第9章 持株会社・株式保有・役員兼任・合併・分割・営業譲受け等

第1 概説

 独占禁止法第4章は,持株会社の設立等の制限(第9条),大規模会社の株式保有総額の制限(第9条の2),金融会社の株式保有の制限(第11条)並びに一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合の会社等の株式保有・役員兼任・合併・分割・営業譲受け等の禁止並びに届出又は報告義務(第10条及び第13条から第16条まで)を規定している。
 なお,商法等の一部を改正する等の法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成13年法律第80号)による独占禁止法の改正(平成13年10月1日施行)により,親子会社関係の基準が株式から議決権に改正され(第9条第3項等),商法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成13年法律第129号)による独占禁止法の改正(平成14年4月1日施行)により,独占禁止法第10条第2項の報告基準や第11条の規制基準が株式から議決権に改正されており,また,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成14年法律第47号。平成14年5月29日公布,公布の日から6月以内の政令で定める日から施行)により,第9条の2の廃止等の改正が行われている(第1章参照)。

第2 持株会社

 独占禁止法第9条第1項及び第2項の規定では,事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の設立・転化を禁止しており,持株会社は,持株会社及びその子会社の総資産の額(国内の会社の総資産合計額に限る。)の合計が3000億円を超える場合には,(1)毎事業年度終了後3か月以内に持株会社及び子会社の事業報告書を提出すること(同条第6項),(2)持株会社の新設について設立後30日以内に届け出ること(同条第7項)が義務付けられている。
 平成13年度において,同条第6項に基づき提出された持株会社等の事業報告書の件数は7件であった。また,同条第7項に基づく持株会社の設立の届出は7件であった。

第3 株式保有

1 大規模会社の株式保有
 独占禁止法第9条の2第1項の規定に基づき,大規模会社(金融業以外で資本金350億円以上又は純資産1400億円以上の株式会社[持株会社たる株式会社を除く。])は,自己の資本金又は純資産のいずれか多い額を超えて国内の会社の株式を保有してはならないこととされているが,大規模会社が,外国会社等と共同出資により設立した会社の株式をあらかじめ当委員会の認可を受けて保有する場合(同項第7号)又はやむを得ない事情により国内の会社の株式をあらかじめ当委員会の承認を受けて保有する場合(同項第11号)等におけるこれらの株式の保有については,同項の規定が適用されないこととされている。平成13年度において,当委員会が同項第7号の規定により認可したもの及び同項第11 号の規定により承認したものは,いずれもなかった。
2 会社の株式保有
 独占禁止法第10条第2項及び第3項の規定では,総資産が20億円を超えかつ総資産合計額(当該会社の総資産並びに親会社及び子会社の総資産の合計額。以下同じ。)が100億円を超える会社が,総資産が10億円を超える国内の会社又は国内売上高(国内の営業所の売上高及び国内の子会社の売上高の合計額。以下同じ。)が10億円を超える外国会社の株式を10%,25%又は50%を超えて取得し,又は所有することとなる場合には,この比率を超えることとなった日から30日以内に,当委員会に株式所有報告書を提出しなければならないこととされている。
 平成13年度において,当委員会に提出された会社の株式所有報告書の件数は,898件であり,うち外国会社によるものは51件であった。
 当委員会は,株式所有報告書に基づいて,国内の会社の株式の取得若しくは所有により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか,又は株式の取得若しくは所有が不公正な取引方法によるものであるかについて調査を行っており,前者については,個々のケースごとに,当事会社の地位,市場の状況等を総合的に勘案して判断している。
3 金融会社の株式保有
 独占禁止法第11条第1項の規定に基づき,金融会社は,国内の会社の株式をその発行済株式総数の100分の5(保険業を営む会社にあっては,100分の10)を超えて保有してはならないこととされているが,金融会社があらかじめ当委員会の認可を受けた場合には,同項の規定が適用されないこととされている。
 平成13年度において,当委員会が認可した金融会社の株式の保有件数は351件であった。このうち,同条第1項ただし書の規定に基づくものは333件(銀行に係るもの233件,証券会社に係るもの31件,保険会社に係るもの63件,外国会社に係るもの6件),同条第2項の規定に基づくものは18件(銀行に係るもの14件,証券会社に係るもの4件)であった(附属資料7―1参照)。

第4 合併・分割・営業譲受け等

1 概要
 一定の規模を超える会社が,合併,分割又は営業譲受け等を行う場合には,それぞれ独占禁止法第15条第2項及び第3項,第15条の2第2項,第3項及び第5項又は第16条第2項及び第3項の規定により,当委員会に届け出なければならないこととされている(ただし,親子会社間及び兄弟会社間の合併,分割及び営業譲受け等については届出が不要である。)。
 届出が必要な場合は,具体的には次のとおりである。
(1) 合併の場合
(2) 共同新設分割の場合
(3) 吸収分割の場合
(4) 営業譲受け等の場合
 平成13年度において,届出を受理した件数は,合併の届出は127件,分割の届出は20件,営業譲受け等の届出は195件であった。
 当委員会は,合併,分割,営業譲受け等により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか,又は当該行為が不公正な取引方法によるものであるかについて調査を行っており,前者については,個々のケースごとに,当事会社の地位,市場の状況等を総合的に勘案して判断している。
 平成13年度に届出を受理したもののうち,独占禁止法第15条第1項,第15条の2第1項及び第16条第1項の規定に違反するとして,同法第17条の2第1項の規定に基づき排除措置を採ったものはなかった。
2 合併・分割・営業譲受け等の動向
 平成13年度における合併の届出受理件数は,127件となっており,前年度の届出受理件数170件に比べ減少している(対前年度比25.3%減)。
 平成13年度における分割の届出受理件数は,20件となっている。なお,分割に関する届出制度は平成13年度から施行されたものである。
 平成13年度における営業譲受け等届出受理件数は,195件となっており,前年度の届出受理件数213件に比べ減少している(対前年度比8.5%減)。
 平成13年度に届出を受理した合併・分割・営業譲受け等を総資産額別,態様別,業種別,形態別でみると,次のとおりである(第1表〜第5表,附属資料7―2以下参照)。
(1) 総資産額別
 平成13年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数について,それぞれ合併後,共同新設分割においては新設後,吸収分割においては承継後,営業譲受け等の行為後の総資産を金額別にみると,次のとおりである。
ア 合併
 総資産100億円以上500億円未満の合併が56件(全体の44.1%)と最も多く,以下同1000億円以上の合併が24件(同18.9%),同10億円以上50億円未満の合併が20件(同15.7%)と続いている(第1表)。
イ 分割
(ア)共同新設分割
 総資産1000億円以上と同50億円以上100億円未満の共同新設分割がそれぞれ2件(それぞれ全体の40.0%),同100億円以上500億円未満の共同新設分割が1件(同20.0%)となっている(第2表)。
(イ)吸収分割
 総資産1000億円以上の吸収分割が5件(全体の33.3%)と最も多く,以下同100億円以上500億円未満の吸収分割が4件(同26.7%),同500億円以上1000億円未満の吸収分割が3件(同20.0%)と続いている(第3表)。
ウ 営業譲受け等
 総資産1000億円以上の営業譲受け等が59件(全体の30.3%)と最も多く,以下同100億円以上500億円未満の営業譲受け等が52件(同26.6%),同10億円未満の営業譲受け等が31件(同15.9%)と続いている(第4表)。
(2) 態様別
 平成13年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を態様別にみると,合併については,すべてが吸収合併であり,新設合併はなかった。分割については,総数20件のうち,5件が共同新設分割,15件が吸収分割であった。また,営業譲受け等については,総数195件のうち,181件が営業譲受け,14件が営業上の固定資産の譲受けであった。
(3) 業種別
 平成13年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を業種別にみると,次のとおりである。
ア 合併
 卸・小売業が32件(全体の25.2%),サービス業が25件(同19.7%)と多く,以下,製造業が23件(同18.1%),金融・保険業が21件(同16.5%)と続いている。
 製造業の中では,機械業が6件,化学・石油・石炭業が5件と多くなっている(第5表)。
イ 分割
 製造業が6件(全体の30.0%),金融・保険業と運輸・通信・倉庫業がそれぞれ4件(同20.0%)と多く,以下,卸・小売業が3件(同15.0%)と続いている。
 製造業の中では,機械業が4件,化学・石油・石炭業が2件となっている(第5表)。
ウ 営業譲受け等
 卸・小売業が58件(全体の29.7%),製造業が53件(同27.2%)と多く,以下サービス業が30件(同15.4%),金融・保険業が15件(同7.7%)と続いている。
 製造業の中では,機械業が21件,化学・石油・石炭業が13件と多くなっている(第5表)。
(4) 形態別
 平成13年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を形態別にみると,次のとおりである。
ア 合併
 合併の形態別件数(消滅会社数でみた件数)は196件であり,そのうち水平合併が126件(全体の64.3%)で最も多く,以下,混合合併54件(同27.5%),垂直合併16件(同8.2%)と続いている。
イ 分割
 分割の形態別件数(届出会社数でみた件数)は37件であり,そのうち水平関係が30件(全体の81.1%)で最も多く,以下,混合関係4件(同10.8%),垂直関係3件(同8.1%)と続いている。
ウ 営業譲受け等
 営業譲受け等の形態別件数(譲渡等会社数でみた件数)は199件であり,そのうち水平関係が138件(全体の69.4%)で最も多く,以下,混合関係46件(同23.1%),垂直関係15件(同7.5%)と続いている。

