第2 勧告等の法的措置

3 審判開始決定事件
 公正取引委員会は,独占禁止法違反の疑いで審査を行い,同法に違反する事実があると認めて排除措置を採るよう勧告し(第48条第1項及び第2項),勧告を受けたものが当該勧告を応諾しなかった場合において,事件を審判手続に付することが公共の利益に適合すると認めたときは,当該事件について事件の要旨を記載した文書をもって審判開始決定を行っている(第49条第1項及び第50条第2項)。
 また,公正取引委員会は,違反行為がなくなった日から一年を経過していることから勧告を行うことができないが,課徴金納付命令の対象となる場合に行った課徴金納付命令(第48条の2第1項)に対し,相手方が不服を申立て,審判手続の開始請求をした場合には,課徴金に係る違反行為,課徴金の計算基礎及び法令の適用を記載した文書をもって審判開始決定を行っている(第48条の2第5項,第49条第2項)。

(1)   太平ビルサービス(株)に対する件(平成15年(判)第20号及び平成15年(判)第21号)


ア 被審人


 なお,次に掲げる山口地区における関係人21社(以下「21社」という。)及び下関地区における関係人13社(以下「13社」という。)については,勧告を応諾したため,平成15年5月15日にこれらの者に対し,勧告審決(平成15年(勧)第15号及び平成15年(勧)第16号)を行っている。(後記エ)

イ 関係人



ウ 審判開始決定の内容
(ア) 山口地区(平成15年(判)第20号)
(a)  林野庁近畿中国森林管理局山口森林管理事務所,山口県の機関,(財)山口県教育財団,(財)山口県施設管理財団,社会福祉法人山口県社会福祉事業団及び山口地域消防組合の官公庁等(以下「山口地区の官公庁等」という。)は,それぞれが管理する山口市の区域に所在する建築物内部の清掃業務(同業務に併せて発注される建築物外部の清掃業務,ごみ処理業務等を含む。以下「建築物清掃業務等」という。)を指名競争入札等の方法により発注しており,指名競争入札に当たっては,競争入札参加の資格要件を満たす者の中から指名競争入札の参加者を指名している。
(b)  山口地区の官公庁等は,ほとんどすべての指名競争入札において,被審人及び21社のうちのいずれかの者を指名している。
 山口地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等については,かねてから,指名競争入札の参加者として指名を受けた者の間で,受注に関する話合いが行われてきたところ,被審人及び21社は,遅くとも平成10年3月1日以降(別表山口地区記載の事業者にあっては,それぞれ,「期日」欄記載の年月日ころ以降),山口地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等について,受注価格の低落防止を図るため
(a)  指名を受けた者のうち,山口地区の官公庁等と既に取引を行っているものを当該業務を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)とする
(b)  受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
 被審人及び21社は,前記bにより,山口地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等のほとんどすべてを受注していた。
 平成14年5月29日,本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,被審人及び21社は,同日以降,前記bの合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。
(イ) 下関地区(平成15年(判)第21号)
(a)  国土交通省九州地方整備局(平成13年1月5日までは運輸省第四港湾建設局),山口県の機関,下関市の機関,(財)下関市公営施設管理公社及び(財)下関市文化振興財団の官公庁等(以下「下関地区の官公庁等」という。)は,それぞれが管理する山口県下関市の区域に所在する建築物清掃業務等の過半を指名競争入札の方法(指名競争入札の方法により発注し,当該発注に係る業務を受注した者との間で,次年度及び次々年度も引き続き随意契約の方法により契約を締結することとしている場合にあっては,当該随意契約の方法を含む。以下同じ。)により発注しており,指名競争入札に当たっては,競争入札参加の資格要件を満たす者の中から指名競争入札の参加者を指名している。
(b)  下関地区の官公庁等は,ほとんどすべての指名競争入札において,被審人及び13社のうちのいずれかの者を指名している。
 下関地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等については,かねてから,指名競争入札の参加者として指名を受けた者の間で,受注に関する話合いが行われてきたところ,被審人及び13社は,遅くとも平成10年3月1日以降(別表下関地区記載の事業者にあっては,それぞれ,「期日」欄記載の年月日ころ以降),下関地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等について,受注価格の低落防止を図るため
(a)  指名を受けた者のうち,下関地区の官公庁等と既に取引を行っているものを当該業務を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)とする
(b)  受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
 被審人及び13社は,前記bにより,下関地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等の大部分を受注していた。
 平成14年5月29日,本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,被審人及び13社は,同日以降,前記bの合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。
エ 21社及び13社に対する排除措置
 21社及び13社に対する勧告審決において,次の措置を採るよう命じた。
(ア) 山口地区(平成15年(判)第20号)
 21社は,遅くとも平成10年3月1日以降(別表山口地区記載の事業者にあっては,それぞれ「期日」欄記載の年月日ころ以降)行っていた,山口地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめていることを確認すること。
 21社は,次の事項を山口地区の官公庁等に通知すること。
(a)  前記aに基づいて採った措置
(b)  今後,共同して,山口地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
 21社は,今後,それぞれ,相互に又は他の事業者と共同して,山口地区の官公庁等が競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等について,受注予定者を決定しないこと。
(イ) 下関地区(平成15年(判)第21号)
 13社は,遅くとも平成10年3月1日以降(別表下関地区記載の事業者にあっては,それぞれ「期日」欄記載の年月日ころ以降)行っていた,下関地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等について,受注予定者を決定.し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめていることを確認すること。
 13社は,次の事項を下関地区の官公庁等に通知すること。
(a)  前記aに基づいて採った措置
(b)  今後,共同して,下関地区の官公庁等が指名競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
 13社は,今後,それぞれ,相互に又は他の事業者と共同して,下関地区の官公庁等が競争入札の方法により発注する建築物清掃業務等について,受注予定者を決定しないこと。

