第3章 審判及び訴訟

第1 審 判

 平成10年度における審判件数は,平成9年度から引き継いだもの10件,平
成10年度中に審判開始決定を行ったもの26件の合計36件(うち,22件は同一
事案のため手続を併合)であり,平成10年度中に,2件(うち,審判審決
1件,課徴金納付を命ずる審決1件)について審決を行った(本章第2及び
第3参照)。平成10年度末現在において審判手続係属中の事件は,下表の34
件である。



第2 審判審決

(1) 被審人
(2) 事件の概要
 本件は,当委員会がミツワ自動車株式会社(以下「ミツワ自動車」と
いう。)に対し,独占禁止法第48条第1項の規定に基づき勧告を行った
ところ,ミツワ自動車はこれを応諾しなかったので,同法第49条第1項
の規定に基づき,ミツワ自動車に対し審判開始決定を行い,審判官をし
て審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,これを適当と
認めて審決案の内容と同じ審決を行った。
(3) 認定した事実の概要
平成9年12月末までの状況
(ア)
 ミツワ自動車は,昭和27年以来ドイツ連邦共和国(以下「ド
イツ」という。)所在のドクトル・インジニール・ハー・ツエー・
エフ・ポルシエ・アクチエンゲゼルシヤフト(以下「ポルシェ
社」という。)と日本における輸入総代理店契約を締結して同社
が製造する自動車(以下「ポルシェ車」という。)を,同社から
一手に供給を受けて,国内において販売する事業を営む者であ
る。
 ミツワ自動車は,ポルシェ車について希望小売価格を定め,主
に代理店を通じて販売している。
 ポルシェ社は,ポルシェ車に車台番号を付して供給しており,
国内においてポルシェ車の並行輸入品(以下「並行輸入車」とい
う。)を取り扱う輸入販売業者(以下「輸入販売業者」という。)
は,外国に所在する輸入総代理店から供給を受けて販売する事業
者(以下「海外販売業者」という。)からポルシェ車を輸入し,
直接消費者に販売するほか,他の販売業者に販売している。
(イ)
 ミツワ自動車は,平成7年6月ころ,新年式車である並行輸入
車が希望小売価格の約35パーセント引きの価格で販売される旨の
広告に接したことから,このような並行輸入車の販売を放置して
おくと,同様の輸入販売業者が増えることに伴い,並行輸入車の
販売台数も増加することになるため,自己の取引先である代理店
の小売価格に影響を及ぼし,ひいては自己の営業活動等に悪影響
が出るおそれがあることから,今後,並行輸入車が希望小売価格
を相当程度下回る価格で大量に販売される場合には,並行輸入車
に付された車台番号を調査してこれをポルシェ社に通知し,同社
をして供給経路を調査させ,並行輸入車を減らすための対策を採
るよう求めることとし,その旨を同月26日ころ,同社に対し要請
した。
 ミツワ自動車が前記(ア)に基づいて採った具体的な行為を示す
と,次のとおりである。
(a) 東京都に所在する輸入販売業者は,ポルシェ車を希望小売価
格の約20パーセント引きの価格で販売する旨を平成8年7月31
日付けの新聞により広告した。
 ミツワ自動車は,上記広告の並行輸入車について店頭調査を行
い,車台番号を確認し,これを,同年8月8日ころ,ポルシェ社
に通知した。
 ポルシェ社は,通知を受けた車台番号から,当該ポルシェ車が
中華人民共和国の輸入総代理店向けに販売されたものであること
が判明したので,同輸入総代理店に対し,今後,ポルシェ車を日
本向けに供給しないよう警告した。
(b)  ミツワ自動車は,平成8年9月ころ,東京都,愛知県及び大
阪府に所在する輸入販売業者9社の店頭調査を行い,並行輸入
車8台の車台番号を確認し,これを,同年10月8日ころ,ポル
シェ社に通知した。
 ポルシェ社は,通知を受けた車台番号から,そのうち,新年式
車である4台のポルシェ車についても前記輸入総代理店向けに販
売したものであることが判明したので,同輸入総代理店に対し,
ポルシェ車を日本向けに供給しないよう重ねて警告した。
(c)  ミツワ自動車は,平成8年12月から平成9年1月ころ,大阪
府に所在する大手輸入販売業者の店頭調査を行うとともに,あ
わせて,主として自動車雑誌に広告を掲載している東京都,愛
知県及び京都府に所在する輸入販売業者6社の店頭調査を行
い,並行輸入車15台の車台番号を確認し,これを,同月14日こ
ろ,ポルシェ社に通知した。
 ポルシェ社は,通知を受けた車台番号から,そのうち,新年式
車である6台のポルシェ車についても前記輸入総代理店向けに販
売したものであることが判明したので,同年2月26日ころ,ミツ
ワ自動車に対し,前記輸入総代理店からの受注を断ることとし,
同輸入総代理店から既に受注しているポルシェ車については,日
本に供給されることが明らかな場合は出荷しないこととした旨を
通知した。
 ミツワ自動車は,平成9年3月3日ころ,ドイツのシュツット
ガルトで開催されたポルシェ社及び前記輸入総代理店との三者に
よる会合に参加し,同会合において同輸入総代理店が日本におけ
る輸入販売業者にポルシェ車を供給していることについて抗議す
るとともに,ポルシェ社に対し,今後,かかる行為が行われるこ
とのないよう必要な是正措置を講じるよう要請した。
 ポルシェ社は,平成9年6月ころ,前記輸入総代理店との取引
を停止した。
 ミツワ自動車の前記行為により,前記(イ)の輸入販売業者は,前
記輸入総代理店の供給に係るポルシェ車について,海外販売業者
からの並行輸入を行い,国内において販売することができなく
なっている。
平成10年1月以降の状況変化
 ミツワ自動車とポルシェ社との日本における輸入総代理店契約は平
成9年12月末日をもって終了し,平成10年1月から,ポルシェ社の出
資による日本法人であるポルシェジャパン株式会社がポルシェ車の日
本における輸入総代理店として活動を開始している。このことは新
聞,雑誌等で報道及び広告がなされ,ポルシェ車の日本における需要
家及び輸入販売業者に周知されている。また,ミツワ自動車は,平成
9年12月末日をもってポルシェ車の輸入販売業務を停止し,関係部門
を閉鎖し,現在は,当該業務の清算事務を行っているのみである。
(4) 法令の適用
 ミツワ自動車は,自己と国内において競争関係にある輸入販売業者と
その取引の相手方である海外販売業者との取引を不当に妨害していたも
のであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示
第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するもので
あるが,前記ウによれば,当該行為は既になくなっていると認められ,
かつ,特に措置を命ずる必要があるとは認められない。
(5) 主文
 本件審判開始決定に係るミツワ自動車の行為は,独占禁止法第19条の
規定に違反するものであるが,既に当該行為はなくなっていると認めら
れるので,ミツワ自動車に対し,格別の措置を命じない。

