第7章 経済及び事業活動の実態調査

第1 概説

 当委員会は,競争政策の運営に資する目的から,経済力集中の実態,主要産業の実態等について調査を行っている。平成11年度においては,独占的状態調査LPガス販売業における取引慣行等に関する実態調査,国際電気通信業に関する実態調査等を行った。

第2 独占的状態調査

 独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めているが,当委員会は,同法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定のうち,事業分野に関する考え方について,ガイドラインを公表しており,その別表には,独占的状態の国内総供給価額要件及び市場占拠率要件(国内総供給価額が1000億円超で,かつ,上位1社の市場占拠率が50%超又は上位2社の市場占拠率の合計が75%超)に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野が掲げられている。
 これらの別表に掲載された事業分野については,公表資料及び通常業務で得られた資料の整理・分析を行うとともに,特に集中度の高い業種については,生産,販売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益率等について,関係企業から資料の収集,事情聴取等を行うことにより,独占禁止法第2条第7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利益率,過大な販売管理費の支出)の各要件に則し,企業の動向の監視に努めた。

第3 大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査

1 調査の趣旨
 当委員会は,「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「ガイドライン」という。)等において,小売業者による優越的地位の濫用行為について,その考え方と独占禁止法上問題となる場合を明らかにしているところである。その後,ガイドライン公表後の大規模小売業者と納入業者との取引実態を把握する観点から,フォローアップ調査を実施しているが(平成7年2月公表),今般,前回調査結果公表時から3年が経過したこと,また,景気の低迷状態が引き続く中,各種調査・報道等においても取り上げられるなど大規模小売業者の優越的地位の濫用行為に対する関心が高まっていることもあり,大規模小売業者と納入業者との取引について,優越的地位の濫用規制の観点から,ガイドラインで示された行為類型を中心に実態を把握し,独占禁止法上の問題が認められる場合には,関係事業者及び関係団体に対し当該問題点を指摘するとともに,所要の改善措置を採るよう求めることを目的として,再び実態調査を行い,平成11年7月に調査結果を公表した。
2 調査結果の概要
(1)  返品
 返品条件については,納入業者の約5割が明確化されていると回答しており,前回調査時に比べて改善が図られていることが認められた。また,返品条件が明確化されている場合には,当該条件が遵守されており,条件を超えた返品の要請の場合には,双方協議の上,返品が行われている状況が認められた。
 返品の理由としては,(1)大規模小売業者の独自の判断による売場の改装や棚替えに伴う返品(46.3%注:返品の要請があったと回答した者のうちに占める割合)や,(2)月末,期末の在庫調整に伴う返品がある(36.9%注:返品の要請があったと回答した者のうちに占める割合)と回答した納入業者が多かった。
(2)  協賛金等の負担の要請
 協賛金等の負担条件については,納入業者の約5割が明確化されていると回答しており,前回調査時に比べて改善が図られていることが認められた。また,協賛金等の負担条件が明確化されている場合には,当該基準が遵守されており,当該条件を超えた協賛金等の負担を要請する場合には,双方協議の上,協賛金等の負担の要請が行われている状況が認められた。
 また,協賛金等の負担要請の理由としては,(1)催事,売場の改装,広告等のための費用負担の要請であって自社商品の販売促進に直接寄与しないものがあったとする納入業者(58.6%注:協賛金等の負担の要請があったと回答した者のうちに占める割合)や,(2)決算対策のための協賛金等の負担の要請があった(48.0%注:協賛金等の負担の要請があったと回答した者のうちに占める割合)と回答した納入業者が多かった。