別表   合意へ中途参加した事業者
 山口地区

 下関地区


(2)   公成建設(株)ほか10社に対する件(平成15年(判)第25号)


ア 被審人


 なお,次に掲げる関係人については,勧告を応諾したため,平成15年6月18日に,勧告審決を行っている。(後記エ)
イ 関係人


ウ 審判開始決定の内容
(ア)  京都市は,ほ装工事として発注する工事のほとんどを指名競争入札の方法により発注しており,指名競争入札に当たっては,あらかじめ指名競争入札の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から指名競争・入札の参加者を指名し,また,同市が指名競争入札の方法によりほ装工事として発注する予定価格が5000万円以上の工事(以下「京都市発注の特定ほ装工事」という。)について,入札参加者に対し入札価格の積算の内訳を記載した文書を提出させている。
(イ)  被審人11社,明清建設工業(株)(以下「明清建設工業」という。)及び京都舗道(株)(以下「京都舗道」という。)は,遅くとも平成12年4月1日以降,京都市発注の特定ほ装工事について,受注価格の低落防止を図るため
 京都市から指名競争入札の参加の指名を受けた場合には,次の方法により,当該工事を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定する
(a)  当該工事について受注を希望する者(以下「受注希望者」という。)が1社のときは,その者を受注.予定者とする
(b)  受注希望者が複数のときは,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する
 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意に基づき,工事場所等の事情を勘案するなどして受注予定者を決定し,受注予定者が受注予定者以外の者にその者の入札価格の積算の内訳を記載した文書を配付するなどして,受注予定者が受注できるようにしていた。
(ウ)  被審入11社,明清建設工業及び京都舗道は,前記(イ)により,京都市発注の特定ほ装工事のほとんどすべてを受注していた。
(エ)  平成14年8月27日,本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,被審人11社及び明清建設工業は,同日以降,前記(イ)の合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。
エ 明清建設工業に対する排除措置
 明清建設工業に対する勧告審決において,次の措置を採るよう命じた。
(ア)  遅くとも平成12年4月1日以降行っていた,京都市発注の特定ほ装工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめていることを確認すること。
(イ)  次の事項を京都市に通知すること。
 前記(ア)に基づいて採った措置
 今後,共同して,京都市発注の特定ほ装工事について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
(ウ)  今後,他の事業者と共同して,京都市発注の特定ほ装工事について,受注予定者を決定しないこと。

(3)   (株)金門製作所に対する件(平成15年(判)第38号)


ア 被審人


 なお,次に掲げる関係人18社については勧告を応諾したため,平成15年8月7日に,勧告審決(平成15年(勧)第20号)を行っている。(後記エ)
イ 関係人


ウ 審判開始決定の内容
(ア) 
 水道メーターは,計量法(平成4年法律第51号)第2条第4項に定める取引若しくは証明における計量に使用され,又は主として一般消費者の生活の用に供される計量器のうち,適正な計量の実施を確保するためにその構造又は器差に係る基準を定める必要があるものとして計量法施行令(平成5年政令第329号)第2条に定める特定計量器のうちの一つであって,同令第18条の規定に基づき,検定の有効期間が8年と定められていて,上水道,工業用水道等の配水管又は給水管の中を流れる水量を適正に計量する目的で使用されており,器種,口径により,多くの種類がある。
(a)  東京都は,新品の水道メーターを発注しているほか,検定の有効期間が経過した水道メーターについては,外ケースを研磨,塗装して内部の計測器部分を交換する業務を修理委託(以下修理委託として発注される水道メーターを「修理品」という。)として発注している。
(b)  東京都が発注する新品及び修理品の水道メーターは,乾式直読型水道メーターの器種のものが,全体の購入数量のほとんどすべてを占めており,そのうち,口径13ミリメートル,同20ミリメートル及び同25ミリメートルの水道メーター(2以上の異なる口径の水道メーターが同時に発注されているものを除く。以下「3口径メーター」という。)の新品及び修理品の購入数量がほとんどすべてを占めている。
(a)  東京都は,平成9年度以降,3口径メーターを地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(平成7年政令第372号)の規定が適用される一般競争入札の方法により発注している。
(b)  東京都は,3口径メーターの一般競争入札に当たっては,公告により,入札参加希望者を募り,所定の申込条件を満たす当該参加希望者すべてを一般競争入札の参加者としている。
(イ)
 当委員会が,平成8年7月11日,東京都が発注する水道メーターの指名競争入札等の参加者25社に対して審査を開始したところ,これらの者は,それまで行っていた受注すべき者(以下「受注予定者」という。)が受注できるようにする行為を取りやめており,これ以降,東京都が発注する水道メーターの受注価格は低落していた。
 その後,被審人並びに愛知時計電機(株)(以下「愛知時計電機」という。),東洋計器(株)(以下「東洋計器」という。),リコーエレメックス(株)(以下「リコーエレメックス」という,),高畑精工(株)(以下「高畑精工」という。平成14年3月31日以前は(株)高畑工業。以下同じ。),(株)ニッコク,(株)吾妻計器製作所,大阪機工(株),東京水力器機(株),日本計器工業(株),日東メーター(株),(株)阪神計器製作所,明治時計(株),武田時計(株),(株)水戸量水器工作所,(株)愛北製作所,柏原計器工業(株),大平メーター(株)及び(株)西部水道機器製作所の18社(以下「18社」という。)は,遅くとも平成13年7月19日までに,東京都が一般競争入札の方法により発注する3口径メーターについて,受注価格の引上げを図るため
(a)
 物件ごとに受注予定者を決定し
ii  受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できる価格で応札することにより,受注予定者が受注できるよう協力する
旨合意し,この合意に基づき
(b)
 愛知時計電機は,愛知時計電機,東洋計器,リコーエレメックス及び被審人の4社(以下「大手4社」という。)が受注すべき物件と,被審人及び18社のうち大手4社以外の者(以下「中小業者」という。)が受注すべき物件を選別するとともに
ii  大手4社が受注すべき物件にあっては,愛知時計電機が従来の受注実績等を考慮して物件ごとに受注予定者を決定し
iii  中小業者が受注すべき物件にあっては,愛知時計電機から中小業者の受注予定者の決定を任された高畑精工が,愛知時計電機から中小業者が受注すべき物件の連絡を受け,従来の受注実績等を考慮して物件ごとに受注予定者を決定する
ことにより,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
(ウ)  被審人及び18社は,前記(イ)bにより,東京都が一般競争入札の方法により発注する3口径メーターの大部分を受注していた。
(エ)  被審人及び18社は,平成14年7月17日以降,前記(イ)bの合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。
エ 18社に対する排除措置
 18社に対する勧告審決において,次の措置を採るよう命じた。
(ア)  それぞれ,平成13年7月19日までに行っていた合意に基づき,東京都が地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(平成7年政令第372号)の規定が適用される一般競争入札の方法により発注する3口径メーターについて,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていたことを取りやめていることを確認すること。
(イ)  次の事項を東京都に通知するとともに,自社の従業員に周知徹底させること。
 前記(ア)に基づいて採った措置
 今後,共同して,東京都が前記一般競争入札の方法により発注する3口径メーターについて,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
(ウ)  今後,それぞれ,相互に又は他の事業者と共同して,東京都が競争入札の方法により発注する3口径メーターについて,受注予定者を決定しないこと。

