第13章 消費者取引に関する業務

第1 概説

 近年,消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化等,消費者を取り巻く経済社会情勢は大きく変化してきており,また,規制緩和の進展に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確保していくことが重要な課題となっている。
 公正取引委員会では,独占禁止法や景品表示法を厳正に運用し,違反事件の排除に努めるほか,消費者の関心の高い商品・サービスや電子商取引等の新しい分野における実態調査を行うこと等を通じて,景品表示法上の考え方を明らかにするためのガイドライン等を策定するなど,公正かつ自由な競争を促進し,消費者取引の適正化に努めている。

第2 消費者取引の適正化への取組

1 消費者向け電子商取引の適正化への対応
 公正取引委員会は,一般家庭におけるインターネットの急速な普及とともに拡大しつつある消費者向け電子商取引について,健全な発展と消費者取引の適正化を図る観点から,平成15年度においては次のような取組を行った。
(1)   インターネット接続サービスの取引に係る広告表示の実態調査(平成15年6月)
 最近におけるADSL接続サービスの広告活動の活発化,利用者の大幅な増加等の状況を踏まえ,インターネット接続サービス事業者のADSL接続サービスの取引に係る広告表示について実態調査を行った。調査の結果,消費者の誤認を招くおそれのある表示として,(1)インターネット接続サービスの通信速度に関し,あたかも常に最大通信速度でサービスの提供を受けることができるかのような表示,(2)期間限定キャンペーン中に適用される価格の比較対照価格として過去に適用実績の全くない価格等根拠のない価格の表示等がみられた。
 このような消費者の誤認を招くおそれのある表示を行っている事業者が多数見受けられたこと,不当表示を未然に防止するとともに,消費者の適正な選択を実現するためには,インターネット接続サービス事業のサービス特性に相応した表示ルールを策定することが重要であることから,業界団体に対して,本件調査結果を踏まえた会員事業者の表示改善指導及び表示規約の策定を含めた表示の適正化への取組を要請した。
(2)   「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」の一部改定(平成15年8月)
 「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」(平成14年6月公表。以下「留意事項」という。)においては,インターネット接続サービスの取引における表示についての景品表示法上の問題点,問題となる事例及び表示上の留意事項を示しているところであるが,前記インターネット接続サービスの取引に係る広告表示の実態調査結果を踏まえ,インターネット接続サービスに係るサービス料金に関する表示についての問題となる事例や表示上の留意事項を拡充すること等を内容とする「留意事項」の一部改定原案を公表するとともに,関係各方面から広く意見を求め,これらの意見を十分検討した上で,一部改定原案どおり「留意事項」を一部改定した。
(3)   電子商取引監視調査システムによる常時監視の実施
 インターネットを利用した広告表示については,従来から,集中的かつ定期的な監視調査(インターネット・サーフ・デイ)を実施してきているところであるが,平成14年8月からは,これに加え,一般消費者等に,「電子商取引調査員」としてインターネット上の広告表示の調査を委託して,電子商取引監視調査システムを通じて報告を求めることにより,常時監視を行い,景品表示法違反事件の端緒,景品表示法の遵守について啓発するメールの送信等に利用している。
 平成15年度においては,電子商取引調査員を80名に増員し,監視体制の強化を図った。
 また,インターネットで生じる問題は,国内にとどまるものではないことから,OECD加盟国を中心とした消費者保護機関等から成るICPEN(International Consumer Protection and Enforcement Network:国際的消費者保護・執行ネットワーク)の枠組の下で,参加各国の関係当局がインターネット上の広告について共通のテーマを選定し,法令違反の疑いがないかを一斉に点検するInternational Internet Sweepに参加するなど諸外国の関係当局との連携を深めていくこととしている。
 平成15年度においては,平成16年2月に実施したInternational Internet Sweepに参加した。
2 消費者取引に関する実態調査
(1)   保険商品の新聞広告等における表示の調査(平成15年5月)
 保険商品の募集について,インターネットを通じた販売や通信販売の形態を用いる保険会社等により,新聞等による広告表示が積極的に行われていること等を踏まえ,保険商品の新聞広告等の表示について調査を行ったところ,(1)消費者に対して保障内容の制限条件等を明瞭に表示しているとはいえないもの,(2)保険料等について,特定年齢層の保険料の用例のみを強調して表示するなどして,その安さや有利性を強調しているケースがみられたことから,かかる広告表示を行っていた各保険会社に対して,消費者の適切な商品選択に資するよう,表示の適正化を図るための指摘を行うとともに,(社)生命保険協会に対して,会員会社に対する適正表示の取組の指導及び表示に関する公正競争規約の策定を含む表示の適正化への取組等の要望を行った。
(2)   いわゆる「ノンアルコール飲料」の表示の適正化について(平成15年7月)
 近年,例えば,「ノンアルコールビール」,「ノンアルコールワイン」等と,酒類の名称に「ノンアルコール」との文言を冠した,いわゆる「ノンアルコール飲料」の市場が急速に拡大している状況にある。消費者は「ノンアルコール飲料」について,アルコール分が含有されていないにもかかわらず酒類であるビール等の風味を得ることができるものとして選好しているものと考えられるが,実際には,「ノンアルコール飲料」には,ある程度のアルコール分が含有されている。このような酒類の代替的飲料に「ノンアルコール」等の表示が行われると,消費者は,アルコール分が全く含有されていない酒類の代替的飲料であると誤認するおそれがある。このような状況を踏まえ,ノンアルコール飲料の製造業者又は販売業者を構成事業者に含む事業者団体に対し,消費者の適切な商品選択に資する観点から,構成事業者に対する表示の適正化の指導を要望した。
(3)   温泉表示に関する実態調査(平成15年7月)
 近年,消費者の健康志向,温泉ブームを反映して,温泉施設業者や旅行業者のパンフレット等における温泉表示においても,温泉の内容について強調した表示が増えている。そこで温泉表示の実態及び消費者の意識等を調べたところ,消費者に必ずしも十分な情報が提供されていないなどの問題点が認められた。これを踏まえ,(1)源泉に加水,加温,循環ろ過等を行っているにもかかわらず,パンフレット等において「源泉100%」,「天然温泉100%」等,源泉をそのまま利用しているような強調表示を行うことは,消費者の誤認を招くおそれがある,(2)「天然温泉」との表示を行う場合には,あわせて,源泉への加水,加温,循環ろ過装置の使用の有無に関する情報が提供される必要があるなど景品表示法上の考え方を整理するとともに,関連団体に対し,パンフレット等の表示において,温泉に関する情報提供をより積極的に行うよう傘下会員への周知を要請した。
(4)   テレビショッピング番組の表示に関する実態調査(平成15年9月)
 昨今,いわゆるテレビショッピング番組が多く見受けられるようになっている。テレビショッピング番組の表示については,情報が瞬時に消えるという特徴があり,また,一般消費者の認識に与える影響が大きいというテレビ媒体としての特性があるため,不正確・不十分な表示が行われると,一般消費者の誤認を招きやすいという特徴がある。このため,テレビショッピング番組の表示に関する実態調査を行い,調査の結果を踏まえ,例えば,効果,性能を標ぼうする表示や利用者の体験談の表示を行う場合について,景品表示法上問題となるおそれのある表示例を示すとともに,景品表示法上の考え方を取りまとめた。
 さらに,テレビショッピング番組における表示の適正化を図るためには,事業者団体等における,具体的で実態に即した自主基準の策定等の自主的な取組も重要であることから,販売業者の事業者団体,放送事業者の事業者団体に対して,本調査結果を踏まえ,テレビショッピング番組の表示の適正化に向けた自主的な取組について要望した。

