第2部 各論

第1章 独占禁止法制の動き

第1 独占禁止法の改正

1 独占禁止法の一部を改正する法律(大規模会社の株式保有総額の制限の廃止,法人等に対する罰金の上限額の引上げ等)
 最近における経済情勢等にかんがみ,公正かつ自由な競争の促進による国民経済の一層の発展に資するよう,大規模会社の株式保有総額の制限の廃止等,書類の送達規定等についての規定の整備及び法人等に対する罰金の上限額の引上げを内容とする独占禁止法改正法は,平成14年5月22日に成立し,同月29日に公布された(平成14年法律第47号)。施行日は,公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日(書類の送達規定等についての規定の整備及び法人等に対する罰金の上限額の引上げに関しては,公布の日から起算して1月を経過した日)とされた。国会における審議状況及び同法の内容は,次のとおりである。
(1) 国会における審議状況
 上記独占禁止法改正法案は,平成14年3月5日に閣議決定が行われ,同日,第154回国会に提出された。同法案は,衆議院においては,4月9日に本会議で趣旨説明及び質疑が行われ,同日,経済産業委員会に付託された後,同月17日に同委員会で,同月18日に本会議でそれぞれ可決され,参議院に送付された。参議院においては,同月22日に本会議で趣旨説明及び質疑が行われ,同日,経済産業委員会に付託された後,5月21日に同委員会で,同月22日に本会議でそれぞれ可決され,同法案は成立した。
(2) 法律の内容
ア 会社による株式保有の制限に関する改正
(ア)事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立の禁止等(改正法第9条)
 事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の設立等を禁止していたものを,他の国内の会社の株式を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等を禁止することとした。
 また,一定の規模を超える会社は,事業年度ごとに当該会社及びその子会社の事業に関する報告書を公正取引委員会に提出しなければならないこととするとともに,新たに設立された一定の規模を超える会社は,その設立の後にその旨を公正取引委員会に届け出なければならないこととした。
(イ)大規模会社の株式保有総額の制限の廃止(改正法第9条の2)
 資本の額が350億円以上又は純資産の額が1,400億円以上の金融業以外の事業を営む株式会社が,自己の資本の額に相当する額又は純資産の額に相当する額のいずれか多い額を超えて他の国内の会社の株式を取得し,又は所有することを禁止する規定を廃止した。
(ウ)会社の株式保有の制限に係る報告書の提出義務(改正法第10条)
 一定の規模を超える他の会社の総株主の議決権に占める保有する株式に係る議決権の割合が一定の数値を超えることとなる場合において,当該株式に関する報告書を公正取引委員会に提出しなければならない一定の規模を超える会社として金融会社を加えることとし,銀行又は保険会社が非金融会社(銀行又は保険会社その他公正取引委員会規則で定める会社以外の会社をいう。以下同じ。)の株式を保有する場合及び証券会社が業務として株式を保有する場合を除くこととした。
(エ)銀行及び保険会社の議決権保有の制限(改正法第11条)
 金融会社が他の国内の会社の議決権をその総株主の議決権の100分の5(保険会社は100分の10)を超えて保有することを禁止していたものを,銀行又は保険会社が非金融会社の議決権をその総株主の議決権の100分の5(保険会社は100分の10)を超えて保有することを禁止することとした。
 また,銀行又は保険会社に係る議決権保有制限の対象から除外される議決権保有について,次に掲げる場合を加えることとした。
a 非金融会社が利益以外をもってする自己の株式の取得を行ったことにより,その総株主の議決権に占める保有する議決権の割合が増加した場合
b 金銭又は有価証券の信託に係る信託財産として議決権を保有する場合について,委託者若しくは受益者が議決権を行使すること又は議決権の行使について受託者に指図を行うことができる場合以外の場合
c 一定の要件を満たした民法第667条第1項に規定する組合契約によって成立する組合の組合員となり,組合財産として議決権を保有する場合
d 非金融会社の事業活動を拘束するおそれがない場合として公正取引委員会規則で定める場合
イ 書類の送達規定等についての規定の整備及び法人等に対する罰金の上限額の引上げに関する改正
(ア)書類の送達規定の整備(改正法第69条の2,第69条の3,第69条の4等)
 書類の送達について,民事訴訟法第108条,外国における送達)等の規定を新たに準用するとともに,送達を受けるべき者の住所,居所その他送達をすべき場所が知れない場合等において,公正取引委員会が公示送達をすることができることとした。 また,送達すべき書類は,独占禁止法に規定するもののほか,公正取引委員会規則で定めることとした。
(イ)既往の違反行為に対する措置規定の対象行為の追加(改正法第7条,第8条の2等)
 違反行為が既になくなっている場合において,当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる違反行為として,第6条並びに第8条第1項第2号及び第3号の規定に違反する行為を追加することとした。
(ウ)法人等に対する罰金の上限額の引上げ(改正法第95条)
 私的独占,不当な取引制限等の違反について,法人等に対する罰金の上限額を5億円に引き上げることとした。
   