(4)   (株)第一興商に対する件(平成15年(判)第39号)


ア 被審人


イ 審判開始決定の内容
(ア)
 被審人は,遊興飲食店,いわゆるカラオケボックス等の事業所においてカラオケ用の楽曲等(以下「カラオケソフト」という。)を再生する機器(以下「業務用カラオケ機器」という。)を販売又は賃貸するとともに,カラオケソフトを制作して配信する事業を営む者である。
 業務用カラオケ機器には,パッケージ系カラオケ機器と称されるもの(レーザーディスク等を媒体としたカラオケソフトを再生するもの。)及び通信カラオケ機器と称されるもの(あらかじめ搭載されたカラオケソフトと,放送及び有線放送以外の公衆送信を用いて新たに配信されるカラオケソフトを再生するもの。以下「通信カラオケ機器」という。)があり,国内における業務用カラオケ機器の出荷台数及び稼動台数の大部分を通信カラオケ機器が占めている。
 通信カラオケ機器を販売又は賃貸するとともにカラオケソフトを制作して配信する事業者(以下「通信カラオケ事業者」という。)は,通信カラオケ機器を自ら又は子会社である販売会社若しくは卸売業者を通じて,遊興飲食店,カラオケボックス等の事業所(以下「ユーザー」という。)に販売又は賃貸するとともに,新たに制作したカラオケソフトを有料でユーザーに配信している。
 国内における通信カラオケ機器の出荷台数及び稼動台数において,被審人は,通信カラオケ事業者中第1位であり,(株)エクシング(以下「エクシング」という。)は,同第3位である。
 また,通信カラオケ市場には,ナイト市場と称される遊興飲食店をユーザーとする市場(以下「ナイト市場」という。),ボックス市場と称されるカラオケボックスをユーザーとする市場及びその他市場と称される旅館,ホテル等をユーザーとする市場があり,これらの市場において稼動している通信カラオケ機器のうち,ナイト市場における稼動台数が過半を占めているところ,ナイト市場における稼動台数において,被審人は,通信カラオケ事業者中第1位であり,エクシングは,同第5位である。
(a)  レコード制作会社が,作詞者又は作曲者からその作品を録音等する権利を独占的に付与された楽曲のうち,著作権法(昭和45年法律第48号。昭和46年1月1日施行。)の施行前に国内において販売された商業用レコードに録音されているもの(以下「管理楽山」という。)を通信カラオケ事業者がカラオケソフトに使用する場合は,(社)日本音楽著作権協会等から許諾を受けるほか,管理楽曲を録音等する権利を独占的に付与されたレコード制作会社8社(以下「レコード会社8社」という。)からも個別にその使用の承諾を受けることが慣行となっている。
(b)  管理楽曲は,いわゆる歌謡曲が中心となっており,特に中高年齢層の顧客が多いナイト市場向けのカラオケ用の楽曲として必要なものとなっている。
 被審人は,平成8年12月ころ,エクシングの親会社であるブラザー工業(株)(以下「ブラザー工業」という。)が取得し,エクシングが専用実施権を有するカラオケソフトの歌詞の色変えに関する特許(以下「歌詞色変え特許」という。)を侵害しているとして,エクシングから,その通信カラオケ機器の製造,販売及び使用の差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てられるとともに,当該申立ての事実を取引先卸売業者に告知されたことにより,その通信カラオケ機器の出荷台数は,一時的に落ち込むところとなった。
 その後,前記申立ては取り下げられたが,平成12年3月ころ,被審人は,エクシング及びブラザー工業から,歌詞色変え特許を含む3件の特許を侵害しているとして特許権侵害差止等請求訴訟(以下「本訴」という。)を東京地方裁判所に提起された。当事者間においては,平成13年5月ころ以降,和解交渉が行われてきたが,結局,同年11月ころ,交渉は決裂するところとなった。
 なお,本訴は,平成14年9月27日,エクシング及びブラザー工業の請求を棄却する旨の判決がなされ,同年10月12日,確定している。
 前記(ア)f記載の歌詞色変え特許等に関する係争の間,被審人は,平成13年1月ころ,レコード会社8社のうちの日本クラウン(株)(以下「クラウン」という。)の筆頭株主となり,さらに,同年11月ころ、その過半数の株式を取得することにより,また,同年10月ころ,レコード会社8社のうちの(株)徳間ジャパンコミュニケーションズ(以下「徳間」という。)のすべての株式を取得することにより,両社を子会社としている。
(イ)