第3 課徴金納付命令審決

(1) 被審人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会がソニー株式会社(以下「ソニー」という。),松下
電器産業株式会社(以下「松下電器産業」という。)及び三菱電機株式
会社(以下「三菱電機」という。)の3社に対し,平成7年3月28日,
独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったと
ころ,ソニーはこれを不服として審判手続の開始を請求したため,同社
に対し同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官を
して審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,ソニーが平成10年2月24日付けの担当審判官の作成した
審決案に対し異議の申立てを行うとともに独占禁止法第53条の2の2の
規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,平成10年4
月9日にソニーから陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決案の内容
と同じ審決を行った。
(3) 認定した事実の機要
課徴金に係る違反行為
(ア)
 ソニー,三菱電機,東芝ライテック株式会社及び富士通機電株
式会社(以下「富士通機電」という。)の4社(以下「4社」と
いう。)は,大型カラー映像装置の製造販売業を営む者である。
 松下通信工業株式会社(以下「松下通信工業」という。)は,
大型カラー映像装置の製造業を営み,大型カラー映像装置のすべ
てを松下電器産業に供給している者であり,松下電器産業は,松
下通信工業から一手にその製造する大型カラー映像装置の供給を
受けてその大部分を直接販売している者である。
 富士通株式会社(以下「富士通」という。)は,富士通機電か
らその製造する大型映像表示装置の供給を受けて販売している者
である。
 4社及び富士通は,いずれも,国の機関若しくは地方公共団体
又はこれらが出捐している公社,公団等(以下「官公庁等」とい
う。)から指名を受けて,大型カラー映像装置の指名競争入札又
は指名見積り合わせ(以下「指名競争入札等」という。)に参加
している。
 松下電器産業は,上記指名を受け,入札すべき価格等当該指名
競争入札等に関する事項について,松下通信工業と緊密な連絡を
取りつつ,指名競争入札等に参加している。
 4社及び松下通信工業の5社(以下「5社」という。)は,昭
和63年,大型映像表示システムの安全基準等を研究する目的で,
大型カラー映像表示システム研究会(以下「大型映像研究会」と
いう。)を発足させた。
 5社は,官公庁等が指名競争入札等の方法により発注する大型
カラー映像装置について,受注予定者を決定し,受注予定者が受
注できるようにすべきである,という意見が出されたため,検討
を重ね,昭和63年秋ころ,同研究会において,発注者の意向や構
成員各社の営業活動の程度等を比較検討して優位にある者が当該
物件の受注予定者となること等を内容とする受注調整のための
ルール(以下「本件ルール」という。)を合意した。
 なお,平成元年7月ころ,大型カラー映像装置の販売業を営む
富士通は,大型映像研究会に参加することとなり,以後,5社及
び富士通の6社(以下「6社」という。)により,本件ルールに
基づく受注調整が行われることになった。
 6社は,遅くとも平成元年4月1日以降(富士通にあっては同
年8月1日以降),大型カラー映像装置について,受注価格の低
落を防止するため,官公庁等から指名競争入札等の参加の指名を
受けた場合(松下通信工業にあっては,松下電器産業又はその系
列の販売会社が指名を受けた場合)は,次の方法により,当該装
置を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定するこ
ととした。
(a)  当該装置について受注を希望する者(以下「受注希望者」と
いう。)が1名のときは,その者を受注予定者とすること
(b)  受注希望者が複数のときは,指名を受けた者(松下電器産業
等が指名を受けた場合にあっては,松下通信工業)の間の話合
いにおいて,次の方法により受注予定者を決めること
(i)  設置しようとする装置の機種,製造業者等に係る発注者,
その委託を受けた設計業者等(以下「発注者等」という。)
の意向が客観的に認められるときは,その意向に沿う者を受
注予定者とする。
(A)  上記(i)により受注予定者を決定することができないとき
は,発注者等に対する当該装置に関する営業活動の程度,納
入実績等の有無等を総合勘案し,受注予定者中最も優位にあ
ると認められる者を受注予定者とする。
