第2章 違反被疑事件の審査及び処理

第1 違反被疑事件の審査及び処理の状況

 独占禁止法は,事業者が私的独占又は不当な取引制限をすること,不公正な取引方法を用いること等を禁止しており(第3条,第19条ほか),当委員会は,一般から提供された情報,自ら探知した事実等を検討し,これらの禁止規定に違反する事実があると思料するときは,独占禁止法違反被疑事件として必要な審査を行っている。
 審査事件のうち必要なものについては独占禁止法第46条の規定に基づく権限を行使して審査を行い,違反する事実があると認められたときは,排除措置を採るよう勧告し(第48条第1項及び第2項),若しくは審判手続を開始し(第49条第1項),又は違反行為がなくなってから1年を経過しているため,勧告を行うことができないが,課徴金納付命令の対象となる場合には,同命令を行っている(第48条の2)。
 なお,相手方が勧告を応諾した場合には勧告審決(第48条第4項),その他の場合は審判手続を経て同意審決(第53条の3)又は審判審決(第54条)を行っている。相手方が課徴金納付命令に対して不服を申し立て審判手続の開始を請求した場合には,審判手続が開始され,同命令は審判手続に移行する(第49条第2項及び第3項)。
 また,勧告等の法的措置(注)を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反の疑いがあるときは,関係事業者に対して警告を行い,是正措置を採るよう指導している。
 さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが,違反につながるおそれのある行為がみられた場合には,未然防止を図る観点から注意を行っている。
 なお,法的措置及び警告については,当該事実を公表している。また,注意及び打切りについては,競争政策上公表することが望ましいと考えられる事案については,関係事業者から公表する旨の了解を得た場合又は違反被疑の対象となった事業者が公表を望む場合は,その旨公表している。
 平成15年度における審査件数(小売業における不当廉売事案で迅速処理したものを除く。)は,前年度からの繰越しとなっていたもの40件,年度内に新規に着手したもの121件,合計161件であり,このうち本年度内に処理した件数は123件である。
 123件の内訳は,勧告等の法的措置25件,警告13件,注意75件及び違反事実が認められなかったため審査を打ち切ったもの10件となっている(第1―1表)。
(注) 勧告等の法的措置とは,「勧告」及び「勧告を行っていない課徴金納付命令」である。

第1―1表   最近の審査事件処理状況(不当廉売事案で迅速処理したものを除く)

(注) 1. ( )内の数字は,各年度の勧告又は課徴金納付命令に係る審判開始決定を行った事件数である。
2. 勧告を行っていない課徴金納付命令事件数である。
3. 「打切り」とは,違反事実が認められなかったなど,措置を採る必要が認められなかったため,審査を打ち切るものをいう。
4. 課徴金の納付を命じる審決を含み,審判手続を開始したものを含まない。
5. 平成11年度の告発の( )内の数字は当該年度に告発を行った事件について追加告発を行ったものである。

第1―2表   小売業における不当廉売事案における迅速処理の状況


法的措置件数と対象事業者等の数の推移


 平成15年度において,勧告,警告,注意又は打切りのいずれかの処理を行ったものを行為類型別にみると,私的独占3件,価格カルテル4件,入札談合19件,その他のカルテル1件,不公正な取引方法76件,その他20件となっている(第2表)。法的措置として勧告を行った事件は25件であり,この内訳は,価格カルテル3件,入札談合14件,不公正な取引方法7件となっている(第3表,第4表)。
 なお,平成15年度において,独占禁止法の規定に違反する事実があると思料され,当委員会に報告(申告)された件数は2,395件となっている。この報告が書面で具体的な事実を摘示して行われた場合には,措置結果を通知することとされており(第45条第3項),平成15年度においては,1,122件の通知を行った。
 なお,公正取引委員会は,独占禁止法違反被疑行為の端緒情報をより広く収集するため,平成14年4月からインターネットを利用した申告が可能となる電子申告システムを公正取引委員会のホームページ上に設置し,運用を開始している。

申告件数の推移


第2表   平成15年度審査事件(行為類型別)一覧表

(注) 1. 価格カルテルとその他のカルテルが関係している事件は,価格カルテルに分類している。また,複数の行為類型に係る事件は主たる行為に即して分類している。
(注) 2. 「その他のカルテル」とは数量,販路,顧客移動禁止,設備制限等のカルテルである。
(注) 3. 第8条第1項第5号に係る事件は,不公正な取引方法に分類している。
(注) 4. 「その他」とは,事業者団体による構成.事業者の機能活動の制限等である。
(注) 5. 「課徴金納付命令」とは,勧告を行っていない課徴金納付命令である。

第3表   最近5年間の勧告等の法的措置(行為類型別)一覧表

(注) 第2表の(注)1〜4に同じ。

行為類型別の法的措置件数


第4表   平成15年度法的措置一覧表



(注1) 一連番号1及び2の事件については,1社が勧告を応諾しなかったので,それぞれ,平成15年6月11日に審判開始決定が行われたが,同社から同意審決の申出があったため,平成15年8月7日,同意審決を行った。
(注2) 一連番号3の事件については,11社が勧告を応諾しなかったので,平成15年6月20日に審判開始決定が行われている。
(注3) 一連番号6の事件については,1社が勧告を応諾しなかったので,平成15年8月25日に審判開始決定が行われたが,1同社から同意審決の申出があったため,平成16年2月5日,同意審決を行った。
(注4) 一連番号14の事件については,勧告が応諾されなかったので、平成15年12月5日に審判開始決定が行われている。
(注5) 一連番号15の事件については,1社が勧告を応諾しなかったので,平成16年1月7日に審判開始決定が行われている。
(注6) 一連番号20の事件については,勧告が応諾されなかったので,平成16年1月15日に審判開始決定が行われている。
(注7) 一連番号21の事件については,2社が勧告を応諾しなかったので,平成16年2月2日に審判開始決定が行われている。
(注8) 一連番号25の事件については,14社が勧告を応諾しなかったので,平成16年5月12日に審判開始決定が行われている。