 平成4年ころ,エクシング等が通信カラオケ機器をもって業務用カラオケ機器の市場に新規に参入したところ,パッケージ系カラオケ機器と称される業務用カラオケ機器のみを取り扱っていた被審人は,エクシング等による特にナイト市場への進出を食い止める必要があるとして,レコード会社8社に対して,その管理楽曲のエクシングへの使用の承諾を遅らせるよう要請した。この要請にレコード会社8社が応じたことにより,エクシングに対する管理楽曲の使用の承諾は,被審人の通信カラオケ機器の発売から1年ないし3年遅れ,この間,エクシングは,その通信カラオケ機器に管理楽曲を搭載することができないこととなり,通信カラオケ事業者として不利な立場に置かれることとなった。その一方,この間の平成6年4月ころ,被審人は,レコード会社8社の管理楽曲を搭載した通信カラオケ機器を発売し,平成9年ころまでに,通信カラオケ機器の稼動台数において,通信カラオケ事業者中第1位の地位を確立した。
(a)  被審人は,前記(ア)f記載の本訴の和解交渉の決裂を受け,平成13年11月末ころ以降,エクシングの通信カラオケ機器の出荷を抑止するなど,その事業活動を徹底して攻撃していくとの方針の下,次のとおり,エクシングに対し自己の子会社であるクラウン及び徳間の管理楽曲を使用させないようにし,その旨を取引先卸売業者又はユーザーに対し告知している。
 被審人は,クラウンが平成9年12月ころ以降,また,徳間が平成7年12月ころ以降,それぞれ,その管理楽曲を使用することをエクシングに対して承諾してきていたにもかかわらず,それぞれ,エクシングには使用させないこととし,平成13年12月18日ころクラウンをして,また,同年12月6日ころ徳間をして,エクシングがそれぞれの管理楽曲の使用を承諾する契約の更新を拒絶させるとともに、その無断使用を停止するよう通知させている。
ii  被審人は,平成13年12月ころ以降,一部の支店等の営業担当者をもってエクシングの通信カラオケ機器を設置しているユーザーに出向かせ,エクシングが同社の通信カラオケ機器にクラウン及び徳間の管理楽曲を無断使用していることを確認させた上,自社又は子会社である販売会社の営業担当者から取引先卸売業者又はユーザーに対し,また,取引先卸売業者の代表者等が出席する全国第一興商ディーラー会と称する会の会合等において取引先卸売業者に対し,それぞれ別表記載の楽曲をクラウン及び徳間の管理楽曲として記載した書面を配布するなどして,エクシングにはこれらの管理楽曲の使用を承諾させないことにより,エクシングの通信カラオケ機器ではこれらの管理楽曲を使用させないようにする旨告知している。
(b)  被審人の前記(イ)b(a)記載の行為により,エクシングの通信カラオケ機器を取り扱っている,又はこれを取り扱おうとしている取引先卸売業者がその取扱いを取りやめた事例は,次のとおりである。
 平成13年12月ころ,近畿地区所在の取引先卸売業者は,主にエクシングの通信カラオケ機器を取り扱っていたが,被審人から,エクシングはクラウン及び徳間の管理楽山を無断使用しており,今後これらの楽曲は使用できなくなる旨の発言を聞き,ナイト市場で使用されているエクシングの通信カラオケ機器の一部を被審人の通信カラオケ機器に入れ替えている。
ii  平成14年3月ころ,中部地区所在の取引先卸売業者は,被審人の営業担当者から,エクシングの通信カラオケ機器では,クラウンの管理楽曲を使用させない旨を聞いたことから,平成13年秋ころ以降,エクシングの通信カラオケ機器の取扱いを真剣に検討していたが,これを断念している。
iii  平成14年春ころ,東北地区所在の取引先卸売業者は,エクシングの通信カラオケ機器も取り扱っていたところ,エクシングがクラウンの管理楽曲を使用する契約を更新できておらず,エクシングの通信カラオケ機器では,管理楽曲の使用ができなくなるおそれがあることから,その取扱いを中止している。
iv  平成14年春ころ,関東地区所在の取引先卸売業者は,全国第一興商ディーラー会と称する会の会合で,クラウン及び徳間の管理楽曲の名称を具体的に挙げ,今後エクシングの通信カラオケ機器では,これらの楽曲は歌えなくなるとの発言を聞き,さらに,被審人の営業担当者から,これらの楽曲の一覧表を示されつつ,同様の発言を聞いたことから,今後エクシングの通信カラオケ機器はなるべく取り扱わない方が無難であると考え,エクシングから新機種の通信カラオケ機器の取扱いを要望されたが,これを断っている。
(ウ)  平成14年10月3日,本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,被審人は,平成14年11月ころ,クラウン及び徳間をして,エクシングに対し,それぞれの管理楽曲の使用の承諾を行うこととした旨申し出させている。

別表   クラウン及び徳間の管理楽曲の一覧表



(5)   (株)大石組に対する件(平成16年(判)第1号)


