第7 流通構造の変化と事業者の対応に関する調査

調査の趣旨
 流通問題研究会(座長 三輪芳朗 東京大学教授)は,平成7年11月以
降卸,売業者の機能・役割に焦点を当てつつ,流通構造の変化に対応し
て,卸売業者をはじめ,メーカー及び小売業者の各事業者がどのような対
応を採っているのか,その対応には事業者によって相違があるのか等につ
いて実態の把握・検討を行ってきた。その報告書が「流通構造の変化と事
業者の対応−加工食品・日用雑貨品の卸売業者の事業活動について−」と
して取りまとめられたので,当委員会が行った実態調査報告書とともに,
平成10年3月これを公表した。
研究会報告書の概要
(1) 流通構造の変化
 1980年代までの加工食品及び日用雑貨業界における流通システムは,
建値制及びそれを基にしたリベート制並びに特約店制度が相互に補完し
合って成り立っていた。しかし,バブル経済の崩壊した平成3年中頃以
降,小売業者間の異業態間又は同一業態内の競争が活発化する中で上記
のシステムに変化がみられ,小売業者は,フルライン化,効率的な物流
システムの構築,売れ筋・売り方情報の提供,プライベート・ブランド
商品の開発などに対応できる卸売業者に取引先を絞るようになってきて
いる。
 特に大規模小売業者は,既存の商権や特約店であるかどうかに関係な
く,特定のより効率的な卸売業者から仕入れを行うようになっており,
大規模小売業者等にとって特約店としての卸売業者の役割が形骸化して
いる面は否定できない。一方,小規模な小売業者を中心に,依然特約店
制度の意義を認める声も強く,流通システムの二分化がみられつつあ
る。
 他方,メーカーの中には,リベートの販売促進効果が薄れてきたこと
からリベート制度を見直すとともに,メーカー希望小売価格及び価格交
渉の出発点としての役割にとどまっていた建値制を廃止してオープン価
格化を行う者が現れ始めている(アンケート調査によると加工食品メー
カーの15%,日用雑貨品メーカーの28%がオープン価格化を行ってい
る。)。
 卸売業者にとってオープン価格化は,リベート制度の下で発生してい
た立替払による金利負担や煩雑な取扱事務がなくなるというメリットが
ある反面,卸売価格の引下げを要求してくる小売業者に対し,自らコス
ト計算を行い,マージンをのせて価格交渉をしなければならなくなると
いう面がある。オープン価格化が競争に与える影響については,アン
ケート調査によると小売業者の約4割が,価格が低下して競争が活発に
なったとしている。
 ただし,オープン価格化はここ数年でそれほど進展しているとはいえ
ず,メーカーによっては対応の度合いにも差がみられる。また,オープ
ン価格化後も参考価格の提示やリベートの残存がみられるなど,以前の
建値制の下での取引と変わらない状況もうかがえる。
(2) 卸売業者の役割の変化
小売業者とメーカーの直接交渉の増加
 アンケート調査結果では,平成3年以降,価格・取引条件の交渉を
メーカーと小売業者が直接行うケースが増えたとする者が3割から4
割前後おり,今後も増えるとする者が卸売業者,小売業者,メーカー
のいずれについても半数以上を占めた。その傾向としては,定番商品
よりも特売商品の方が直接交渉が多く,また,小売業者の規模が大き
くなるほど直接交渉の割合が多くなるといった状況がみられる。
情報化の進展
 流通段階間の取引で最近顕著な傾向として,コンピュータ・通信技
術を利用して各流通段階間や小売店舗間をオンラインで結び,データ
交換や情報の共有化により生産段階から消費者への販売段階までの業
務の効率化を図る動きがみられるが,こうした情報化の進展について
は,特に大手を中心にメーカー・卸・小売業者いずれもほとんどの者
がメリットを感じるとしている。その効果としては,現在のところ,
店舗の売れ筋情報等を効率的な棚割の設定に利用するなど活用範囲が
広がったとするメリットよりも,正確な情報伝達による営業・事務の
効率化にメリットを感じている者が多いとみられる。
卸売業者の役割の変化
 流通構造の変化に伴い,卸売業者に期待されている役割が変化し,
それに伴って,卸売業者間の競争もその内容が変化しつつある。調査
結果からは,依然として価格面での競争が重要であることはうかがわ