(3)  物流センターの設置等に伴う費用負担の要請
 物流センターの利用料等の水準が,納入業者の得る利益の範囲内であるか否かは一義的に決められるものではないことから,納入業者との間で十分な協議が行われ,双方同意の上で決定されることが,取引の公正化を図る上で重要である。
 物流センターの利用料等の負担要請に係る協議の機会の状況については,(1)一方的に負担額(率)が決められ,協議の機会が与えられなかったと回答した者(57.6%)や,(2)物流センターを利用しない場合でも物流センターの利用料を徴収されたとする者がみられた。
(4)  リサイクル体制のシステム化に伴う費用負担の要請
 リサイクル体制のシステム化に伴う費用負担の要請(例えば,空缶,空瓶,食品トレイ等のリサイクルに係る費用負担の要請)についても調査対象としたが,現時点においては,ほとんどの納入業者がそのような費用負担を求められていない状況にあることが明らかになった。しかしながら,ほとんどの大規模小売業者がリサイクル体制の確立を今後の重要な課題と考えていることから,それに伴う費用が納入業者に不当に負担させられることのないよう,引き続き注視していく必要がある。
(5)  低価格納入の要請
 低価格納入の要請それ自体は競争の反映であって,独占禁止法上問題となるわけではないものの,納入価格について,十分に協議を行うことが重要である。
 低価格納入の要請の理由としては,(1)特売,廉売等を理由としての低価格納入の要請(84.1%注:低価格納入の要請があったと回答した者のうちに占める割合)や,(2)新規開店,創業祭への協賛等を理由としての低価格納入の要請(66.9%注:低価格納入の要請があったと回答した者のうちに占める割合)を挙げる者が多かった。納入価格の協議の機会については,納入価格について十分協議した(49.0%)と回答した者が最も多かったが,他方で納入価格について一応協議の機会は与えられたが,十分とはいえなかった(48.6%)とする者も多くみられた。また,協議の結果についても,結局,要請価格での納入を余儀なくさせられたとする者が最も多く,協議は行われているものの形だけのものになっているおそれがあることがうかがわれた。
3 大規模小売業者の独占禁止法遵守体制及びその評価
 ヒアリング対象とした大規模小売業者各社は,いずれも,納入取引を対象とする独占禁止法遵守マニュアルを作成するとともに,その実効性を担保する観点からチェック体制の整備を図る等,独占禁止法遵守のための体制の改善を図ってきていると認められた。しかしながら,その制度面及び運用面において次のような改善の余地があるものと考えられる。
(1)  制度面
 大規模小売業者各社は,いずれも納入取引を対象とする独占禁止法遵守マニュアルを作成しており,独占禁止法遵守のための体制の改善を図ってきていると認められた。また,各社の独占禁止法遵守マニュアルの内容については,ガイドラインの内容に即したものとなっていたものの,ガイドラインに記載されているような具体的に問題となる行為については明記されていないものが一部にみられた。
 したがって,マニュアルの内容について一層の改善を図るとともに,独占禁止法遵守マニュアルの運用についても,例えば,返品においては,返品伝票に取引条件や納入業者が合意したことを確認する欄を設ける等,チェック体制の一層の改善を図っていくことが望まれる。
(2)  運用面
 大規模小売業者各社は,いずれも独占禁止法遵守マニュアルに基づいて仕入担当者等に対し研修を実施しており,独占禁止法遵守のための取組を行っていた。しかし,実施時期が仕入担当者の異動時期に合わせられていなかったため,新任の仕入担当者が独占禁止法遵守マニュアルの内容を理解していないおそれがあると考えられるものや,独占禁止法遵守マニュアルの内容が仕入担当者に十分理解されていないと考えられる事例もみられた。
 したがって,独占禁止法遵守マニュアルの運用について,例えば,返品について,返品理由として記載されたとおりの返品か否かについてチェックしたり,十分な協議が行われたか否かのチェックを行う等,チェック体制の一層の改善を図っていくことが望まれる。
4 当委員会の対応
(1)  返品
