電話帳の広告を併せて掲載する広告
主に対しては広告料の割引を行うことにより,県より小さい地域単
位の電話帳の広告に係る競争会社の事業活動を妨害したとして,当
該会社に対して1000万フランス・フランの制裁金を課した。
(イ)  競争評議会は,1996年7月,子供服の販売に関するフランチャイ
ズ契約においてフランチャイジーの販売価格等を拘束する条項を設
けていたとして,フランチャイザー会社に対し150万フラン,子供
服販売会社に対し15万フランの制裁金を課した。
合併等企業結合
 経済・財政大臣は,合併届出を受理し,措置を採る必要があると思
料するときは,2カ月以内に競争評議会に付託し,同評議会の意見に
基づき必要な措置を命じることができる。
 競争評議会は,1996年に5件の企業結合について,経済・財政大臣
に意見書を提出した。
(3) 規制緩和の動き
 フランスは,規制緩和及び民営化を推進しているが,競争評議会は,
規制緩和について,政府,議会及び産業界から諮問を受けており,これ
に対する答申を行っている。1996年においては,電気通信分野の規制緩
和について,①ネットワークへの接続の自由化,②競争条件の平等性,
③市場全般における新規参入の促進が必要である旨の答申を行った。
13-6 韓  国
 韓国の競争法は,公正取引法である。同法は,市場支配的地位の濫用の
禁止,企業結合の制限と経済力集中の抑制,不当な共同行為の禁止,不公
正取引行為の禁止等を規定している。同法の施行機関である韓国公正取引
委員会は,違反被疑行為を審査し,違反を認めた場合には,当該行為の禁
止を命じることができるほか,禁止行為類型のそれぞれに関して課徴金を
課すことができる。
 1996年12月,公正取引法の改正が行われ,企業結合規制の規模基準の撤
廃,大規模企業集団に所属する会社が行う系列会社への債務保証の限度額
の縮小(自己資本額の200%から100%),談合等の違反行為者が申告を
行った場合の課徴金等の措置の減免,委員会審議の効率化を図るための小
委員会制の導入等がなされた。
13-7 アジア・大洋州諸国
 アジア・大洋州諸国においては,近年の世界経済のグローバル化,規制
緩和政策の推進の国際的な動きを反映して,新たな経済情勢における公正
かつ自由な競争を促進するため,競争法・競争政策に対する積極的な取組
かなされている。
 オーストラリア,インド,モンゴル,ニュージーランド,パキスタン,
スリランカ及びタイのように既に競争法を有している諸国は,本格的な競
争法の導入・現行法の強化改正,運用組織の拡充等,競争政策を着実に推
進している。
 競争法を保持せず,表示取引法,民法,刑法等に競争法的な機能を委ね
ている現状にあるインドネシア及びマレイシアにおいても,現在,独占禁
止法のような体系的な競争法の制定・導入が検討されている。
 また,社会主義国である中国及びベトナムにおいても,市場経済システ
ムを模索する動きが活発化するとともに,経済政策運営における競争政策
の重要性が理解され,両国においても,本格的な競争法の制定・導入が検
討されている。
 各国の競争法の概要及び競争政策関係の主な動きは,以下のとおりであ
る。
(1) オーストラリア
 オーストラリアの競争法である取引慣行法は,1995年に全面的な改正
が行われた。この改正により,連邦政府と州・準州政府の競争法の統一
が図られ,同国内のすべての事業者が同一の競争法規の下に服すること
となった。なお,当該改正に合わせて,同法の施行機関である取引慣行
委員会の競争・消費者委員会への改組,取引慣行裁判所の競争裁判所へ
の名称変更,諮問機関である国家競争評議会の設置,州政府企業(準州
を含む。)に対する適用などが盛り込まれたほか,取引慣行法の規制行
為については,適用除外規定の整理及び再販売価格維持の禁止対象とし
てサービスを追加することなどの改正が行われた。
(2) 中  国
 中国は,社会主義市場経済の導入に伴う施策として,1993年に不当競
争禁止法を制定した。同法は本格的な競争法とはいえないが,国家工商
行政管理局公正交易局を施行機関として,入札談合,不公正取引(不当
廉売,抱き合わせ販売,不当表示等),競争制限的行為(政府機関によ
る行為を含む。)等,11類型の行為を「不当競争行為」と定め,禁止し
ている。
(3) イ ン ド
 インドの競争法は,1969年独占及び制限的取引慣行法である。同法
は,資源の広範囲な分配と,富と権力が分散した経済体制の確立を基本
方針としている。同法は,独占的・制限的取引慣行,不公正な取引慣行
を規制しており,施行機関である独占・制限的慣行委員会は,調査を行
