第9章 持株会社・株式保有・役員兼任・合併・分割・営業譲受け等

第1 概説

 独占禁止法第4章は,事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等の禁止(第9条),銀行又は保険会社の議決権保有の制限(第11条)並びに一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合の会社等の株式保有・役員兼任・合併・分割・営業譲受け等の禁止並びに届出又は報告義務(第10条及び第13条から第16条まで〉を規定しており,公正取引委員会は,かかる手続に従い,企業結合審査を行っている。

第2 企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針

 公正取引委員会は,当事会社からの具体的な企業結合計画に関する事前相談があった場合には,独占禁止法第4章の規定に照らして問題があるか否かについて審査を行い,当該審査結果について当事会社に回答しているところであるが,近年,事前相談に対する公正取引委員会の審査について一層の迅速化及び透明性の向上が求められてきている。
 このため,公正取引委員会は,事前相談の迅速性及び透明性をより一層高める観点から,平成14年12月11日,「企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針」を公表し,以下のような点について明確化を図った。
(1)  企業結合計画の具体的内容を示す資料が提出された日から,原則として30日以内に,当事会社に対し,独占禁止法上問題がない旨又は詳細審査が必要な旨(審査対象となる品目・役務及び調査のポイント等を含む。)を通知する。
(2)  その後詳細審査に必要な資料がすべて提出された日から,原則として90日以内に,審査結果についてその理由も含め,回答を行う。
 さらに,公正取引委員会の審査結果の透明性を一層高めるため,当該対応方針の公表とともに,詳細審査を行った案件に対する回答内容及び公表内容を拡充する旨の方針を明らかにした。

第3 企業・産業再生に係る事案に関する企業結合審査について

  「企業・産業再生に係る事案に関する企業結合審査について」の公表
(1)   趣旨
 政府は,過剰債務企業が抱える優良な経営資源の再生と過剰供給構造の解消を図るため,平成14年12月19日の産業再生・雇用対策戦略本部決定において,「企業・産業再生に関する基本指針」を定め,企業・産業再生のためにあらゆる政策手段を整合性のある形で採ることとしているところ,同指針において,特に産業活力再生特別措置法の対象となる事案の企業結合審査については,運用指針を定め,関係事業者の協力の下,審査の一層の迅速化等を図ることとされたことを受けて,平成15年4月9日,公正取引委員会は「企業・産業再生に係る事案に関する企業結合審査について」を新たに策定・公表した。
(2)   「企業・産業再生に係る事案に関する企業結合審査について」の概要
 「企業産業再生に係る事案に関する企業結合審査について」の概要は次のとおりである。
 審査機関の短縮
 産業活力再生特別措置法の対象となる事案(以下「産業再生関連事案」という。)について,独占禁止法上の問題を生じるおそれが少ないと考えられるものを,これに該当するかどうか比較的短期間で判断することができる形で5つに類型化し,産業再生関連事案がこの5つの迅速審査類型のいずれかに該当する場合には,通常30日以内で行うこととしている書面審査を原則として15日以内に短縮する。
 待機期間の短縮
 産業再生関連事案について,事前相談に対し独占禁止法上問題ない旨回答した事案については,原則として当事会社の求めに応じて,通常30日間である合併等の待機期間を7日間とすることを限度として,また,事前相談がなく届出がされ,独占禁止法上の問題がないと認められる事案については,原則として当事会社の求めに応じて待機期間を15日間とすることを限度として短縮する。
 審査結果の公表
 産業再生関連事案について,詳細審査を行ったものの審査結果を公表するほか,迅速審査類型のいずれにも該当しないが詳細審査に至る前に独占禁止法上問題がないものと判断したもののうち,他の事業者の参考となるものについても,当事会社の同意を得て,審査結果を公表する。
  企業・産業再生案件特別チームの設置
 産業再生関連事案について,できる限り迅速に処理するために企業・産業再生案件特別チームを設け,事業者の相談にも一元的に対応することとした。

第4 独占禁止法第9条の規定による報告・届出

 平成14年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第9条第1項及び第2項の規定は,事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の設立・転化を禁止しており,持株会社は,持株会社及びその子会社の総資産合計額が3000億円を超える場合には,(1)毎事業年度終了後3か月以内に持株会社及び子会社の事業報告書を提出すること(同条第6項),(2)持株会社の新設について設立後30日以内に届け出ること(同条第7項)が義務付けられていた。
 平成14年11月28日に施行された同法による改正後の独占禁止法第9条第1項及び第2項の規定は,他の国内の会社の株式を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立・転化を禁止することとされ,当該会社及び子会社の総資産合計額が,(1)持株会社については6000億円,(2)銀行業,保険業又は証券業を営む会社(持株会社を除く。)については8兆円,(3)一般事業会社((1)及び(2)以外の会社)については2兆円を超える場合には,(1)毎事業年度終了後3か月以内に当該会社及び子会社の事業報告書を提出すること(同条第5項),(2)当該会社の新設について設立後30日以内に届け出ること(同条第6項)が義務付けられた。
 平成14年度において,改正前の独占禁止法第9条第6項の規定に基づき提出された持株会社の事業報告書の提出件数は14件であり,同条第7項の規定に基づく持株会社の設立の届出は7件であった。改正後の独占禁止法第9条第5項の規定に基づき提出された会社の事業報告書の提出件数は2件であり,同条第6項の規定に基づく会社の設立の届出はなかった。

