第15章 国際関係業務

第1 二国間協議への対応

1 日米間の二国間協議
(1)   競争政策に関する議論への対応
 競争政策に関しては,日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組において,規制緩和及び競争政策に関する日米間の「強化されたイニシアティブ」の下で議論が行われている。
 米国政府は,平成11年10月6日,「日本における規制撤廃,競争政策,透明性及びその他の政府慣行に関する日本政府への米国政府要望書」を日本政府に提出した。同要望書においては,競争政策に関係する要望として,公正取引委員会の独立性の保証,カルテルに対する執行の強化,談合に対する取組の強化,民事的救済制度の導入等が挙げられている。当委員会は,専門家会合等の場において,これらの要望に対する公正取引委員会の取組等を説明した。
(2)   その他の協議への対応
 個別業種の協議としては,板ガラス,政府調達(コンピュータ,スーパーコンピュータ,建設等),保険等についての会合が開催されてきた。当委員会は,競争政策の観点から,これらの会合に必要に応じ対応しており,外国企業の我が国市場への参入に当たり反競争的行為があった場合にはこれに厳正に対処することとしている。
2 その他の二国間協議
 日・EU規制緩和対話等その他の二国間協議について,当委員会は,競争政策の観点から,必要に応じ対応している。

第2 二国間意見交換

 当委員会は,我が国と経済的交流が特に活発である国・地域の競争当局との間で競争政策に関する意見交換を定期的に行っている。
 平成11年度における意見交換開催状況は,次のとおりである。

第3 日米独占禁止協力協定

 近年,企業活動の国際化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事案,一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間協力の強化の必要性が高まっている。こうした中,日本国政府と米国政府は,ワシントンD.C.において,現地時間の平成11年10月7日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」に署名を行い,これにより,同協定が発効した(付属資料10―3参照)。
 この協定の主な内容は,次のとおりである。
(1)  通報(第2条)
 両国の競争当局は,相手国政府の重要な利益に影響を及ぼすことがある執行活動等について通報する。
(2)  協力(第3条)
 両国の競争当局は,自国の法令及び重要な利益に合致する限りにおいて,相手国の競争当局に対しその執行活動につき支援を提供する。
(3)  調整(第4条)
 両国の競争当局は,関連する事案について双方が執行活動を行っている場合は,執行活動の調整を検討する。
(4)  執行活動の要請(第5条)
 一方国の競争当局は,相手国の領域内の反競争的行為が自国政府の重要な利益に悪影響を及ぼすと信ずる場合は,相手国の競争当局に対し適切な執行活動を開始するよう要請することができる。
(5)  相手国政府の重要な利益の考慮(第6条)
 両国政府は,執行活動の全段階において相手国政府の重要な利益を慎重に考慮する。

第4 多国間関係

1 OECD
(1)  競争政策委員会
 競争政策委員会(Committee on Competition Law and Policy)は,OECDに設けられている各種委員会の一つで,昭和36年12月に設立された制限的商慣行専門家委員会が昭和62年に改組されたものである。我が国は,昭和39年のOECD加盟以来,その活動に参加してきている。競争政策委員会は,原則として年2回本委員会を開催し,また,その下に各種の作業部会を設けて,随時会合を行っている。本委員会では,加盟各国の競争政策に関する年次報告が行われているほか,各作業部会の報告書の検討,その時々の重要問題について討議が行われている。また,本年度は,韓国,スペイン,デンマーク及びハンガリーの4か国を対象国として,規制制度改革国別審査が行われた。
 本年度における会議の開催状況は,次のとおりである。