第1表 総資産額別合併届出受理件数
                     (単位:件,( )は%)
(注)1 総資産の額は,合併後のものである。
   2 平成10年の独占禁止法改正により,親子会社を含めた総資産合計額を届出対象の基準としているため,合併後の会社の単体総資産が10億円以下となることがある。

第2表 総資産額別共同新設分割届出受理件数
                        (単位:件,( )は%)
(注)総資産の額は,共同新設分割後の新設会社のものである。

第3表 総資産額別吸収分割届出受理件数
                         単位:件,( )は%)
(注)総資産の額は,吸収分割後の被承継会社のものである。


第4表 総資産額別営業譲受け等届出受理件数
                         (単位:件,( )は%)
(注)総資産の額は,営業譲受け等行為後の譲受け等会社のものである。


第5表 平成13年度における業種別届出受理件数
(注)業種は,合併の場合には新設会社及び存続会社の業種に,分割の場合には新設会社又は被承継会社の業種に,営業譲受け等の場合には営業譲受け等会社の業種によった。

第5 主要な事例

 平成13年度の株式保有等及び合併・分割・営業譲受け等の主要事例は,次のとおりである。
事例1 住友金属工業(株)及び三菱マテリアル(株)によるシリコンウエハー事業の統合
1 本件の概要
(1) 本件は,住友金属丁業(株)(以下「住友金属」という。)並びに三菱マテリアル(株)(以下「三菱マテリアル」という。)及びその100%子会社である三菱マテリアルシリコン(株)(以下「三菱MS」という。)が,経営資源の効率的利用等を目的として,次世代の300mmシリコンウエハー(以下「300mmウエハー」という。)を含め,両社のシリコンウエハー事業全体を統合しようとするものである。
(注)住友金属,三菱マテリアル及び三菱MSは,平成11年3月,共同出資会社である(株)シリコン・ユナイテッド・マニュファクチュアリング(以下「SUMCO」という。)を設立し,シリコンウエハーのうち次世代の300mmウエハーについて,技術開発及び試作品用生産設備の管理・運営を共同で行っている。
(2) シリコンウエハーとは,半導体回路の基板となる円盤状の材料であり,ユーザーである半導体メーカーがこれを加工・切断して,ダイオード,トランジスタ,IC(集積回路),LSI(大規模集積回路)などの電子機器用のシリコンチップにしている。
 現在のシリコンウエハーは,直径が150mm及び200mmのものが主力であるが, 将来的には,200mmシリコンウエハーの2倍強のチップを生産でき,かつ,生産コストを大幅に削減できる300mmウエハーが主力となるとみられており,現在,シリコンウエハーメーカー各社は,主に,ユーザーである半導体メーカー向けの試験用として300mmウエハーを生産している。


2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
 本件においては,シリコンウエハーの製造・販売について,一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響
 当事会社のシリコンウエハーの国内における販売金額シェアを合算すると,約30%となり,その順位が第1位となる。
 しかしながら,以下の事情を総合的に勘案すれば,本件統合により,上記2(1)で画定した取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
ア 販売金額シェアで10%を超す競争業者が複数存在し,そのうち1社は20%を超す競争業者であること。また,複数の海外の有力メーカーが国内に参入し,生産拠点を持っていること
イ ユーザーは大手半導体メーカー等であり,その価格交渉力は強く,シリコンウエハー価格も年々下落傾向にあること
ウ ユーザーは,競争的価格での購入等を目的として,複数のメーカーからシリコンウエハーを購入していること
 
事例2 三井海上火災保険(株)と住友海上火災保険(株)の合併
 
1 本件の概要
 
(1) 本件統合の概要
 本件は,三井海上火災保険(株)(以下「三井海上」という。)及び住友海上火災保険(株)が,損害保険業界における経営環境が急速に変化する中,効率化と競争力強化を図るため,三井海上を存続会社として合併するものである(新会社の名称は「三井住友海上火災保険(株)」)。
(2) 損害保険市場の状況について
 平成7年以降,保険業法等の改正が行われ,損害保険市場における自由化が進んでおり,次のような状況がみられる。
ア 保険料率の自由化や外資系保険会社及び他業種からの新規参入に伴い,価格競争が活発化するとともに,保険商品の多様化やサービスの向上が進んでいる。
イ 従来の損害保険代理店経由の保険商品の取扱いとは別に,電話やインターネットを利用した通信販売による保険商品の取扱いが増加し,それに伴い,外資系保険会社等が大きく実績を伸ばしている。
ウ 従来の生命保険及び損害保険のいずれにも属さない傷害保険等の第三分野については,生損保の枠を超えた保険会社間の競争が行われることで,競争の一層の活発化が見込まれる。
 