 返品条件については,納入業者の約5割が明確化されていると回答しており,前回調査時に比べて改善が図られていることが認められた。また,返品条件が明確化されている場合には,当該条件が遵守されており,条件を超えた返品の要請の場合には,双方協議の上,返品が行われている状況が認められた。
 返品の理由としては,(1)大規模小売業者の独自の判断による売場の改装や棚替えに伴う返品(46.3%注:返品の要請があったと回答した者のうちに占める割合)や,(2)月末,期末の在庫調整に伴う返品がある(36.9%注:返品の要請があったと回答した者のうちに占める割合)と回答した納入業者が多かった。
(2)  協賛金等の負担の要請
 協賛金等の負担条件については,納入業者の約5割が明確化されていると回答しており,前回調査時に比べて改善が図られていることが認められた。また,協賛金等の負担条件が明確化されている場合には,当該基準が遵守されており,当該条件を超えた協賛金等の負担を要請する場合には,双方協議の上,協賛金等の負担の要請が行われている状況が認められた。
 また,協賛金等の負担要請の理由としては,(1)催事,売場の改装,広告等のための費用負担の要請であって自社商品の販売促進に直接寄与しないものがあったとする納入業者(58.6%注:協賛金等の負担の要請があったと回答した者のうちに占める割合)や,(2)決算対策のための協賛金等の負担の要請があった(48.0%注:協賛金等の負担の要請があったと回答した者のうちに占める割合)と回答した納入業者が多かった。
(3)  物流センターの設置等に伴う費用負担の要請
 物流センターの利用料等の水準が,納入業者の得る利益の範囲内であるか否かは一義的に決められるものではないことから,納入業者との間で十分な協議が行われ,双方同意の上で決定されることが,取引の公正化を図る上で重要である。
 物流センターの利用料等の負担要請に係る協議の機会の状況については,(1)一方的に負担額(率)が決められ,協議の機会が与えられなかったと回答した者(57.6%)や,(2)物流センターを利用しない場合でも物流センターの利用料を徴収されたとする者がみられた。
(4)  リサイクル体制のシステム化に伴う費用負担の要請
 リサイクル体制のシステム化に伴う費用負担の要請(例えば,空缶,空瓶,食品トレイ等のリサイクルに係る費用負担の要請)についても調査対象としたが,現時点においては,ほとんどの納入業者がそのような費用負担を求められていない状況にあることが明らかになった。しかしながら,ほとんどの大規模小売業者がリサイクル体制の確立を今後の重要な課題と考えていることから,それに伴う費用が納入業者に不当に負担させられることのないよう,引き続き注視していく必要がある。
(1)  今回の調査の結果,平成7年2月に公表した前回調査時と比べ,全般的には,大規模小売業者と納入業者との間の取引の公正化がかなり進展していることが認められたが,他方で,一部の大規模小売業者において独占禁止法上問題となるおそれのある行為が行われていた。また,大規模小売業者の独占禁止法遵守体制についても,その整備が図られてきているものと認められたが,その制度面及び運用面において改善の余地があると考えられるものもみられた。
(2)  当委員会は,今回調査の過程において,納入業者からのヒアリング等を通じて,独占禁止法上問題となるおそれのある行為が行われていると認められ,また,その独占禁止法遵守体制等にも改善の余地があると認められた一部の大規模小売業者に対して,上記のような独占禁止法上問題となるおそれのある行為及び改善の余地があると考えられた独占禁止法遵守体制の問題点について具体的に指摘するとともに,改善のための自主的な取組を行うよう要請した。
(3)  これに対し,要請を受けた各社から,当委員会に対し,当委員会の指摘を踏まえて,独占禁止法遵守体制の見直しを行い,今後,今回指摘を受けたような問題が生じることのないようチェック体制の整備を図る等,実効性のある独占禁止法遵守体制確立のための見直しを行った旨の報告があった。
(4)  また,上記要請を行った一部の大規模小売業者以外にも,納入業者から具体的指摘があったもののそのような事実関係が必ずしも確認できなかった者や,たまたま調査対象納入業者から具体的な名前の指摘がなかった大規模小売業者もあると考えられたことから,日本百貨店協会及び日本チェーンストア協会に対して,改めてガイドラインの内容が会員各社内で周知徹底されるよう指導を行うなど会員各社と納入業者との取引の公正化を図るための自主的取組を行うよう要請した。