れるものの,さらにトータルでみて,いかに効率的なシステムを小売
業者との間で構築できるかというような競争が行われるようになって
きている。このような中,卸売業者に期待される機能としては,小売
業者,メーカーともに,納品の迅速化・高精度化といった在庫的な機
能,売れ筋・売り方情報の提供といった情報提供機能,一括物流シス
テム(各卸売業者が個別に小売業者に配送するのではなく,特定の卸
売業者が各社の商品を集約して配送するシステム)の活用といった輸
送機能を重視している。
(3) 流通段階間の働きかけ
 調査結果によると,卸売業者はメーカーからの働きかけは弱くなった
としているが,大規模小売業者からの物流センター利用料やリベートの
提供要請,卸売価格の引下げ要請等の働きかけについては,平成3年以
降,全般的に強まったと認識している。
〈取引事業者から卸売業者への要望〉
(1) メーカー(複数回答)
(2) 小売業者(複数回答)
(4) 卸売業者の再編の動き(特に業務提携)
 卸売業者は,流通構造の変化に対応して小売業者等との業務提携によ
り包括的な流通システムを構築するなど,様々な形態の業務提携を行っ
ている。
 調査結果によると,卸売業者のほとんどが取引先との業務提携の必要
性を認識している。その内容としては,配送センター利用の物流効率
化,納品の迅速化・高精度化,売れ筋情報の提供,小売の情報化への対
応の各面から業務提携が必要になると認識している者が多い。ただ,実
際は大手加工食品卸で多くの者が一括配送をはじめ様々な業務提携を
行っているとしているものの,他の卸売業者では,業務提携を行ってい
ないとする者が過半を占めている。
 こうした業務提携を含めた卸売業者の再編の動きについては,小売業
者からの要求が更に厳しくなるにつれ,また,コスト削減の圧力がか
かってくるにつれ,一層進展するものと考えられる。
(5) 卸売業者の多様化
 一部の大手・中堅の卸売業者は,物流・情報提供等に関し先駆的な試
みを行ってきているのに対し,特に中小小売業者を取引先とする卸売業
者は,伝統的な流通システムの下で事業活動を続けており,その対応に
相違がみられる。

第8 薬局・薬店に対する広告規制・出店規制等に関する実態調査

調査の目的・方法
(1) 調査の趣旨・目的
 当委員会は,薬局・薬店において,一般用医薬品の販売について行き
過ぎた広告規制が行われていないか,事業者の自由な経済活動を妨げる
出店規制が行われていないか等の点について調査を行い,それらの実態
及び競争政策上の評価を取りまとめ,平成10年6月に公表した。
(2) 調査の視点
@  薬事法の趣旨・目的に照らして過剰な規制が行われることにより,
事業者の自由な事業活動が妨げられていないか。
A  各地方自治体によって,独自の規制又は国の規制の範囲を超えた過
剰な規制が行われることにより,事業者の自由な事業活動が妨げられ
ていないか。
B  公的規制が存在しない場合又はそれが撤廃された後に,事業者団体
等が事業者の活動を不当に拘束することなどにより,市場における競
争が妨げられていないか,また,事業者団体等が公的規制の範囲を上
回る自主規制を行うことなどにより,事業者の自由な事業活動が不当
に制限されていないか。
(3) 調査方法
 調査の方法としては,都道府県,薬局・薬店,消費者モニターに対
し,それぞれアンケート調査を行うとともに,必要なヒアリングを行っ
た。
調査結果の概要
(1) 医薬品業界の概要
 医薬品は,薬局・薬店で販売される一般用医薬品と,医療用に使用
されたり処方せんに基づき薬局で調剤されたりする医療用医薬品に区
分される。平成8年の生産額は,医療用医薬品の5兆1564億円に対
し,一般用医薬品は8778億円である。
 医薬品販売業の形態としては,薬局,一般販売業,薬種商,配置販
売業及び特例販売業の5業態がある。薬局は調剤を行うことができる
のに対し,一般販売業と薬種商は調剤を行うことができず,総称して
「薬店」と呼ばれている。平成8年末の店舗数は,5業態合計で9万
8067店,薬局・薬店では7万1509店である。
 薬局の開設や医薬品の販売については,薬事法に基づく都道府県知
事の許可が必要とされており,各業態ごとに構造設備要件,薬剤師の