ア 被審人


 なお,次に掲げる関係人24名(以下「24名」という。)については,勧告を応諾したため,平成15年12月8日に,勧告審決(平成15年(勧)第29号)を行っている。(後記エ)
イ 関係人


ウ 審判開始決定の内容
(ア)
(a)  静岡県清水市(平成15年4月1日に静岡市と合併。以下「旧清水市」という。)及び清水市押切北土地区画整理組合(以下「旧清水市等」という。)は,土木一式工事として発注する工事(旧清水市が発注するものについては,地方公営企業管理者が契約者となるものを含む。以下同じ。)の大部分を制限付一般競争入札又は指名競争入札の方法により発注しており,制限付一般競争入札に当たっては,旧清水市が競争入札参加の資格要件を満たす者として登録していた有資格者(以下「有資格者」という。)を対象に,公告により,一定の条件を付して入札の参加希望者を募り,当該参加希望者の資格要件を確認した上で入札の参加者としており,また,指名競争入札に当たっては,有資格者の中から入札の参加者を指名していた。また,旧清水市等は,共同施工方式により工事を施工するため,当該工事の発注の都度結成される共同企業体を入札の参加者とするときは,前記有資格者を構成員とする共同企業体を入札の参加者としていた。
(b)  旧清水市は,有資格者のうち旧清水市の区域に本店,支店,営業所等を有する者をその事業規模等によりA,B又はCのいずれかの等級に格付しており,当該格付を2年ごとに見直していた。
 被審人並びに24名,別表2記載の事業者及び別表3記載の事業者の28名(以下「28名」という。)のうち,別表4記載の事業者を除く21名は,平成11年6月1日以前から平成15年3月31日までの間(別表4記載の事業者にあっては,それぞれ,「期間」欄記載の期間),いずれも,旧清水市から土木一式工事についてAの等級に格付されていた者である。
(イ)  被審人及び28名は,遅くとも平成11年6月1日以降(別表1記載の事業者にあっては,それぞれ,「期日」欄に記載された年月日ころ以降,別表3記載の櫻井建設株式会社にあっては平成11年7月7日ころ以降),旧清水市等が制限付一般競争入札又は指名競争入札の方法によりAの等級に格付している者(Aの等級に格付している者のみを構成員とする共同企業体を含む。)のみを入札参加者として土木一式工事として発注する工事(以下「旧清水市等発注の特定土木工事」という。)について,受注価格の低落防止等を図るため
 旧清水市等が制限付一般競争入札の公告を行った場合又は旧清水市等から指名競争入札の参加の指名を受けた場合には,次の方法により,当該工事を受注すべき者又は共同企業体(以下「受注予定者」という。)を決定する
(a)  当該工事について受注を希望する者又は共同企業体(以下「受注希望者」という。)が1名のときは,その者を受注予定者とする
(b)  受注希望者が複数のときは,工事場所,過去の受注工事との関連性等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより,受注予定者を決定する
 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
 前記(イ)aの受注予定者の決定に当たって被審人及び28名は,必要に応じ,被審人及び28名のほとんどが会員となっていた旧清水市所在の(社)清水建設業協会の会議室等において入札参加業者間の会合を開催したり,受注希望者以外の入札参加業者又は調整役等と称する者の助言を得ていた。
(ウ)  被審人及び28名は,前記(イ)により,旧清水市等発注の特定土木工事の大部分を受注していた。
(エ)
 別表2記載の事業者及び別表3記載の櫻井建設株式会社は,平成13年6月1日以降,旧清水市から,土木一式工事についてBの等級に格付されたことにより,同日以降,旧清水市等発注の特定土木工事の入札に参加していないため,同日以降,前記(イ)の合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を行っていない。
 平成15年2月25日,本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,被審人及び24名は,同日以降,前記(イ)の合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。
エ 24名に対する排除措置
 24名に対する勧告審決において,次の措置を採るよう命じた。
(ア)  遅くとも平成11年6月1日以降(別表1記載の事業者にあっては,それぞれ,「期日」欄に記載された年月日ころ以降)行っていた,旧清水市等発注の特定土木工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめていることを確認すること。
(イ)  次の事項を静岡市及び清水市押切北土地区画整理組合に通知すること。この通知の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けること。
 前記(ア)に基づいて採った措置
 今後,共同して,静岡市及び清水市押切北土地区画整理組合が制限付一般競争入札又は指名競争入札の方法により土木一式工事として発注する工事について,受注予定者を決定せず,各自がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
(ウ)  今後,それぞれ,相互に又は他の事業者と共同して,静岡市及び清水市押切北土地区画整理組合が競争入札の方法により土木一式工事として発注する工事について,受注予定者を決定しないこと。

別表1   Aの等級に格付けされたことにより,合意に途中参加した事業者


別表2   Bの等級に格付されたことにより,旧清水市等発注の特定土木工事の入札に参加しなくなった事業者


別表3   事業活動の全部を取りやめている事業者


別表4   合意に中途参加した事業者,旧清水市等発注の特定土木工事の入札に参加しなくなった事業者及び事業活動の全部を取りやめている事業者がAの等級に格付されていた期間


(6)   東日本電信電話(株)に対する件(平成16年(判)第2号)