第4 ネットワーク形成に資する公益事業施設の多目的利用に関する実態調査

1 調査の趣旨・目的
 規制緩和等,近年の公益事業を取り巻く環境の変化は,本来業務である公益事業(以下「本業」という。)の在り方のみならず,各公益事業者の経営戦略にも大きな影響を与えている。本業以外のいわゆる副業的な分野においても,公益事業者の所有する土地,施設及び設備(以下「施設等」という。)を本業以外の目的に多目的利用する事例及びこれを第三者たる事業者(以下「第三者」という。)に利用させて,新たな事業分野への進出が可能となった事例が発生してきている。
 公益事業者が所有する施設等については,公益事業者が,本業の公益性を理由に認められている様々な優遇措置を背景として本業におけるサービス提供のために整備し,それを他の一般事業者の追随を許さないほど数多く所有していることや,その施設等の中には,線又は節目で結び付いたネットワークとしての広がりを有しているものがあって,一般の事業者が新たにそれを構築することは極めて困難であることなどの特徴がみられる。公益事業者は,自ら所有する施設等のネットワーク性が有する効用に着目して,ネットワークを構成している施設等(以下「ネットワーク関連施設等」という。)の多目的利用を行いつつあり,また,当該施設等を多目的利用した分野で急成長する分野がみられるなど,その多目的利用が新たな事業を生み,また,新たな競争手段となっている。
 以上のことから,当委員会は,こうした社会資本の有効活用に伴う,関係市場における公正な競争を確保する上での課題について検討するため,公益事業者が所有する施設等の中でも,ネットワーク関連施設等の多目的利用の状況について実態調査を実施し,平成11年7月,調査結果を公表した。
2 調査の対象・方法
 本調査では,公益事業者の中でも,自ら所有する施設等のネットワーク性に着目して,施設等の多目的利用を進めている電気,電気通信,鉄道及びガスの各事業分野における事業者を対象とした。調査方法としては,主要な公益事業者,同事業者の施設等の主要な利用者(ユーザー)等からヒアリングを実施し,必要に応じて関連資料の提出を求めた。
3 調査の視点
 公益事業者の所有するネットワーク関連施設等の多目的利用の現状について,以下の視点から調査を実施した。
(1)   公正かつ自由な競争の維持・促進及び競争条件の公平性の確保
 多目的利用の進め方が競争制限的なものになっていないか。
 施設等の利用者間の競争条件の公平性をどのように確保するか。
(2)   施設等の多目的利用の活発化及び新規市場の創出
 競争促進の観点からの施設等の効率的活用の在り方はどうあるべきか。
 施設等の第三者への開放について,それによって得られる競争促進効果等をどのように考えるか。
4 調査結果の概要
(1)  ネットワーク関連施設等の多目的利用の実例
 ヒアリング調査等で把握した電気,電気通信(日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)),鉄道(JRグループ,私鉄)及びガス(都市ガス)の各事業者が所有するネットワーク関連施設等について,業種ごとにその多目的利用の実例を見ると次のとおりである。
(注)NTTは,平成11年7月の再編成以前の旧会社である。

(2)   公益事業者のネットワーク関連施設等の多目的利用の現状について
(1)で紹介した公益事業者の所有する施設等の多目的利用の事例は,その多くが,最近の十数年間のうちに展開された比較的新しい動きである。
 ヒアリング調査等で把握した電気,電気通信,鉄道及びガスの各分野について,施設等の開放に関する公益事業者の対応振り等について整理すると次のとおりである。
(ア)  施設等を第三者に開放している事例としては,
(1)  電柱又は鉄軌道等側溝へのケーブルの共架又は敷設
(2)  鉄軌道側溝にある鉄道運行管理用光ファイバーケーブルの芯線貸し
(3)  電柱又は駅構内へのPHSアンテナの共架又は設置
などの例がみられた。
 一方,施設等の多目的利用の主体がグループ企業に限られている事例について,公益事業者の多くは,第三者に施設等を開放しないと明言しているわけではないが,利用希望を受けたことがほとんど無いと説明している。
(イ)  施設等利用に係る基準の設定及び利用者の選定方法について,多数の第三者の利用希望が予想される事例においては,利用手続,利用条件,費用等をあらかじめ明確に定めておくことも一部にみられた。
