第14章 消費者取引に関する業務

第1 概説

 近年,消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化など,消費者を取り巻く経済社会情勢は大きく変化してきており,また,規制緩和の進展に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確保していくことが重要な課題となっている。このことから,当委員会は,独占禁止法や景品表示法を厳正に運用し,違反事件の排除に努めるほか,消費者の関心の高い商品や電子商取引などの新しい分野における市場調査を積極的に行うことにより,公正かつ自由な競争を促進し,消費者取引の適正化に努めている。

第2 消費者取引の適正化への取組

1 消費者取引問題への取組について
 消費者が市場における経済活動の主体として能動的な役割を果たすためには、事業者の競争的環境を確保することに加え,消費者が商品及びサービスの適切な選択を行うことが可能な意思決定環境を整備・確保していくことの必要性が一層高まっている。
 このような状況を背景として,「21世紀にふさわしい競争政策を考える懇談会」提言者において消費者政策の積極的な推進について提言があったことを踏まえ,公正取引委員会は競争政策の観点から消費者取引問題に積極的に取り組むために,有識者から成る「消費者取引問題研究会」(座長 落合誠一 東京大学大学院教授)を開催し,次のような事項について検討している。
(1) 競争政策と消費者政策の関係
(2) 消費者による適正な選択の確保の実現のための対応
(3) 実効性ある排除措置・有効な消費者支援措置等
同研究会は、平成13年11月からおおむね月1回程度開催しており,平成14年秋を目途に報告書を取りまとめる予定である。
2 飲用海洋深層水の表示について
 近年,海洋深層水を原料とする商品(飲料水,塩,化粧品等)が多岐にわたって販売され,これら商品の市場規模は,消費者の健康志向を受けて拡大しているところ,消費者からはこれらの商品に関する表示が分かりにくい等の情報が寄せられていたため,これらの商品のうち、比較的市場に多く流通している飲用海洋深層水について,表示の状況を調査し,消費者取引の適正化を図る観点から,表示上の問題点と留意事項を整理し,平成13年12月公表した。

第3 消費者向け電子商取引への対応

 当委員会は,一般家庭におけるインターネットの急速な普及とともに拡大しつつある消費用向け電子商取引(以下「BtoC取組」という。)について,健全な発展と消費者取引の適正化を図るとの観点から,次のような取組を行った。
1 「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」の策定・公表(平成13年4月26日)
 当委員会は,インターネット・ホームページ上で消費者に対する懸賞企画が広く行われるようになってきている状況にかんがみ,インターネットホームページ上で行われる景品提供企画について,景品表示法の規制対象となるかを明確化した。
(1) ホームページ上で実施される懸賞企画は,懸賞の告知や応募の受付が商取引サイト上にあるなど,懸賞に応募する者が商取引サイトを見ることを前提としているサイト構造のホームページ上で実施されるものであっても,消費者はホームページ内のサイト間を自由に移動できることから,取引に付随する経済上の利益の提供に該当せず,景品表示法の規制の対象とならない,(オープン懸賞として取り扱われる。)。
 ただし,商取引サイトにおいて商品やサービスを購入しなければ懸賞に応募できない場合,購入することで景品の提供を受けることが容易になる場合等は,取引付随性が認められることから,景品表示法に基づく規制の対象となる。
(2) インターネット・サービス・プロバイダー,電話会社などインターネットに接続するために必要な接続サービスを提供する事業者が開設しているホームページで行う懸賞企画は,懸賞に応募できる者を自己が提供する接続サービスの利用者に限定しない限り取引付随性が認められず,景品表示法の規制の対象とならない(オープン懸賞として取り扱われる。)。
2 インターネット・サーフ・デイの実施
 BtoC取引においては,事業者は,商品・サービスの内容や取引条件などについてのウェブページ上の表示内容を簡単に変更することができる。また,事業者は,初期投資が少なくて済むことから,参入・撤退が容易かつ迅速にできるという特徴がある。さらに,BtoC取引で行われる広告表示は,市場の急速な拡大によって多様化していくものと予想される。
 このような多数の事業者による変化の激しい表示について有効かつ迅速に規制していくことは特に重要であるため,BtoC取引における表示についての定期的かつ集中的な監視調査(インターネット・サーフ・デイ)を行い,問題のある表示がみられた場合には,啓発メールを送って表示の見直しを求めることが有効である。同時に,インターネット・サーフ・デイの結果を広く一般に周知することにより,問題表示の見直しを間接的に促していくことも効果的である。
 当委員会は,平成13年度において,BtoC取引における表示について,商品等を特定して,3回のインターネット・サーフ・デイを実施し(1,061サイトを点検),その結果,不当表示につながるおそれのある108サイトの管理者に対し,景品表示法の遵守を求める啓発メールを送信した。
 なお,インターネットで生じる問題は,国内にとどまるものではないことから,OECD加盟国の消費者行政機関が参加して構築されているIMSN(International Marketing Supervision Network:国際的市場取引監視機構)が実施するインターナショナル・インターネット・サーフ・デイに参加するなど諸外国の関係当局との連携を深めていくこととしており,平成13年度においては,平成14年2月に実施したインターナショナル・インターネット・サーフ・デイに参加した。
3 消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」(原案)の公表
 当委員会は,平成14年3月,これまで実施してきたインターネット・サーフ・デイの調査結果,最近のBtoC取引をめぐる環境の変化,インターネットに関する苦情・相談の傾向等を分析したところ,様々な表示上の問題が顕在化している状況がみられたことを踏まえ,BtoC取引の健全な発展と消費者取引の適正化を図るとの観点から,BtoC取引における表示について景品表示法上の問題点,問題となる事例及び表示上の留意事項を整理し,その原案を公表した。
 本原案の概要は以下のとおりである。
(1) インターネットを直接介して行われる商品・サービスの取引における表示
ア 商品・サービスの内容又は取引条件に係る表示について
(ア)景品表示法上の問題点
BtoC取引には,商品選択等における消費者の誤認を招き,その結果,消費者被害が拡大しやすいという特徴があることから,商品選択上の重要な情報が消費者に適切に提供される必要がある。
(イ)表示上の留意事項
a 商品・サービスの効能・効果を標榜する場合には,十分な根拠なく効能・効果があるかのように一般消費者に誤認される表示を行ってはならない。
b 販売価格,送料,返品の可否・条件等の取引条件については,その具体的内容を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
イ 表示方法について
(ア)景品表示法上の問題点
a リンク先に商品選択上の重要な情報を表示する場合,例えば,リンク先に移動するためにクリックする色文字や下線付き文字(ハイパーリンクの文字列)が明瞭に表示されていなければ,消費者はこれを見落とし,商品選択上の重要な情報を得ることができないという問題がある。    
b ウェブページ上の表示内容を簡単に変更できることから,情報の更新日が表示されていなければ,表示内容がいつの時点のものであるのかが分かりづらいという問題がある。   
(イ)表示上の留意事項
a ハイパーリンクの文字列について  
(a)消費者がクリックする必要性を認識できるようにするため,リンク先に何が表示されているのかが明確に分かる具体的な表現を用いる必要がある。     
(b)消費者が見落とさないようにするため,文字の大きさ,配色などに配慮し,明瞭に表示する必要がある。     
(c)消費者が見落とさないようにするため,関連情報の近くに配置する必要がある。
b 情報の更新日について
表示内容を変更した都度,最新の更新時点を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
(2) オンライン情報提供サービスの取引における表示
ア 景品表示法上の問題点
 オンライン情報提供サービスについては,インターネット上で取引が完結することから,特に,有料か無料かについての情報,長期契約における決済などの取引条件についての情報,商品の購入手段であるダウンロード方法に係る情報等が消費者に適切に提供される必要がある。  
イ 表示上の留意事項
a オンライン情報提供サービスの利用料金が掛かる場合には,有料である旨を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
b 毎月料金を徴収するなどの長期契約である場合には,その旨を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
c ソフトウェアを利用する上で必要なOSの種類,CPUの種類,メモリの容量,ハードディスクの容量等の動作環境について,正確かつ明瞭に表示する必要がある。
(3) インターネット接続サービスの取引における表示
ア 景品表示法上の問題点
 DSL,ケーブルインターネット等のブロードバンド通信を可能とするインターネット接続サービスの商品選択上の重要な情報は,通信速度,サービス提供開始時期,サービス料金等であり,これらについての情報が消費者に適切に提供される必要がある。  
イ 表示上の留意事項
a ブロードバンド通信の通信速度については,通信設備の状況や他回線からの干渉等によっては速度が低下する場合がある旨を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
b サービス提供開始時間について,回線の接続工事等の遅れにより表示された時期までにサービスの提供を開始することができないおそれがある場合には,その旨を正確かつ明瞭に表示する必要がある。    
c サービス料金の比較表示に当たっては,社会通念上同等の通信速度として認識されているものと比較して行う必要がある。    

