第12章 再販適用除外制度

第1 概 説

 再販契約とは,商品の供給者がその商品の取引先である事業者に対して転
売する価格を指示し,これを遵守させること(以下「再販行為」という。)
を内容とする契約である。再販行為は,原則として,不公正な取引方法(再
販売価格の拘束)に該当し,独占禁止法第19条違反に問われるものである
が,おとり廉売防止等の観点から,同法第24条の2の規定に基づき,当委員
会が指定する再販指定商品及び著作物を対象とするものについては,例外的
に独占禁止法の適用を除外されている(再販適用除外制度)。
 独占禁止法の適用を除外される行為は,「再販売価格を決定し,これを維
持するためにする正当な行為」であるが,「一般消費者の利益を不当に害す
ることとなる場合」及び「その商品を販売する事業者がする行為にあっては
その商品を生産する事業者の意に反してする場合」には適用除外とならな
い。また,消費者・勤労者の互助を目的とする消費生活協同組合等の団体に
対して販売する場合にも,適用除外とならない。

第2 再販適用除外制度の見直し

 再販適用除外制度を含む独占禁止法適用除外制度については,累次の閣議
決定においてその見直しが決定されており,当委員会は,これらを踏まえ再
販適用除外制度の見直しに取り組んできた。このうち指定再販制度について
は,「規制緩和推進計画の再改定について」において,「再販売価格維持制度
について,すべての指定商品の再販指定告示を廃止」(平成9年4月から実
施)することとされ,当委員会は,これを受けて,化粧品14品目,一般用医
薬品14品目の指定を平成9年4月1日から取り消した。これにより,昭和28
年以降行われてきた再販指定商品の指定はすべて取り消された。
 また,著作物再販制度については,「規制緩和推進計画の再改定につい
て」において,「平成9年度末までにその範囲の限定・明確化を図る」こと
とされ,「規制緩和推進3か年計画」において,「著作物(書籍・雑誌,新
聞,レコード盤・音楽用テープ・音楽用CD)の再販売価格維持制度につい
ては,独占禁止法上原則禁止されている再販行為に関する適用除外制度であ
ることから,制度を維持すべき相当の特別な理由が必要であり,今後,行政
改革委員会最終意見の指摘する論点に係る議論を深めつつ,適切な措置を講
ずるものとする。当面,現行の再販制度の下でみられる各種の流通・取引慣
行上の弊害について,消費者利益確保の観点から,迅速かつ的確にその是正
を図ることとする」旨決定されているところである。