2 商法等の一部を改正する等の法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律による独占禁止法の改正
 いわゆる金庫株の解禁に関し商法等の規定の整備を行うこと等を内容とする商法等の一部を改正する等の法律の施行に伴い,証券取引法その他関係法律の規定を整備するとともに,所要の経過措置を定める必要があるため,商法等の一部を改正する等の法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案が第151回国会に提出された。同法案は,単元株制度の創設等に伴う独占禁止法の所要の改正(親子会社関係の規定の株式から議決権への改正)を含むものであるところ,平成13年6月22日可決・成立した (平成13年法律第80号。平成13年6月29日公布,平成13年10月1日施行)。
3 商法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律による独占禁止法の改正
 種類株式制度の見直し,会社関係書類の電子化等を内容とする商法等の一部を改正する法律の施行に伴い,非訟事件手続法その他の関係法律の規定を整備するとともに,所要の経過措置を定める必要があるため,商法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案が第153回国会に提出された。同法案は,新株予約権制度の新設,種類株式制度の見直しに伴う独占禁止法の所要の改正(第10条第2項の基準,第11条の規制基準の株式から議決権への変更等)を含むものであるところ,平成13年11月21日可決・成立した(平成13年法律第129号。平成13年11月28日公布,平成14年4月1日施行)。

第2 独占禁止法改正に伴う政令の改正

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部改正
 種類株式制度の見直し等を内容とする商法等の改正に伴い,独占禁止法においても,第10条第2項の株式に関する報告書を提出しなければならない会社の範囲を定める基準が株式から議決権に変更されたところ,同項の規定により独占禁止法施行令に委任されている当該範囲を定める複数の数値について,「発行済の株式の総数に占める株式所有会社の取得し,又は所有する株式の数の割合」から,「総株主の議決権に占める株式所有会社の取得し,又は所有する株式に係る議決権の割合」に改正された。(平成13年政令第59号。平成13年3月25日公布,平成14年4月1日施行)。

第3 その他の所管法令の改正

公正取引委員会事務総局組織令の改正
(1) 独占禁止法第11条の規制対象の変更に伴う経済取引局企業結合課の所掌事務の整備を内容とする公正取引委員会事務総局組織令の改正が行われた(平成14年政令第75号。平成14年3月29日日公布,同年4月1日施行)。
(2) 官房に置かれる参事官を廃止し,審査局に審査管理官1人を新設することを内容とする公正委員会事務総局組織令の改正が行われた(平成14年政令第127号。平成14年4月1日公布,同日施行)。