第5 株式保有

大規模会社の株式保有
 平成14年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第9条の2第1項の規定により,大規模会社(金融業以外で資本金350億円以上又は純資産1400億円以上の株式会社(持株会社たる株式会社を除く。))は,自己の資本金又は純資産のいずれか多い額を超えて国内の会社の株式を保有してはならないこととされていた(ただし,大規模会社が,外国会社等と共同出資により設立した会社の株式をあらかじめ公正取引委員会の認可を受けて保有する場合(同項第7号)又はやむを得ない事情により国内の会社の株式をあらかじめ公正取引委員会の承認を受けて保有する場合(同項第11号)等におけるこれらの株式の保有については,同項の規定が適用されないこととされていた。)が,平成14年11月28日に施行された同法の改正により,同条は廃止された。
 平成14年度において,平成14年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第9条の2第1項第7号の規定に基づき認可したもの及び同項第11号の規定に基づき承認したものは,いずれもなかった。
会社の株式保有
 独占禁止法第10条第2項及び第3項の規定では,総資産が20億円を超えかつ総資産合計額(当該会社の総資産並びに親会社及び子会社の総資産の合計額。以下同じ。)が100億円を超える会社が,総資産が10億円を超える国内の会社又は国内売上高(国内の営業所の売上高及び国内の子会社の売上高の合計額。以下同じ。)が10億円を超える外国会社の株式を10%,25%又は50%を超えて取得し,又は所有することとなる場合には,この比率を超えることとなった日から30日以内に,公正取引委員会に株式所有報告書を提出しなければならないこととされている。
 平成13年度において,公正取引委員会に提出された会社の株式所有報告書の件数は,899件であり,うち外国会社によるものは48件であった。
 公正取引委員会は,株式所有報告書に基づいて,国内の会社の株式の取得若しくは所有により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか,又は株式の取得若しくは所有が不公正な取引方法によるものであるかについて調査を行っており,前者については,個々のケースごとに,当事会社の地位,市場の状況等を総合的に勘案して判断している。
金融会社の議決権保有
 平成14年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第11条第1項の規定は,金融会社が他の国内の会社の議決権をその総株主の議決権の100分の5(保険会社は100分の10)を超えて保有してはならないこととする一方,金融会社があらかじめ公正取引委員会の認可を受けた場合には,同項の規定が適用されないこととされていた。
 平成14年11月28日に施行された独占禁止法の改正による改正後の同項の規定は,銀行又は保険会社が非金融会社の議決権をその総株主の議決権の100分の5(保険会社は100分の10)を超えて保有してはならないこととしているが,銀行又は保険会社があらかじめ公正取引委員会の認可を受けた場合には,従前どおり,同項の規定の適用を受けないこととされた。
 平成14年度において,公正取引委員会が認可した金融会社の議決権保有件数は131件であり,このうち同条第1項ただし書の規定に基づくものは114件(銀行に係るもの77件,証券会社に係るもの15件,保険会社に係るもの22件),同条第2項の規定に基づくものは17件(すべて銀行に係るもの)であった。また,同条第1項ただし書の規定に基づく認可件数のうち、外国会社に係るものは7件であったが,同条第2項の規定に基づく認可については,外国会社に係るものはなかった。
 なお,このうち,上記独占禁止法改正後に公正取引委員会が認可した銀行又は保険会社の議決権保有件数は26件(すべて銀行に係るもの)であり,同条第1項ただし書の規定に基づくものは10件(すべて銀行に係るもの),同条第2項の規定に基づくものは16件であった。また,外国会社に係るものはなかった(なお,金融会社の株式保有についての詳細は,附属資料7―1参照。)。

第6 合併・分割・営業譲受け等

概要
 一定の規模を超える会社が,合併,分割又は営業譲受け等を行う場合には,それぞれ独占禁止法第15条第2項及び第3項,第15条の2第2項,第3項及び第5項又は第16条第2項及び第3項の規定により,公正取引委員会に届け出なければならないこととされている(ただし,親子会社間及び兄弟会社間の合併,分割及び営業譲受け等については届出が不要である。)。
 届出が必要な場合は,具体的には次のとおりである。
(1)   合併の場合