第4 消費者モニター制度

1 概要
 消費者モニター制度は,独占禁止法や景品表示法の施行その他当委員会の消費者保護の諸施策の的確な運用に資するため,当委員会の依頼する特定の事項の調査,違反被疑事実の報告,消費者としての体験,見聞等の報告その他当委員会の業務に協力を求めるもので,昭和39年度から実施されている。
 平成13年度は 関東甲信越地区315名,北海道地区60名,東北地区90名,中部地区115名,近畿地区170名,中国地区76名,四国地区50名,九州地区106名,沖縄地区18名,合計1,000名を消費者モニターに選定し委嘱した。平成13年度の消費者モニターの応募総数は14,180名,応募倍率は約14.2倍であった。
 平成13年度においては,2回のアンケート調査を実施し,消費者モニターの意見を聴取した。また,特定の商品についての価格調査を実施し,当該商品の全国における小売価格の実態を把握した。さらに,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,意見等を求めたほか,表示連絡会,試買検査会等への代表者の参加により,一般消費者としての意見を求めた。
2 活動状況
(1) アンケート調査
 平成13年度におけるアンケート調査の概要は,次のとおりである。
ア 海洋深層水の表示に関する実態調査
 海洋深層水に関する消費者の意識を把握するため,その実態について調査を行った。
イ 100円ショップにおける表示に関する実態調査
 100円ショップに関する消費者の意識を把握するため,その実態について調査を行った。
(2) 価格調査
 独占禁止法第19条(一般指定12項第1号)違反で勧告審決を受けた事業者の商品について,再度,違反行為が行われていないかどうか,当該商品の小売価格の実態について調査を行った。
(3) 自由通信
 消費者モニターは,上記アンケート調査のほか,自由通信という形で,随時、当委員会に対し,自由に意見及び情報を提供している。これは,(1)独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の通報,(2)景品表示法に基づいて設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,(3)その他一般的な意見の提供等を行うものであり,平成13年度は合計3,540件の自由通信が寄せられた(第1表)。
(4) 各種会合等への参加
 当委員会は,景品表示法に基づく規約の認定に当たり,各方面の意見を聴取するために開催する公聴会,表示連絡会等において,消費者モニターに出席を求め,一般消費者としての立場からの意見を求めている。
 平成13年度は,低アルコール飲科(リキュール類)の表示に関する意見交換会をはじめ,表示連絡会4件,試買検査会15件の会合に消費者モニターが出席した(第2表)。
第1表 消費者モニター通信状況

第2表 表示連絡会,試買検査会出席状況