 その一方で,施設等利用者側からは,公益事業者から不明確な基準をもって施設等利用が技術的に困難であるとの対応を受けたり,明確な一定の基準等が無いため取引条件が公益事業者との交渉に左右されやすい事例もあるとの指摘があった。
 ヒアリング調査等で把握した限りでは,現在のところ,施設等の多目的利用の事例が必ずしも相当多数存在しているとはいえない状況にある。これは,施設等の多目的利用が比較的最近の動きであることに影響されている。
 しかし,今後は,近年の事業制度改革の動き等を受けて,本業である公益事業において,他の事業者との競争が進展する中で,公益事業者各社は,公益事業本体の効率化とともに,施設等の多目的利用も含めた経営資源の有効活用によって増収,経営基盤の安定を図る動きを一層活発化させることが予想される。
(3)   ネットワーク関連施設等の多目的利用をめぐる課題公益事業者は次の事項に配慮することが望まれる。
ア 施設等の第三者への開放
(ア)  開放の必要性
 施設等を第三者に開放するか否かについて,資源の有効活用を図るという観点から,できる限り第三者への施設等の開放を進めていくこと。
(イ)  開放に当たっての基準等の設定・明確化
 施設等の開放に係る公益事業者と施設等利用者との関係の在り方
 特に類型的・定型的に具体的な利用方法が想定される施設等については,施設等利用の可否及びその条件に関する基準等をあらかじめ明確に示すこと。
 この基準等は,グループ企業,第三者のいずれが施設等の利用者になる場合にも等しく適用されること。
 基準等の内容や運用の適正及び外部からみた明確性という視点から,作成した基準等の内容が合理的なものかどうか不断の見直しを行うこと。
 グループ企業と一般事業者との競争関係の在り方
 その所有する施設等をそのグループ企業が利用する場合,グループ企業と一般事業者との間での競争条件の公平性が確保されること。
 利用者の選定方法
 施設等の利用者の選定は,公正に行われること。
イ 施設等の多目的利用の促進方策の募集等
(ア)  施設等に関する情報開示
 施設等利用者のニーズを把握するとともに,広く外部からのアイデアの受入れを促進するため,(1)施設等の多目的利用に関する相談受付窓口を設置するとともに,(2)多目的利用を受け入れ得る余裕のある施設等に関する情報を一般に適時適切に提供し,その利用に係るアイデアを考案させる機会を与えること。 
(イ)  施設等の効率的な利用方法の選定等
 多目的利用に振り向ける余地のある施設等がまとまって存在するものの,その利用方法が定まっていない場合には,その多目的利用の内容及び方法について,できる限り,オープンかつ公平な方法で選定されること。
ウ まとめ
 公益事業者は,上記の点を踏まえつつ,施設等の多目的利用の進展に向けて,積極的な対応を個別の事業者において進めていくことが期待される。
 施設等の多目的利用に伴う各種規制については,規制の趣旨そのものは妥当であっても,運用面において,本来必要とされる程度を超えて過度の規制がなされ,競争促進を妨げることのないよう留意していく必要がある。
 資源の有効活用,新規市場の創出等の観点と併せ,競争条件の整備という観点からも,施設等の多目的利用の分野において,グループ企業と一般事業者との間で公正な競争が確保されることが必要である。

第5 国際電気通信業に関する実態調査

1 調査の趣旨
 国際電気通信市場では,通信需要の急増,規制緩和,技術革新等から,新規参入が活発化し競争が激化している一方,事業者間の合併,提携等も顕著である。また,我が国においても,近年国内有力事業者の参入や外国事業者による資本参加等が実施され,競争環境は大きく変化しつつある。
このため,我が国国際電気通信業の現状を把握し,今後の競争政策の推進に資するよう,今般の調査を実施した(内容は平成11年10月31日時点)。
2 調査結果の概要
(1)  国際電気通信業の概要
 基本的な制度
 国際電気通信事業は,回線保有の有無によって,第一種事業及び第二種事業に区分され,後者は,さらに一般第二種事業と特別第二種事業に細分される。
 市場規模及び事業者のシェア
 第一種事業の市場規模は,平成10年度で約4000億円である(表1)。
表1:第一種事業の市場規模の推移(有価証券報告書:単位億円)