配置義務等が定められている。また,保険薬局については,健康保険
法に基づく都道府県知事の指定が必要とされており,保険医療機関か
らの独立等が要件として規定されている。
(2) 一般用医薬品についての広告親制
規制の状況
 薬事法(昭和35年法律第145号)において虚偽又は誇大な広告が禁
止されているほか,厚生省通知である医薬品等適正広告基準(以下
「適正広告基準」という。)等において,遵守すべき事項が規定され
ている。都道府県においては,27の自治体が通知等により独自の広告
規制を行っている。内容は,おおむね適正広告基準を踏まえたもので
あるが,一部に厚生省の規制を超えたものもみられる。
 業界団体の規制については,薬局・薬店に対する調査によれば,4
割以上が依然として存在するとしているが,2,3年前に比べると緩
和されたとする者も多い。
規制内容等
(ア) チラシ等広告媒体
 調査対象の薬局・薬店の7割以上がチラシを利用している。表示
方法については,下図のとおりである。

 また,チラシを利用しない理由として,自治体,業界団体等から
のクレーム等を考慮したとする回答もみられた。
(イ) 販売価格表示の禁止
 適正広告基準には規制は存在しないが,自粛を指導している都道
府県もみられた。薬局・薬店に対する調査によれば,チラシに販売
価格を表示していない理由としては,業界団体からクレームがある
からとする者が45.9%で最も多く,販売価格表示を行っていない者
のうち,54.5%が支障がなければ表示したいとしている。
(ウ) 二重価格表示の禁止
 適正広告基準の考え方において,二重価格表示は,品位を損なう
ものとして禁止されているほか,21の都道府県が通知等により指導
している。薬局・薬店に対する調査によれば,チラシで二重価格表
示を行わない理由については,保健所等の公的機関からクレームを
受けるからとする者が49.6%で最も多く,二重価格表示を行ってい
ない者の過半数が支障がなければ表示したいとしている。
 また,昭和38年及び昭和44年に景品表示法との関係について厚生
省通知が出されているが,その内容は,二重価格表示それ自体が問
題であるとの誤解を招きかねないものである。
 注:二重価格表示とは,実際の販売価格にメーカー希望小売価格等
を併記する表示をいう。
(エ) 景品付き販売の規制
 適正広告基準の考え方において,過量消費や乱用助長を促すおそ
れがあるものとして景品付き販売の広告が禁止されているほか,都
道府県においては,景品付き販売自体を禁止している自治体もあ
る。薬局・薬店に対する調査によれば,景品提供を行っていない者
は23.6%であり,その理由については,医薬品は景品提供を行う性
質のものではないからとする者が最も多い。
(オ) その他の規制
 以上のほか,都道府県の通知等において,廉売表現,つり下げ広
告,値札の大きさ,医薬品以外との同一紙広告等に対する規制がみら
れた。このうち,特定商品の価格等の特記表示やつり下げ広告等に
ついては,本年3月の厚生省通知により直ちに問題とはならないと
され,今後,都道府県においても是正が図られることとなっている。
(カ) 消費者の意識
 消費者モニターに対する調査によれば,6割以上が医薬品の購入
についてチラシを参考にしており,購入先の選択に当たっては,相
談等への対応とともに価格を重視している。医薬品の二重価格表示
については,約半数が特に問題ないとしている。
(3) 出店規制
規制の状況
 薬局・薬店の出店に関しては,現在,大規模小売店舗における小売
業の事業活動の調整に関する法律(昭和48年法律第109号)を除き,
出店規制の根拠法は存在しない。都道府県においては,19の自治体が
構造設備基準等について独自の通知等を制定しており,中には,業界
団体との協議等を規定する自治体もある。
 薬局・薬店に対する調査によれば,2割強が依然として業界団体に
よる規制が存在するとしている。
規制内容等
 薬局・薬店に対する調査によれば,出店に際して自治体の許可手
続,業界団体との調整等について約35%が何らかの支障を感じている
としている。
(ア) 業界団体との事前協議,加入や承認の要請等
 門前薬局(特定の医療機関に近接する薬局)等について,医薬分
