第6章 競争政策に関する理論的・実証的基盤の整備及び各種実態調査等

第1 概説

 いわゆる経済の高度化,ボーダーレス化が進展する中で,公正取引委員会における競争政策上の制度設計や法執行に関し,経済学的,あるいは法学的な分析の成果を取り入れる必要性がますます高まっている。
 このような中,公正取引委員会では,足元の施策実施に役立てるという観点はもとより,中長期的観点から独占禁止法の運用や競争政策の企画立案・評価を行う上での理論的な基礎を強化するため,外部の研究者や実務家の知的資源と公正取引委員会職員との機能的・持続的な協働のプラットフォームの整備を図ることを目的として,平成15年6月に,事務総局内に「競争政策研究センター」を発足させた。
 また,公正取引委員会では,従来から,競争政策の運営に資するため,主要産業の実態等について調査を行っているところ,平成15年度には,ブランド力と競争政策に関する実態調査,新しい市場構造指標を用いた分析及びマンションの管理・保守をめぐる競争の実態に関する調査を実施した。

第2 競争政策研究センターの発足及び活動状況

1 競争政策研究センターの発足及びその趣旨
 公正取引委員会は,平成15年6月17日,経済学者等の研究者と内部職員との機能的・持続的な協働のプラットフォームを整備し,中長期的な観点からの独占禁止法の運用や競争政策の企画立案に係る理論的・実証的な基礎を強化するため,事務総局内に競争政策研究センターを発足させた(所長 鈴村興太郎 一橋大学経済研究所教授)。同センターでは,経済学及び法学の外部専門家からなる客員研究員と当委員会の内部研究員との協働による競争政策に関する研究を中心とした活動を実施している。
 競争政策研究センター所長・客員研究員
 (平成16年3月末現在)
(敬称略,客員研究員は50音順)
所長 鈴村興太郎 一橋大学経済研究所教授
主任客員研究員 泉水 文雄 神戸大学大学院法学研究科教授
客員研究員 泉田 成美 東北大学大学院経済学研究科助教授
岡田 羊祐 一橋大学大学院経済学研究科助教授
木村 友二 独立行政法人経済産業研究所研究スタッフ
楠 茂樹 京都産業大学法学部講師
柴田 潤子 香川大学法学部助教授
田中 辰雄 慶應義塾大学経済学部助教授
西村 暢史 富山大学経済学部講師
林 秀弥 神戸市外国語大学専任講師
矢崎 敬人 東京大学先端科学技術研究センター科学技術振興特任教員(助手)
柳川 範之 東京大学大学院経済学研究科・経済学部助教授

競争政策研究センター発足記念国際シンポジウム
 公正取引委員会は,平成15年11月20日,競争政策研究センターの発足を記念して,内閣府経済社会総合研究所及び日本経済新聞社との共催により,「競争政策はどう変わるべきか〜新たな競争政策の設計を目指して〜」とのタイトルの下,競争政策研究センター発足記念国際シンポジウムを開催した。
 同シンポジウムの概要は,次のとおりである。


3 最近の活動状況
(1)   共同研究の実施
 競争政策研究センターでは,客員研究員と内部職員の協働により複数の競争政策に関する研究テーマに取り組んでおり,平成15年度末までに次の共同研究報告書を公表した。これらの共同研究報告書で取り上げたテーマについては,研究員による更に掘り下げた研究も行っており,その成果は,各共同研究報告書とは別にディスカッション・ペーパーとして取りまとめている。
 ア  共同研究報告書(平成15年度公表分)


 イ  ディスカッション・ペーパー(平成15年度公表分)


(注)  11番以外はすべて原文は英語

(2)   ワークショップの開催
 競争政策研究センターでは,ほぼ毎月ワークショップを開催し,客員研究員と内部職員により,報告書案や研究の途中経過等について自由討議を行っており,その結果を報告書やディスカッション・ペーパー等の質的な向上に反映させている。平成15年度にはワークショップを計8回開催した。