ア 被審人


イ 審判開始決定の内容
(ア)
(a)  被審人は,自社の保有する電気通信設備を利用して,加入者回線に光ファイバを用いてインターネット接続回線サービスを行う電気通信役務(以下「FTTHサービス」という。)をBフレッツと称して一般ユーザー向けに販売している。
(b)  被審人は,戸建て住宅向けのBフレッツの商品として,ベーシックタイプと称するサービス(以下「ベーシックタイプ」という。)及びニューファミリータイプと称するサービス(以下「ニューファミリータイプ」という。)を販売しており,これらの販売件数は,平成15年8月31日現在,北海道,青森県,岩手県,宮城県,秋田県,山形県,福島県,茨城県,栃木県,群馬県,埼玉県,千葉県、東京都,神奈川県,新潟県,山梨県及び長野県(以下「東日本地区」という。)において販売されている戸建て住宅向けFTTHサービスの販売件数のほとんどを占めている。
(c)  被審人は,戸建て住宅向け以外に,集合住宅向けのBフレッツの商品として,光ファイバ1芯を集合住宅内の複数ユーザーが共用する設備構成のマンションタイプと称するサービスを販売している。光ファイバの敷設や機器の設置が困難といった集合住宅の構造的な問題等があるため,加入者光ファイバ(加入者回線として用いられる光ファイバをいう。以下同じ。)の開通件数の大半は戸建て住宅向けのものである。
(a)  被審人は,その加入者光ファイバ設備について,電気通信事業法に基づき総務大臣から第一種指定電気通信設備の指定を受け,他の電気通信事業者からの求めに応じ,これら事業者の電気通信設備と接続している。他の電気通信事業者が被審人の加入者光ファイバ設備に接続するときに被審人に対し支払う接続料金(以下「接続料金」という。)は,電気通信事業法に基づき総務大臣の認可を受け設定されている。他の電気通信事業者は,接続料金を原価として折り込んだ上で,自らのFTTHサービスのユーザー料金を設定している。また,被審人は,他の電気通信事業者が被審人に接続料金を支払った上でBフレッツと同程度の額のユーザー料金を設定できるよう,Bフレッツのユーザー料金が接続料金を下回らない額に設定することとしている。
(b)  被審人は,電気通信事業者の光ファイバ端末回線を収容する施設(以下「収容局」という。)からユーザー宅までの途中地点まで,固定電話回線の管路・電柱等を利用して加入者光ファイバを敷設してきており,その保有する加入者光ファイバの芯線数は,FTTHサービス事業者が保有する加入者光ファイバ芯線数全体の大部分を占めている。また,被審人が保有する加入者光ファイバのうち,被審人及び他の電気通信事業者によって現に使用されている芯線は一部であり,未使用の芯線が大部分を占めている。
(c)  電気通信事業者が加入者光ファイバを敷設してネットワークを構築するためには,多額の費用及び管路・電柱等の賃借手続等に長期間を要するため,自らの加入者光ファイバを持たない電気通信事業者が新たにこれを敷設することは容易でなく,当該電気通信事業者が被審人の加入者光ファイバと接続することなくFTTHサービス事業を行うことは困難な状況にある。
(イ)
(a)  被審人は,東京電力(株)が平成14年3月末からFTTHサービス事業を開始することを表明したことに伴い,平成14年2月から同年3月ころ,Bフレッツに最大通信速度100Mbps〔以下「100Mbps」という。)の戸建て住宅向けサービスの廉価版を加えることを検討した。被審人は,従前の戸建て住宅向けサービスであるベーシックタイプを月額料金9,000円にて100Mbpsの加入者光ファイバ1芯を1ユーザーが使用する設備構成(以下「芯線直結方式」という。)で提供しているところ,月額料金5,000円を超える加入者光ファイバ1芯の接続料金を下回る水準のユーザー料金を設定することは,同社の加入者光ファイバに接続する他の電気通信事業者との公正な競争を確保する上で問題があるとして,加入者光ファイバ1芯の接続料金を引き下げることなく,東京電力(株)が販売するFTTHサービスのユーザー料金に対抗することができる水準のユーザー料金を設定することを検討した。そこで,被審人は,ベーシックタイプのユーザー料金を引き下げるのではなく,100Mbpsの加入者光ファイバ1芯を最大32人のユーザーが共用する分岐回線を用いた設備構成(以下「分岐方式」という。)により提供するニューファミリータイプを導入することとした。しかし,分岐方式とするだけのまとまった需要がなかったことから,被審人は,ニューファミリータイプを実際には分岐方式により販売するのではなく,ベーシックタイプと同一の設備を用い,芯線直結方式により販売することとした。
(b)  被審人は,平成14年6月1日からニューファミリータイプの販売を開始することとし,同年4月11日,総務大臣に対し,その料金を月額5,800円とする旨届け出た。また,被審人は、平成14年4月11日,総務大臣に対し,加入者光ファイバ1芯を収容局内で8分岐及び収容局外で4分岐させることにより最大32分岐させる設備構成であるニューファミリータイプの提供に用いられる電気通信設備との接続料を設定する旨,接続約款変更の申請を行い,接続約款を変更した。
(c)  被審人は,ニューファミリータイプを契約したユーザーに対し,実際にどのような設備構成でサービスを販売するか明示することなく,芯線直結方式により同サービスを販売した。
(a)  被審人は,東京電力(株)が平成14年12月ころから同社のFTTHサービスのユーザー料金を引き下げたことから,これに対抗するため,平成14年10月ころ,ニューファミリータイプのユーザー料金引下げを検討した。被審人は,ユーザー料金を引き下げる理由として,平成14年4月11日に総務大臣に届け出た料金の前提となる設備構成の変更によるユーザー料金引下げ又は同設備構成を維持したままのユーザー料金引下げの2つの方法を検討したが,後者の方法では接続料金との関係上ユーザー料金のみを引き下げることはできず,加入者光ファイバ1芯の接続料金を引き下げることが必要となり,その場合には,被審人の加入者光ファイバに接続して他の電気通信事業者が戸建て住宅向けのFTTHサービスを開始することが懸念されたため,実際には分岐方式を採用していないにもかかわらず,ニューファミリータイプを提供する分岐方式の設備構成を収容局内で4分岐及び収容局外で8分岐に変更することにより,収容局から収容局外の分岐装置までの加入者光ファイバを共用するユーザー数を増やすことにより1ユーザー当たりのコストが低下することを理由として,ユーザー料金を引き下げることとした。
(b)  被審人は,平成15年1月27日,総務大臣に対し,ニューファミリータイプに用いられる電気通信設備との接続料金を改定する旨,接続約款変更の申請を行い,接続約款を変更した。また,被審人は,平成15年4月1日からニューファミリータイプのユーザー料金引下げを実施することとし,同年3月18日,総務大臣に対し,そのユーザー料金を月額4,500円とする旨届け出た。
 その結果,ニューファミリータイプの引下げ後のユーザー料金は加入者光ファイバ1芯の接続料金を下回り,また,ニューファミリータイプと同様の分岐方式で接続した場合,32分岐のうち1分岐のみを使用するときは,1ユーザー当たりの接続料金は17,145円となった。
(c)  被審人は,ニューファミリータイプのユーザー料金引下げ後においても,同サービスを契約したユーザーに対し,引き続き,芯線直結方式の設備構成により,同サービスを販売した。
 被審人は,芯線直結方式によりニューファミリータイプを販売することを前提とし,同サービスについてユーザーからの申込みから開通までの期間の短縮を図り,東京支店管内において,平成15年2月に前記の期間短縮を本格実施し,それ以降,戸建て住宅向けのFTTHサービスについて,ユーザーからの申込み後,最短6日間で開通させる旨を広告宣伝している。ユーザーからのサービスの申込みから開通までの期間の短縮及び料金の引下げ後,ニューファミリータイプの開通件数は大幅に増加している。
 被審人は,ニューファミリータイプの販売を開始したとき以降,同サービスを契約したユーザーに対して芯線直結方式により同サービスを販売しており,平成15年9月30日においても,どの程度の需要が発生した場合に分岐方式により同サービスを販売するかについての計画を定めていなかった。また,分岐方式を採る場合には,同方式を採るために収容局外に設置する分岐装置の設置場所,配線経路等の計画を定める必要があるが,その計画も定めていなかった。
 被審人は,総務省からニューファミリータイプを販売する際の設備構成について報告を求められたことを契機として,平成15年10月27日の常務会において,同年12月以降の新規ユーザーについて順次分岐方式によりサービスを販売することを決定したが,同決定を実施するための具体的な計画の策定は完了していない。
(ウ)  被審人の前記(イ)の行為により,被審人の加入者光ファイバに接続してFTTHサービスを販売しようとする事業者は,ニューファミリータイプのユーザー料金が加入者光ファイバ1芯の接続料金を下回っており,また,まとまった需要がないためにニューファミリータイプの前提となっている分岐方式の接続料金を支払って,被審人のユーザー料金に対抗する料金を設定することは困難な状況にあることから,東日本地区において被審人の加入者光ファイバに接続して戸建て住宅向けFTTHサービスを販売している事業者は存在しない。