第4 独占禁止法と他の経済法令等の調整

1 法令調整
 当委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。
 平成13年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
○薬事法の一部を改正する法律案
 医薬品・医療機器の分野における科学技術の進展,企業行動の多様化(医薬品等メーカーによる製造委託の増加)等に対応するとともに,規制の国際的整合性を図る等の観点から,厚生労働省は,薬事法の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)新技術に対応した安全確保措置,(2)最近の企業行動に合った規制制度への変更,(3)医療機器のリスクに応じたクラス分類制度の導入等を内容とするものである。
 当委員会は,高リスク医療機器の参入規制,元売業の許可基準,輸入販売の規制.医療機器等の表示規制等に係る規定について,目的に照らして必要最小限の規制とし,特に並行輸入を不当に阻害しないようにとの観点から,所要の調整を行った。
 なお,本法律案は,第154回国会に提出され,平成14年5月22日可決・成立した。
2 行政調整
 当委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について,当該措置等が独占禁止法及び競争政策上の問題を生じないよう,当該行政機関と調整を行うこととしている。   
 総務省は,電気通信事業法に規定する他人の土地等の使用権に関する協議認可・裁定制度の運用基準として機能するものとして,「公益事業者の電柱・管路等使用に関するガイドライン」を策定している。総務省は,超高速インターネットの整備に不可欠な光ファイバ網の整備等を促進する観点から,一束化(電柱を使用する複数の事業者の通信線を,1箇所の共架ポイントに束ねて敷設すること)を円滑に進めること等を内容とした同ガイドライン改正案を検討していたところ,当初の改正案では,一束化を希望する事業者が電柱保有者に対し先行敷設事業者の氏名等を照会した場合であっても,電柱保有者は,先行敷設事業者の承諾を得られない場合は氏名等を通知しなくてもよいこととなっていた。
 当委員会は,電柱・管路等をより開放し,地域通信市場への新規参人の促進を図るとの観点から,総務省に対し,当初案では,先行敷設事業者が氏名等の通知を承認しないことにより,事実上,先行敷設事業者による一束化の拒否を認め得ることとなっていたことから,先行敷設事業者が合理的な理由なく氏名等を通知することについての承諾を拒否してはならない旨の規定を盛り込むべきとの趣旨の意見を述べ,所要の調整を行った。
 このほか地方公共団体の公共入札における地元企業優先発注・地元産品優先使用に係る相談について,独占禁止法及び競争政策の観点から所要の調整を行った。

