(1) |
基本的考え方 |
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ア |
標準価格等の決定 |
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事業者団体が,構成事業者が供給する商品又は役務の価格,数量な
ど重要な競争手段について制限することは,市場メカニズムに直接的
な影響を及ぼすものとして,原則として独占禁止法違反となる行為で
ある。
価格制限行為の形態は多様であるが,最低販売価格等の決定のよう
に構成事業者の価格を事業者団体が直接決定する場合ばかりでなく,
標準価格など,価格設定の基準となるものを事業者団体が決定するこ
とも,原則として独占禁止法違反となる(事業者団体ガイドライン第
2-1-(1)-3)。
事業者団体が標準価格等構成事業者の価格設定の基準となるものを
決定すると,競争関係にある構成事業者間に現在又は将来の価格につ
いて共通の目安を与えることとなることは避けられない。したがっ
て,構成事業者の利用に供するため,事業者団体が単価を自ら任意に
設定し,それを取りまとめて価格表を作成し構成事業者に配布するこ
とは,構成事業者の自由な価格形成を妨げるおそれがあり,独占禁止
法に違反するおそれがある(独占禁止法第8条第1項第1号又は第4
号違反)。 |
イ |
情報提供活動(統計的処理,公表資料の引用) |
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事業者団体が,構成事業者への情報提供活動の一つとして,価格に
関する情報を提供している場合がある。
事業者団体が,構成事業者の個別の価格を調査してそれを統計的に
処理したものを構成事業者に提示する場合や一般に公表されている資
料から価格を引用して構成事業者に提示する場合であっても,その方
法によっては,現在又は将来の価格について共通の目安を与え,構成
事業者の自由な価格形成を妨げることにより,独占禁止法上問題とな
ることがある(事業者団体ガイドライン第2-9-1)。
例えば,統計的処理の結果について代表となる数値を任意に取り出
して提示したり,公表資料であっても複数の価格情報を抽出・加工し
て提示するなど,その提示方法によっては,構成事業者の自由な価格
形成を妨げるものとして独占禁止法上問題となることがある。 |
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(2) |
本件調査における価格表の考え方 |
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ア |
統計的処理について |
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建設業団体が構成事業者の価格を統計的に処理したものを用いて価
格表を作成している事例についてみると,その多くは,アンケート調
査の結果得られた価格の平均値を示すなど,代表値を一つだけ示す形
式のものであった。
このような事例については,特定の価格を構成事業者に示すことに
より構成事業者間に現在又は将来の価格について共通の目安を与える
こととなり,構成事業者の自由な価格形成を妨げるものとして独占禁
止法上問題となるおそれがある。 |
イ |
公表資料からの価格情報の引用について |
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官公庁や民間調査機関等が公表している資料から価格情報を引用し
て価格表を作成している場合であっても,その引用・提示の方法に
よっては,現在又は将来の価格に共通の目安を与え,構成事業者の自
由な価格形成を妨げることにより,独占禁止法上問題となることがあ
る。
本件調査においては,公表資料から引用する際,個別の特定価格を
一つだけ取り出して引用する例がみられたが,このような方法により
引用した価格を用いた価格表については,構成事業者の自由な価格形
成を妨げるものとして独占禁止法上問題となるおそれがある。 |
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(3) |
経営指導 |
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ア |
基本的考え方 |
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中小企業における経営知識等の不足を補うため,中小企業の事業者
団体が経営指導を行うことは,本来,独占禁止法上問題となるもので
はない。
しかしながら,経営指導の形式をとっていても,事業者の現在又は
将来の事業活動に係る価格等の重要な競争手段の具体的な内容に関し
て目安を与えるような場合には,独占禁止法上問題となるおそれがあ
る。 |
イ |
積算資料の作成について |
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本件調査においては,建設業団体が,中小規模の構成事業者に対す
る経営指導の一環として,単価を盛り込んだ価格表,特に積算表を作
成している事例がみられた。
建設業団体が積算資料を作成する際に,所要の資材等の標準的な数
量や作業量とともに単価を示すことは,積算金額について共通の目安
を与えるおそれがあると考えられ,構成事業者間の自由な価格形成を
妨げ,独占禁止法上問題となるおそれがある(事業者団体ガイドライ
ン第2-10-1)。 |
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(4) |
その他 |
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ヒアリング調査によれば,公共工事等において,国又は地方公共団体
などの発注者側が,事業者団体に対し,積算に必要な価格の目安につい
て尋ねてくるケースがしばしば存在するとされている。
構成事業者の個々の取引における価格等通常各事業者の営業上の秘密
とされている事項について事業者団体を通じて報告を求めるような行政
指導については,当該事業者団体が取りまとめに当たり価格を決定する
ことにつながるおそれがあることから,独占禁止法との関係において問
題を生じさせるおそれがある(行政指導ガイドライン2-(2)-③)。
発注者側においては,事業者団体に目安となる価格水準を尋ねる場合
には,当該価格を事業者団体が取りまとめる過程又は取りまとめられた
価格の利用方法のいかんによっては,事業者団体の構成事業者の自由な
価格形成に影響を与えるおそれがあることを認識し,事業者団体の活動
に十分配慮した上で行うことが望まれる。 |
(5) |
上記を踏まえた対応 |
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上記を踏まえ,当委員会は,独占禁止法上問題となるおそれのある価
格表を作成していた事業者団体に対し,事業者団体ガイドラインを含
め,独占禁止法の考え方を伝え,問題点を指摘するとともに,
ア |
統計的な処理の方法により価格表を作成する場合には,構成事業者
から価格に係る過去の事実に関する概括的な情報を任意に収集して,
客観的に統計処理し,価格の高低の分布や動向を正しく示し,かつ,
個々の構成事業者の価格を明示することなく,概括的に,需要者を含
めて提供するようにすること |
イ |
価格に関する公表資料の引用の方法により価格表を作成する場合に
は,資料の出典を明らかにし,価格はあくまで参考として公表資料か
ら引用したものである旨を注記した上で,一連の価格群を特に加工す
ることなく,客観的な参考情報の一つとして引用するようにすること |
などの方法により,独占禁止法上問題のない形で情報提供活動を行うよ
うに指導した。また,建設省に対して,上記事項を含め,独占禁止法の
考え方を関係事業者団体に周知するよう要請した。 |