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
 損害保険市場については,損害保険全体について一定の取引分野が成立するほか,提供される保険の内容等を踏まえて,保険種目ごと(火災保険,海上・運送保険,自動車保険,傷害保険,自賠責保険及び賠償責任保険)にも一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響の検討
 本件合併による国内損害保険会社ベースでの損害保険全体における合算シェアは15%強で,その順位は第2位となるほか,損害保険の種目ごとにみると,火災保険(約15%),海上・運送保険(25%強)及び傷害保険(約20%)において第1位となる(その他は第2位又は第3位)ことから,これらの分野について慎重に検討を行った。
 さらに,他の損害保険会社が統合を予定していることから,上位会社の集中度が高まることとなる。
 検討の結果,以下のア及びイの事情等を総合的に勘案すれば,上記(1)で画定したいずれの取引分野においても,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
ア 損害保険全体としては次のような状況が認められる。
(ア)当事会社以外に,大手損害保険会社が有力な競争業者として存在するほか,生命保険会社,外資系保険会社及び他業種企業が新規に参入していること。
(イ)損害保険会社各社が保険商品開発競争を行い,多様なサービス内容の保険商品を提供しているほか,保険料率の自由化等により,損害保険市場における価格競争が活発化していること。
(ウ)通信販売による販売チャネルを用いて,外資系保険会社等が大きく業績を伸ばしていること。
イ 火災保険,海上・運送保険及び傷害保険の分野においては,上記の状況に加え,以下の状況が認められる。
(ア)火災保険については,協同組合が提供する火災共済が競争庄力となっていること。
(イ)海上・運送保険については,契約主体が海運会社又は運送会社であり,損害保険会社に対する交渉力が強く,契約先を変更することも容易であること。また,海上保険については,海外で付保するケースも多く,外国の保険会社からの競争圧力があること。
(ウ)傷害保険については,生命保険会社(損害保険子会社)や外資系保険会社が販売活動を強化しており,今後,競争の一層の活発化が見込まれること。
事例3 (株)大和銀行,(株)近畿大阪銀行及び(株)奈良銀行並びに(株)あさひ銀行による経営統合
1 本件の概要
 本件は,事業の再編成,重複店舗の見直し等による経営効率化を目的として,関西圏を営業基盤とする(株)大和銀行(以下「大和銀行」という。),(株)近畿大阪銀行及び(株) 奈良銀行が共同で持株会社(持株会社の名称は,「(株)大和銀ホールディングス」)を設立して経営統合を行い,その後,首都圏を営業基盤とする(株)あさひ銀行(以下「あさひ銀行」という。)が当該統合に参加するものである。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
ア 役務の範囲
 本件については,金融分野における競争への影響の検討に当たり,預金業務,貸出業務,外国為替業務,証券業務及び信託業務についてそれぞれ一定の取引分野が成立すると判断したが,これらのうち,競争への影響が大きい預金業務及び貸出業務について重点的に検討した。
イ 地理的範囲
 大和銀行及びあさひ銀行は全国的に営業展開しているため,全国市場について一定の取引分野が成立するとともに,当事会社の営業地域,地域経済の実態等からみて,都道府県別その他の地域別にも一定の取引分野が成立すると判断した。
(2)競争への影響
ア 近年,我が国においては金融市場の自由化が進みつつあるところ,直接金融の進展により企業の資金調達手段が多様化するとともに,都市銀行等による中小企業向け取引の拡充等の動きにより,都市銀行や地方銀行という枠を超えた競争が活発化する動きがみられる。また,地方銀行,信用金庫等の地域金融機関においても,個人・企業に対して多様な商品・サービスの提供等を行う動きがあり,地域金融機関間での競争も活発化しつつある。
イ 本件統合により,預金業務及び貸出業務の合算シェアは,全国市場ではともに約10%で,その順位は第5位となる。
 また,地域的市場についてみると,特に埼玉県での貸出業務において,当事会社の合算シェアが40%強で,その順位は第1位となるが,本件統合による増加分は僅少であるほか,都市銀行,地方銀行等の有力な競争業者が存在する。さらに,大阪府内の大阪市を除く複数の地域において,貸出業務における当事会社の合算シェアが20%強から25%強で,その順位はそれぞれ第1位となるが,これらの地域においては都市銀行,地方銀行,信用金庫等の有力な競争事業者が存在する。
 上記の事情を総合的に勘案すれば,上記(1)で画定したいずれの取引分野においても,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
事例4 日本鋼管(株)及び川崎製鉄(株)の持株会社の設立による事業統合
1 本件の概要
(1) 本件統合の概要
 本件は,日本鋼管(株)と川崎製鉄(株)が,最近における需要業界の世界規模での再編,グローバル調達の拡大等の事業環境の変化に対応するため,国際水準の競争力の実現等を目的として,両社の親会社となる持株会社を設立し,その後,両社を事業別会社に再編することにより事業の統合を行うものである。
(2) 鉄鋼業界の現状
 我が国の鉄鋼生産量(粗鋼ベース)は,近年,年間1億トン前後で推移している。また,鋼材価格はバブル崩壊以降低下傾向にある。輸入については,1980年代以降,韓国,中国等アジアの鉄鋼メーカーの成長に加え,円高の影響もあり急増したところ,最近では国内価格の低迷もあり,低下傾向にあるものの,粗鋼ベースで国内出荷量のほぼ1割前後のシェアを占めている。
2 独占禁止法上の考え方
  
(1) 一定の取引分野
 本件においては,当事会社が共に製造販売している鋼材の品種ごとの製造販売分野に一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響の検討
 上記(1)で画定した取引分野ごとに検討を行ったが,本件事業統合後の合算販売数量シェア,順位等に基づき,特に,無方向性電磁鋼板(シェア約35%,第2位),容器用鋼板(同約35%,第1位),配管用鋼管(同約45%,第1位)及び高抗張力鋼(同約35%,第2位)の各品種の取引分野について,重点的に検討を行った。
(3) 競争への影響
 上記4品種については,本件統合後の合算販売数量シェア・順位は上記(2)のとおりとなる。しかしながら,以下の事情を総合的に勘案すれば,本件統合により,これら4品種の取引分野のいずれにおいても競争を実質的に制限することとはならず,上記(1)で画定したこれら4品種を含むいずれの取引分野においでも競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
ア 無方向性電磁鋼板について
 本件事業統合後の合算販売数量シェアが約35%となり,また,順位が第2位となるが,以下の事実が認められた。
(ア)シェア50%弱の首位事業者を含む有力な競争業者が複数存在する。
(イ)ユーザーはほとんどが大手電気機械メーカーであるところ,近年,製造拠点を海外へシフトするとともに,無方向性電磁鋼板を現地メーカーから調達するケースも増加している。このような状況の下,アジア製品の品質の向上等もあり,今後,輸入比率が上昇する蓋然性は高い。また,アジア製品の輸入を検討しているとするユーザーも存在する。
(ウ)ユーザーは,鉄鋼メーカー間で品質差はないため,複数の鉄鋼メーカーから調達する方針を採っている。
 ユーザーは,価格交渉においては,より低い価格を提示したメーカーからの調達シェアを増加させるとの方針を採るなど低廉な価格での調達を重視しており,また,自社の海外製造拠点における我が国の鉄鋼メーカーからの調達価格及びアジアの鉄鋼メーカーからの調達価格などを交渉の材料としている。
 このように,ユーザーの価格交渉力は強く,無方向性電磁鋼板の価格は低下している。
イ 容器用鋼板について
 本件事業統合後の合算販売数量シェアが約35%となり,また,順位が第1位となるが,以下の事実が認められた。
(ア)シェア約35%及び約25%の有力な競争業者が存在する。
(イ)容器用鋼板の用途の過半を占めるスティール缶については,競合品であるアルミ缶,小容量ペットボトルに代替されてきており,スティール缶の素材である容器用鋼板の販売数量は減少している。
(ウ)容器用鋼板のうち,一般缶及び18リットル缶向けのものについては輸入品も使用され,輸入量も増加している。
(エ)ユーザーは製缶メーカーであり,スティール缶のほか,その競合品であるアルミ缶及び小容量ペットボトルも製造していることから価格交渉力が強い。また,鉄鋼メーカー間で品質差はないため,複数の鉄鋼メーカーから調達する方針を採っている。
 価格交渉においては,容器用鋼板の用途であるスティール缶の価格のみならず,その競合品であるアルミ缶の価格も参考にして交渉が行われている。また,一般缶及び18リットル缶向けについては,輸入品の価格も交渉材料とされている。
 このように,ユーザーの価格交渉力は強く,スティール缶から小容量ペットボトル等への代替もあり,容器用鋼板の価格は低下している。
ウ 配管用鋼管について
 本件事業統合後の合算販売数量シェアが約45%となり,また,順位が第1位となるが,以下の事実が認められた。
(ア)シェア25%強の有力な競争業者が複数存在する。
(イ)配管用鋼管の販売数量の約8割を占める中低圧用配管用鋼管については,競合品である樹脂管に代替されてきており,販売数量は減少している。
 また,鉄鋼メーカー間で品質差がないことに加え,中低圧用配管用鋼管やその競合品である樹脂管については市況が存在していることから,中低圧用配管用鋼管を取り扱う卸売業者はこれらの市況を価格交渉の材料の一つとして鉄鋼メーカーと交渉している。このようなことから,中低圧用配管用鋼管の価格は低下している。
(ウ)配管用鋼管のうち,高圧用配管用鋼管については,そのユーザーは,価格交渉力の強い造船会社,プラントメーカー及びガス会社であることに加え,鉄鋼メーカー間で品質差がないため,ユーザーは複数の鉄鋼メーカーから調達する方針を採っている。
 また,ユーザーの中には,競争入札による調達を行うとともに,具体的な数字を提示して鉄鋼メーカーにコストダウンを求めている者もある。
 このように,ユーザーの価格交渉力は強く,高庄用配管用鋼管の価格は低下している。
エ 高抗張力鋼について
 本件事業統合後の合算販売数量シェアが約35%となり,また,順位が第2位となるが,以下の事実が認められた。
(ア)シェア45%強の首位事業者を含む有力な事業者が複数存在する。
(イ)ユーザーは,価格交渉力の強い自動車メーカーやゼネコンなどであり,鉄鋼メーカー間で品質差がないため,複数の鉄鋼メーカーから調達する方針を採っている。ユーザーは,価格交渉においては,より低い価格を提示した鉄鋼メーカーへの調達シェアを増加させるとの方針を採るなど低廉な価格での調達を重視している。このように,ユーザーの価格交渉力は強く,高抗張力鋼の価格は低下している。
(ウ)最近では,ユーザーの側において,コスト削減を図るため,大量購入を背景とした鉄鋼メーカーの選別を強める動きが顕著になっており,この結果,鉄鋼メーカーへの競争圧力が増大している。また,今後,自動車用の高抗張力鋼にターゲットを絞るなど独自の販売戦略を一層強化していくとする鉄鋼メーカーも存在する。
 