1 :平成9年度にサービス区分が変更された(それ以前は旧サービス区分に基づく会計処理)。
2 :平成8年度に会計処理基準の変更が行われたため,旧基準値と新基準値に分けて掲載している。
3 :平成10年度の「音声伝送」の市場規模には,DDIの営業収益を含む。
4 :平成7年度以降の「専用」の市場規模には,衛星系3事業者の営業収益を含む。
5 :「電報」のサービス提供事業者はKDDのみ。
 また,市場構造は,基本的にKDDを首位とするガリバー型寡占が続いている。
 国際第二種事業の市場規模は,平成10年度で推定約800億円であるため,同年度国際電気通信全体の市場規模は,約4800億円と推定されるが,これは,国内電気通信に比べ一桁小さい。
ウ 規制の概要
 料金については,その設定,変更に際しては,第一種事業者については実施の7日前(郵政大臣は変更命令が可能。),第二種事業者については実施前までの届出を要する。
 契約約款については,第一種事業者は,料金以外の重要な提供条件に関する設定及び変更に際しては,原則として認可を要するが,特別第二種事業者は事前届出で足りる。
 接続については,第一種事業者は,他事業者の接続請求に原則応じる必要がある。第一種事業者等は,接続協定の締結等に際しては,認可を要する。
(2)  国際電気通信市場における競争の実態
ア 参入の状況
 国際第一種事業では,昭和62年にITJ(現日本テレコム)及びIDCが免許を取得し,KDDの独占から三社体制に移行した。その後,今回調査開始時点までに10社が参入した。一方,国際第二種事業者の数は平成10年度末で84社に達する。
イ 料金の状況
 第一種事業者の電話料金は,平成元年から平成10年までの9年間で半分に低下した。さらに,平成10年10月のWCJ及びDDIの参入,同年11月の料金規制の緩和,平成11年10月のNTTコミュニケーションズの参入等により,料金は一段と低下しており,国際電話料金における内外価格差も,次第に縮小・解消に向かった。他方,専用線については,料金下落の幅は小さく,米国とはほぼ同水準であるが欧州より高い。
ウ 経営の状況
 既存三社(KDD,IDC及び日本テレコム)の国際電気通信に関する営業収益は,平成10年でKDD2547億円,IDC708億円,日本テレコム674億円であり,合併等の特殊要因を除けば各社とも伸び悩んでいる。同年の営業利益については,KDD227億円,IDC27億円に対し日本テレコムは39億円の損失であるが,この数値は年度によるぶれが大きい。また,既存三社の自己資本経常利益率及び総資本営業利益率は,各社とも近年低下傾向にある。
 なお,第二種事業者の国際電気通信に係る年間売上高は,平均5.5億円(回答企業)であり,国内電気通信等を含めた全電気通信事業に係る年間売上高は,平均36,3億円(同)である。
エ 市場における主要事業者とその競争状況等
(ア)  KDD
 既存三社間のシェアで60%超を占めるが,新規事業者には有力な内外の大事業者も存在し,また,今後の通信需要の中心たるデータ伝送及び専用におけるシェアが相対的に小さいことから,他事業者には,KDDとの競争力格差が克服困難な程大きいという認識は少ない。
(イ)  IDC及び日本テレコム
 両者とも既存三社間では20%弱のシェアを獲得しているが,既存事業者としての優位性は,KDDよりさらに小さい。
(ウ)  NTTコミュニケーションズ
 国際電気通信事業への内部補助を懸念する意見が多いが,現時点でNTTコミュニケーションズが競争上著しく優位とはいえない。また,営業委託等NTT地域会社との連携については,公正な競争を阻害するおそれが大きいとして,他事業者等は強く懸念しているが,公正競争を阻害するNTT各社の一体化行為については,NTT法等制度上の歯止めがある。
(エ)  NTTドコモ
 国際電気通信市場におけるシェアはいまだ小さいが,他事業者等は,国際電気通信事業への内部補助や,移動通信市場における支配的シェアを背景にした内外一貫サービスの提供により,競争事業者が排除され,公正な競争が阻害されるおそれがあると懸念している。
オ 外国有力事業者の動向
(ア)  子会社(外資系事業者)による事業活動
 概して,外資系事業者は,相対的に低料金のサービスを提供しており,現時点におけるシェアは依然低水準にとどまってはいるものの,国際電気通信市場の競争を活発化している。
(イ)  国内事業者への資本参加等