(2)   共同新設分割の場合


(3)   共同新設分割の場合


(4)   営業譲受け等の場合


 平成14年度において,届出を受理した件数は,合併の届出は112件,分割の届出は21件,営業譲受け等の届出は197件であった。
 公正取引委員会は,合併,分割,営業譲受け等により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか,又は当該行為が不公正な取引方法によるものであるかについて調査を行っており,前者については,個々のケースごとに,当事会社の地位,市場の状況等を総合的に勘案して判断している。
 平成14年度に届出を受理したもののうち,独占禁止法第15条第1項,第15条の2第1項及び第16条第1項の規定に違反するとして,同法第17条の2第1項の規定に基づき排除措置を採ったものはなかった。
合併・分割・営業譲受け等の動向
 平成14年度における合併の届出受理件数は,112件となっており,前年度の届出受理件数127件に比べ減少している(対前年度比11.8%減)。
 平成14年度における分割の届出受理件数は,21件となっており,前年度の届出受理件数20件に比べ増加している(対前年度比5%増)。
 平成14年度における営業譲受け等届出受理件数は,197件となっており,前年度の届出受理件数195件に比べ増加している(対前年度比1.0%増)。
 平成14年度に届出を受理した合併・分割・営業譲受け等を総資産額別,態様別,業種別,形態別でみると,次のとおりである(第1表,第2表,第3表,第4表,第5表。なお,合併・分割・営業譲受け等についての詳細な統計については,附属資料7―2以下参照。)。
(1)   総資産額別
 平成14年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数について,それぞれ合併後,共同新設分割においては新設後,吸収分割においては承継後,営業譲受け等の行為後の総資産を金額別にみると,次のとおりである。
 合併
 総資産100億円以上500億円未満の合併が42件(全体の37.5%)と最も多く,以下,1000億円以上の合併が29件(同25.9%),10億円以上50億円未満の合併が15件(同13.4%)と続いている(第1表)。
 分割
(ア)  共同新設分割
 総資産1000億円以上の共同新設分割が3件(全体の60.0%),100億円以上500億円未満の共同新設分割が2件(同40.0%)となっている(第2表)。
(イ)  吸収分割
 総資産100億円以上500億円未満の吸収分割が5件(全体の31.3%)と最も多く,以下,1000億円以上と500億円以上1000億円未満の吸収分割がそれぞれ3件(それぞれ全体の18.8%)と続いている(第3表)。
 営業譲受け等
 総資産100億円以上500億円未満の営業譲受け等が65件(全体の33.0%)と最も多く,以下,1000億円以上の営業譲受け等が48件(同24.4%),10億円以上50億円未満の営業譲受け等が32件(同16.2%)と続いている(第4表)。
(2)   態様別
 平成14年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を態様別にみると,合併については,すべてが吸収合併であり,新設合併はなかった。分割については,総数21件のうち,5件が共同新設分割,16件が吸収分割であった。また,営業譲受け等については,総数197件のうち,190件が営業譲受け,7件が営業上の固定資産の譲受けであった。
(3)   業種別
 平成14年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を業種別にみると,次のとおりである。
 合併
 卸・小売業が26件(全体の23.2%),製造業が25件(同22.3%)と多く,以下,サービス業が22件(同19.6%),金融・保険業が16件(同14.3%)と続いている。
 製造業の中では,機械業が8件,化学・石油・石炭業が5件と多くなっている(第5表)。
 分割
 製造業が15件(全体の71.4%)と最も多く,建設業と卸・小売業がそれぞれ2件(同9.5%)と続いている。
 製造業の中では,機械業が7件,化学・石油・石炭業が5件となっている(第5表)。
 営業譲受け等
 製造業が65件(同33.0%),卸・小売業が55件(全体の27.9%)と多く,以下,サービス業が30件(同15.2%),金融・保険業が11件(同5.6%)と続いている。
 製造業の中では,機械業が22件,化学・石油・石炭業が20件と多くなっている(第5表)。
(4)   形態別
 平成14年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を形態別にみると,次のとおりである。
 合併
 合併の形態別件数(消滅会社数でみた件数)は181件であり,そのうち水平関係が107件(全体の59.1%)で最も多く,以下,混合関係64件(同35.4%),垂直関係10件(同5.5%)と続いている。
 分割
 分割の形態別件数(届出会社数でみた件数)は24件であり,そのうち水平関係が12件(全体の50.0%)で最も多く,以下,垂直関係7件(29.2%),混合関係5件(同20.8%)と続いている。
 営業譲受け等
 営業譲受け等の形態別件数(譲渡等会社数でみた件数)は198件であり,そのうち水平関係が145件(全体の73.2%)で最も多く,以下,混合関係37件(同18.7%),垂直関係16件(同8.1%)と続いている。

第1表   総資産額割合併届出受理件数

(注)  1  総資産の額は,合併後のものである。
 2  平成10年の独占禁止法改正により,親子会社を含めた総資産合計額を届出対象の基準としているため,合併後の会社の単体総資産が10億円以下となることがある。

第2表   総資産額別共同新設分割届出受理件数

(注)  総資産の額は,共同新設分割後の新設会社のものである。

第3表   総資産額別吸収分割届出受理件数

(注)  総資産の額は,吸収分割後の被承継会社のものである。

第4表   総資産額別営業譲受け等届出受理件数

(注)  総資産の額は,営業譲受け等行為後の譲受け等会社のものである。

第5表   平成14年度における業種別届出受理件数

(注)  業種は,合併の場合には新設会社及び存続会社の業種に,分割の場合には新設会社又は被承継会社の業種に,営業譲受け等の場合には営業譲受け等会社の業種によった。