第2 審判審決

1 平成10年(判)第1号株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントに対する審決


(1) 被審人


(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が,株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下「SCE」という。)に対し,独占禁止法第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,SCEがこれを応諾しなかったので,同法第49条第1項の規定に基づき,SCEに対し審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 担当審判官の作成した審決案に対しSCEが異議の申立てをしたので,当委員会は,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
(3) 認定した事実の概要及び判断の概要
ア 事実の概要
 SCEは,プレイステーションと称する家庭用テレビゲーム機(以下「PSハード」という。),PSハード用ソフトウェア(以下「PSソフト」という。)及びPSハード用周辺機器(以下PSハード,PSソフト及びPSハード用周辺機器を併せて「PS製品」という。)の販売に当たり,平成6年6月ころまでに,直接小売業者と取引し,これら小売業者が一般消費者に販売するという「直取引」を基本とし,取扱店舗を限定するなどの流通政策を具体化するとともに,PS製品の流通を委ねる小売業者及び卸売業者との関係で,「(PSソフトの)値引き販売禁止」「(PSソフトの)中古品取扱い禁止」及び「(PS製品の)横流し禁止」の三つの販売方針を採用し,小売業者及び卸売業者に対し,この三つの販売方針を遵守するよう要請し,要請を受け入れた業者とのみPS製品の取引を行うこととし,平成6年9月中旬以降,前記販売方針を受け入れた業者と順次特約店契約を締結した。
イ 主要な争点
(ア)SCEが,PS製品の販売に当たり,三つの販売方針を採用し,同販売方針の受入れを特約店契約締結の条件としたかどうか。
(イ)三つの販売方針のうち,値引き販売禁止行為は,既に消滅しているか。
(ウ)三つの販売方針はそれぞれ独立したものか,相互に関連したものか,また,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の公正競争阻害性をどのように判断するのか。
ウ 争点に対する判断の概要
(ア)SCEは,平成6年6月ころまでに,PS製品の流通をゆだねる販売業者との関係で,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の三つの販売方針を採ることを決定し,これらの販売方針を受け入れた販売業者とのみPS製品の取引を行うこととしたものと認められた。
(イ)SCEによる値引き販売禁止の拘束行為は,平成9年11月ころには消滅したものと認められた。