 平成11年5月の第76回本委員会においては,アイスランド,ポーランド,ルクセンブルグ及びロシア(オブザーバー)が年次報告に基づいて説明を行ったほか,寡占に関するラウンドテーブル討議が開催された。また,デンマーク及びスペインを審査対象国として規制制度改革国別審査が行われた。
 平成11年10月の第77回本委員会においては,多国籍企業ガイドラインの競争に関する部分の改訂について検討が行われたほか,オランダ,ポルトガル,オーストラリア,ニュー・ジーランド,フランス及び我が国から,各国の年次報告の概要について説明があった。また,航空事業の合併・提携に関するラウンドテーブル討議及び競争法執行のプライオリティに関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,ハンガリー及び韓国を審査対象国として規制制度改革国別審査が行われた。
 平成12年2月の第78回本委員会においては,多国籍企業ガイドラインの競争に関する部分の改訂について検討が行われたほか,OECD閣僚理事会へ提出される予定のハードコアカルテルに関する報告書についての検討が行われた。
 競争政策委員会に属する各作業部会の本年度における主要な活動は,次のとおりである。
(ア)  競争と貿易に関する合同会合では,競争政策委員会の作業部会と貿易政策委員会の作業部会が,合同で,競争政策と貿易政策の連関についての検討を行っている。平成11年の5月会合においては合併審査と市場アクセス問題,排他的又は特別な権利を有する企業に適用可能な競争ルールなどについて検討が行われた。平成11年の10月会合においては競争政策に関する協定と無差別原則などについて検討が行われた。平成12年の2月会合においては競争と市場支配的地位の濫用,協力協定と競争当局の刑事手続上の裁量などについて検討が行われた。
(イ)  第2作業部会では,平成11年の5月会合においては専門職業について,平成11年10月会合においては地域サービス(廃棄物処理)について,平成12年2月会合においてはガス産業についてラウンドテーブル討議が開催された。
(ウ)  第3作業部会では,平成11年の5月会合においてはハードコアカルテルへの対処・相互協力に関して,平成11年の10月会合においては国内的,国際的な支配的地位の濫用に関してそれぞれ検討が行われた。また,平成12年の2月会合においては制裁金減免措置に関するラウンドテーブル討議が開催された。
(2)  消費者政策委員会
 消費者政策委員会(Committee on Consumer Policy)は,加盟国の消費者行政についての情報交換及び調査・検討のための国際協力の場として,昭和44年に期限付き(昭和47年末まで)で設置することとされた。この期限は,その後,7回の延長決定を経て平成13年末までとなっている。消費者政策委員会は,通例年2回本委員会を開催するほか,各種の作業部会等を設けて随時会合を行っている。
 平成12年3月現在は,チャージバックに関する作業部会が設置されている。
 電子商取引等を議題として,平成11年9月9日から10日にかけて第57回本委員会が,平成12年3月21日から22日にかけて第58回本委員会が開催された。
2 WTO
(1)   競争分野における取組
 平成6年4月のマラケシュ閣僚会議議長サマリーにおいては,貿易とその他の分野(競争,投資等)との相互関係を分析することの重要性が強調された。その後,平成8年12月のシンガポール閣僚宣言において,これらの問題についての作業指針が画定された。貿易と競争については,(1)貿易と競争政策の相互作用を検討するための作業部会を設置すること,(2)2年間の期限で(すなわち平成10年末まで)検討を行った上で,その後の進め方について決定すること,(3)多数国間の規律に関し将来の交渉を行うかどうかは,WTO加盟国における明示的な合意が必要であること等が定められた。
(2)   貿易と競争政策の相互作用に関する作業部会
 平成9年7月以降平成10年11月まで7回の作業部会が開催され,競争政策が貿易に与える影響及び貿易措置が競争に与える影響の双方の観点からの作業が行われた。我が国は,「競争政策が貿易に与える影響」及び「貿易政策が競争に与える影響」の双方をバランスのとれた形で取り上げるべきとの立場をとり,当委員会は,特に「競争政策が貿易に与える影響」の議論に貢献してきた。同作業部会の平成11年以降の取扱いについては,そこでの作業内容と関連して様々な意見が出されたが,平成10年12月の一般理事会において,同作業部会の継続が決定された。
 平成11年においては,開催することができる同作業部会の数が限られることにかんがみ,議題は焦点を絞ったものとし,その具体的な分野として,(1)内国民待遇,透明性,最恵国待遇というWTOの基本原則の競争政策への適用及び競争政策のWTO基本原則への適用,(2)技術協力を含めた協力推進のための方策,(3)WTOの目的達成に向けた競争政策の貢献の3点とすることが合意された。これに基づき,本年度は3回の会合が開催された。また,次期WTO交渉に向けた準備プロセスにおいて,我が国は次期交渉において競争法・競争政策を取り上げるよう提案した。
 平成11年11月30日〜12月3日にかけて米・シアトルで行われた第3回WTO閣僚会議では,農業,アンチ・ダンピング等の分野で交渉に向けた加盟国の立場が大きく異なっていたことから,限られた時間内に宣言を取りまとめることができなかった。競争分野に関しても,加盟国は基本的に従来の主張を繰り返すにとどまり,目立った進展は見られなかった。
 本年度における会議の開催状況は,次のとおりである。
3 APEC
(1)   競争分野における取組