第5 独占禁止法研究会における検討

1 独占禁止法研究会の開催
 当委員会は,平成9年独占禁止法改正法の附則等に基づき,持株会社規制等の一般集中規制について検討を行う必要があったことから,平成13年2月以降,独占禁止法における一般集中規制の見直し及び手続規定等の見直しについて検討を行うため,「独占禁止法研究会」(座長 宮澤健一 一橋大学名誉教授)を開催した。また,同研究会は,検討内容を一般集中規制部分と手続規定等部分に分け,より専門的かつ集中的な検討を行うため,研究会の下で「一般集中部会」(座長 後藤晃 一橋大学教授)と「手続関係等部会」(座長 根岸哲 神戸大学教授)を開催した。各部会は,これらの課題について検討を行い,手続関係等部会における検討結果については,同年8月3日,「独占禁止法研究会手続関係等部会報告書」として取りまとめられた。また,一般集中部会における検討結果については,同年10月,同研究会に報告された。
 同研究会は,各部会における検討結果等を踏まえて引き続き検討を行い,同年10月31日,「独占禁止法研究会報告書」を取りまとめた。当委員会は,同報告書等を踏まえ,大規模会社の株式保有総額の制限の廃止等,書類の送達規定等についての規定の整備等を内容とする独占禁止法改正法案を取りまとめた。同法案は,第154回国会に提出され,平成14年5月22日に成立し,同月29日に公布された(本章第1参照)。
2 独占禁止法研究会報告書の概要
  独占禁止法研究会報告書の概要は,次のとおりである。
(1) 一般集中規制の検討
 我が国特有の経済実態には変化が認められるものの,現時点では,一般集中規制が担っている機能を市場集中規制等で代替することは難しいと考えられること等から,一般集中規制の趣旨は,現在でも否定されるものではないが,現行の各条文については,見直すべき点があると考えられる。
ア 第9条の検討
(ア)禁止される持株会社の範囲
 事業支配力の過度集中を防止することは必要であること及び現段階でこの定義を変更する必要性は認められないことから,現行第9条で禁止されている持株会社の範囲及び規制の方式は,基本的に維持することが適当であると考えられる。
 しかしながら,「事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の考え方」(平成9年12月。以下「第9条ガイドライン」という。)については,持株会社の状況,経済実態等を踏まえ,「有力な会社」の定義,事業分野間の関連性についての考え方等,第3類型の在り方や第1類型の持株会社グループの規模基準その他の内容について,事業支配力の過度集中を防止するとの第9条の規制趣旨からみて適当なものかどうかという観点から,検討する必要があるものと考えられる。
(イ)今後の在り方
 現行第9条は,これを維持することが適当であるものの,現在の報告・届出の対象範囲については,報告・届出の状況を踏まえつつ,更に検討すべきである。
 また,第9条ガイドラインについては,その内容について検討すべきである。
 さらに,第9条に基づく報告・届出の内容についても,これまでの報告・届出の実態を踏まえ,簡素化を検討すべきである。
イ 第9条の2の検討
(ア)規制方式
 第9条の2は,第9条の規制方式と異なり,自己の資本の額又は純資産額のいずれか多い額(基準額)を超えて他の会社の株式を取得・所有することを禁止するという一律・形式的な基準による規制を課している。
 しかしながら,第9条の2が導入された当時,主に規制対象として念頭に置かれていた総合商社の融資力,輸出入取扱高について,昭和47年度時点と平成11年度時点とで比較してみると,いずれも大幅に低下していること,「系列」取引等の状況も今後変化することが見込まれること等経済実態に変化がみられることから,大規模会社に対して,現行第9条の2のような第9条の持株会社規制とは異なる一律・形式的な基準による規制を課す必要性は低くなってきているものと考えられる。
(イ)今後の在り方
 現行第9条の2は,規制方式として適切でなくなっていると考えられることから,廃止すべきである。
 しかしながら,現行第9条の2のような規制方式を維持する必要性は低くなっているとしても,第9条で規制している持株会社グループと同様の事業支配力が過度に集中することとなる事業会社(非持株会社)グループが形成されることを防止することは必要であると考えられる。すなわち,第9条では,持株会社を頂点とした企業グループ(持株会社グループ)について,その事業支配力が過度に集中することとなる場合を禁止しているが,会社の総資産に対する子会社株式の取得価額の合計の割合が50%以下である非持株会社を頂点としたグループ(事業会社グループ)についても,持株会社グループと同じく,その事業支配力が過度に集中することとなる可能性はあり,その場合は,第9条で規制している持株会社と同じく規制する必要があると考えられる。
 したがって,現行の規制方式を変更し,事業会社(非持株会社)に対しても,事業支配力の過度集中の防止の観点から,第9条と同様の規制を適用することとすべきである。
ウ 第11条の検討
(ア)規制方式