(c)  受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者
は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
こと
 ソニー,三菱電機及び松下電器産業は,前記eにより,官公庁
等が指名競争入札等の方法により発注する大型カラー映像装置の
大部分を受注していた。
 6社は,本件ルールの見直しに関する意見の調整が不調となっ
たこと等により,平成4年11月5日,大型映像研究会を解散し,
同日以降,前記eの合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定
者が受注できるようにする行為を取りやめている。
(イ)  前記事実によれば,ソニーは,三菱電機らと共同して,官公庁等
が指名競争入札等の方法により発注する大型カラー映像装置につい
て,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすること
により,公共の利益に反して,官公庁等が指名競争入札等の方法に
より発注する同装置の取引分野における競争を実質的に制限してい
たものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当
な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,か
つ,同法第7条の2に規定する商品の対価に係る行為である。
課徴金計算の基礎
(ア)  ソニーは,大型カラー映像装置の製造販売業を営む者である。
(イ)  ソニーが前記違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平
成元年11月5日以前であると認められる。
 また,ソニーは,平成4年11月5日,前記違反行為を取りやめて
おり,その後は,その実行としての事業活動はなくなっているもの
と認められる。
 したがって,ソニーについては,前記違反行為の実行としての事
業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる
日までの期間が3年を超えることとなるため,私的独占の禁止及び
公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成3年法律
第42号。以下「平成3年独占禁止法改正法」という。)附則第3項
の規定により,実行期間は,平成元年11月6日から平成4年11月5
日までの3年間とみなされる。
(ウ)  ソニーの前記期間における官公庁等が指名競争入札等の方法によ
り発注する大型カラー映像装置の売上高は,独占禁止法施行令第6
条の規定に基づき算定すると,平成3年独占禁止法改正法の施行日
である平成3年7月1日前については,同年3月15日に締結された
多摩川競走場の大型映像装置についての契約により定められた対価
の額2億4720万円であり,施行日以後については,同年11月30日に
締結された福岡競艇場大型映像装置設置工事についての契約により
定められた対価の額1億4420万円である。
 よって,ソニーが国庫に納付しなければならない課徴金の額は,
平成3年独占禁止法改正法附則第3項の規定により,施行日前に係
る行為についてはなお従前の例によることとされる平成3年改正前
の独占禁止法第7条の2第1項の規定により前記2億4720万円に10
0分の4を乗じて得た額の2分の1に相当する額から同条第3項の
規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された494万円と,
施行日以後に係る行為について平成3年改正後の独占禁止法第7条
の2第1項の規定により前記1億4420万円に100分の6を乗じて得
た額から同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算
出された865万円とを合計した1359万円である。
(4) 法令の適用
 ソニーは,平成3年独占禁止法改正法施行前に事業者として不当な取
引制限の行為を開始し,同法施行後にその行為を終了したところ,当該
行為は独占禁止法第7条の2第1項所定の課徴金の対象となる商品の対
価に係るものであるから,平成3年独占禁止法改正法附則第3項によ
り,同法施行日前に係るものについては同法による改正前の独占禁止法
第7条の2第1項及び第3項並びに独占禁止法施行令第6条を適用し
て,平成3年独占禁止法改正法施行日以降に係るものについては同法に
よる改正後の独占禁止法第7条の2第1項及び第4項並びに独占禁止法
施行令第6条を適用して,ソニーが国庫へ納付しなければならない課徴
金の額は,前記(3)イ(ウ)のとおりである。
(5) 命じた措置
 ソニーは,課徴金として1359万円を平成10年7月14日までに国庫に納
付しなければならない。