業を適正に推進するためとして,薬剤師会との事前協議等を指導し
ている都道府県も多いが,薬局・薬店に対する調査によれば,薬剤
師会が門前薬局の出店を妨害しているとの指摘もみられた。また,
出店許可に当たって業界団体への加入等を勧めている都道府県も多
い。
(イ) その他の出店に係る問題
 都道府県の中には,出店許可申請書を業界団体にも置いている自
治体があり,業界団体を通じて申請を行う地域も多数みられた。
  また,試験検査設備・器具について,一部を厚生大臣指定の検査
機関の利用で代替することができるが,実質的に薬剤師会の検査セ
ンターに限定される場合が多く,薬剤師会へ加入せざるを得ない等
の指摘があった。
(4) 保険薬局に係る間題
基準薬局制度
 保険薬局に関しては,社団法人日本薬剤師会が制定し,都道府県薬
剤師会が認定する基準薬局制度がある。同制度は,適正な医薬分業の
推進や地域医療の充実等を目的としたものであるが,認定時に広告規
制を課せられたり,安売り広告を理由に認定を拒否されたとの指摘が
みられた。
ファックス分業
 薬剤師会が医療機関に設置したファクシミリにより患者の希望する
薬局に事前に処方せんを送付しておく,いわゆるファックス分業につ
いて,薬剤師会会員や基準薬局でないこと等を理由に参加が制限され
ているとの指摘がみられた。
(5) 競争政策上の評価
広告規制
(ア) 基本的な考え方
 医薬品については,保健衛生や安全性の確保を目的とした規制は
必要であるが,販売価格表示や二重価格表示それ自体の禁止,「特
価」等の表現の規制は行き過ぎである。また,景品付き販売やその
広告についても,それが直ちに過量消費に結び付つくとは考えにく
く,一律に禁止する理由は乏しいと考えられる。
(イ) 厚生省及び都道府県による広告に関する行政指導について
 販売価格表示や二重価格表示それ自体の禁止等の行政指導は,こ
れにより薬局・薬店間の競争が制限又は阻害されるおそれがあり,
これを受けて業界団体等が行う自主規制は独占禁止法上問題を生じ
るおそれがある。このため,厚生省に対して適正広告基準の考え方
の見直し等を要請するとともに,見直しの結果を踏まえ,都道府県
に周知するよう要請した。
(ウ) 業界団体による広告の自主規制について
 業界団体が広告自体や販売価格表示等を制限することは,独占禁
止法上の問題を生じるおそれがあるため,業界団体に対して考え方
の周知を要請した。
出店規制について
(ア) 基本的な考え方
 薬局・薬店の出店は,保健衛生や安全性の確保の観点、から行われ
る構造設備等の要件を満たす限り自由に行われるべきであり,業界
団体が門前薬局と医療機関との間の距離制限を行ったりしてはなら
ず,また,業界団体が,門前薬局の出店を希望する者と直接に調整
を行う等のやり方も望ましくない。
 試験検査設備・器具についての薬剤師会の検査センターや医療用
医薬品の備蓄等については,これが出店規制に用いられてはなら
ず,競争政策の観点からは,業界団体への加入の有無により差が生
じないような仕組みが望ましい。
(イ) 都道府県による出店に関する行政指導について
 出店許可や保険薬局の指定に際し,業界団体への加入やその承認
等を求める行政指導は,薬事法の趣旨を超えて新規参入を制限する
ものであり,競争政策上望ましくないため,厚生省に対してこの考
え方を都道府県に周知するよう要請した。
(ウ) 業界団体による出店制限について
 業界団体が,加入に際して既存事業者の承認を求めたり,不当に
加入を拒否すること等により,出店や事業活動を制限する場合に
は,独占禁止法上問題を生じるおそれがあるため,業界団体に対し
て考え方の周知を要請した。
基準薬局制度について
 基準薬局制度自体は競争政策上問題となるものではないが,制度本
来の趣旨を超えて,例えば広告規制を遵守する薬局のみを基準薬局に
認定したり,ファックス分業の受付薬局リストに認定薬局名のみを記
載したりすること等により,薬局の事業活動を制限する行為は,独占
禁止法上の問題を生じるおそれがあるため,社団法人日本薬剤師会に
対し,運用が透明かつ公正に行われるよう都道府県薬剤師会に周知す
るよう要請した。また,認定基準のうち,値引き販売の制限と受け取
られるおそれがある項目についての見直しを要請した。