事例5 ポリプロピレン事業の統合
1 本件各統合の概要
(1) 日本ポリケム(株)及びチッソ(株)の事業統合
 日本ポリケム(株)(以下「日本ポリケム」という。)及びチッソ(株)(以下「チッソ」という。)は,国際競争に対処するため,生産,物流,研究開発及び販売におけるコストを削減すること等を目的として,共同出資会社の設立により,両社のポリプロピレン(以下「PP」という。)事業を統合するものである。
(2) 三井化学(株)及び住友化学工業(株)の事業統合
三井化学(株)(以下「三井化学」という。)及び住友化学工業(株)(以下「住友化学」という。)は,国際競争に対処するため,生産,物流,研究開発及び販売におけるコストを削減すること等を目的として,共同出資会社への営業譲渡により,両社のPP事業を統合するものである。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
本件においては,PPの製造・販売分野に一定の取引分野が成立するものと考えられる。
(2) 競争への影響
ア 本件の各統合により,日本ポリケム及びチッソを当事会社とする統合後の合算販売
数量シェア・順位は,約35%・第1位,また,三井化学及び住友化学を当事会社とする統合後の合算販売数量シェアは,約30%・第2位となり,上位3社の累積集中度が約85%となる。
イ 輸入圧力の限定性
 汎用品の輸入は増加傾向にあるものの,下記ウのとおり,国内メーカーが汎用性に乏しい多くのグレード(銘柄)を供給していることが,汎用品中心で供給グレード数の少ない輸入品が我が国市場に浸透することを困難なものとしている要因の一つとなっている。また,厳しい品質基準が要求される用途や安全性が求められる用途については,現状では,輸入品の使用は限定的である。
 なお,輸入品の使用が限定的な上記用途についても,輸入品の品質向上やユーザー側のより低廉な価格による調達を重視する方針の強まりなどから,一部に輸入品を採用したり,今後,その採用について検討しようとする動きがみられる。また,平成16年に向けてPPの関税が段階的に引き下げられている。
ウ 汎用性に乏しいグレード数の多さとそれに起因する取引関係の固定性
 国内メーカーは,ユーザーごとに,その要求にきめ細かく対応し,汎用性に乏しい多くのグレードを供給することにより,取引先ユーザーを確保している側面がある。この結果,国内メーカーとユーザーとの取引関係の変更は必ずしも容易でない状況が認められる。
 なお,ユーザー側において,今後は,使用グレード数を削減することにより汎用性を高め,複数メーカーが供給可能な代替グレードを確保した上で,同一グレードの大量購入による原材料調達コストの削減を図ろうとする動きがみられる。
エ PP分野におけるメーカーの協調的行動
 PP分野におけるメーカーの価格改定行動について,これまでの状況をみると,協調的な行動がみられる。
(3) 問題点の指摘及び当事会社の対応策
ア 当委員会は,上記の状況を踏まえた場合,PPの製造・販売分野について,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある旨を当事会社に対し指摘した。
イ 当委員会の指摘に対し,各当事会社から,以下のような対応策を採る旨の申出があった。
(ア)日本ポリケム及びチッソ
a 少量販売グレードの統廃合等により,PPのグレード数を,平成17年末までに,現状の約4割まで削減する。
b 統合新会社においては,業界団体の会合等に出席する場合は,コンプライアンス部署に事前届出及び事後報告することを義務化すること等,独占禁止法遵守体制を更に徹底する。
(イ)三井化学及び住友化学
a 少量販売グレードの統廃合等により,PPのグレード数を,平成17年末までに,現状の約5割まで削減する。
b 統合新会社においては,業界団体への営業部門者の出席を一律禁止するとともに,その他の場合でも,事前の面談伺い及び事後報告制度を導入して,同業他社との接触を合理的必要性が認められる場合に限ること等,独占禁止法遵守体制を更に徹底する。
(4) 当委員会の判断
ア 取引固定性の改善
 各当事会社が申し出たPPのグレード数の削減計画は,これまでユーザーの要求にきめ細かく対応し供給されてきた汎用性に乏しい少量販売グレードの統廃合等により実施されるものであり,各当事会社が供給するグレードの汎用性を高めることに資するものであると考えられるところ,ユーザー側における原材料調達コスト削減の観点からの使用グレード数削減による代替グレード確保などの動きとも相まって,ユーザーによる取引先メーカー変更の可能性を増大させるものであると評価できる。
イ 輸入増大の蓋然性の高まり
 汎用品の輸入は従来から増加傾向にあったところ,各当事会社が申し出たPPのグレード数の削減計画は,上記のとおり,各当事会社が供給するグレードの汎用性を高めることに資するものであると考えられ,汎用品中心で供給グレード数が少ない輸入品が我が国市場に浸透することをより容易とするものであると評価できる。
 また,これまで,厳しい品質基準や安全性が求められ,輸入品の使用が限定的であった用途についても,輸入品の品質向上やユーザー側における原材料調達コスト削減の必要性の高まりから輸入品を採用していこうとする動きがみられる。
 さらに,上記のとおり,PPの関税は,平成16年に向けて段階的に引き下げられているところ,PPの輸入が増大する蓋然性は高い。
ウ 独占禁止法コンプライアンス体制の徹底
 各当事会社が申し出たコンプライアンス体制の徹底は,競争事業者との接触を,事前届出・事後報告という厳格な社内手続の下に置くなど,これが厳正に実施された場合には,本件統合によりPP業界における協調的行為が行われやすくなるのではないかという懸念を払拭するための措置として評価できる。
エ 総合的判断
 以上から,各当事会社から申出のあった対応策が着実に実行されれば,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないものと考えられる。
3 今後の対応
 今後,当委員会は,PPの市場の競争状況を含め,各当事会社が申し出た対応策の履行状況を十分に把握していくとともに,独占禁止法に違反すると認められる行為がある場合には,これに対して厳正に対処していくこととする。
事例6 東京海上火災保険(株)及び日動火災海上保険(株)の経営統合
1 本件の概要
本件は,東京海上火災保険(株)及び日動火災海上保険(株)が,損害保険業界における経営環境が急速に変化する中,効率化と競争力強化を図るため,持株会社(持株会社の名称は,(株)ミレアホールディングス」)を設立し,その傘下に入ることにより,経営統合するものである。
 なお,本件統合には,共栄火災海上保険(相)及び朝日生命保険(相)が参加することになっているが,これについては,改めて検討することとする。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
 損害保険市場については,損害保険全体について一定の取引分野が成立するほか,提供される保険の商品等を踏まえて,保険種目ごと(自動車保険,傷害保険,火災保険,自賠責保険,賠償責任保険及び海上・運送保険)にも一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響の検討
ア 本件統合による国内損害保険料(元受正味保険料ベース)全体における当事会社の合算シェアは25%弱で,その順位は第1位となる。さらに,他の損害保険会社が合併を予定していることから,上位会社の集中度が高まることとなる。
 しかしながら,以下のような状況が認められる。
(ア)当事会社以外に,シェア約10%から15%強の大手損害保険会社が有力な競争業者として複数存在すること。
(イ)生保系損害保険会社,外資系損害保険会社及び他業種系損害保険会社が新規に参入していること。
(ウ)保険料率の自由化や新規参入が行われたことにより,価格競争が促進されるとともに,損害保険会社各社が保険商品開発競争を行い,多様なサービス内容の保険商品を提供していること。
(エ)従来の損害保険代理店経由の保険商品の販売のほか,新規参入業者を中心に,電話やインターネットを利用した保険商品の通信販売が増加していること。
イ 損害保険の種目ごとにみると,自動車保険(当事会社の合算シェア25%弱),傷害保険(同20%強),火災保険(同約20%),自賠責保険(同約25%),賠償責任保険(同30%弱)及び海上・運送保険(同30%弱)のいずれも第1位となるが,各損害保険種目の分野において,以下の状況が認められる。
(ア)自動車保険については,保険料率が自由化され,外資系損害保険会社及び他業種系損害保険会社が新規に参入する中で,価格競争が促進されているとともに,リスク細分型保険商品や人身傷害保険の付帯等担保範囲を拡大した商品が発売されるなど,多様な保険商品の提供が進んでいること。
 また,自賠責保険については,自動車保険と密接な関係があり,こうした自動車保険における競争の影響を強く受けていること。
(イ)傷害保険については,もともと外資系損害保険会社が積極的に販売活動を行っており,また,生命保険会社本体の参入も可能になったことから,競争の促進が見込まれること。
(ウ)火災保険については,協同組合が提供する火災共済が火災保険にほぼ匹敵する規模で存在し,これが競争圧力となっていること。
(エ)賠償責任保険については,統合によるシェアの増加分がわずかであることのほか,海上・運送保険と同様に,もともと算定会料率(注)の対象になっておらず,活発な価格競争が行われており,また,最近,顧客ニーズを先取りした新商品の開発が積極的に行われていること。
(オ)海上・運送保険については,統合によるシェアの増加分がわずかであるほか,契約主体が海運会社,運送会社等であり,損害保険会社に対する交渉力が強く,契約先を変更することも容易であること。また,海上保険については,海外で付保するケースも多く,外国の保険会社からの競争圧力があること。
 