い,公共の利益に反する行為が存在する場合,独占的取引慣行について
は政府に対し改善を求める答申を提出し,制限的取引慣行と不公正な取
引慣行については当該行為の禁止を命じることができる。このほか,被
害者の申立てにより損害賠償を命じることができる。
(4) インドネシア
 インドネシアは,現在,計画経済体制から市場経済への移行が行われ
ており,その過程において,反競争的行為の禁止,合併規制等を含む本
格的な競争法の導入が検討されている。
 なお,現在,インドネシアは,競争法を有していないが,経済政策と
して公正競争の創出,有害な経済活動の防止のための措置を採ってい
る。現行法上競争政策に関するものとしては,原産地に関する虚偽表示
等が刑法の処罰対象となるほか,計量法,産業法等による不公正な取引
慣行の規制が実施されている。
(5) マレイシア
 マレイシアは,1983年以降,国有企業の民営化と規制緩和を積極的に
推進しており,競争政策を担当する国内取引消費者問題省が,不公正な
取引方法,市場構造規制を内容とする競争法の法案の策定を準備中であ
る。現在は,体系的な競争法を有していないことから,個別法規によっ
て競争政策上の問題に対処している。例えば,産業調整法は,政府が特
定産業の競争に有害な影響を与えると考えられる行為を排除できると規
定しており,取引表示法は不当表示を禁止し,年割賦購入法は割賦購入
取引における不公正な取引を規制している。
(6) モンゴル
 モンゴルは,l992年に新憲法を採択し,市場経済への移行に伴う競争
促進政策の一環として,1993年に不正競争禁止法を制定・施行した。同
法は,市場原理の下での経済主体の競争を原則とし,国の経済活動に対
する監督権限を制限した。具体的には,市場支配的地位を有する経済主
体による濫用行為を禁止するとともに,同様に経済主体による競争制限
的協定(入札談合など)等を禁止している。施行機関である国家開発庁
は,違反被疑行為を調査し,必要な排除措置を命じることができる。
(7) ニュージーランド
 ニュージーランドの競争法である商業法は,1984年以降の国家による
管理経済から市場経済への転換において,中心的な役割を果たした。同
法は,1975年に制定されたが,1986年に全面的な改正が行われ,さらに
1996年にニュージーランド市場に影響を及ぼす外国における合併を規制
するため等の改正がされた。同法は,制限的取引慣行(カルテル,再販
売価格維持行為,市場支配的地位の濫用等),競争制限的な企業結合を
規制している。同法の所管官庁は商務委員会であり,同委員会は,違反
被疑事件を調査し,違反行為が認められた場合,裁判所に提訴する。裁
判所は,違反行為の差止めを命じることができるほか,法人に対して最
高500万ニュージーランド・ドル,個人に対しては最高50万ニュージー
ランド・ドルの過料を課すことができる。
(8) パキスタン
 パキスタンの競争法は,独占及び制限的取引慣行法である。同法は,
過度の経済力集中,不当な独占力,不当な制限的取引慣行を規制してい
る。施行機関である独占規制庁は,同法の施行に必要な調査・情報収集
を行い,公共の利益に反する行為が存在する場合には,当該行為の中
止,所有株式の売却など必要な措置を命じることができる。
(9) スリランカ
 スリランカの競争法は,1987年公正取引委員会法である。同法は,独
占状態,企業結合及び反競争的行為を規制している。施行機関である公
正取引委員会は,調査・情報収集を行い,公共の利益に反する行為が存
在する場合には,当該行為の差止め,契約の修正,所有株式の売却等必
要な措置を命じることができる。
(10) タ  イ
 タイの競争法は,価格統制及び独占禁止法である。同法は,不公正な
価格統制を規制する消費者保護規定と,独占及び制限的取引慣行による
不当利得の排除を目的とした禁止規定等から構成されている。施行機関
は,価格統制及び独占禁止委員会であり,同委員会は,監視対象商品及
び監視対象事業の指定・公表とそれらに対する監視・監督等の権限を有
している。
 なお,タイ政府は,1997年3月に,価格統制及び独占禁止法に代わる
カルテル規制,市場支配的地位の濫用規制,合併規制,新しい施行機関
の設置等を含む本格的な競争法の法案を議会に提出した。
(11) ベトナム
 ベトナムは競争法を有していないが,経済的停滞を打開するため,
1986年以降,市場経済の導入を図っており,国営企業の改革,民間企業
の活性化等の施策を実施している。ベトナム政府は,現在,競争法の導
入を検討している。