 平成11年に入り,AT&T・BT連合の日本テレコムに対する30%の出資,英C&WのIDC経営権取得と,外国資本による我が国の有力事業者に対する参加が相次いだが,これにより,国際電気通信市場における競争が一層活発化することが期待される。
(3)  接続に関する現状
ア NTT地域会社との接続
(ア)  接続の現状
 相互接続点(ZC及びGCの交換機)とユーザーの間の回線の相互接続料金はユーザー約款料金よりかなり低い。しかし,この接続コストは既存三社の通信事業費用の10数%を占めるため,第一種事業者は,交換機に対する自社回線接続を推進し,支払接続料金を節減している。
(イ)  接続料金
 NTTの接続料金は,年々低下しているが,国際第一種事業者は,当該料金は依然高いとして追加的な引下げを求めている。これに対して,NTT地域会社は,現時点で可能な引下げは実施済みとしている。ちなみに郵政省資料によれば,日本の接続料金は,ZC接続相当で欧米主要国の1.3〜3.2倍,GC接続相当で1.3〜2.3倍と相対的に高い。
(ウ)  NTTコミュニケーションズと地域会社の関係
 国際電気通信事業者は,NTT地域会社との相互接続の際の手続期間・要求技術等について,NTTコミュニケーションズと他事業者との同等性が確保されることを強く求めている。これに対し,NTTは,再編基本方針によって再編の趣旨に反する優遇措置は制度上禁止されており,また,接続約款により同等性は確保されているとしている。
イ 接続に関する制度
(ア)  相互接続
 相互接続に関する協定は,直接接続しない者を含む全接続事業者が相互に締結すべきものと,事業者の側からは認識されており,新規のネットワーク展開に多大の労力と日数を要するため,多くの事業者から,直接接続しない事業者との協定締結形態の簡素化要望が出されている。
(イ)  業務委託
 第一種事業者は,認可を受けて業務委託を行い,他事業者の回線を通じてサービスを提供できる。これは,相互接続に比べ,手続及びその所要時間が少ない利点があるが,事業者間契約適正化等の趣旨から,連用上特別な場合に限り,認可されている。これに対し,第一種事業者等からは,業務委託の認可条件の緩和要望が出されている。
(4)  制度に関する現状
 参入・ネットワーク構築に関する制度
(ア)  制度の現状
 第一種事業者と第二種事業者は,兼営が禁止されている等制度上厳格に区分されており,回線調達方法に関しては,前者の他社回線でのサービス提供と後者の自社回線によるサービス提供は,原則として禁止されている。
(イ)  事業展開の観点からの改善要望と対応
 自社回線保有の得失は,通信需要等によりケースバイケースであるため,回線調達方法の制限緩和について,第二種事業者の改善要望が強い。また,第一種事業者以外の者(電力・鉄道事業者等)による第二種事業者への回線貸与は禁止されているが,これについても第二種事業者の要望は多い。また,第一種事業者も,保有回線の効率的利用のために,一時的な回線の貸借等を認めることを強く要望している。ただし,現在も第一種事業者は,業務委託・IRU(破棄し得ない使用権)・相互接続等による柔軟なネットワーク構築が可能であり,郵政省は,これら柔軟化措置に関するマニュアル作成・公表等の周知徹底により問題を解決するとしている。
(ウ)  線路敷設権
 国際電気通信事業者は,広範なネットワークを有する電力・鉄道等の既存インフラ施設に回線を併設することを望んでいる。このための権利が線路敷設権であり,多くの事業者が,当該権利の明確化等による当該インフラ施設の利用促進を求めている。これについては,政府は,関係事業者の自主的な努力を促しており,国内第一種事業者では,これを受けて管路,とう道や電柱の利用条件等を平成11年3月に公表している。
 料金・サービスに関する制度
(ア)  制度の現状
 第一種事業者及び特別第二種事業者の料金は,事前届出制(前者の料金については,変更命令の制度がある。)であり,また,制度上は,原価と無関係の料金設定が可能である。一方,サービス約款については,第一種事業者は原則認可制,特別第二種事業者は事前届出制である。
(イ)  第一種事業者と第二種事業者の規制水準格差