ウ 以上の状況から,上記2(1)で画定したいずれの取引分野においても,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
(注)旧算定会料率は,自動車保険,傷害保険,火災保険,自賠責保険及び地震保険について,損害保険料率算定会及び自動車保険料率算定会が保険料率を算出して,行政庁の認可を取得していたものであって,算定会会員である損害保険会社は使用義務を負い,独占禁止法の適用除外とされていた。算定会料率制度の改革により,平成10年7月から自賠責保険及び地震保険を除き,各社が保険料率について個別に行政庁の認可を取得することとなった。
 
事例7 (株)東芝と三菱電機(株)の電力会社向け系統・変電設備事業の統合
1 本件の概要
 本件は,(株)東芝と三菱電機(株)が,電力会社向け系統・変電設備事業について,生産体制の効率化,海外事業展開力の強化及び国内営業体制の効率化を目的として,共同出資会社の設立又は共同新設分割により,両社の電力会社向け系統・変電設備事業を統合するものである。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
 系統・変電設備とは,電力会社による送電のための変電所用機器及びその運用全体をコントロールするシステムであり,具体的には,遮断器,変圧器,開閉装置,系統制御システム及び系統保護システムの5製品である。これら5製品は機能,用途等が異なり,また,本件統合範囲は電力会社を主たるユーザーとする製品であることから,それぞれの製品のうち,電力会社を主たるユーザーとする製品の製造・販売分野に一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響
ア 本件統合により,各取引分野における当事会社の電力会社向け合算シュア・順位は,遮断器(シェア約25%,第2位),変圧器(同約35%,第1位),開閉装置(同約 35%,第1位),系統制御システム(同約40%,第1位),系統保護システム(同約50%,第1位)となる。
イ しかしながら,いずれの取引分野においても,以下の状況が認められる。
(ア)需要減少に伴う受注競争の激化
 電力需要の伸びの鈍化等を背景とした電力会社の設備投資削減に伴い,本件統合対象製品に対する需要は減少傾向にあり,当事会社を含む電機メーカー間の受注競争が激化している。
(イ)ユーザーの価格交渉力
 ユーザーは価格交渉力の強い電力会社のみであり,また,電力会社は,電力事業分野における自由化が進展する中,電力料金引下げを図る観点から,低廉な価格での機器調達を重視していることから,その価格交渉力は更に強まっており,本件統合対象製品の価格は低下している。
ウ また,統合対象各製品について,以下の状況が認められる。
(ア)遮断器
 シェア約30%及び同20%を有する有力な競争事業者が存在する。また,電力会社による輸入実績があるとともに,輸入の拡大に取り組んでいる電力会社もあるため,今後輸入比率が上昇する蓋然性は高い。これが国内メーカーへの競争圧力になっている。
(イ)変圧器
 シェア約20%を有する有力な競争事業者が複数存在する。また,輸入についても遮断器と同様の状況にある。
(ウ)開閉装置
 シェア10%超の有力な競争事業者が複数存在する。現在のところ,電力会社による輸入品の使用実績はないものの,既に見積競争入札に外国メーカーを参加させたり,輸入品を採用すべく技術上の検討を行っている電力会社が存在しており,今後輸入品が採用される蓋然性は高い。
(エ)系統制御システム
 シェア20%超及び同10%超を有する有力な競争事業者が存在する。また,系統制御システムのソフトウェアについて,汎用性を有するものが開発・採用されたことから,電力会社の発注先選択の自由度が高まり,異業種からのものを含む新規参入が生じている。
(オ)系統保護システム
 シェア25%超を有する有力な競争事業者が存在するものの1社に過ぎず,かつ,当事会社とのシェアの格差も大きい。また,電力会社は,輸入品を採用しておらず,また,その検討も行っていない。
 
(3) 問題点の指摘及び当事会社の対応
ア 当委員会は,上記の状況を総合的に勘案すれば,本件統合により,上記(1)で画定した取引分野のうち,系統保護システムの取引分野については,競争を実質的に制限することとなるおそれがある旨,当事会社に対し問題点を指摘した。
 これに対し,当事会社からは,系統保護システムについて,研究開発及び製造については統合の対象とするが,販売事業については,引き続き,両社が独立してそれぞれ行うこととする旨の申出があった。
イ 当委員会は,当事会社による当委員会からの問題点の指摘を踏まえた統合内容の変更,販売対象が価格交渉力の強い電力会社向けに限定されていること,電力会社が低廉な価格での機器調達を強めてきている等の状況を踏まえた場合,本件統合により,系統保護システムの取引分野における競争を実質的に制限することとはならないものと判断した。
 
事例8 安田火災海上保険(株)及び日産火災海上保険(株)の合併
1 本件の概要
 本件は,安田火災海上保険(株)(以下「安田火災」という。)及び日産火災海上保険(株) が,損害保険業界における経営環境が急速に変化する中,効率化と競争力強化を図るため, 安田火災を存続会社として合併するものである(新会社の名称は「株式会社損害保険ジャパン」。)。
2 独占禁止法上の考え方
 
(1) 一定の取引分野
 損害保険市場については,損害保険全体について一定の取引分野が成立するほか,提供される保険の内容等を踏まえて,保険種目ごと(自動車保険,傷害保険,火災保険,自賠責保険,賠償責任保険及び海上・運送保険)にも一定の取引分野が成立すると判断した。
 