(7)   鐘淵化学工業(株)及び三菱レイヨン(株)に対する件(平成16年(判)第3号)


ア 被審人


イ 審判開始決定の内容
(ア)
 モディファイヤーは,ナフサから誘導されるメチルメタアクリレート,ブタジエン,スチレン等を原料とし,塩化ビニル樹脂をはじめとした各種プラスチックに添加して,プラスチックの耐衝撃性,耐候性,加工性等を改良するために用いられる改質剤である。
 モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの(以下「塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー」という。)は,耐衝撃性改良に用いられるMBS樹脂,耐候性耐衝撃性改良に用いられるアクリル系強化剤及び加工性改良に用いられるアクリル系加工助剤に区分される。
 被審人2社及び呉羽化学工業(株)(以下「呉羽化学」という。)の国内における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売数量の合計は,我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの総販売数量のほとんどを占めていた。
 被審人2社及び呉羽化学(呉羽化学については平成14年12月31日まで)は,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを,それぞれ,直接又は販売業者を通じて国内の需要者(以下「需要者」という。)に販売している。販売業者を通じて販売している場合も,需要者に対する販売価格については被審人2社及び呉羽化学が需要者と交渉して定めており,その価格から販売業者の手数料を差し引いたものを自らの販売価格としている。
 被審人2社及び呉羽化学は,かねてから,各社のモディファイヤー営業部長級又は営業課長級の者による会合(以下これらの会合を「3社の会合」という。)を開催し,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売に関する種々の情報交換を行ってきた。
(イ)
 平成11年7月から同年9月の第3四半期以降,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの原料価格が上昇していたことから,被審人2社及び呉羽化学は,同年10月ころから同年11月ころまでの間に,その対応策について相互に連絡を取り合い,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を引き上げることとし,同年11月21日出荷分から1キログラム当たり20円又は25円引き上げることを需要者に対して申し入れることについて合意した上,需要者との販売価格引上げ交渉が難航した場合でも年内決着を図るため,MBS樹脂及びアクリル系強化剤については少なくとも1キログラム当たり10円ないし15円,アクリル系加工助剤については少なくとも1キログラム当たり15円ないし20円引き上げることをそれぞれ目途に需要者と交渉することとした。
 平成12年度においてもモディファイヤーの原料価格が上昇していたため,被審人2社及び呉羽化学は,平成12年10月ころから同年11月初めまでの間に,前年度に引き続きその対応策について相互に連絡を取り合い,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を引き上げることにつき確認し,その方策について意見交換していたところ,呉羽化学は,被審人2社に対し,自社が先行して塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を引き上げることを表明し,同年11月8日に,同月21日出荷分から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を1キログラム当たり20円又は25円引き上げる旨を新聞発表した。その前後において,呉羽化学は,被審人2社に対し,自社の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格の引上げに追随してそれぞれの塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を引き上げるよう働きかけを行ってきたところ,被審人2社も呉羽化学に協調して塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を引き上げることに合意し,被審人三菱レイヨン(株)は平成12年11月14日に,同年12月1日出荷分から,被審人鐘淵化学工業(株)は同年11月21日に,同年12月21日出荷分から,それぞれ,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を1キログラム当たり20円又は25円引き上げる旨を新聞発表した。
 被審人2社及び呉羽化学は,前記(イ)a及びbの合意により,需要者との塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格引上げ交渉を進める中で,3社の会合において,販売価格の引上げを確実にするため,個別の需要者との販売価格引上げ交渉の進ちょく状況,販売価格の引上げ幅等について情報交換を行い,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格をおおむね引き上げていた。
(ウ)  平成15年1月1日,呉羽化学がモディファイヤーに関する営業のすべてをローム・アンド・ハース・カンパニーに譲渡し,ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社が新規に参入したことなどから,同日以降,前記(イ)の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格の引上げに関する合意は事実上消滅しているものと認められる。