(ウ)SCEの値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の三つの販売方針は,SCEのPS製品,なかんずくPSソフトの直取引を基本とする流通政策の一環として,これを実現させるために関連した一体的なものとして決定され実施されたものと認められる。中古品取扱い禁止行為は,新品PSソフトの再販売価格の拘束行為の実効的な実施に寄与し,同行為を補強するものとして機能していると認められ,したがって,本件中古品取扱い禁止行為は,その点において再販売価格の拘束行為に包含され,同行為全体として公正競争阻害性を有するものと認められる。SCEのPS製品の流通政策の一環としての横流し禁止の販売方針は,それ自体,取扱い小売業者に対してPSソフトの値引き販売を禁止する上での前提ないしはその実効確保措置として機能する閉鎖的流通経路を構築するという側面及び閉鎖的流通経路外の販売業者へのPS製品の流出を防止することにより外からの競争要因を排除するという側面の両面において,PSソフトの販売段階での競争が行われないようにする効果を有しているものである。SCEによるPSソフトの値引き販売禁止行為が平成9年11月ころに消滅したことによって,横流し禁止行為の公正競争阻害性の根拠のうち,閉鎖的流通経路内での値引き販売禁止の前提ないし実効確保としての意味が失われたとしても,閉鎖的流通経路外へのPS製品流出を防止し,外からの競争要因を排除する効果が直ちに失われるものではないから,PSソフトの販売段階での競争を制限するPSソフトの横流し禁止には,現時点でも公正競争阻該性が認められる。
(4) 法令の適用
SCEが,PSソフトの販売に関し,自ら又は取引先小売業者を通じて,
ア 新たに発売されたPSソフトについて,小売業者に対し,原則として希望小売価格で販売するようにさせ,卸売業者に対し,取引先小売業者に原則として希望小売価格で販売させるようにしていた
イ 小売業者に対し,PSソフトを一般消費者のみに販売するようにさせ,卸売業者に対し,PSソフトを小売業者のみに販売するとともに取引先小売業者に一般消費者のみに販売させるようにしている
行為は,独占禁止法第19条の規定(ア)は不公正な取引方法第12項第1号及び第2号[再販売価格の拘束]に該当),イは同第13項[拘束条件付取引]に該当)に違反する。
(5) 命じた措置
ア SCEは,PSソフトの販売に関し,自ら又は取引先小売業者を通じて新たに発売されたPSソフトについて,小売業者に対し,原則として希望小売価格で販売するようにさせ,卸売業者に対し,取引先小売業者に原則として希望小売価格で販売させるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければならない。
イ SCEは,PSソフトの販売に関し,自ら又は取引先小売業者を通じて,小売業者に対し,PSソフトを一般消費者のみに販売するようにさせ,卸売業者に対し,PSソフトを小売業者のみに販売するとともに取引先小売業者に一般消費者のみに販売させるようにしている行為を取りやめるとともに,取引先小売業者及び卸売業者との間で締結している特約店契約中の関係条項を削除しなければならない。
ウ SCEは,前2項に基づいて採った措置を,被審人の営業・販売企画担当の役員及び従業員,取引先小売業者及び卸売業者,取引先卸売業者の取引先である小売業者並びに一般消費者に周知徹底しなければならない。
エ SCEは,今後,第1項の行為と同様の行為により小売業者の販売価格を制限し,又は第2項の行為と同様の行為により取引先若しくは卸売業者の事業活動を制限してはならない。
2 平成11年(判)第1号更生会社株式会社カンキョー管財人大澤誠に対する審決