(2) 競争への影響の検討
ア 本件合併による国内損害保険料(元受正味保険料ベース)全体における当事会社の合算シェアは15%強で,その順位は第3位となり,他の損害保険会社が統合を予定していることから,上位会社の集中度は高まることとなる。しかしながら,以下のような状況が認められる。
(ア)当事会社以外に,近く統合を予定している損害保険会社(統合後の合算シェア25%弱・第1位)のほか,シェア約10%から15%強の大手損害保険会社が有力な競争業者として複数存在すること。
(イ)生保系損害保険会社,外資系損害保険会社及び他業種系損害保険会社が新規に参入していること
(ウ)保険料率の自由化や新規参入が行われたことにより,価格競争が促進されるとともに,損害保険会社各社が保険商品開発競争を行い,多様なサービス内容の保険商品を提供していること
(エ)従来の損害保険代理店経由による保険商品の販売のほか,新規参入業者を中心に,電話やインターネットを利用した保険商品の通信販売が増加していること
イ 損害保険種目ごとにみると,当事会社の合算シェアの順位は第2位(賠償責任保険のシェアが最大で,約20%)又は第3位であり,いずれの種目でも有力な競争業者が複数存在する等の状況が認められる。
ウ 以上の状況から,上記(1)で画定したいずれの取引分野においても,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
事例9 富士電機(株)による三洋電機自販機(株)の株式取得
1 本件の概要
 本件は,三洋電機グループの自動販売機事業からの撤退に伴い,三洋電機(株)が自社の100%子会社である三洋電機自販機(株)(以下「三洋自販機」という。)の株式のすべてを富士電機(株)(以下「富士電機」という。)に譲渡することとし,当該株式を取得する富士電機が三洋自販機を自動販売機の製造・開発に特化した子会社とするとともに,製造面での集約化を図るものである。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
 自動販売機については,販売する中身商品により,仕様やユーザーが異なることから,当事会社が共に製造・販売している自動販売機の中身商品ごとの製造・販売分野にそれぞれ一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響
 上記(1)で画定した取引分野のうち,競争への影響が大きいと考えられる飲料用自動販売機の製造・販売分野について重点的に検討を行った。
ア 本件株式取得により,飲料用自動販売機の製造・販売分野における当事会社の合算出荷台数シェア・順位は,約55%・第1位となる。
イ しかしながら,以下の状況が認められる。
(ア)有力な競争事業者の存在
 出荷台数シェア約20%を有する有力な競争事業者2社を含む複数の競争事業者が存在する。
(イ)ユーザーの価格交渉力
 ユーザーである飲料メーカーは,価格交渉力維持等の観点から,同一の機能を有する飲料用自動販売機を複数の自動販売機メーカーから調達したり,大量購入を背景として有利な条件での購入を図るために共同購入を行っており,ユーザーの価格交渉力は強い。また,コンビニエンスストアの普及等による飲料用自動販売機での販売効率低下に伴い,ユーザーからの飲料用自動販売機の購入価格の引下げ圧力は強まっている。
 このような状況の下,飲料用自動販売機の価格は低下している。
(ウ)ユーザーの調達方針
 ユーザーは,上記のとおり,価格交渉力維持等の観点から,複数の自動販売機メーカーから飲料用自動販売機を調達するという方針を採っている。このため,競争事業者は,本件株式取得後においては,自己とユーザーとの取引の機会が増加する可能性があるところから,これをむしろビジネスチャンスとしてとらえている。したがって,当事会社が現在の合算出荷台数を維持することは難しいと考えられる。
ウ 他方,ユーザーに対するヒアリング結果等を踏まえれば,本件株式取得により,飲料用自動販売機製造に係る技術が当事会社にかなりの程度集積されることとなり,当事会社の技術力が相当程度高まることが予想される。この結果,当事会社は,今後の技術開発の面も含めて,競争事業者に比し,事業活動上著しく優位に立つことが見込まれ,当事会社が保有する技術の競争事業者に対する供与が制限された場合には,競争事業者が当事会社と同一の機能を有する飲料用自動販売機を製造・販売することが難しくなるおそれがあり,また,その場合には,ユーザーが複数の自動販売機メーカーから飲料用自動販売機を調達することが困難となることにより,ユーザーの価格交渉力が弱まることが懸念された。このため,当委員会は,当事会社に対し,当該懸念を指摘したところ,当事会社から,仮に,当事会社が保有する特許権等の技術について競争事業者からその実施許諾等の求めがあったときは,これを拒否することなく,適正な条件の下でその求めに応ずることとする旨の申出があった。
エ 結論
 本件株式取得については,飲料用自動販売機の製造・販売分野における当事会社の現在の合算出荷台数シェアは約55%となるものの,上記イのとおり,有力な競争事業者が複数存在すること,ユーザーである飲料メーカーの価格交渉力が強いこと,また,上記ウの当事会社が申し出ている措置が着実に実行されれば,ユーザーである飲料メーカーによる複数の自動販売機メーカーからの飲料用自動販売機の調達が確保されることにより,ユーザーの価格交渉力が従来同様維持されるとともに,当事会社がその保有する特許権等の供与を拒否することによって競争事業者を市場から排除するおそれも生じないと考えられること等から、本件株式取得により、飲料用自動販売機の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないものと判断した。
 
事例10 日本航空(株)及び(株)日本エアシステムの持株会社の設立による事業統合
1 本件の概要
 本件は,日本航空(株)(以下「JAL」という。)及び(株)日本エアシステム(以下 「JAS」という。)が,グローバルな厳しい競争に耐え得るような事業基盤を確立する ことを目的として,当事会社の親会社となる持株会社を設立し,その後,当事会社を事業別会社に再編することにより事業の統合を行うことを予定しているものである。
2 問題点の指摘
 当委員会が,本件統合計画について,これが競争を実質的に制限することとなるおそれがあるとして指摘を行った問題点は,以下のとおりである。
(1) 大手航空会社(JAL,JAS及び全日本空輸(株))が3社から2社に減少することにより,これまでも同調的であった大手航空会社の運賃設定行動が更に容易になる。
(2) また,就航企業数が少ない路線ほど特定便割引運賃が全便に設定される割合及びその割引率が低くなっており,大手航空会社数の減少は競争に重大な影響を及ぼす。
(3) このような状況の下,混雑空港における発着枠の制約等により,新規参入等が困難であることから,新規参入が同調的な運賃設定行動に対する牽制力として期待できない。
(4) その結果,航空会社が設定する運賃について,価格交渉の余地がない一般消費者がより大きな不利益を被ることとなる。
   