 平成6年のインドネシア・ボゴールでの非公式首脳会談において,アジア太平洋地域の貿易・投資の自由化を図るため,「先進経済は2010年までに,開発途上経済は2020年までに,アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易及び投資という目標の達成を完了する」こと等を内容とする「ボゴール宣言」が採択された。
 続く平成7年に大阪で開催された第7回閣僚会議(11月16日,17日)において,「ボゴール宣言」の目標を具体化するための行動指針(以下「大阪行動指針」という。)が採択された。この「大阪行動指針」において取り上げられた15の個別分野の一つが競争政策分野であった。
(2)   個別行動計画及び共同行動計画の改定
 平成8年に,フィリピン・マニラで開催された第8回閣僚会議(11月22日,23日)において,「大阪行動指針」に基づく分野別の具体的な行動計画として「マニラ行動計画」が採択された。「マニラ行動計画」は,APEC参加国・地域が協調して取り組む「共同行動計画」と各国・地域が自主的に取り組む「個別行動計画」とから成り立っている。競争政策分野では,「共同行動計画」として,技術協力,政策対話,情報交換の実施等が掲げられており,我が国は,「個別行動計画」として,独占禁止法違反行為に対する厳正な対処等競争政策の一層積極的な展開や技術支援の実施等を掲げている。平成11年度においては,前年に引き続き,「共同行動計画」及び「個別行動計画」が改定された。
(3)   競争政策・規制緩和ワークショップ
 平成7年7月に,「ボゴール宣言」の実施のために競争政策分野を一つの項目として位置付け,今後APECの活動の一環として競争政策に関する検討を行うことを目的として,競争法・政策会合が開催されたが,翌平成8年には,「大阪行動指針」に掲げられた15の個別分野中,競争政策と規制緩和に関する2つの会合は,相乗効果が認められるとして,それらを一つにまとめて扱うことが決定された。このため,競争法・政策会合は,競争政策・規制緩和ワークショップに組織替えされた。
 平成11年度においては,ニュー・ジーランド・クライストチャーチにおいて,平成11年4月30日及び5月1日に競争政策・規制緩和ワークショップが開催され,「発展途上エコノミーにおける競争政策・規制緩和上の問題」,「APECの競争原則」等をテーマとして活発な意見交換が行われた。
(4)   PFP競争政策研修プログラム
 APECにおける経済・技術協力を一層効果的に推進するためのメカニズムである「前進のためのパートナー(PFP:Partners for Progress)」の一環として,日本とタイとの共催で競争政策に関する研修プログラムが,平成8年度から5か年計画で実施されている。
 第4回目の開催に当たる平成11年度は,平成12年3月14日〜16日,タイ・バンコクにおいて,APECの開発途上国・地域の競争当局の中堅職員を主な対象として開催された。
4 UNCTAD
(1)  昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会議において,「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。この「原則と規則」は,同年の第35回国連総会における国連加盟国に対する勧告として採択された。
 「原則と規則」は,国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿易と経済発展に資することを目的としており,その主な内容は次のとおりである。
 国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼすことになり,市場アクセスを制限し,又は競争を不当に制限することとなる場合に,
(ア)  競争企業間の協定,取決めによる次のような行為を行わないこと。
(1)価格協定,(2)入札談合,(3)市場・顧客分割,(4)販売・生産数量割当等
(イ)  市場支配力の優越的地位を濫用することにより,次のような行為・行動を行わないこと。
(1)競争者を排除するための原価以下の価格付け等による競争者に対する略奪的行為,(2)価格差別,(3)合併・取得,(4)輸出商品の再販売価格維持,(5)並行輸入の阻止等
 事業が行われている国の所管官庁が制限的商慣行を規制する際,企業はその所管官庁と協議・協力し,情報を提供すること。
(2)  「原則と規則」の規定に関する制限的商慣行についての調査研究,情報収集等を行うために,昭和56年,「制限的商慣行政府間専門家会合」が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において「競争法・政策専門家会合」と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議により,競争法・政策に関する政府間専門家会合」と名称が再変更された。
 平成11年度は,6月7日〜9日に第2回の競争法・政策に関する政府間専門家会合が開催され,平成12年9月25日〜29日に予定されている「原則と規則」に関する第4回レヴュー会合(注)のアジェンダ案の採択及び同会合で取扱われる事項の決定が行われた。
(注)  「原則と規則」をレヴューするための国連会議は,昭和60年以降,5年ごとに開催されている。
5 アジア・大洋州の競争当局との協力
 競争政策担当者間の意見交換を目的として,アジア・大洋州独占禁止政策会議が昭和54年からおおむね5年に1回開催されている。平成11年度は,平成11年11月15日〜16日にオーストラリア・キャンベラにおいて第6回目が開催され,アジア・大洋州の17か国・地域(注)及び世銀の代表が参加した。
(注)  この17か国・地域は,オーストラリア,中国,香港,韓国,マレイシア,ニュー・ジーランド,パプア・ニューギニア,シンガポール,台湾,タイ,カンボディア,フィジー,インド,ラオス,マカオ,パキスタン及び日本である。