(1) 被 審 人


(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が更生会社株式会社カンキョー管財人村瀬統一及び大澤誠(以下「カンキョー」という。)に対し景品表示法第6条第1項の規定に基づき排除命令を行ったところ,カンキョーがこれを不服として審判手続の開始の請求を行ったので,同社に対し同法第8条第2項の規定に基づき,審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 担当審判官の作成した審決案に対し,カンキョーが異議の申立てをするとともに独占禁止法第53条の2の2の規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,当委員会は,平成13年7月31日にカンキョーから陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った(更生会社株式会社カンキョー管財人村瀬統一は,会社更生計画が認可されたことに伴い,平成13年7月3日,管財人を辞任した。なお,本件については,平成13年10月12日に審決取消しを求める訴えが提起され,平成13年度末現在,東京高等裁判所に係属中である[本草第5参照]。)。
(3) 認定した事実の概要及び判断の概要
ア 事実の概要
 カンキョーは,「クリアベールCR」等と称する家庭用空気清浄機(以下「本件空気清浄機」という。)の販売を行うため,平成10年1月から同年10月までの間に配布した店頭配布用パンフレット及び同年1月30日付け毎日新聞に掲載した広告において,本件空気清浄機について,「クリアべールは電子の力で花粉を強力に捕集するだけでなく,ダニの死骸・カビの胞子・ウイルスなどにも有効な頼もしい味方です。」「有害微粒子を集塵」,「フィルター式では集塵が難しい微細なウイルスやバクテリア・カビの胞子,ダニの死骸の砕片までもホコリと一緒に捕集します。」, 「●適用範囲/最大14畳まで」等と記載し,本件空気清浄機が,あたかも,(1)他のフィルタ一式空気清浄機よりも集塵能力が高く,また,(2)室内の空気中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力を有しているかのような表示をした。
イ 主要な争点
(ア)カンキョーが行った本件空気清浄機の集塵能力等に関する表示は,景品表示法にいう不当表示に当たるか。
(イ)排除命令及びこれに先立つ手続の瑕疵の存否は,審判手続における審判の対象となるか。
ウ 争点に対する判断の概要
(ア)本件空気清浄機の性能に係る表示についての判断
a 前記アの表示は,本件空気清浄機が他のフィルタ一式空気清浄機よりも集塵能力が高く,また,室内の空気中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力を有していることを表示したものであると認められる。
b 審査官が証拠として提出した実験結果等によれば,本件空気清浄機は,フィルタ一式空気清浄機よりも,様々な粒径の粉塵について集塵能力が低いものであり,また,空気中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力を有するものではないことが認められる。
 これに対し,被審人らが援用する実験結果は,本件空気清浄機が,ウイルスあるいは微粒子を定性的な意味において捕集することができることを確認したに過ぎないものであり,また,被審人らの援用に係る医療機関の使用実績は,本件空気清浄機がフィルタ一式空気清浄機よりも集塵能力が高いことを示すものではない。
c 前記アの表示は,本件空気清浄機がフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高いかのように記載しているが,実際には,フィルタ一式空気清浄機よりも集塵能力が低いものであり,カンキョーと競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示であり,また,室内の空気中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力を有しているかのように記載しているが,実際には,そのような能力を有していないものであり,実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示であるというべきである。
(イ)本件審判に係る手続上の違法性の有無についての判断
a 本件審判の対象は排除命令に係る行為の存否であり,排除命令及びこれに先立つ手続の瑕疵の存否につき,審判手続における審判の対象とすべき余地はない。
b 被審人らは,本件排除命令の根拠となる実験データが審判開始後に開示されたことについて,排除命令に瑕疵があると主張するが,審判開始後に,被審人らは本件審判開始決定に係る根拠データに接することができており,被審人らが主張するような排除命令の瑕疵は認められない。
c 公正取引委員会は,同様の不当表示を行っていたティアック株式会社にも排除命令を行っており,差別的意図をもってカンキョーに対してのみ排除命令をなしたものと認めることはできない。
d 被審人らは,本件排除命令と併せて行われた警告について審判が行われなかったことについて本件審判手続の瑕疵を主張するが,審判手続における審判の対象は,審判開始決定書により特定される具体的に他と区別された一体的な事実(違反事実)であり,本件審判開始決定の対象とされた違反事実は本件排除命令に係る事実に限られ,本件と併せて行われた警告に係る事実は審理の対象とはならない。
(4) 法令の適用
 カンキョーは,同社が製造販売している本件空気清浄機の性能・効果について,実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるため,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示をしていたものであって,これは景品表示法第4条第1号の規定に違反するものである。
(5) 命じた措置
ア カンキョーは,前記(3)ア(ア)の表示が,事実と異なるものであり,カンキョーと競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示であり,また,(3)ア(イ)の表示は,事実と異なるものであり,実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示である旨を速やかに公示しなければならない。
イ カンキョーは,今後,本件空気清浄機及びこれらと同一の構造・特性を有する家庭用空気清浄機の取引に関して広告をするとき,前記(3)ア(ア)及び(イ)は同様の表示をすることにより,その性能について,実際のもの又はカンキョ一と競争関係にある地の事業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない。
ウ カンキョーは,今後1年間,本件空気清浄機の取引に関して広告をしたときは,直ちに公正取引委員会にその広告物を提出しなければならない。
3 平成12年(判)第1号安藤造園土木株式会社ほか13社に対する審決