第3 消費者モニター制度

1 概要
 消費者モニター制度は,独占禁止法や景品表示法の施行その他公正取引委員会の消費者保護の諸施策の的確な運用に資するため,当委員会の依頼する特定の事項の調査,違反被疑事実の報告,消費者としての体験,見聞等の報告その他当委員会の業務に協力を求めるものであり,昭和39年度から実施されている。
 平成15年度は,関東甲信越地区322名,北海道地区75名,東北地区111名,中部地区124名,近畿地区185名,中国地区85名,四国地区59名,九州地区121名,沖縄地区18名,合計1,100名を消費者モニターに選定し委嘱した。平成15年度の消費者モニターの応募総数は9,850名,応募倍率は約9.0倍であった。
2 活動状況
 平成15年度においては,3回のアンケート調査のほか,「効能・効果」に関する表示について,その実態を把握するため,消費者モニターを介して広告物の収集を行った。さらに,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,意見等を求めた。
(1)   アンケート調査
 平成15年度におけるアンケート調査の概要は,次のとおりである。
 温泉表示に関するアンケート調査
 温泉表示に関する消費者意識の実態を把握するため,アンケート調査を行った。
 ブロードバンド・サービス等の競争実態に関するアンケート調査
 ブロードバンド・サービス等のユーザー側からみた競争実態について把握するため,アンケート調査を行った。
 著作物再販制度の弾力的運用に関するアンケート調査
 著作物再販制度に関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。
(2)   広告物の収集
 「効能・効果」に関する表示の実態を把握するため,同表示に関する広告物の収集を行った。
(3)   自由通信
 消費者モニターは,前記アンケート調査のほか,自由通信という形で,随時,公正取引委員会に対し,自由に意見及び情報を提供している。これは,(1)独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の通報,(2)景品表示法に基づいて設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,(3)その他一般的な意見の提供等を行うものであり,平成15年度においては合計4,440件の自由通信が寄せられた(第1表)。
(4)   各種会合等への参加
 公正取引委員会は,景品表示法の運用に当たり,消費者団体との懇談会,試買検査会等に消費者モニターの出席を求め,一般消費者の立場からの意見を求めている。
 平成15年度においては,各地区における消費者団体との懇談会,試買検査会(第2表)に消費者モニターが出席した。

第1表   消費者モニター通信状況


第2表   試買検査会開催状況