第3 新しい市場構造指標を用いた分析―生産出荷集中度データを利用して―

1 調査の趣旨
 市場集中度等の市場構造が,企業利益率や価格等の市場成果に与える影響について従前から多くの実証分析が行われてきている。今回,市場成果に影響を与えると考えられる指標の中で,今までの実証分折では考慮されていない「買手側の市場構造」及び「順位やシェアの変動の程度」について,公正取引委員会が従前から蓄積してきた生産・出荷集中度データを活用しつつ,新たに以下の「買手集中度」及び「順位・シェア変動指数」を数値化し,これらの指標を用いて分析を行い,平成15年6月に調査結果を公表した。
2 調査結果の概要
(1)   買手集中度に関する分析結果
 買手集中度指標
 市場構造に関する分析では,多数の買手が存在する消費財の場合は別として,買手が少数に限られてしまうような生産財の場合では,売手側の市場構造に加えて,買手側の市場構造も競争や市場パフォーマンスに対して何らかの影響を及ぼしていると考えられる。
 本調査では,公正取引委員会が従前から実施してきた出荷集中度調査により蓄積した企業別のマーケットシェアや売手集中度のデータを活用し,52品目について,買手集中度を計測した。

図1  買手集中度の概念図


 利益率と買手集中度のパネルデータ分析
 (被説明変数:自己資本利益率)
(ア)  企業利益率と売手集中度・買手相対指標について
 全品目の分析(表1参照),生産財メーカーの分析(表2参照)及び業種別分析の一部の業種(表3参照)で,買手相対指標([買手相対指標]=[買手集中度]/[売手側企業のマーケットシェア]と定義)が大きい(買手の力が強い)ほど,売手側の利益率が低いとの分析結果が得られた。売手集中度については,業種別分析の一部の業種で,売手集中度が高い(市場が寡占的)ほど,売手側の利益率が高いとの分析結果が得られた。
(イ)  その他の指標について
 研究開発費が高いほど利益率が低いとの結果が得られたが,これは研究開発費のコストとしての側面が大きいためと考えられる(表1,表2及び表3参照)。
 鉄鋼・金属製品,化学では,輸入比率が高いほど利益率が低く,輪出比率が高いほど利益率が高いとの分析結果が得られたが,これは輪出入による影響が大きいためと考えられる(表3参照)。
 多くの分析で,設備投資費増加率が高いほど利益率が高く,産業成長率及び企業成長率が高いほど利益率が高いとの結果が得られた(表1,表2及び表3参照)。

表1   全体の分析結果
表2   財別の分析結果

表3   業種別の分析結果
(注)  1  昭和58年〜平成12年の18年間,61社(43品目)のデータのうち,利益率データの利用が可能であった企業を分析対象とした。
 2  括弧内は係数の符号。*は10%有意,**は5%有意,***は1%有意
 3  表中におけるadjusted R−squaredとは調整済R2,Durbin−Watsonとはダービン・ワトソン比,Hausman testとはハウスマンテストのことをそれぞれ表す。

 利益率と買手集中度の年度別クロスセクションデータ分析
 年度別クロスセクションデータにより,景気の上昇局面と下降局面でそれぞれどのような特徴がみられるかについて分析した(表4参照)。
(ア)  企業利益率と売手集中度・買手相対指標について
 売手集中度については,景気上昇局面では売手集中度が高いほど企業利益率は高くなっている。また,買手相対指標については,1980年代の前半に,買手相対指標が高いほど企業利益率は低くなっている。
(イ)  その他指標について
 広告費比率については,1990年代に入ると,広告費の大きい産業ほど利益率が大きくなっている。
 市場の輸出入比率については,1980年代は一貫して,輸入比率が高いほど利益率が高く,1990年代は,逆に輸入比率が高いほど利益率が低い傾向がみられる。また,輸出比率は,1980年代の前半を除き,輸出比率が高いほど利益率が高いとの結果が得られた。
 産業や企業の成長率については,景気にかかわらず,企業成長率が高いほど利益率が高いとの結果が得られたが,産業成長率は,おおむね景気上昇局面で産業成長率が高いほど利益率が高く,景気後退局面で産業成長率が高いほど利益率が低いとの結果が得られた。

表4   年度別分析の分析結果


(注)  1  昭和58年〜平成12年の18年間,61社(43品目)のデータのうち,利益率データの利用が可能であった企業を分析対象とした。
 2  5つの被説明変数を用いた分析のうち,有意な結果が得られた利益率指標の記号(左表)を記入。括弧を付した記号は,係数の符号がマイナスであったもの。