(1) 被 審 人




(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が安藤造園土木株式会社ほか13社及び緑化建設愛廣園株式会社(以下「14社及び緑化建設愛廣園」という。)に対し独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,14社及び緑化建設愛廣園はこれを応諾しなかったので,14社及び緑化建設愛廣園に対し同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 なお,緑化建設愛廣園については,審判開始決定後に破産宣告を受け事業活動を停止したこと等を考慮して,平成12年10月11日,審判手続を打ち切った。
 担当審判官の作成した審決案に対し14社が異議の申立てをしたので,当委員会は,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った(なお,本件については,12社について平成13年10月9日に審決取消しを求める訴えが提起され,平成13年度末現在,東京高等裁判所に係属中である[本章第4参照]。)。
(3) 認定した事実の概要及び判断の概要
ア 事実の概要
 14社及び緑化建設愛廣園は,福岡市の区域において造園工事業を営む者である。
 14社及び緑化建設愛廣園は,遅くとも平成9年7月31日以降(福岡造園株式会社及び株式会社別府梢風園にあっては,平成9年9月24日ころ以降),福岡市が指名競争入札の方法により発注する大規模な造園工事(合併入札により発注される工事を含み,落札金額が1億円以上と想定される工事)について,受注予定者を定め,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力する旨の合意の下で,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
イ 主要な争点
(ア)14社及び緑化建設愛廣園の間で福岡市発注の落札金額が1億円以上の工事について受注調整の合意が存在したか。
(イ)福岡市発注の落札金額が1億円以上の工事について一定の取引分野が成立するか。
ウ 争点に対する判断
(ア)14社及び緑化建設愛廣園の間の合意の存在について
(1)福岡市発注の造園工事について,入札に参加する造園工事業者間では,かねてから,社団法人福岡市造園建設業協会(以下「市造協」という。)を通じて物件のランク(超特A,特A,A,Bなど)ごとに同工事の受注に関して話合いが行われ,相互の協力が行われてきたこと,(2)福岡市発注の造園工事について,本件対象期間においても,市造協の会員である造園工事業者間で.受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力しており,それが定められた各物件のランクごとに行われていたものと認識されていたこと,(3)福岡市が指名競争入札の方法により発注する大規模な造園工事(合併入札により発注される工事を含み,落札金額が1億円以上と想定される工事。以下,「福岡市発注の特定造園工事」という。)については,本件対象期間において,市造協に属する超特Aランクの造園工事業者だけが受注できることとされており,本件対象期間において,14社及び緑化建設愛廣園が,市造協の運営委員が決定した超特Aランクの造園工事業者を受注予定者として受け入れ,受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注できるように協力していたことから,14社及び緑化建設愛廣園の間に,遅くとも平成9年7月31日以降(福岡造園株式会社及び株式会社別府梢風園にあっては,平成9年9月24日ころ以降,福岡市発注の特定造園工事について受注予定者を定め,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力する旨の合意が成立したものと認められる。
(イ)一定の取引分野の成立について
 本件においては,福岡市発注の特定造園工事につき,供給者は,福岡市の区域において造園工事業を営む者であるが,超特Aランクの工事については,同ランクに属する業者だけが受注することができることとされており,本件行為が行われた時期にあっては,福岡市発注の特定造園工事については,14社及び緑化建設愛廣園の
みが供給者となり得る状況にあったこと,一方,需要者は.福岡市であるところ,発注予定価格が1億円以上の大規模造園工事については,主として,大手の古参の造園工事業者が指名されてきており,遅くとも平成6年以降についてみれば,主として被審人ら及び緑化建設愛廣園が指名されてきていたこと,という状況の下では,福岡市発注の特定造園工事について,一定の取引分野の成立を認めることができる。
(ウ)本件対象期間における「運営委員」あるいは「世話方」等と称されている者(以下「運営委員」という。)による受注予定者の選定方法について
証拠を総合すると,運営委員が,原則として,優先順位表記載の優先順位により受注予定者を選定していたが,同表記載の優先順位による受注予定者の順番が回ってきた業者が当該物件の指名を受けなかった場合は.指名を受けた次の優先順位の者を受注予定者とし,指名を受けなかった者は,次に指名を受けた時に受注予定者に選定する,本件対象期間の途中で起特Aランクの業者となった業者を,超特Aランクの業者となった時点で,同表記載の優先順位に優先して受注予定者に選定する,との方法で受注予定者の決定を行っていたものと認めることができる。
(4) 法令の適用
 14社は,緑化建設愛廣園と共同して,福岡市発注の特定造園工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,福岡市発注の特定造園工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法第3条の規定に違反する。
(5) 命じた主な措置
ア 14社は,福岡市発注の特定造園工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければならない。
イ 14社は,次の事項を福岡市に通知しなければならない。
(1) 前記アに基づいて採った措置
(2) 今後,福岡市発注の特定造園工事について,共同して受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
ウ 14社は,今後,それぞれ,相互に又は他の事業者と共同して,福岡市が競争入札の方法により発注する造園工事について,受注予定者を決定してはならない。
4 平成11年(判)第6号国際地質株式会社に対する審決