(8)   (株)荏原製作所ほか13社に対する件(平成16年(判)第4号)


ア 被審人


イ 審判開始決定の内容
(ア)
(a)  東京都は,下水道局において発注する公共下水道及び流域下水道の施設(以下「下水道施設」という。)に係るポンプ据付け工事(以下「下水道ポンプ設備工事」という。)の大部分を一般競争入札,公募制指名競争入札又は希望制指名競争入札の方法(平成14年4月以降にあっては一般競争入札又は希望制指名競争入札の方法)により発注している。
(b)  東京都は,下水道ポンプ設備工事を発注するに当たり,次のように競争入札の参加者を決定している。
 予定価格が9億円以上(平成12年11月前にあっては50億円以上,平成12年11月から平成14年3月までの期間にあっては25億円以上)の下水道ポンプ設備工事については,一般競争入札の方法により発注しており,一般競争入札に当たっては,公告により入札参加希望者を募り,所定の申込条件を満たす入札参加希望者すべてを当該一般競争入札の参加者とする。
ii  平成14年3月までは,予定価格が9億円以上25億円未満(平成12年11月前にあっては25億円以上50億円未満)の下水道ポンプ設備工事については,公募制指名競争入札の方法により発注しており,公募制指名競争入札に当たっては,競争入札の参加要件を満たす者として登録している有資格者(以下「登録業者」という。)を対象に,所定の条件を付して入札参加希望者を募り,当該条件を満たす入札参加希望者すべてを当該公募制指名競争入札の参加者として指名する。
iii  予定価格が250万円超9億円未満(平成12年11月前にあっては250万円超25億円未満)の下水道ポンプ設備工事については,希望制指名競争入札の方法により発注しており,希望制指名競争入札に当たっては,登録業者を対象に,所定の条件を付して入札参加希望者を募り,当該条件を満たす入札参加希望者の中から当該希望制指名競争入札の参加者を指名する。
(c)  東京都は,特に一定以上の技術水準が必要となる工事については,希望制指名競争入札の参加資格を技術格付適格者の認定を受けた者に限定しており,主ポンプ(汚水ポンプ,雨水ポンプ及び放流ポンプをいい,これらのポンプに準ずるものとして発注されている管渠内排水ポンプを含む。以下同じ。)又は汚泥ポンプ(汚泥ポンプ及び送泥ポンプをいう。以下同じ。以下主ポンプ及び汚泥ポンプを「主ポンプ等」という。)に関する工事のうち,新たに建設する下水道施設に主ポンプ等を据え付ける工事(既存の下水道施設の敷地内に新たに下水道施設を設置する場合及び主ポンプ等が設置されていない下水道施設に新たに主ポンプ等を設置する場合を含む。以下「新設工事」という。),既存の下水道施設に主ポンプ等を追加して据え付ける工事(以下「増設工事」という。)及び既存の主ポンプ等を撤去して新たな主ポンプ等を据え付ける工事(以下「再構築工事等」という。)等について,技術格付適格者の認定を受けた者に前記入札参加資格を限定している。
 被審人14社は,平成11年4月1日以降,東京都が一般競争入札,公募制指名競争入札又は希望制指名競争入札の方法により下水道局において発注する新設工事,増設工事及び再構築工事等に係る競争入札に参加した事業者のすべてである。
(イ)  東京都が競争入札の方法により発注する下水道ポンプ設備工事については,かねてから入札参加者間で受注に関する話合いが行われてきたところ,被審人14社は,遅くとも,平成11年4月1日以降,東京都が下水道局において一般競争入札,公募制指名競争入札又は希望制指名競争入札の方法により発注する新設工事,増設工事及び再構築工事等(以下「東京都発注の特定ポンプ設備工事」という。)について,受注価格の低落を防止するため
 増設工事又は再構築工事等については,当該工事の対象となる下水道施設に係る下水道ポンプ設備工事を以前に受注した者を受注予定者とし,当該下水道ポンプ設備工事の受注者が当該入札に参加できない場合は,入札参加者間の話合いにより受注予定者を決定する
 新設工事については,東京都から当該工事の対象となる下水道施設に係る設計を請け負ったコンサルタント業者又は東京都への技術提案等の事情を勘案して,入札参加者間の話合いにより受注予定者を決定する
 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する
旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
(ウ)  被審人14社は,平成11年4月1日以降,前記(イ)により,東京都発注の特定ポンプ設備工事のほとんどすべてを受注していた。
(エ)  平成15年7月29日,本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,被審人14社は,同日以降,前記(イ)の合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。