 銀行等の金融会社が株式を保有することに伴い,競争上の問題が発生する可能性は依然として払拭されていないが,問題の中心は,金融会社が事業会社と結び付くことにあることから,金融会社が事業会社の発行済株式の5%(保険会社は10%)を超えて保有することを禁止すれば足りるものと考えられる。
(イ)規制対象
 金融会社を対象とした特別な規制である第11条は維持することが適当であると考えられるものの,第11条の規制趣旨に照らして考えた場合,現行の規制対象範囲(銀行,信託会社,保険会社,無尽会社及び証券会祉)については見直しが必要であり,以下の理由から,信託会社,無尽会社及び証券会社については,第11条の規制対象とする必要性は低くなっているものと考えられる。
a 信託会社については,そのすべてが銀行との兼業となっていること。
b 無尽会社については,現在,物品給付型無尽会社1社が存在するのみであること。
c 証券会社については,その引受業務の持つ金融媒介機能に着目して第11条の規制対象とされているものと考えられるが,証券市場が整備された現在では,証券会社が引受業務により企業に大きな影響を及ぼす可能性は少ないものと考えられ,また,資金量からみても,証券会社は広く資金を募ることはできないため,銀行及び保険会社よりもむしろ一般の事業会社に近い存在といえ,さらに,実態面でみても,証券会社の株式保有は多くないこと。
 他方,保険会社については,豊富な資金力を有しており,事業会社への貸付けを行っていること,依然として大量の株式を保有していること等から,銀行とともに第11条の規制対象とすることが適当であると考えられる。
(ウ)今後の在り方
 現行第11条を改正し,規制対象を銀行及び保険会社に限定するとともに,銀行及び保険会社が事業会社の発行済株式総数の5%(保険会社は10%)を超えて当該事業会社の株式を取得・保有することを禁止する規定とすべきである。
 また,商法上の親会社等の定義の基準が株式数から議決権数に変更されたこと等を踏まえ,会社間の結び付きの度合いを計る基準として,株式数から議決権数へ変更すべきである。
 さらに,他の国内の会社が自己の利益以外をもってする自己の株式の消却を行ったことにより,その発行済株式総数に占める金融会社が所有する株式の割合が増加した場合について,現行第11条第1項第3号と同様に,その保有が1年以下のものは適用除外として追加する方向で検討するとともに,金銭又は有価証券の信託に係る信託財産(受託者が議決権を行使することができる場合)として株式を保有する場合について,公正取引委員会の事前の認可を要しないこととすることが可能かどうか更に検討すべきである。
 なお,金融会社等の範囲(「金融の範囲」)を確定するに当たっては,銀行法及び保険業法との整合性を確保することに留意すべきである。
(2) 手続規定等の検討
ア 排除措置関係手続の検討
(ア)既往の違反行為に対する排除措置規定の対象行為の追加
 違反行為が既になくなっている場合に,違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命じることができるのは,第3条違反行為や第19条違反行為等に限定されており,次の違反行為については,同様の排除措置を命じることができない。
a 第6条違反行為(不当な取引制限・不公正な取引方法を内容とする国際的協定・契約)
b 第8条第1項第2号違反行為(事業者団体による不当な取引制限・不公正な取引方法を内容とする国際的協定・契約)
c 第8条第1項第3号違反行為(事業者団体による事業者の数の制限)
 第6条違反行為・第8条第1項第2号違反行為については,協定・契約がなくなった場合でも,取引先等に対する周知,将来の同様の行為の不作為等を命じ得るようにする必要があることから,違反行為が既になくなっている場合に違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命じることができるようにすることが適当であると考えられる。
 また,第8条第1項第3号違反行為についても,潜在的参入者等に対する周知,将来の同様の行為の不作為等を命じ得るようにする必要があり,違反行為が既になくなっている場合に違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命じることができるようにすることが適当であると考えられる。
(イ)既往の違反行為に対する措置期限の延長
 措置期限を現行制度(違反行為がなくなった日から1年)以上に延長することは,措置を命じられる者の予見可能性やその地位の法的安定性の観点からみて問題があると考えられ,既往の違反行為に対する措置期限については,現時点においては,延長する必要性はないものと考えられる。
イ 課徴金賦課手続の検討
(ア)課徴金対象行為の範囲
 私的独占等を課徴金の対象とすることについては,独占禁止法違反行為に対する執行力・抑止力を一層強化する観点から,独占禁止法違反行為に対して採られる措置の体系について見直すことを検討する際に,併せて課徴金対象行為の範囲について検討することが適当であり,公正取引委員会において,早急に措置体系の見直しの検討に着手すべきである。
(イ)審判手続の開始による課徴金納付命令の失効
 