(2)   順位・シェア変動指数に関する分析結果
 順位・シェア変動指数指標
 本調査では,これまで出荷集中度調査により蓄積した,平成元年〜12年の企業別のマーケットシェア及び順位のデータを用い,145品目について,次の4つの指数を数値化した。
〔具体的な算出方法〕
 A,B,C社の平成3,4,5年の順位とシェアが表5のとおりであったとする。
2時点を平成3年と5年に,多時点を平成3年〜5年の3年間とした場合,4種類の順位・シェア変動指数(1)〜(4)の算出結果は,表6のとおりとなる。

表5   順位・シェア変動指数の数値


表6   順位・シェアの例(表5より算出)

(1)  2時点順位変動指数(スピアマン順位相関係数)の算出方法
 当該品目における2時点間の各社の順位データについての相関係数を示している。この指数は,−1から1の間の値をとり,数値が大きいほど2時点間の順位変動が小さく,数値が小さいほど2時点間の順位変動が大きいことを示している。
 表5の例では平成3年と平成5年の順位は同じなので,相関係数は1となる。
(2)  2時点シェア変動指数(新指標)の算出方法
 当該品目における2時点間の各社のシェアデータについての相関係数を示している。これは,(1)の順位をシェアに置き換えたものである。この指数は,−1から1の間の値をとり,数値が大きいほど2時点間のシェア変動が小さく,数値が小さいほど2時点間のシェア変動が大きいことを示している。
 表5の例では平成3年と平成5年のシェアは,A社40%⇒55%,B社35%⇒30%,C社25%⇒15%となり,相関係数は0.94となる。
(3)  多時点順位変動指数(ケンドール順位一致係数)の算出方法
 当該品目について,対象期間におけるi企業の順位の合計と期待値(市場内における全企業数の中央値)の差を1乗し,これを対象期間において完全に一致した場合の順位と期待値の差を2乗したもので割ることにより求める。これを式で示すと,Σ(各年の合計値−期待値)2/Σ(完全一致の合計値−期待値)2
となる。
 この指数は,0から1の間の値をとり,数値が大きいほど当該期間中の順位変動が小さく,数値が小さいほど当該期間中の順位変動が大きいことを示している。
 表5の例の多時点順位変動指数は,表7より14/18=0.78と算出される。

表7   多時点順位変動指数の算出方法

(4)  多時点シェア変動指数(新指標)の算出方法
 当該品目について,対象期間におけるi企業のt期とt−1期のシェア差を2乗した値をすべての企業について足し上げ,時点間の数m−1で割ることで求める。
これを式で示すと,
 Σ(各社ごとに近接する隔年のシェアの差)2/(m−1)
となる。
 この指数は,0以上の値をとり,数値が大きいほど当該期間中のシェア変動が大きく,数値が小さいほど当該期間中のシェア変動が小さいことを示している。
 表5の例の多時点シェア変動指数は,表8より950/2=475と算出される。

表8   多時点シェア変動指数の算出方法


 利益率と順位・シェア変動指数のクロスセクションデータ分析
 4つの順位・シェア変動指数について着目すると,理論的に競争状況を最も正しく表していると考えられる多時点シェア変動指数では,CASE2において,3種類の被説明変数の分析がマイナスに有意となっている(表10参照)。
 この結果から,シェア変動が激しい(競争が活発である)ほど企業利益率は低く,また,シェア変動がない(競争が活発でない)ほど企業利益率は高い傾向があることが分かる。
 多時点シェア変動指数以外の3つの指数については,2時点シェア変動指数及び多時点順位変動指数が,CASE2の1つの分析でプラスに有意となっており,順位変動が激しいほど企業利益率は低くなる傾向を示している。これは,多時点シェア変動指数による結果と整合的である。一方,2時点順位変動指数については,いずれの分析でも有意な結果は得られなかった(表10参照)。

表9   順位・シェア変動指数を用いた分析で使用した指標


表10   順位・シェア変動指数のクロスセクションデータ分析による分析結果


(注)  1  順位・シェア変動指数以外の指標は,平成12年における61社(43品目)のデータのうち,利益率データの利用が可能であった企業のデータを使用。順位・シェア変動指数は,平成元年〜平成12年のデータから算出。
 2  5つの被説明変数を用いた分析のうち,有意な結果が得られた利益率指標の記号(左表)を記入。括弧を付した記号は,係数の符号がマイナスであったもの。