3 当事会社から提出された対応策等
(1) 当事会社の対応策
 当委員会の指摘に対し,当事会社から申出のあった対応策の内容は,以下のとおりである。
ア 新規参入促進のための措置
(ア)発着枠の返上
 当事会社の有する羽田発着枠について,平成14年10月に,9便(注)を国土交通省に返上する。
 また,平成17年2月の発着枠の再配分までに,上記9便を繰り入れる競争促進枠(後記3(2)参照)が不足する事態が生じた場合には,更に3便を上限として羽田発着枠を国土交通省に返上する。
(注)1便は,離発着1回ずつの合計(1往復)をいう。
(イ)新規航空会社に対する空港施設面での対応
 当事会社は,現在自社が使用しているボーディング・ブリッジ,固定スポット,チェックイン・カウンター等の空港施設の一部について,新規航空会社の希望があれば,新規航空会社にこれら施設を提供する。
(ウ)航空機整備業務等各種業務受託による新規航空会社への協力
 新規航空会社の航空運送事業への参入や事業の継続・拡大に際し必要となる,航空機整備業務,空港地上業務など各種業務について,新規航空会社の希望があれば,積極的にこれを引き受ける
イ 運賃面での措置等
(ア)運賃面での措置
a 普通運賃を,主要なすべての路線について,一律10%引き下げ,少なくとも3年間は値上げしない。
b 特定便割引運賃・事前購入割引運賃を,他の大手航空会社と競合する主要なすべての路線及び統合により当事会社単独路線となる主要な路線について,全便に設定する。また,特定便割引運賃の水準については現在の3社競合路線に設定されているものと同程度の水準とする。
(イ)路線網の拡充による競争促進と利便性の向上
 他の大手航空会社の単独路線や便数優位路線への参入・増便を図る。
(2) 国土交通省による競争促進策の強化
 国土交通省は,昨今の状況の変化を踏まえ,競争促進を通じた利用者利便の向上を図るため,以下のような新たな競争促進措置を講じることとしている。
ア 平成17年2月までの措置
 新規航空会社が大手航空会社と競争して新たな事業展開を図るために使用するための発着枠として,新たに「競争促進枠」を創設し,下記平成17年2月の発着枠配分の見直し(注)までの間,当事会社が対応策として今回返上する9便(9便を超えて必要な場合には更に3便を上限として追加返上)の羽田発着枠を繰り入れる。
 新規航空会社は,これまで6便までの羽田発着枠しか配分を受けることができなかったが,この競争促進枠の創設によって,6便を超えた羽田発着枠の配分を受けることができるようになる。
(注)平成12年2月施行の改正航空法により,混雑飛行場の使用については,国土交通大臣の許可制となり,5年間の使用期限が付されている。現在の使用期限は,平成17年2月となっており,使用期限到来時に発着枠が回収・再配分されることとなっている。
イ 平成17年2月の発着枠配分の抜本的見直し
 平成17年2月の発着枠配分の見直しにおいては,新規航空会社が大手航空会社と伍して競争し,事業活動を拡大していくために十分なものとなり,有効な牽制力を有することが可能となるよう,既存のすべての発着枠を抜本的に見直して競争促進枠を拡充する。
ウ 空港施設面での新規航空会社への協力
 新規航空会社が事業を行う上で必要不可欠な,ボーディング・ブリッジ,固定スポット,チェックイン・カウンター等の空港施設について,大手航空会社に対し,新規航空会社が必要とするスペースの割譲等を求めていく。
 新規航空会社による競争促進枠の使い残しがある場合には,競争促進の観点から,大手航空会社が他社の単独路線へ参入する等航空会社間の競争が促進される場合に,暫定的に使用させることとするが,その場合には,ボーディング・ブリッジ,固定スポット,チェックイン・カウンター等の空港施設を新規航空会社に対して割譲等を行うことを条件とする。
エ 航空機整備業務等各種業務の新規航空会社に対する支援
 新規航空会社が航空運送事業に参入し,事業を継続するに際して必要な航空機整備等の各種業務の支援・受託について,大手航空会社に対し,積極的に協力することを求めていく。
(3) 新規航空会社の状況
ア 特定路線において事業活動を行っている新規航空会社の存在
 羽田空港の発着枠6便の配分を受けて,特定の路線において事業活動を行っている新規航空会社が2社(注)存在している。
(注)スカイマークエアラインズ株式会社及び北海道国際航空株式会社
イ 本格的な事業展開を計画している新規航空会社の存在
 上記アの新規航空会社の中には,運航乗務員等の自社養成や整備・地上業務等の自営化を図るなど,事業拡大のための体制を整備しており,仮に現時点で羽田空港の発着枠9便の追加配分があれば,それに応じて事業活動を拡大することを具体的に計画しているところもある。
 また,同社は,平成17年2月以降についても,発着枠の見直しによって,配分される発着枠が大幅に増加すれば,事業活動を抜本的に拡大し,現在参入している路線に限らず,その他の路線においても大手航空会社と伍して競争し,本格的な事業展開を行っていこうとすることを具体的に計画している。
ウ 今後新規参入を予定している航空会社等の存在
 このほか,平成17年2月までの間に,現在未配分となっている羽田空港の新規航空会社枠の配分を受け,新規参入を予定している新規航空会社が2社(注)存在している。また,その後も未配分の新規航空会社枠が5便確保されている。
 さらに,羽田発着枠の配分を受けていないものの,国内航空運送分野に新規に参入している新規航空会社も存在する。
(注)スカイネットアジア航空株式会社及びレキオス航空株式会社
4 当委員会の判断
(1) 新規航空会社の事業拡大等により有効な競争が生じる蓋然性の高まり
ア 発着枠の返上・再配分
(ア)平成17年2月までの評価
 上記のとおり,既に新規航空会社枠6便の配分を受け,事業活動を行っている新規航空会社は,現状においては6便を超えた羽田発着枠の配分を受けることができない状況にあるところ,かかる新規航空会社の中には,平成17年2月の国土交通省による発着枠配分の見直しまでの間に9便の増便を計画しているところもある。かかる状況の下,当事会社の対応策による羽田発着枠9便の返上及び国土交通省による競争促進枠の創設により,当該増便計画に見合う9便の発着枠が確保されることとなり,当該新規航空会社の事業拡大が可能となる。また,新規航空会社において9便を超える発着枠が必要となった場合には,当事会社は,3便を上限として更に返上することとしていることから,平成17年2月までの間における新規航空会社の事業拡大について支障は生じないものと考えられる。
 したがって,平成17年2月までの間は,特定の路線に限定されるものの,競争が活発に行われるものと考えられる。
(イ)平成17年2月の発着枠の抜本的見直し以降の評価
 平成17年2月以降の発着枠の配分については,国土交通省が既存のすべての発着枠を対象とした抜本的な見直しを行い,新規航空会社が大手航空会社と伍して競争し,事業活動を拡大していくことができるよう,競争促進枠を更に拡充することとしている。
 また,上記のとおり新規航空会社の中には,必要な発着枠が確保されれば大手航空会社と伍して競争し,本格的な事業展開を行っていこうとすることを具体的に計画している者が存在していることに加え,下記の空港施設面での対応等が有する効果を踏まえると,このような新規航空会社が,国内航空運送分野において大手航空会社に対して有効な競争を行うことが可能な競争事業者となる蓋然性は高いものと考えられる。
イ 新規航空会社に対する空港施設面での対応に対する評価
 当事会社の対応策及び国土交通省の競争促進策は,当事会社以外の大手航空会社も含め,新規航空会社に対する空港施設面での支援を強化することにより,新規航空会社の事業拡大等を可能・容易にするものであると考えられる。
ウ 航空機整備業務等各種業務受託による新規航空会社への協力に対する評価
 当事会社の対応策及び国土交通省の競争促進策は,当事会社以外の大手航空会社も含め,航空機整備業務等の各種業務受託を積極的に引き受けることとなり,新規航空会社の各種業務委託の引受け先の確保を容易にすることにより,新規航空会社の事業拡大等を可能・容易にするものと考えられる。
(2) 運賃面での措置等
 普通運賃の引下げ及び特定便割引運賃・事前購入割引運賃の設定拡充や,他の大手航空会社の単独路線及び便数優位路線への参入・増便といった当事会社の対応については,本件統合による合理化効果を一般消費者の利益となるよう用いるものとして,一定の評価を行うことができるものと考えられる。
(3) 結論
 以上から,本件統合計画の実施により,国内航空運送分野における競争を実質的に制限することとはならないものと考えられる。
 なお,当委員会は,今後,当事会社が申し出た対応策の履行を確実なものとするため,統合前においても可能なものについては所要の措置を採るよう求めるとともに,対応策の履行状況を監視していく。また,国内航空運送分野の競争状況を十分に把握・監視していくとともに,同分野における競争の促進を図る観点から,国土交通省との間で密接に連絡を取っていくこととする。さらに,必要に応じ,これらの実施状況等について適宜公表することとする。
 