第5 海外の競争当局等に対する技術協力

 近年,開発途上国や移行経済国においては,市場経済における競争法・政策の重要性が認識されるに従って,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入する動きが活発になっている。当委員会は,これら諸国の競争当局等に対し,研修の実施等による技術協力を行っている。具体的な協力の概要は次のとおりである。
1 開発途上国競争政策研修
 平成6年度から,国際協力事業団(JICA)を通して,競争法を導人しようとする国や既存の競争法の運用強化を図ろうとする国の競争当局等の職員を招へいし,競争法・政策に関する研修を行っている。
 平成11年度は,8月30日〜9月30日に,アジア諸国等9か国9名(インド,スリ・ランカ,チリ,ホンデュラス,ペルー,ウズベキスタン,カザフスタン,ケニア,タンザニア)の競争当局等の中堅職員を対象に,研修を実施した。なお,同研修は平成11年度以降,更に10年間継続されることとなっている。
2 中国競争政策研修
 平成10年度から5年間の予定で,JICAを通して,中国に対し,競争法・政策及び関連の法律について研修を行っている。
 平成11年度は9月27日〜10月24日に,中国の競争当局に当たる国家工商行政管理局の中堅職員10名を対象に,研修を実施した。
3 専門家派遣
 平成11年度においては,JICAを通して,当委員会の職員を競争法の専門家として,タイ及びラトヴィアに派遣した。
4 その他の技術協力
 このほか,外国政府又は国際機関等が実施する競争政策に関するセミナー(日・インドネシア共催経済制度セミナー,日・タイ共催経済制度セミナー,日・中共催経済制度セミナー,中国国家経済貿易委員会・中国国家工商行政管理局・OECD共催セミナー等)において,講師の派遣等を行った。

第6 海外調査

 我が国の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国の競争政策の動向,競争法制及びその運用状況についての情報収集や調査研究を行っている。
 平成11年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国を中心として,競争当局の政策動向及び議会における競争関係の立法活動等について調査を行い,その内容の分析と紹介に努めた(付属資料10―1及び10―2参照)。