 課徴金納付命令は,排除措置手続における勧告と異なり,それ自体が行政処分であること等から,課徴金納付命令に対する審判手続が開始されても,当該課徴金納付命令が失効せず,その効力に影響しないものとすることが可能であると考えられるが,簡易な手続と位置付けられている課徴金納付命令の制度設計を踏まえると,課徴金納付命令を審決と同様の行政処分として取り扱うことが適切かどうか疑問があるとの意見もある。
ウ 告発関係手続の検討
 現時点においては,独占禁止法違反の罪を他法令違反の罪と異なるものとして取り扱う合理的な理由は存在せず,独占禁止法上の告発関係手続について,基本的には,他法令と同様の手続に整備することが適当であるとの考え方がある。
 しかしながら,現行の告発手続において意図されている公正取引委員会の告発に重みを持たせることの必要性の有無について判断することは慎重であるべきとの考え方もあり,この点にも留意しながら,公正取引委員会において,告発手続の整備について,引き続き,検討することが適当である。
 また,公正取引委員会に犯則調査権限を付与することについては,独占禁止法違反行為に対する執行力・抑止力を一層強化する観点から,違反行為者に対して採られるべき措置の体系について見直すことを検討する際に,併せて検討すべき課題であり,公正取引委員会において,早急に措置体系の見直しの検討に着手すべきである。
エ 事件関係処理手続等
(ア)在外者に対する書類の送達手続の検討
 書類の送達について定めた独占禁止法第69条の2は,民事訴訟法の送達規定のうち,在外者に対する書類の送達に関する民事訴訟法第108条(外国における送達)等の規定を準用していないため,外国に所在する事業者等に対して,独占禁止法上の書類を送達することはできないと解されている。
 経済のグローバル化に伴い,今後とも国際的な独占禁止法違反事件が増えるものと考えられ,独占禁止法上の書類について,在外者への送達方法を整備することが適当であると考えられる。この場合,民事訴訟法の例に倣い,外国における送達を整備することが望ましいが,それによる送達を実効あるものとするための条約等がなく,直ちには実施が困難なことから,例外的な送達方法として公示送達を併せて整備することが適当であると考えられる。しかし,公示送達により送達できる書類の範囲について,各書類の性格や送達を行う必要性を踏まえ,公正取引委員会において,更に検討が必要である。
 また,書類の送達は,あくまで相手方に直接行うことが原則であり,独占禁止法違反行為の排除という目的を達成するためには,外国に所在する相手方に対して,公正取引委員会の調査への協力を求めるよう努力するなど送達方法の工夫を図ることが重要であると考えられる。
(イ)違反行為の事案解明に積極的に貢献した違反行為者への制裁減免制度
 制裁減免制度の導入については,独占禁止法違反行為に対する執行力・抑止力を一層強化する観点から,違反行為者に対して採られるべき措置の体系について見直すことを検討する際に併せて検討すべき課題であり,公正取引委員会において,早急に措置体系の見直しの検討に着手すべきである。
(ウ)検査妨害等に対する罰則の強化
 公正取引委員会の調査活動の実効性を確保する観点からは,他法令における同様の罰則の上限や独占禁止法に係る刑事罰体系との関係も踏まえながら,公正取引委員会の検査妨害等に対する罰則の強化を図ることが適当であると考えられる。また,独占禁止法に係る刑事罰体系を見直す場合には,不当な取引制限等違反の罪に対して法人等に科される罰金の上限額(1億円)について,他の経済法令における罰金の上限額(5億円[証券取引法等]等)と均衡を失していることに留意する必要がある。
(エ)審決の取消し・変更の要件
 適用事例が少ないことから,審決の取消し・変更の要件が,過重なものとなっているかどうかは,明らかではない。したがって,今後の事例の蓄積を待って,具体的弊害が明らかになった時点で改めて検討することが適当であると考えられる。