事例11 日立造船(株)と日本鋼管(株)の造船事業の統合
1 本件の概要
 本件は,日立造船(株)と日本鋼管(株)が,国際競争の激化等に対応するため,営業,設計,調達,製造,管理及び研究開発において,コストの削減や商品開発力・技術力の強化等を図ることを目的として,共同出資会社を設立し,両社の造船事業を統合するものであ る。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
 本件においては,造船分野における競争への影響の検討に当たり,商船の建造及び修理の各分野に一定の取引分野が成立するものと判断した。
 また,商船とは基本的な用途が異なる艦艇については,船体構造に係る技術,用途に応じて,水上艦及び潜水艦の各建造及び修理分野にそれぞれ一定の取引分野が成立するものと判断した。
(2) 競争への影響
 上記(1)で画定した取引分野のうち,競争への影響が大きいと考えられる商船の建造分野及び水上艦の建造分野について重点的に検討を行った。
ア 商船の建造分野
 本件統合により,商船の建造分野における当事会社の合算国内竣工量シェア・順位は,約15%・第1位となるが,以下の事実が認められることから,当該分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
(ア)国内竣工量シェアが10%を超える有力な競争業者が複数存在する。
(イ)国内造船メーカーと同等の技術水準を有し,かつ,当事会社の合算竣工量を上回る竣工実績を有する複数の韓国造船メーカーが,国内ユーザーに対し,より低廉な価格で商船を供給している。
(ウ)国内のユーザーも,より低廉な価格での商船調達を確保する観点から,韓国造船メーカーとの取引を重視しており,商船の建造を発注する際には,韓国造船メーカーを含めた形で相見積りを取っており,また,上記(イ)のとおり受注実績もあることから,国内市場への競争圧力として評価できる。
イ 水上艦の建造分野
 本件統合により,水上艦の建造分野における当事会社の合算受注額シェア・順位は,約15%・第4位となるが,以下の事実が認められることから,当該取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
(ア)受注額シェアが30%を超える有力な競争業者が複数存在する。
(イ)統合後においても当事会社の順位は変わらず,また,受注額シェアの増分も1%にも満たない。
(ウ)ユーザーは防衛庁のみであり,また,発注先の決定も,原則として指名競争入札によって行われていることに加え,同庁による原価の積算に基づき,入札価格の妥当性についても判断が行われており,同庁の価格交渉力は強いものとなっている。
事例12 住友電気工業(株)グループ,日立電線(株)グループ及びタツタ電線(株)による建設業・電線販売業向け合成樹脂絶縁電力電線・ケーブル等の事業の統合
1 本件の概要
 本件は,住友電気工業(株)グループ,日立電線(株)グループ及びタツタ電線(株)が,需要の減少等事業環境の悪化に対処するため,合成樹脂絶縁電力電線・ケーブル等に係る事業を統合し,生産地域,品種等による分業,物流の合理化,製造販売一体としての合理化等を進めることにより,事業基盤の確立及び改善を図ろうとするものである。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
 本件統合の対象製品は,建設業・電線販売業向けの合成樹脂絶縁電力電線・ケーブル,光ファイバーケーブル,20万V未満電力ケーブル及び通信ケーブルであり,それぞれ機能・用途等が異なっていることから,建設業・電線販売業向けのそれぞれの製品の製造販売分野に一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響
 上記(1)で画定した取引分野のうち,競争への影響が大きいと考えられる建設業・電線販売業向けの合成樹脂絶縁電力電線・ケーブル分野及び光ファイバーケーブル分野について重点的に検討を行った。
ア 本件統合により,いずれの取引分野についても,当事会社の合算販売シェア・順位は,約35%・第1位となる。
イ しかしながら,以下の事実が認められることから,いずれの取引分野における競争も実質的に制限することとはならないと判断した。
(ア)いずれの取引分野においても,販売シェアが10%を超える有力な競争業者・グループが複数存在する。
(イ)いずれの製品についても,海外メーカーも日本のユーザー向けにJIS規格品を製造していること問題もなく,ユーザーは購入先を容易に選択・変更できる。このため,ユーザーからの価格引下げ圧力は強く,価格は低下傾向にある。
(ウ)いずれの製品のユーザーも,輸入品を採用したり,輸入価格を価格交渉の材料としており,また,上記(イ)のとおり輸入品と国産品との間で品質差や使い慣れの問題もないことから,輸入が競争圧力として機能していると評価できる。
事例13 (株)広島総合銀行及び(株)せとうち銀行の持株会社の設立による事業統合
1 本件の概要
 本件は,広島県を主な営業地域とする(株)広島総合銀行(以下「広島総合銀行」という。) 及び(株)せとうち銀行(以下「せとうち銀行」という。)が,顧客サービスの向上,経営基盤の強化等を目的として,共同で持株会社を設立して事業統合を行うものである。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
ア 役務の範囲
 預金業務及び貸出業務のそれぞれについて,一定の取引分野が成立すると判断した。
イ 地理的範囲
 広島総合銀行及びせとうち銀行の営業地域等からみて,広島県全域において一定の取引分野が成立すると判断した。また,地域経済の実態等からみて,広島県内の地域別にも,一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響
 近年,我が国においては金融市場の自由化が進みつつあるところ,直接金融の進展により企業の資金調達手段が多様化するとともに,都市銀行等による中小企業向け取引の拡充等により,都市銀行や地方銀行という枠を超えた競争が活発化する動きがみられる。また,地方銀行,信用金庫等の地域金融機関が,個人・企業に対して多様な商品・サービスの提供等を行う動きがあり,地域金融機関間の競争も活発化しつつあるとみられる。
 本件統合により,広島県における全金融機関ベースでの当事会社の合算シェア・順位は,預金業務については約10%・第3位,貸出業務については15%強・第2位となるところ,広島県全域には,預金業務及び貸出業務において,地方銀行,信用金庫,郵便局(預金のみ)等の有力な競争業者が存在し,また,県内の各地域についても,預金業務及び貸出業務において,いずれも当事会社以外に首位事業者を含む競争業者が多数存在する。
 上記の事情を総合的に勘案した結果,上記(1)で画定したいずれの取引分野についても,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
事例14 (株)親和銀行及び(株)九州銀行の持株会社の設立による経営統合
1 本件の概要
 本件は,長崎県を主たる営業地域とする(株)親和銀行(以下「親和銀行」という。)と長崎県及び福岡県を主たる営業地域とする(株)九州銀行(以下「九州銀行」という。)が,重複店舗の統廃合,システム統合等による経営基盤の強化等を目的として,共同で持株会社を設立して経営統合を行うものである。
2 独占禁止法上の考え方
(1) 一定の取引分野
ア 役務の範囲
 預金業務及び貸出業務のそれぞれについて,一定の取引分野が成立すると判断した。
イ 地理的範囲
 親和銀行及び九州銀行の営業地域等からみて,長崎県全域において一定の取引分野が成立すると判断した。また,地域経済の実態等からみて,長崎県内の地域別にも,一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 競争への影響
ア 近年,我が国においては金融市場の自由化が進みつつあるところ,直接金融の進展により企業の資金調達手段が多様化するとともに,都市銀行等による中小企業向け取引の拡充等により,都市銀行や地方銀行という枠を超えた競争が活発化する動きがみられる。また,地方銀行,信用金庫等の地域金融機関が,個人・企業に対して多様な商品・サービスの提供等を行う動きがあり,地域金融機関間の競争も活発化しつつあるとみられる。
イ 本件統合により,長崎県における当事会社の合算シェアは,預金業務については20%強で,その順位は第2位となる。貸出業務については約35%で,その順位は第1位となるが,当事会社に匹敵するシェアを有する地方銀行が有力な競争業者として存在しているほか,他の地方銀行等の競争業者も多数存在する。
 また,長崎県北部の複数の地域において,貸出業務における当事会社の合算シェアが高くなり,その順位がそれぞれ第1位となる。このため,これらの地域において競合する金融機関,当事会社から融資を受ける事業者等に対するヒアリング調査を実施し,慎重に検討したところ,これらの地域においては,(1)有力な地方銀行が積極的な営業活動を行っていること,(2)地方銀行,農協等の競争業者が相当数存在すること,(3)地域外に所在する都市銀行及び信用金庫からも融資が行われていること,という状況が認められる。
ウ 以上の状況から,上記(1)で画定したいずれの取引分野についても,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。