 卸売物価と順位・シェア変動指数の回帰分析
 多時点シェア変動指数を使用した結果は,他の3つの順位・シェア変動指数と比較して一番有意な(5%)回帰分析となった。また,多時点シェア変動指数を使用した回帰分析のみ,多時点シェア変動指数自体が有意な説明変数となった(表12参照)。よって,多時点シェア変動指数は卸売物価の変化を説明する有効な指標であると考えられる。
 この結果から,シェア変動が大きいほど(競争が活発であるほど),卸売物価が下落し,シェア変動が小さいほど(競争が活発でないほど),卸売物価が上昇することが推定される。

表11   価格と順位・シェア変動指数の分析で使用した指標


表12   価格と順位・シェア変動指数の分析で使用した指標


(注)  1  平成元年〜平成l2年のl2年間,63品目のデータを使用。
 2  括弧内はt値,*は10有意,**は5%有意,***は1%有意。
 3  F値について,*は10%有意,**は5%有意,***1%有意。

第4 ブランド力と競争政策に関する実態調査

1 調査の趣旨
 公正取引委員会は,昭和40年代以降,海外有力ブランドの輸入状況等について実態調査等を行い,輸入総代理店による輸入品と並行輸入品の競争状況の把握に努めるとともに,輸入総代理店の行為が競争阻害的な影響を及ぼすことのないよう,独占禁止法上の考え方を公表してきた。また,平成3年に公表した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の中では,輸入総代理店の問題のほか,ブランドを利用した不公正な取引方法についての考え方も示されている。
 また,近年欧米においては強いブランドの獲得を目指してM&Aが盛んに行われ,それに対する競争政策上の対応も図られてきたところ,我が国においても,日本経済の成熟化,消費者のし好の多様化等により,ブランドが競争状況に与える影響が重要さを増しており,公正取引委員会に対しても,他社の有力ブランド取得に関する事前相談等が行われている。
 このような背景から,ブランド力が事業者や消費者の市場行動にどのような影響を与えるか,その実態を把握し,競争政策上の課題を整理することを目的として,消費財の主要メーカー394社,卸売業者105社,小売業者108社の合計607社及び平成14年度公正取引委員会消費者モニター1,000名を対象としてアンケート調査を実施し,平成15年6月に調査結果を公表した。
2 調査結果の概要
(1)   ブランド力による価格支配力及び参入障壁の強化
 消費者は,特に,化粧品,食料品,飲料,自動車・バイク,医薬品,家庭電気製品等の商品分野において,高いブランドロイヤリティーを持っている(図1)。
1   消費者が商品を選ぶ際に,特定の銘柄を信頼し,継続して購入すること。

図1   消費者が特定のブランドを気に入って継続購入している商品分野(複数回答)

 特定のブランドを気に入って継続購入している消費者は,当該商品分野において,他の有力ブランドメーカーが5%程度安く商品を提供したとしても,大多数が乗り換えることがなく,10%程度の価格差でようやく一部の商品分野では半数以上が乗り換えることとなる。また,化粧品,自動車・バイク,靴・バッグ・財布,時計・宝飾品等については,20%程度安くても他社の商品には乗り換えない消費者が35%〜45%程度存在する(図2)。このように,特定のブランドに愛着を持っている消費者は,価格差にあまり左右されない高いブランドロイヤリティーを持っていることがうかがわれる。

図2   消費者ブランドロイヤリティー価格反応度


(2)   ブランド集中の弊害
 お気に入り商品が購入困難になった場合の対処(消費者)
 特定のブランドを気に入って継続して購入している消費者が,そのお気に入りのブランドから別のブランドに乗り換えると仮定した場合の対応としては,自動車・バイク,時計・宝飾品,家庭電気製品,靴・バッグ・財布については,次に有名なブランド商品を購入するとの回答が多かった(図3)。このような分野では,特に,企業結合等により特定の企業に,代替性の高いブランドが集中する場合には,競争に与える影響が大きいと考えられる。

図3   気に入って継続購入しているブランド商品が購入困難になった場合の対処


 有力ブランド取得状況及び取得予定(メーカー)
 これまで同業他社の有力ブランドを取得したことのあるメーカーは,19.5%と少ない。また,ヒアリングによれば,海外の有力ブランドを導入する例が多く,国内において同業他社の有力ブランドを取得した事例は,あまりみられない。一方,有力ブランドを取得したことのあるメーカーは,その効果として,競争上有利に働いたとする意見が多く,ブランド間での競合等のマイナス面を挙げる意見はほとんどなかった(図4)。