(1) 被 審 人

(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が,国際地質株式会社(以下「国際地質」という。)に対し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,国際地質はこれを応諾しなかったので,国際地質に対し同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 担当審判官の作成した審決案に対し,国際地質が異議の申立てをするとともに,独占禁止法第53条の2の2の規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,当委員会は,平成13年8月23日に国際地質から陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った(なお,本件については,平成13年10月19日に審決取消しを求める訴えが提起され,平成13年度末現在,東京高等裁判所に係属中である[本章第4参照]。)。
(3) 認定した事案の概要及び判断の概要
ア 事実の概要
 千葉市の区域において地質調査業を営む国際地質は,他の26社と共同して,遅くとも平成7年4月1日以降(国際地質にあっては同年11月16日以降),千葉市及び同水道局(以下「千葉市等」という。)が指名競争入札又は見積り合わせ(以下「指名競争入札等」という。)の方法により発注する地質調査業務(市内業者のみが指名業者として選定される業務に限る。以下「千葉市等発注の市内業者向け特定地質調査業務という。)について,受注機会の均等化及び受注価格の低落防止を図るため,受注予定者を定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるようにしていた。
イ 主な争点
 被審人が上記合意に基づく受注調整に参加していたか否か及びそれを立証する証拠があるか否か。
ウ 争点に対する判断
(ア)国際地質の代表者は,遅くとも平成7年11月16日においては,本件合意の内容を知っていたものと認められる。
(イ)証拠によれば,国際地質が相指名業者とともに,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるように協力していたこと,相指名業者は,国際地質が他の同業者と同様に本件合意に基づく受注調整を実施していたと認識していたことが認められる。そして,国際地質が受注調整行為から離脱した,又は受注調整行為と相容れない行動を採ったことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ)国際地質は,本件合意が千葉県の地質調査業者の団体のルールであると主張するが,本件合意の内容を知った上で,他の相指名業者とともに,本件合意による受注調整行為を行っていたことが認められる以上,本件合意と前記団体とのかかわりがどのようなものであろうと,国際地質は,本件合意に参加していたものと認めることができる。また,国際地質が落札した物件の多くは他の相指名業者からの押付けの結果であると主張するが,自己が受注予定者であることを前提に,相指名業者の協力の下に受注したのであり,自己の意思により本件合意に参加していたものと認められる。
(エ)審査官提出の相指名業者の供述調書の内容には,具体的な受注調整の態様などの点について,あいまいな箇所や相矛盾する箇所が散見されるが,審判官は,これら供述証拠の信用性に十分配慮した上で,事実認定を行っている。さらに,国際地質の代表者の供述調書についても,審査官が代表者の意に反して,その供述内容と異なる事実を記載したものとは認められない。
(オ)証拠上,本件行為は終了していると認められる。千葉県の地質調査業者の団体の構成員が順番でダンピング受注しているとの主張は,本件行為とは別個の事実に係るものであり,本件行為の終了とは関係がない。
(4) 法令の適用
 国際地質は,26社と共同して,干葉市等発注の市内業者向け特定地質調査業務について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,千葉市等発注の市内業者向け特定地質調査業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
(5) 命じた主な措置
ア 国際地質は,次の事項を干葉市等に通知しなければならない。
(ア)平成7年11月16日ころ以降26社と共同して行っていた千葉市等発注の市内業者向け特定地質調査業務について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を取りやめている旨
(イ)今後,干葉市等発注の市内業者向け特定地質調査業務について,受注予定者を決定せず,自主的に受注活動を行う旨
イ 国際地質は,今後,26社と相互に又は他の事業者と共同して,千葉市等が競争入札又は見積り合わせの方法により発注する地質調査業務について,受注予定者を決定してはならない。