第3 著作物再販制度の取扱い

経緯
 当委員会は,平成3年7月に「政府規制等と競争政策に関する研究会」
から再販適用除外制度の見直しに係る提言を受けたことを踏まえ,公正か
つ自由な競争を促進する観点からその見直しのための検討を行い,同年12
月再販適用除外に関する実態調査結果を公表するとともに,公聴会を開催
する等関係事業者,消費者,学識経験者等から広く意見を聴取した。
  当委員会は,それらを踏まえ,平成4年4月15日,独占禁止法第24条の
2第4項の規定に基づき再販適用除外が認められている著作物(書籍・雑
誌,新聞及びレコード盤・音楽用テープ・音楽用CD)の取扱いを明確化
するためには,法的安定性の観点から立法措置によって対応することが妥
当であるとの見解を公表した。
 その後,当委員会は,この問題の総合的な検討を行う一環として,書
籍・雑誌,新聞,音楽用CD等について流通実態調査を行うとともに(平
成7年7月公表),「政府規制等と競争政策に関する研究会」の下で「再販
問題検討小委員会」(座長 金子晃 慶応義塾大学法学部教授(当時))を
開催した。同小委員会においては,再販適用除外が認められる著作物の範
囲について主として法律・経済の理論的側面から検討を行い,当委員会
は,同小委員会が取りまとめた中間報告書を平成7年7月に公表した。
「再販問題検討のための政府規制等と競争政策に関する研究会」におけ
る検討
 当委員会は,上記中間報告書の公表以降,関係業界,消費者団体等との
間で意見交換を行うなどにより,この問題について関係各方面の意見の聴
取に努めた。
 また,平成9年2月以降,「再販問題検討のための政府規制等と競争政
策に関する研究会」(座長 鶴田俊正 事修大学経済学部教授。以下「研
究会」という。)を開催して,著作物再販制度について多様な観点からの
検討を行い,平成10年1月13日にその検討結果を公表した。研究会報告書
の内容は次のとおりである。
(1)  競争政策の観点からは,現時点で著作物再販制度を維持すべき理由に
乏しく基本的には廃止の方向で検討されるべきものと考えられる。
(2)  本来的対応とはいえないが,間接的にではあれ,著作物再販制度に
よってこれまで著作権者等の保護や著作物の伝播に携わる者を保護する
役割が担われてきているという点については,文化・公共的な観点から
配慮する必要があり,したがって著作物再販制度を直ちに廃止すること
には問題があると考えられる。
(3)  この際,それぞれの関係業界において,各種の弊害の是正に真剣な取
組を開始すべきものと考える。
公正取引委員会の見解の公表
 当委員会は,この提言や行政改革委員会最終意見(平成9年12月)を踏
まえつつ,関係者からの意見聴取を行うなどにより,著作物再販制度の取
扱いについての検討を行い,平成10年3月31日,次のような見解を公表し
た。
(1)  著作物再販制度については,競争政策の観点からは,廃止の方向で検
討されるべきものであるが,本来的な対応とはいえないものの文化の振
興・普及と関係する面もあるとの指摘もあり,これを廃止した場合の影
響について配慮と検討を行う必要があると考えられる。したがって,こ
の点も含め,引き続き検討を行うこととし,一定期間経過後に制度自体
の存廃についての結論を得るのが適当であると考えられる。
(2)  上記の結論を得るまでの間において,著作物再販制度の対象品目を書
籍・雑誌,新聞及びレコード盤・音楽用テープ・音楽用CDに限定して
解釈・運用していくこととする。
(3)  これまで,我が国における著作物再販制度は,関係業界により硬直
的・画一的に用いられてきた傾向があり,結果として消費者ニーズへの
対応や利便の向上を損なったり,流通取引に悪影響をもたらしている面
もみられる。そのため,当委員会は,現在存在する各種の流通・取引慣
行上の弊害について,迅速かつ的確にその是正を図ることが重要である
との観点から,次のような取組を行っていくこととする。
 関係業界に対して,消費者利益確保の観点から,特に次のような点
について是正措置を講ずるよう求め,その着実な実現を図っていくこ
ととする。
(ア)  時限再販・部分再販等再販制度の運用の弾力化
(イ)  各種の割引制度の導入等価格設定の多様化
(ウ)  再販制度の利用・態様についての発行者の自主性の確保
(エ)  サービス券の提供等小売業者の消費者に対する販売促進手段の確
(オ)  通信販売,直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設
定の多様化
(カ)  円滑・合理的な流通を図るための取引関係の明確化・透明化その
他取引慣行上の弊害の是正
 再販制度の運用が不当に消費者利益を害することのないよう,独占
禁止法第24条の2第1項ただし書に基づき厳正に対処するとともに,
硬直的・画一的な再販制度の運用の是正を図る。このため,適宜,再
販制度の利用状況について実態把握・監視を続けていくこととする。
また,景品規制の見直しにより競争手段の多様化を図ることとするほ
か,価格設定の多様化を阻害することのないよう,新聞業における特
殊指定(昭和39年公正取引委員会告示第14号)の見直しを行うことと
する。
 さらに,公正かつ自由な競争の確保・促進を図る観点から,関係業
界において共同再販行為,不公正な取引方法等が行われた場合には厳
正に対処する。