図4   同業他社の有力ブランド取得結果(個々の事例により回答が異なる場合は複数回答)

 また,今後のブランド取得の検討については,41.6%のメーカーが検討することはあり得ると回答しており,これまで取得経験のある企業の割合を大きく上回っている(図5)。また,過去に他社の有力ブランドの取得経験があり,取得した結果,競争上有利に働いたと回答したメーカーに関しては、全体よりも今後取得する予定があるとの回答率が高かった。

図5   今後同業他社の有力ブランドを取得する考え


(3)   ブランド力を背景とした不公正取引
 小売業者及び卸売業者に対するメーカーからの要請
 小売業者及び卸売業者ともに,有力ブランドメーカーの商品を取り扱うことによる販売機会の拡大等を狙って,有力ブランド商品の取引を望んでいる様子がうかがえる(図6)。
 ブランド力を背景としたメーカーからの要請については,全体として,応じている企業は少なく,特に,卸売業者は応じている割合が少ない。しかし,数は少ないものの,応じた要請の中には,場合によっては再販売価格維持行為や排他条件付取引として独占禁止法上問題となるおそれのある行為も含まれている(図7)。
 メーカー及び卸売業者に対する小売業者からの要請
 メーカーや卸売業者は,商品の販売拡大が期待できること,社会的信用が得られること等から,有力な企業ブランドを有する小売業者との取引を望んでいる(図8)。
 ブランド力を背景とした小売業者からの要請については,応じているとする卸売業者は非常に少ない。一方,メーカーは,その多くが小売業者からの協賛金拠出や従業員派遣の要請に応じている(図9)。ただし,ヒアリング結果によれば,小売業者からの要請に関しては,言われるまま一方的に要請に応じているわけではなく,どちらかといえば,同業他社が行っているため,商慣習上又は販売戦術として行わざるを得ない側面が強いとのことであった。
図6   ブランド力を有するメーカーの商品を販売する主要なメリット(複数回答)
図7   小売業者及び卸売業者が応じたことのある有力ブランドメーカーからの要請
(複数回答)

図8   メーカー及び卸売業者が有力な企業ブランドを有する小売業者と取引するメリット(複数回答)
図9   メーカー及び卸売業者が応じたことのある有力な企業ブランドを有している小売業者からの要請(複数回答)
(注)   「要請に応じたことはない」という回答の中には,そもそも要請がない場合も含まれる。

3 競争政策上の課題
(1)   ブランド力による価格支配力及び参入障壁の強化
 巨額の広告・宣伝費によりブランドイメージを過度に高めるような行為が行われる場合,新規参入者にとっての参入コストの上昇により参入障壁が高くなり,また,消費者のブランドロイヤリティーが高まる結果,事業者の価格支配力が強化されることとなるが,これは競争政策の観点から望ましいとはいえない。また,例えば,過度の広告宣伝費の投入によりブランド力を維持し,新規参入を阻害するような行為や,既存のブランドに基づく支配力をてことして,周辺市場にその独占力を広げるような行為については,独占禁止法上の問題となる場合も考えられる。このため,有力なブランドが構築されている市場の競争状況について注視していく必要があると考えられる。
(2)   ブランド集中による弊害
 ブランド商品については,一定の価格支配力が認められるところ,企業結合等によりブランドの特定事業者への集中が起こる場合には,一般に価格引上げインセンティブが高まるものと考えられる。また,今回,消費者に対して実施したアンケート調査によれば,大幅値上げ等によりブランド商品が購入できなくなった場合は,次に有名なブランド商品を購入すると回答している消費者の多い分野があり,そのような市場では,特に代替性の高い有力なブランドの集積により価格引上げが行われる蓋然性が高いといえる。メーカーに対するアンケート調査によれば,今のところ,有力ブランドの獲得を目的とした企業結合等は活発に行われていないが,今後,機会があれば他社ブランドを獲得したいと考えている企業も多く,代替性の高い有力なブランドの集中による価格への影響に着目していく必要があると考えられる。
(3)   ブランド力を背景とした不公正取引
 今回実施した事業者に対するアンケート調査によれば,販売機会の拡大等の理由から,ブランド力を有する事業者との取引を望む意見が多く見られ,実際の取引の中で相手側からの種々の要請に応じている実態があることから,ブランド力を背景とした不公正取引が行われることがないよう,注視していく必要があると考えられる。