 料金及びサービス約款に関する規制は,事業法上の位置付け及び実態上提供するサービスの公益性の高さの観点から,第一種事業者に対してより厳しくなっているが,第一種事業者からは,第二種事業者と競合して提供するサービスに関する規制水準を,第二種事業者に対するものと同等に緩和すべきとの意見が提示されている。しかしながら,これに対しては,公益性の高いサービスの料金及び約款に関し,変更命令や認可等所要の規制を設けておくべきという有力な反論があり,消費者保護や公正競争確保の観点からもこうした仕組みの必要性は否定できない。加えて,第二種事業者も,有力事業者の料金に関する単純な規制緩和には反対している。
(5)  まとめ
 市場における競争状況に関する評価
 全般的に言えば,国際電気通信市場の現状は,競争的と評価できる。
 ただし,NTTコミュニケーションズについては,NTT地域会社との連携(一体的営業等)に関し他事業者等の懸念が強いことから,制度上は手当てがなされているが,今後の事業活動の実態を注視していく必要がある。また,NTTドコモについては,内外一貫サービスの提供により競合事業者が排除されるおそれについて,他事業者等が特に強く懸念しており,同社端末に係る国際電気通信のシェアはいまだ低水準ではあるが,今後の事業活動の実態を注視していく必要がある。
 接続に関する評価
(ア)  NTT地域会社との接続
 NTT地域会社の接続料金は,地域会社自身の努力や制度の改善,地域網への実質的競争の導入等により,引き続き低下していくことが望ましい。また,接続に関し地域会社が,グループ会社たる長距離国際会社を優遇するおそれに関する他事業者等の懸念も強く,制度上手当てはなされているが,再編後の事業活動の実態を注視していく必要がある。
(イ)  NTTドコモとの接続
 NTTドコモの接続料金については,基本的に当事者間の協定に基づくものであるが,既存三社等にとり同社との接続が事業活動遂行上重要であることから,NTTドコモが既存三社等に著しく不利益となる接続条件を設定する場合には,公正な競争を阻害するおそれがある。
(ウ)  接続に関する制度
 第一種事業者が他事業者と接続する場合には,業務委託による方が迅速な手続が可能であるにもかかわらず,事業者間契約適正化等の趣旨から,原則として相互接続によることとされているが,業務委託の認可を厳正に行えば当該契約適正化は実現可能であり,相互接続と業務委託との選択余地を拡大すること及び相互接続手続の一層の簡素化を行うことが望ましい。
 制度に関する評価
 国際電気通信固有の規制については,全般的に改善されてきていると評価できるが,国内電気通信と共通する規制には,国際電気通信の分野における一層の競争促進を妨げているものもある。
(ア)  制度全般
 技術革新及び市場での競争実態の変化が極めて速いため,規制の内容,対象等について随時の見直しが望ましい。また,今後とも運用の透明化,明確化等に努めることが望ましい。
(イ)  ネットワーク構築に関する制度
 事業活動の自由度を増加させ,競争の一層の活発化を促すためにも,相互接続,業務委託,IRU等の現存する柔軟化措置が認められる範囲の拡大等,回線調達に関する現行規制を一層緩和するとともに,当該緩和内容の明確化と周知徹底を行うことが望ましい。また,線路敷設権の問題については,透明性と手続の迅速性を確保できる制度の創設が望ましい。
(ウ)  料金・サービスに関する制度
 事業者区分(第一種と第二種)による規制区分に一定の合理性は認められるものの,競争政策の観点からは,本来は,サービスの内容及びユーザー数等,当該サービスの性質に基づき規制水準を決定すべきであり,第一種事業者と第二種事業者が競合するサービスについては同等の規制水準とすべきである。なお,公益性の高いサービスの料金及び約款に関しては,消費者保護及び公正競争確保の観点から現在水準の規制は必要であるが,当該規制の対象は,極力サービスの性質に基づき規定されることが望ましい。
 今後の対応
 国際電気通信業においては,近年規制緩和が進められるとともに,内外の事業者による競争が活発化してきている。しかしながら,競争政策上の観点からは,今後とも接続ルール等競争基盤の整備については所要の措置を講ずるとともに,規制を維持すべき事項については,当該規制の制度及び運用の透明化,明確化及び簡素化に努め,他方でそれ以外の事項については,引き続き一層の規制緩和を進め,事業者間の競争を促進することが重要である。
 公正取引委員会としては,以上のような考え方に基づき,規制緩和の進捗状況と国際電気通信の分野における競争実態等について,これまでと同様に十分注視し,仮に独占禁止法に違反する行為が行われた場合には,厳正に対処することとする。